転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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865.転売屋は手紙を届ける

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「シロウさん、お待たせしました!」

「前々からわかってたのになんでこんなに時間が掛かるんだ?」

約束の時間を遅れること10分ほど、城門をくぐり羊男が一心不乱に畑へと駆けて来る。

いつもは時間前に音もなく登場する男がこうもあわてるなんて珍しい。

右手には書簡を左手には何やら大きな袋を肩に担いでの登場だ。

「色々と変更がありまして、これをポーラ様へお渡しください。」

「俺関係の話じゃないよな?」

「・・・そんな事無いですよ?」

なんだよその沈黙は。

イラっとしたのでわざとらしく明後日の方向を見る羊男の足を蹴とばしてやる。

それをみてバーンが不思議そうな顔をした。

いかんいかん、息子の前で行儀が悪いよな。

真似されたら大変なことになる。

見た目は人でも中身やパワーはワイバーンそのもの。

しかも古龍種の生まれ変わりとなれば蹴られた人がどうなるか想像したくない。

子供に悪影響のある事はしないようにしないと。

「トト、出発していいのか?」

「あぁ準備完了だ。」

「バーン君もお待たせして申し訳ありません。これ、休憩の際に食べてください。」

「いいのか!」

「お待たせしたお詫びです。シロウさんを宜しくお願いします。」

「任せて!」

左手に担いだ革袋から出て来たのは漫画に出てきそうな巨大な肉の塊。

骨の感じからビックホーンの脚かなんかだろう。

肉々しいそれを受け取りバーンのテンションはうなぎ上りだ。

そのまま飛ばれると困るんだが、まぁ何とかなるだろう。

「バーン、今回は木箱の性能確認も兼ねてるってことを忘れるなよ。一応四隅には金板を通してるし、紐は剛性の高いジャイアントプラントの蔓をつかっているとはいえ、速度を出せば崩れる可能性もある。くれぐれもゆっくり頼むぞ。」

「大丈夫、安全飛行。」

「中に入っている物が物だけに落とせば笑い事じゃすまされないからなぁ。」

「でもシロウさんなら余裕で弁済できますよね?」

「そういう問題じゃない。今後運び屋としてあちこち飛び回るってのに初回から失敗するような所に誰が頼むんだよ。」

今回渡されたような手紙だけならその心配もないのだが、せっかく移動するならそれなりに儲けは出したいという欲張りな俺の考えた結果がこれ。

前回廃鉱山に物資を運んだ経験から、運び屋として活動することにした。

運び屋とはいえ運べる量には限界があり、重量にして100㎏までで大きさは特製の中型木箱一個と非常に少ない。

が、うちの売りはスピードだ。

通常陸路で三日かかる距離をわずか数時間で運べるとなれば、量のアドバンテージなんて微々たるもの。

この前のように薬や金、書類などの軽量な物を俺とバーンが迅速かつ確実に顧客の元に届けることが出来る。

もちろん怪しげなものを運ぶつもりはないので、受ける仕事はしっかりと精査するつもりだ。

そもそも貴族自ら荷を運ぶなんて前例がないだけに最初から客が付くとは思っていないが、そこは公的機関であるギルドのお抱え的なポジションでやっていくつもりではいる。

それなりの値段もとるだけにそういう機関じゃないと使えない、というのが欠点といえば欠点だな。

少し離れた所に置かれた木箱の前でバーンが一吼えして元の姿に戻る。

その足にジャイアントプラントの蔓で作った紐をしっかりと結び付ければ準備完了だ。

前回の経験を生かして重量のかかる部分にはしっかりと金属加工を施したので飛行中に壊れる心配はないだろうし、それなりの速度も出せるはず。

羽を降ろしてもらって背に跨り、ウィンドブレーカーの前をしっかりと締める。

おっと、今回から導入した安全ベルトも忘れちゃいけない。

落下を防止する為に手綱と腰のベルトをカラビナのような工具で固定するだけだが、これだけで落下死を防げるんだからやらない理由はないよな。

「それじゃあ行ってくる。」

「お気をつけて!」

「行くぞバーン!」

首元を軽く叩いて合図をすると一気に体が持ち上がった。

見る見るうちに視界が広がり、一瞬の抵抗の後再び加速しながら上昇する。

あっという間に雲を抜け鮮やかな青空の広がる上空へと舞い上がった。

「脚は大丈夫か?」

「ギャゥ!」

「今日は慣熟飛行だからな。無理なく落ち着いて行くぞ。」

後ろにぶら下がる木箱は今の所問題ない。

四方を別々の蔦で結んでそれを一本にすることで、クルクル回ったり重心が偏ったりすることが無いようにしてある。

飛行時間はおおよそ三時間程。

途中一回休憩する予定だが、その場所を探すのも今回の目的の一つだ。

これから何度も足を運ぶことになるわけだし、いい感じの場所を見つけておくことで時間の短縮にも繋がる。

なにより飛行に慣れることが一番大切だ。

体力的に問題は無くても、荷物を運ぶとなると普通に飛ぶのとはやっぱり違うからな。

その後いい感じの休憩場所を見つけ、トータル四時間弱で港町へと到着した。

少し遅くなったが最初はこんなもんだろう。

事前に行くことは伝えてあったので、街から少し離れた場所に着陸し手配してあった馬車に荷物を移し変える。

そのまま街に入り、ポーラ様に手紙を手渡せば仕事終了だ。

「今日出した手紙が今日届く、ほんとすごいですよね。」

「まぁその分代金は貰うけどな。」

「一回につき銀貨50枚。確かに高額ですが時間と確実性を取れると考えれば悪くない値段だと思います。特に書類や代金は急を要する場合もありますから。そこに目をつけるなんてさすがシロウ様ですね。」

「それもこれもバーンが俺を乗せてくれるからできる話だ。儲けの半分もバーンが受け取ることになってるしな。」

「え、そうなの?」

「この前説明しただろ。今後地上で生きていくのなら金は絶対に必要になる。もちろん最初は自分で管理できないだろうから手助けをするが、稼いだ金はバーンのものだ。金があれば美味い肉いくらでも食えるぞ。」

「お肉!」

自分の体で稼いだ金だ、それをどう使おうがバーンの好きにしたらいい。

さっきも言ったように俺はバーンの背中に乗せてもらっている立場なので、その対価として売上げを折半することに決めた。

いずれバーンが成長して自分で交渉したり仕事を選んだりできるようになればお役ごめん。

それまでは背中を借りて稼がせてもらうつもりだ。

ただし、支払うのは運び屋として稼いだ費用のみ。

別に運んだ木箱の中身などは俺の儲けとさせてもらうつもりだ。

それもこの前説明したんだが、分かってないんだろうなぁ。

一応大事な話なのでディーネにも同席してもらったが、本人もどうでもいいって感じだったし。

ま、その辺はもう少し大きくなってからもう一度説明するとしよう。

「今日はもう戻られるんですか?」

「暗くなるまでには戻りたいところだが、とりあえず運んできた荷物を売ってからだな。」

「ちなみに今日は何を?」

「この前大量に作ったディヒーアの干し肉と魔力水、それとアクセサリー類だな。」

「なんていうか多種多様ですね。」

「今回は試験的な運用だったし、軽くて金になるものを選んできた。後は頼まれ物がいくつがあるがそれは買い付けのついでに持っていく。」

「ならアクセサリーを見せてもらえますか?」

さっさと次に行きたいが客になってくれるのならば仕方ない。

持ってきた中で一番の奴をしっかりと買い求めたポーラ様と別れ、残りの仕事に取り掛かる。

バーンには帰りのエネルギーをチャージしてもらう為に少し休んでもらうことにした。

といっても、宿で好きに飲み食いするだけだけどな。

持ち込んだ品をなじみの商人に売りさばき、めぼしい品をいくつか買い求める。

生憎シュウたちの姿は無かったが、西方の店はいくつか出ていたのでそのうちのいくつかを買ってみた。

金平糖とか久々に見たな。

見た目も綺麗だしこれは少し高めでも売れそうだ。

「よぉ、シロウさん。」

「お、ゾイルじゃないか。どうしたんだ、そっちから声をかけてくるなんて珍しいじゃないか。」

「そうか?」

「いつも港でふんぞり返ってるくせに、何かあったのか?」

「別にふんぞり返ってるわけじゃないんだがなぁ。」

腑に落ちないって顔をしているがそれで怒るような奴でもない。

何かしらの用がなければ向こうから話しかけてくることは無かったので、その何かしらがあるんだろう。

色々世話になっているし、できる範囲の相談なら受けるつもりでいるのだが。

「で?」

「今日は珍しく豊漁でな、港は大忙しさ。」

「いいことじゃないか。」

「あぁ、久々だし活気があるのはありがたい。だが、残念なことにそれをさばく客がいないんだよ。」

「あー、売れ残ってるのか。」

「めぼしい奴はとりあえず売れたんだが、それでも全部ってわけじゃない。ここで消費できる分はもういっぱいいっぱいだし、せっかくの魚を捨てるのもって所に姿が見えたんだ。どうだ、買ってくれないか?」

なるほど、そういうことか。

出来る限りの手は打ったがどうにもならなくなったところに、金を持ってる俺の姿が見えたと。

そりゃ向こうから声をかけてくるわけだな。

何だかんだ言いながらもゾイルは漁師達の事を大切にしているし、それが分かっているからかれらもゾイルを信頼している。

持ちつ持たれつって奴だ。

そして俺もまたその一人。

信頼しているからこそ、何かあったら手伝ってやりたいと思っている。

「何が残ってるんだ?」

「見た目は悪いんだが、刺身にすると美味いやつだ。でも足が速くて明日には生じゃ無理になるんだよなぁ。火を入れると身が固くなって煮物でも食えない曲者なんだが・・・、ダメか?」

「刺身かぁ。」

「西方の・・・わざびだったか?それがあれば絶対に美味い、現に醤油とは相性抜群だ。」

「そこまで言うなんてよっぽどだな。で、値段は?」

「他にもいくつかいるが、全部で銀貨30枚でいい。」

安い。

基本的にこの世界の魚は一尾でもそれなりの値段がする。

魔物のはびこる海に出て獲物をしとめてくるんだから当たり前ではあるんだが、そんな魚を銀貨30枚で手放すなんてよっぽどの事だ。

とはいえその値段の理由は単純明快。

日持ちしないこと。

この世界に冷凍技術はまだ無いので、どうしても鮮度を維持したまま他所に運ぶのは難しい。

かといってここで消費するにも限界がある。

今までの俺ならいくら安くても諦めていただろう。

水路を使っても街まで二日。

その間に鮮度は落ち、捨てるだけになってしまう。

だが今の俺は違う。

鮮度が落ちないうちに街に持ち帰る手段を持ち合わせている。

魚程度なら重量もないし、鮮度を維持する為の氷も乗せることが出来る。

なにより生の魚は売れる。

ダンジョンにも魚はいるが生で食べることはあまりしないんだよなぁ。

せいぜい焼いて食べるぐらい。

だが、俺が醤油を流行らせた今なら受け入れられるはずだ。

鮮度を維持したまま持ち帰り、普通は港でしか食べることの出来ない魚を提供する。

売れる。

絶対に売れる。

もしかしてもしかしなくても、これはすごいことなんじゃないだろうか。

ここに来るたびに魚を仕入れて帰るだけで、仕入れた金額の倍以上で売れるかもしれないんだから。

かもじゃない。

売れる。

「買おう。」

「本当か!」

「あぁ、他でもないゾイルの頼みだからな。それに、金になる。」

「すぐに用意しよう。」

「出来れば氷も用意してくれ、少しでも維持したい。」

「わかった、準備しておく。」

代金はもちろん先払い。

さーて、そうと決まれば戻る準備をしておかないと。

木箱をここまで運んでもらって、それからバーンにも声をかけておこう。

帰りは超特急で飛ぶ練習で決まりだな。

世の中、右から左に転がすだけで儲かる商材はまだまだある。

これだから転売はやめられない、ってね。
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