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873.転売屋は贈り物をお返しする

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「あ、ご主人様。マリー様は?」

「今ちょうど寝たところだ、授乳後中々寝なくて苦戦してたみたいだな。」

「そうですか、じゃあこのお手紙は起きられてからですね。」

「ん?また手紙が来たのか?」

親子一緒に静かに寝息を立てるマリーさんの部屋から音を立てずに出ると、外でアネットが立っていた。

手には二通の手紙。

たまに貰うぺらっぺらな奴ではなくとても上質な紙で更には見覚えのある蝋封がデカデカとおされていた。

王家の紋章。

おそらくというか間違いなくご兄弟関係からだろう。

とはいえ、そのためだけにせっかく寝たところを起こすのは忍びないのでそれまで俺が預かることにした。

「今日はこれだけか?」

「他にも街の人から色々と届いています。」

「皆気を使わなくてもいいのになぁ。」

「それだけマリー様が皆さんに好かれているってことだと思います。食べ物はハワードさんに渡して、それ以外はグレイスさんに管理してもらっているので後で確認してください。」

「了解、アネットも少しは休めよ。」

「花粉症が一段落したので大丈夫です。」

体力の指輪があるとはいえ、アネットの仕事量はかなり多い。

それを楽々こなしてしまうんだから元々持っているポテンシャルが違うんだろうなぁ。

アネットと分かれてグレイスのいる倉庫へと向かう。

ジョンとソラが指示を受けながら大量の荷物を右から左へと動かしていた。

「うわ、思ったよりも多いな。」

「これでも随分と整理したんですが。日持ちするようなもの、保管しても差し支えの無いものはこのままここで管理して、花や飲食物などは我々で消化する予定です。」

「花かぁ、匂いのする奴は避けたいところだが。」

「そのあたりも選別して各お部屋に飾ってあります。」

「仕事が早い。」

「僕達が飾りました!」

「がんばり、ました。」

得意げな顔で若い二人が胸を張る。

これだけの品を贈られるなんて、ほんとマリーさんは愛されてるなぁ。

「とはいえ、処理に困るものもありまして。」

「ん?」

「縁起物だけに粗末にするわけにも行かなくて。」

そういいながらグレイスが指差したのは、床に積み上げられた四角い箱。

こぶし大ほどの大きさをした純白のそれは、一見すると特に変わった物には見えないんだが。

『ハピネスボックス。仕掛け箱の中には花や赤子を模した紙が入っており、開けると中から飛び出してくる。出産のお祝いとしてごく一般的に広まっており、中身を替えることで独自性を出す人もいる。箱から飛び出すのは多くの祝福、生まれてきた子が健やかに育ちますようにとの願いがこめられている。最近の平均取引価格は銅貨15枚。最安値銅貨10枚、最高値銅貨20枚、最終取引日は昨日と記録されています。』

びっくり箱までは行かないが、開けると中から紙ふぶきならぬ紙細工が飛び出す箱。

ハーシェさんやエリザが出産したときも大勢の人から貰った記憶がある。

基本的に開けたら終わり、そのまま捨てればいいんだがグレイスの言うように縁起物だけにさっさと捨ててしまうのもちょっとなぁ。

ハーシェさんの分は一ヶ月ぐらいしてからやっと捨てたし、さりげなくエリザの分はまだ残っていたりする。

加えて今まで以上に贈られたものだから地下倉庫のそれなりの範囲を占拠してしまっている。

捨てるわけにも行かないし、かといって再利用するのもなぁ。

知り合いに出産予定の人が大勢いるわけではないし、一度貰ったものを贈るのも変な話だ。

ぐぬぬ、どうしたものか。

「とりあえずどうするかはまた考えるから置いておいてくれご苦労だった。」

「では私は戻ります。」

「ソラ、お買い物いこう!」

「うん!」

仲良し二人組は元気よく廊下を走っていってしまった。

うんうん、元気で何より。

「皆はもう慣れたようだな。」

「下の二人は意思疎通が出来るので比較的すぐに馴染んだようです。両親もまだ戸惑う部分はありますが良く働いてくれています。やはり男手があるのはありがたいことです。」

「しばらくはこの面子でがんばってもらうことになるだろう、大変だと思うが引き続きよろしく頼む。」

おまかせくださいとお辞儀をしてグレイスも別の仕事をするべく去っていった。

さて、俺はこれをどうするかだが・・・。

近くにあった奴を一つ手に取り、少しだけ力を入れて上部の赤い封をちぎってやる。

すると、勢いよく上部が左右に開き、中から紙ふぶきが飛び出してきた。

赤白黄色と様々な色の花びらや子供のモチーフがゆらゆらと足元に落ちていく。

中には紙製のバネが仕込まれていて、封を破ると下からそれに押されて左右に開く仕組み。

試しに元に戻してから手を離すと再びバネが作動。

簡単だが確実。

飛び出してきた奴の掃除は面倒だが、まぁ再利用は簡単そうだ。

「シロウ様、ここにおられましたか。」

「ん?ミラ、どうした?」

「マリー様とシャルロッテ様がお目覚めになりました。お手紙をお渡ししなくて良いのですか?」

「おっと、そうだったそうだった。」

気づけば随分と時間が経っていたらしい。

なぜかうれしそうに微笑むミラと共にマリーさんの部屋に戻ると、ちょうど授乳が終わったタイミングのようだ。

「今回はすんなり飲んだか。」

「毎回こうだといいんですけど。」

「本人も模索中なんだろうな、ゲップは俺がさせるからマリーさんはこの手紙を読んでくれ。おそらく王族関係者だ。」

「えぇっと・・・、お兄様方からですね。」

やっぱり正解だったか。

手馴れた手つきでシャルロットの背中をトントン叩き、げっぷをさせてからそのままゆらゆらと体を左右に動かす。

まだまだ両手に収まるぐらいに小さな命。

にも関わらずそのエネルギーはすさまじく、今懸命に生きていると実感させてくる。

早く大きくならなくてもいいから、元気に育ってくれ。

「・・・はぁ。」

「なんて書いてあったんだ?」

「無理せずのんびりと子育てを楽しめ、だそうです。あと、お父様が早く孫の顔が見たいと言っている様で、今全力で仕事を片付けているんだとか。もしかするとこっちに来るのかもしれません。」

「マジかよ、大人しく待っていればいいのに。」

「このかわいらしさは今だけですし、私もお父様には抱いて欲しいと思っているので。」

そういわれたら嫌な顔できないじゃないか。

ユラユラ揺れながら手紙について話すこと10分ほど、背中スイッチも作動せずシャルロッテは静かにベッドの上で寝息を立て始めた。

「今のうちにご飯食べてきますね。」

「それがいい。」

「でしたらシャルロッテ様は私が見ていますので、シロウ様も食事をどうぞ。倉庫で考え事をされて食べ損ねたでしょうから。」

「倉庫で?」

「あー、貰った大量のハピネスボックスをどうするか悩んでたんだ。捨てるのももったいないし、かといって右から左に流すのもなぁ。」

ま、その辺は食事をしながら考えるとしよう。

マリーさんの手を引いて二人でゆっくり食堂へ。

久々に二人でゆっくりとした時間を取れた気がする。

ハーシェさんは仕事、エリザは自室でルカと一緒なんだろう。

さっき二人一緒に昼食を取りに来ていたらしい。

「こんなにたくさんの贈り物を頂いたのなら、なにかお返ししないといけませんね。」

「一応リストはあるから落ち着いたら何か返すつもりではいる。が、エリザなんかは名前も知らない冒険者からも貰っているだけに全員にってわけには行かないんだよな。」

「幸せのおすそ分け、余った品は教会や婦人会に寄付するのはどうでしょう。」

「それはもうグレイスが仕分けしてくれている。それを除いてもあの量だ。」

「ありがたい話ですね。」

ほんとそれな。

街中が女達の出産を祝福してくれている。

ならばそのお返しをするべきじゃないだろうか。

具体的にはまだ何も思いつかないのだが、できればハピネスボックスの外側を再利用出来ればなぁ。

「お菓子か、それとも別のものか。」

「お菓子がいいんじゃないでしょうか。エリザ様の気晴らしになりますし、私も久々に練習したいです。」

「ならクッキーがいいな。日持ちするし、そうだ中にクジを入れるのはどうだ?」

「クジですか?」

「フォーチュンクッキーっていって中に小さなクジをいれてあるんだ。そこに運勢とか書いてあったりするんだが、せっかくなら俺達風にアレンジするのも面白い。」

運勢ではなく、直接物と交換できるとかはどうだろうか。

薬草とか、日用品とか、目玉はルティエのアクセサリーとか面白いかもしれない。

ハピネスボックスを開ければ中からクッキーが出てきて、その中の一枚にあたりの書いた紙が入っている。

もちろんハズレはない。

幸せのおすそ分けなんだしその辺は大盤振る舞いだ。

まぁ、1箱につき銅貨10枚ぐらいは支払ってもらうが採算度外視。

あれ、これいけるんじゃないか?

「楽しそうですね?」

「だろ?箱の再利用も出来るし、誰にでも喜んでもらえる。決まりだな。」

「ではエリザ様に相談していつがいいか決めますね。」

「別に一回で作る必要は無いからな、何回かに分けてゆっくりやればいい。」

「ふふ、そうします。」

何事も子供最優先。

とはいえ、母親のメンタルヘルスも重要なのでその辺もしっかりフォローが必要だ。

その仕事をするのが夫である俺の務め。

なんて偉そうに言ってるが、ただ単に嫁と子供が好きなだけな惚気だけどな。
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