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868.転売屋は進行状況を確認する

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長かった冬も気づけば残り数日。

この冬もいつもと変わらず色々とあったが、終わりよければ全てよし。

金は儲かっているし新しい命も授かっている。

さらには空も飛べるようになってしまった。

まぁバーンの背中に乗ってだけれど、それでも移動時間が大幅に短縮できるようになったのは大きい。

いずれは王都まで飛べるようになる日が来るのかもしれないが、当分はこの近辺だけで十分だ。

でだ、もうすぐ冬が終わる。

終わるということはいよいよ本格的に街の拡張工事が始まるということだ。

工期は丸一年。

この世界の一年は24ヶ月なので、かなり時間があるようにもみえるが実際はそうでもない。

なんせやることが山積みだ。

魔法はあっても巨大重機は無いのでどうしても人力に頼る必要がある。

それで街を今のほぼ倍に広げようって言うんだから時間はいくらあっても足りないよなぁ。

「さて、それじゃあ報告を聞きに行きますかね。」

「ご一緒します。」

「宜しく頼む、ほらエリザも行くぞ。」

「え、私も?」

「ニアからのお達しなんだよ。ルカはミミィにまかせてたまには三人で行くぞ。」

「えー、でも・・・。」

母親の心配を他所に、ルカはミミィに抱かれてご機嫌だ。

何かあってもハーシェさんがいるし、すぐに屋敷に戻ることも出来る。

たまには自由に外の空気を吸うのも大切だ。

半ば強引にエリザを連れ出し、三人でのんびりと大通りへと歩き出す。

「この三人で歩くのは久々ですね。」

「そういえばそうね。私はお腹大きかったし、シロウはシロウで忙しかったし。」

「それはいつもの事だろ?とはいえたまにはいいもんだ。」

「昔は自分がこんなことになるなんて想像もしていませんでした。」

「私だってそうよ、まさか母親になってるなんて。でもまぁ後悔はしてないわよ。」

「私も後悔していません。」

右腕にミラが、左腕にエリザが自分の腕を絡めてくる。

二人の色々な重さを感じながら通いなれたギルド協会へ。

いよいよ始まる拡張工事に向けた最終打ち合わせが始まろうとしていた。

「では時間もありますし早速始めましょう。まずは事前準備の進捗状況ですが、レールの早期設置が功を奏し予定よりも早くダンジョン内に一本目の路線が出来上がりました。毎日30個前後の石材が運び出されており、月産で900個を予定しています。」

「これもシロウさんが早めに準備してくれたおかげね。予定では後もう二本敷設する予定だから引き続き運搬よろしく。」

「あと二本?全部で二本じゃなかったのか?」

「当初はその予定でしたが、必要石材量が予定よりも増えましたのでそれを補う為に増設が決定しました。レール足ります?」

そういう大事なことはこういう場じゃなく個別に連絡して欲しいんだが、色々と忙しいだけに伝達漏れが起きたのかもしれない。

仮にそうだとしておきてしまったことは仕方ないが、それを伝達しないのは話が別だ。

足りるかと聞かれてもおそらくは足りるだろうと答えるしかない。

改めて新規計画の設計図を見せてもらい必要数の概算を出さないと。

「何とかなるだろうがそれを運ぶ労働力は大丈夫なのか?風の噂じゃこの前の小麦の不作を鑑みて備蓄を増やすべく増産する指示が出てるそうじゃないか。畑に人が残ればそれに比例するだけ労働力が減る。人がいなくて結局二本分のレールしか使いませんでしたじゃ時間と金の無駄になるぞ。」

「今王都も含めて近隣の街や村に労働者の確保をお願いしています。今の所は大丈夫だと思うんですけど、冒険者の数は減るかもしれませんね。」

「新人がどれだけ減ろうが問題は無いわ。むしろ研修する手間が減るから助かるぐらい。」

「ギルドのえらいさんのセリフとは思えないな。」

「だって本当の事だもん。ねぇエリザ。」

「え、何で私?」

突然にニアに話題を振られて、明後日の方向を見ていたエリザがあわてて返事をする。

元研修担当員の意見を聞きたいんじゃないか?

「新人が増えようが減ろうがやることは同じってか?」

「なんていうか、今までよりも生存率が上がっているおかげで冒険者の総数ってあんまり減ってないのよね。むしろ熟練者が増えてるから新人が増えなくても何とかなってるの。でもまぁ貴重な労働力だし?来たらちゃんと研修はするわよ。」

「それよりも深刻なのは石材置き場です。街道西側の仮置き場はほぼ埋まってしまいましたから今度は北側に置いていかないといけません。城壁の新設が始まれば一気に消費できるんですけど、しばらくはこの状況が続きそうです。はぁ、土地はこれだけあるのにどこにでも置けるわけじゃないんですよねぇ。」

てっきり地下水道の新設を優先すると思ったのだが、どうやら違うらしい。

だだっ広い草原が広がってるんだ、置き場所なんてどこにでもあるだろうといいたいところだが、あまり遠くても運ぶのが大変なんだろう。

それよりも下水よりも先に城壁新設を優先する事が判明した。

てっきり大変な地下から取り掛かるのかと思ったが、労働力不足を補う為にまずは寝泊りする場所の安全を確保するつもりなんだろう。

となると俺も準備する内容を変えなければならない。

てっきり外に天幕を張って警備しながらだと思っていたのだが、このやり方だと警備の心配がない分簡易の天幕でも対応出来そうだ。

「下水は城壁を作ってからか。」

「ひとまず外周を覆ってから内部に取り掛かることになりました。ダンジョンでの寝泊りには限界がありますし、かといって城壁の外で寝泊りさせるのも危険です。それなら外が出来てから中をじっくりでもいいと思います。」

「ま、その辺は好きにやってくれ。俺は俺で準備をさせてもらう。」

「その辺はシロウさんにお任せします。」

「お、いいのか?」

「どうせ止めてもやるじゃないですか。それだったら好きにやってもらった方が職員の負担も減りますし、余計なことを考えなくて済みます。」

ここに来てまさかの丸投げ宣言。

そりゃあ大量に流れ込んでくる労働者関係を全部やらせてもらったらそれなりの稼ぎにはなるだろうけど、丸投げするのならせめて作業を管理する助手が一人か二人欲しいところだ。

俺だって暇じゃない。

不在時にも動けるような優秀な助っ人を引っ張ってくる必要がある。

「ちなみに想定労働者数は?」

「とりあえず一ヶ月百人ぐらいです。」

「百人か。飯はそっちで用意してもらうとして、天幕と毛布は必須だよな。それとは別に食器とか日用品も必要だし、いっそのことそれを販売する店を作るという手もあるか。」

「幸い食糧の備蓄は潤沢にあるので、どうするかはシロウさんの好きにしてもらって結構です。いや、むしろやってもらえると非常に助かります。」

「丸投げするのは構わないがそれならそれに見合う人員は派遣してくれ。最低でも三人、四人いれば有難い。その代わり提供する値段が高くても文句言うなよ。」

「シロウさんがぼったくるなんてそんなことあるわけないじゃないですか。それじゃあ続いて警備についてですけど・・・。」

それは信頼されているのか、それとも舐められているのか。

まぁ、かなりの儲けが出る案件だけにやるからには本気でやるつもりだ。

よりよい居住環境を提供できれば労働力の質が上がる。

質が上がれば納期は早まり、結果としてお金が浮く。

浮けばどうなる?

別の場所にかける金が増え、結果的に俺が儲ける場所が増えるってことだ。

絶対にくいっぱぐれない公共事業。

信頼されているところ申し訳ないが、がっつりふんだくらせてもらおうじゃないか。

その後も話し合いは続き気づけば昼を過ぎていた。

その間も横でミラがメモを取り、俺が補足を加えていく。

春に向けて残された時間はあとわずか。

それまでに準備できる範囲で準備しておかないと後々大変なことになる。

「あー、終わった終わった。」

「お前何もしてないじゃないか。」

「失礼ね、ちゃんと話聞いてたじゃない。」

会議を終え、ギルドの外でエリザが大きく伸びをする。

離れているのにボキボキと体中の骨がなる音が聞こえてきた。

「聞くだけな。」

「それでいいから私を呼んだんでしょ?」

「エリザ様のアドバイスもあり集めるべき素材が見つかりました、ありがとうございます。」

冒険者ならではの目線で意見が聞けるのはとてもありがたかった。

気晴らしのつもりで呼んだんだが、多少はその効果があっただろうか。

「どういたしまして。で、何から手をつけるの?」

「まずは天幕と毛布、それと簡易ベッドの確保だな。なんならマットレスだけでもいい。」

「マットレス?」

「地面にそのまま寝転んだんじゃ仕事の疲れも取れないだろ?それなら少しでも睡眠のとりやすい環境を整えてやるべきだ。」

「ちなみに何で作る気?」

「残念ながらまったく何も決めてない。」

「ぜんぜんダメじゃない。」

キキじゃあるまいし、いきなり思いつくはずが無いだろうが。

春になれば最大100人ほどの労働者が別の街からやってくる。

それとは別に冒険者も少ないながらもそれなりの数集まってくるはずだ。

そんな彼らを気持ちよく迎え入れ、更にはしっかり働いてもらう為の準備を整えると漏れなく俺の懐がかなりあったまる。

やることは多いが優先順位はほぼほぼ決まっている。

後はそれに向かって知恵を動かすだけ。

「ま、とりあえず露店を歩きながら考えようぜ。」

「そうですね、おなかも空きました。」

「すぐに戻らないの?」

「戻ったら仕事しなきゃいけないだろ?」

「サボるのね。」

「何を言うか、市場調査だよ市場調査。」

サボタージュだなんて人聞きの悪い。

腹が減っては何とやら、良い仕事をするための準備をするだけじゃないか。

決して戻って残りの事務仕事をするのが面倒とかじゃないからな。

二人の体重を両腕に感じながら、ぽかぽか陽気の中のんびりと街を散策するのだった。
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