転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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823.転売屋はことのなり行きを見守る

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オークション後半戦もいよいよ終盤。

俺はというと、例の家族をかった後は目当ての品をポツポツと落札した程度で静かにしていた。

予定していた貴族の娘は、同じく貴族と思われる二人の入札者が面白いぐらいに値を吊り上げたので早々に撤退、亜人も予定価格をオーバーしたので撤退。

目当ての真贋の指輪や、収納カバンなどは予定通り買えたので良しとしよう。

他にもそれなりに使えそうなものを買い付けてある。

資金に余裕があるのは良い事だ。

それでも予算は予定よりも大幅に余ってしまったが、まぁ無理に使う理由もないので使わなかったことを素直に喜ぶとしよう。

また急にほしい物が出てくるのが俺なんだから、その時までに置いておけばいいだろう。

「いよいよ今オークションも残り二品になりました。次なる品は、世にも珍しい逸品。死者を蘇らす可能性を秘めた禁断の魔道具となります。もちろん必ず呼び出せるわけではございませんが、過去の勇者から無くなった恋人まで呼び出す可能性は無限です。それでは金貨20枚、20枚からスタートです!」

残り二品になったところで聖騎士団お待ちかねの品が出品された。

大勢が手を上げる中、あの二人は静かに動向をうかがっているようだ。

「8番様金貨25枚、14番様30枚有難うございます、30番様金貨40枚!え、5番様金貨50枚!さぁ金貨50枚です!」

あれよあれよという間に価格は金貨50枚まで駆け上がった。

出品しておいてなんだが、呼び出せるかもわからない品によくそんな金を出せるよなぁ。

ホリア達は何か考えがあるみたいだが・・・。

「金貨60枚。」

「1番様初入札有難うございます!金貨60枚です!」

「金貨65枚!」

「金貨80枚。」

「き、金貨90枚!」

「金貨100枚。」

「1番様、金貨100枚!金貨100枚頂きました!」

ローランド様ぐらいの年配の男性がホリアに負けじと競り合ったが、表情一つ変えずに値を吊り上げるホリアの雰囲気に闘争心をバキバキにおられてしまったようだ。

大台に乗った所で挙手が止まる。

「他におられませんか?それでは金貨100枚で1番様・・・。」

「金貨150枚だ。」

「な、なんと!金貨150枚です!ローランド様、有難うございます!」

さぁ決まった、誰もがそう思った所で二階の踊り場からよく通る声がそれを遮る。

この屋敷、いやこの街の主がオークションに参加した。

いや、聖騎士団に喧嘩を売った。

そう感じた人もいるだろう。

相手が聖騎士団だから入札してはいけないという決まりはない。

もちろん街長だからダメだという決まりもない。

「金貨170枚。」

「金貨200枚出そう。それで妻に会えるかもしれないのだ、安い物だろう。」

「金貨230枚。」

「金貨250枚だ。」

ここにきて表情を変えなかったホリアに焦りの色が見え始めた。

いくら聖騎士団とはいえ無限の財力を持っているわけではない。

しかし、競り合っている相手はダンジョン街という金の成る木を持ち、更にはつい最近俺から棚ぼたの金貨400枚を手にしている。

資金力に明らかな差がある。

あとは、本気でローランド様が競り落とす気かどうかに掛かってるだろう。

「金貨300枚!」

「ホリア。」

「ここで負けるわけにはいかない、聖騎士団そしてお前の名誉のためにもな。」

「でもこれ以上は・・・。」

熱の入ったホリアを横に控えたセインさんが小声で制する。

『これ以上は』と言う事は、ここが限界だという事。

それをわかってあの人がどう出るか。

「ふむ、流石にそれだけの金を出すのは無理がある。妻には悪いがここは大人しく諦めよう。」

「で、では、金貨300枚で番号札1番様落札となります!」

大歓声が会場中を包み込む。

視線を感じて再び上に目を向けると、ローランド様と目が合った。

そして色々と含みのある笑みを浮かべると静かに屋敷の奥へと消えてしまった。

つまりこういう事か?

『値を吊り上げてやったんだから感謝しろよ』って。

いやいや、あの人がそんな事をするだろうか。

本気で奥さんに会いたくて買おうとしたのかもしれないが、そうじゃない気もするんだよなぁ。

ひとまずほっとした顔をするホリアとセインさん。

俺からしてみれば大儲けではあるんだが、聊か貰いすぎな気もする。

後でその辺も話し合った方がいいかもなぁ。

「それではいよいよ最後の品となりました!最後にふさわしい・・・」

興奮が最高潮に達したまま、司会者は最後の品を紹介し始める。

目当ての品ではないので早々に裏に引き上げると、レイブさんがさっき以上の笑みを浮かべて俺を待ち構えていた。

「本日はありがとうございました。」

「まぁ、なんていうか成り行きで買うことにはなったが、良い買い物させてもらった。」

「アニエス様が何か仰ったようですが、ご存じありませんか?」

「良く聞き取れなかったんだが、何かあったのか?」

「それが、あの後一切反抗しなくなったのです。まぁ、家族全員で買われたので安心したのだと思いますが理由がわかればと思いまして。」

その辺は俺にもわからないんだよなぁ。

あの時発した言葉で明らかにあの家族の雰囲気が変わったのは事実だ。

彼らの言葉がわかるからこその言葉なんだろうけど、これはレイブさんには言わない方がよさそうだな。

「すまないが理由までは何とも。俺的には反抗しなくなったと聞いて安心だけどな、言葉はまぁゆっくり覚えさせるしかないだろう。」

「必要であれば同郷の奴隷を手配することも可能です、遠慮なくおっしゃってください。」

「その時はまた宜しく頼む。」

「では、後ほど。」

金貨200枚となればアネットと同じか。

イザベラの金額があるからどうしても安く感じてしまうが、それでも十分に高い買い物だけにレイブさんもフォローに抜かりがないという感じだろう。

いや、俺に更なる奴隷を買わせるための作戦かもしれない。

さっきの落札金額はいているはずだし、追加で買う予算があるのはわかっているしな。

オークションが終わって忙しくなる前に手続きをすべて終え、最後の仕事に取り掛かる。

そう、例の笛をホリア達に渡す仕事だ。

「待たせたか?」

「いや、今来た所だ。」

「まずは無事に落札できて何よりだ。随分と競り合ってくれたみたいでこっちとしては大喜びだが、大丈夫なのか?」

「まさか街長直々に入札されるとは思わなかったが、何とかな。一応聞いておくがお前の仕業じゃないだろうな。」

「悪いがそんな姑息な手段をする程落ちぶれちゃいないんでね。」

だろうな、と言いながらホリアは深くため息をついた。

やはり予想外の出費である事は間違いないんだろう。

支払えるからこそここにいるんだろうが、本当に大丈夫なんだろうか。

「では清算をお願いします、代金をこちらに。」

「確認してくれ。」

横に控えるセインさんがかばんから大きな皮袋を取り出し、カウンターの上にドスンと乗せた。

軽々と取り出しているのにこの音、聖騎士団員の筋力はどうなってるんだまったく。

「ブツを手に入れたらどうするんだ?すぐに使うのか?」

「あぁ、出来れば静かな場所を借りたい。」

「ならここの空き部屋を使えばいい、終わっても今日も泊まっていくだろ?」

「出来れば確認次第すぐに戻りたいんだが、この時間じゃそれも無理か。」

時刻はもう夕刻前。

オークションの後は後夜祭的なものも行われるが今回はパスだな。

「急ぎならうちの船を使えばいい、陸路より断然早いぞ。」

「もとよりそのつもりだ。」

「知ってた。」

「二人は本当に仲がいいんだね、ホリアが僕以外にこんな顔をするなんて知らなかったよ。」

「「仲がいい?」」

二人で同じ事を言ってしまいあわてて顔を見合わせる。

仲がいいというか、利害が一致しているというか。

お互いにお互いを利用して良いようにしているが確かに悪い気はしないんだよなぁ。

なんていうか、目的の為には手段を選ばないというか、そういう部分が嫌いじゃない。

俺は金を儲けたい。

ホリアはセインさんを回復させたい。

聖騎士団の運営はあくまでもおまけみたいなもんなんだろう。

彼らがどういう関係なのかは知らないし、興味もない。

だがその目的の為に手段を選ばないところは共感が持てる。

「ほら。」

「偶然だって。」

「そうだな、偶然だ。」

「そういうことにしておいてあげるよ。」

なんともうれしそうな顔で俺とホリアを見るセインさん。

そんなことをしていると職員が戻ってきた。

「金貨300枚、確かに確認させていただきました。ではこちらが落札されました黄泉還りの笛となります。」

「いよいよだな。」

「そうだね、いよいよだ。」

職員から手渡された横笛を手に、神妙な顔をする二人。

さっきまでのふざけた感じはどこへやら一瞬にして緊張してしまった。

何をどうするのかは知らないがこれで二人の目的は達成されるのだろう。

オークションという形を取ってしまったが、それが達成される手伝いが出来たのなら何よりだ。

「悪いが部屋を貸してもらえるか?誰も来ないように人払いをしてもらえると助かる。ローランド様に何か言われたら俺の名前を出してくれ。」

「それはかまいませんが、危険なことはしませんよね?」

「あー、多分な。」

「その心配はないよ、危険はない。」

「だ、そうだ。」

職員は苦笑いを浮かべているがすぐに二人の為に部屋を用意してくれた。

本当は俺もその場に立ち会いたいのだが、生憎と次の予定が待っているんでね。

「シロウ様、レイブ様がお待ちです。こちらへどうぞ。」

「分かったすぐに行く。」

二人には目で挨拶をして俺は俺の戦利品をいただきに行くとしよう。

売上金と落札品。

戻ったらエリザがやっぱりなって顔をするんだろうけど、それもまぁいつものことだ。
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