転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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820.転売屋は金を集める

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やると決まってからが早いのが俺達のいいところ。

無理なく集められるだけの現金を集めるべく、各々が自分の仕事を片付けていく。

現金を集めるといっても集金して回るわけではなく、ただ単に挨拶回りをするだけ。

『この12か月もお世話になりました、また次もよろしくお願いします。』

還年祭を前に馴染みの取引先へ歳暮を手に挨拶するだけで不思議と金が集まってくるもんだ。

理由は簡単。

みんなお祭りの最中に仕事をしたくないから。

なので、こっちから顔を出すと喜んで今月分の売上や配当を持って来てくれる。

もちろんまだですと言われれば待つ。

別に借金取りでもないし、この時期だからこそ間に合わないケースも多々あるだろう。

もっとも、取引している殆どが好調な売上を残しているのでそんなケースはまずないんだけどな。

「では有難く頂戴します。」

「わざわざ手土産を持って挨拶周りだなんて大変ね。」

「そうでもないさ、お願いしている立場なんだし顔を忘れられたら困るだろ。」

「普通は貴族が自分でなんてしないものよ。」

「生憎と普通の貴族じゃないんでね。」

婦人会に顔を出すとイレーネさん自ら出迎えてくれた。

そして少し早いけどと今月分の売上金という名の配当金を持って来てくれたので、明細と共に頂戴する。

婦人会には常日頃からお世話になっているのでお礼を言うのはこっちの方なんだが、向こうからしてみれば大事な仕事を持って来てくれる上顧客って事になるんだろう。

未亡人の多いこの街では扶助組織となる婦人会は無くてはならな存在だ。

冒険者と違って見た目にはわからない隠れた労働力。

それを見事に束ね上げるイレーネさんの手腕には脱帽する。

「冬が終われば街の拡張が始まるんでしょう?労働者も大勢入ってくるし、彼らの食事なんかをどうするつもりか聞いてたりしないかしら。」

「残念だがその辺はまだ決まってないらしい。冒険者の流入も予想されるだけに色々と面倒な事件も増えるだろう、警備は巡回を増やすっていう話だが自分の身は自分で守る必要も出てくるかもしれないな。」

「そうね、女だからって舐めてる奴らもいるし気を付けるように言っておくわ。」

「何か必要なものがあれば言ってくれ。例えば、防犯ブザーとかどうだ?」

「ぶざー?」

「非常時に使うと大きな音のする道具だ。この街なら音さえ出せばだれかが気付いてくれるだろ?」

住民が多いだけに街のどこかには人がいる。

夜になるともちろん無人の場所も出来るが、音が聞こえないという距離でもない。

女性に限定して持たせる事でもしもの時に役立つかもしれない。

前々から考えていた物だけに生産するのにいい機会かもしれないな。

「それはいいかもしれないわね。取り急ぎ100個程頼みたいんだけど、見積書をお願いできるかしら。」

「即決かよ。」

「貴方が提案してくれるものだもの、安心して注文できるわ。余剰金もそれなりにあるし、こんなに自由にお金を使える日が来るなんて有難い事ね。」

「別に俺への支払いはもっと少なくてもいいんだぞ。」

「それはダメよ。全員に然るべき報酬を払った上でさらに婦人会の維持運営費用も貰っているんだから。そういう契約でしょ?」

「弁当屋はな。」

弁当屋はそういう約束で事業を譲渡したが、婦人会で稼いだ分は別のはず。

運営費に余剰が出たのならその分福祉に回してほしいんだがなぁ。

そっちはギルド協会の管轄だし今後に期待か。

「それでいいのよ。」

「ま、貰えるもんは有難くもらっておく。それじゃあ邪魔したな。」

「よい還年祭を。」

さて、これで婦人会への挨拶は終わり。

後はアグリの所に顔を出して、それから冒険者ギルドに行ったらおおよそ終了だ。

アグリの所はこの前顔を出した所だからあまり話す内容はないんだが、なんだかんだでかなりの収益を上げてくれている。

ほぼ丸投げでこの売上はやばい。

「ルフ、調子はどうだ?」

ブンブン。

「そうか、元気そうで何よりだ。アグリはどこにいる?」

「ワフ。」

「レイが連れてってくれるのか、宜しく頼む。」

畑に行くと倉庫の前でルフとレイが日向ぼっこをしていた。

暖かな毛布の上に丸くなりながらも耳は真上を向き、誰が来てもすぐわかるようにしている。

尻尾を左右に振りながらレイが畑の奥へと案内してくれた。

どうやら温室にいたようだ。

「これはシロウ様、すみません気付きませんでした。」

「むしろ気付く方がびっくりだよ。どんな感じだ?」

「スイートベリーがそろそろ収穫できそうです。春先の果物ですし、還年祭で喜ばれるのではないでしょうか。」

「温室様々ってやつだな。高値で売り付けてやれ。」

「そのつもりです。今日はどうされました?」

「還年祭前の挨拶回りだ。っていってもほぼ毎日会ってるし話す事もないんだが、この冬も売上はよさそうだな。」

「ちょうど昨日報告書を作っていた所です、中へどうぞ。」

レイと共にアグリの家へと上がらせてもらい、ハロゲンヒーターの前に陣取る。

さっきまでそうでもなかったのに、ヒーターの前に来た途端に寒く感じるのは何でだろうあ。

「うー、さぶい。」

「今香茶を用意いたします。」

「別に気にしないでもいいぞ、先に書類を見せてくれ。」

「ではご確認ください。」

報告書は二枚。

春先から今までの収支が綺麗に整理されており非常にわかり易い。

前と書き方が違うのはセーラさんたちに教えてもらったからだろう。

夏を境に収支は一気に増えこの秋は過去最高を記録。

麦の不作もあり芋を量産したのが功を奏したようだ。

野菜はどれも豊作。

どうやらここだけじゃなく隣町でも葉物を卸しているようだ。

土地的に畑が少な目なんだよな、あそこは。

ナミル女史も大喜びだろう。

「どうぞ。レイにはこっちを。」

「よかったなレイ。」

「ワフ!」

塩少な目の干し肉をもらい嬉しそうに尻尾を振るレイ。

後でルフにも持って行ってやらないとな。

「如何でしょうか。」

「去年とは比べ物にならない収穫量、そして売上額だな。」

「畑も大きくなりましたし新設しました貸し畑が思いのほか人気でして。予約待ちが出ているぐらいです。」

「そんなにか。」

「可能であれば拡張したいと考えていますので、13月になりましたらローランド様にお伺いを立てる予定です。」

「同行するか?」

「いえ、大丈夫です。」

ま、子供じゃないんだし自分の任された仕事だ。

アグリなら何とかするだろう。

しかしそんなに畑の需要があるなら前々からやればよかったのに。

思わぬ需要ってやつなんだろうか。

「明日貸し畑の代金が支払われますので、今月分をお納めできる予定です。恐らくは金貨3枚ほどになるかと。」

「多いな。」

「農作物の収穫量もかなりありますから、ほんとどうなっているんですかね。」

「それを俺に言われても困る。が、金になるのは有難いな。生活に不便はないか?」

「ヒーターのおかげで凍える事なく過ごせています。シロウ様の言った通り断熱材をケチらないで正解でした。」

「だろ?」

下が倉庫なのでどうしても冷気が抜ける。

快適な生活をする為には必要な投資だったと言えるだろう。

不便していないようで何よりだ。

「まぁ風邪をひかないように引き続き励んでくれ。それじゃあまた明日な。」

「はい。」

「行くぞレイ。」

「ワフ!」

肉をもらってご機嫌なレイと共に倉庫へと戻る。

これだけ大きな畑が荒らされないのも全てはルフやレイ、それにコッコたちのおかげだろう。

いつもありがとな。

ルフにも干し肉をおすそ分けして最後に冒険者ギルドへ。

やれやれやっと最後だ。

顔なじみに挨拶をしながら扉を開けて中へ入る。

今日も中は大忙し、そんな中カウンターに寄りかかるようにして立っていた女性がこちらを見るなり手を挙げた。

「あれ、シロウ今来たの?」

「なんでここにいるんだよ。」

「仕事だもの。」

「いやまぁそうなんだが・・・、ニア何か言ってやってくれ。」

「私は来てくれた方がありがたいけど?新人も喜ぶし。」

カウンターでニアと話していたのはエリザ。

臨月に入りギルド関係の仕事はしないって話だったんだが、自主的に仕事をしに来たんだろう。

もちろん金を回収するために。

「それで、仕事は片付いたのか?」

「もちろん、素材の搬入と買取、それと使用料ももらってるわ。」

「よくやった。」

「まさかエリザにお金を請求される日が来るとは思わなかったけど、そんなに物入りなの?」

「そういうわけじゃないんだが、還年祭を前に色々片づけておきたくてな。」

「あ、それわかるかも。」

「それじゃあニアまたお祭りで。」

「またね。」

仕事をしに来たはずがエリザのおかげで早く片付いてしまった。

大きなおなかを抑えながらいつもよりもゆっくりとしたペースで歩く。

「シロウは全部回れたの?」

「おかげさんで。」

「じゃあまた大金持って歩いてるんだ。危ないから誰か連れて行けばいいのに。」

「今まではエリザがいてくれたからなぁ。今後はそれも考えなきゃダメか。」

「まったく、私がいないとダメなんだから。」

やれやれといった口ぶりだがその顔は随分と明るい。

でもエリザの指摘通り今後は注意しないとなぁ。

今はいいが、今後は大勢の人間が流入してくるわけで、それに比例するように犯罪も増加するのは目に言えている。

ひったくりだの窃盗だの、巻き込まれない保証はどこにもない。

扱っている金額が金額だけに、ロスは大きくなる。

金ならいいが命を失うわけにはいかないしな。

「そうだな。」

「なによ、今日はずいぶん素直じゃない。」

「いや本当にそう思っただけだ。」

「産後すぐは無理だけど、しばらくしたら私も動くから、それまで無茶するんじゃないわよ。」

「へいへい、了解しました。」

「まったく心がこもってないんだけど。」

「気のせいだろ。」

大丈夫だとは思うが念のためにカバンをしっかりと抱えて家路につく。

戻ってからの方が忙しい。

でも今日頑張ればオークションで自由に使えるお金が増える。

目的のためだ、頑張らないとな。

俺がカバンを抱きかかえたのを見てエリザも体を寄せてくる。

「いよいよね。」

「あぁ、どう転ぶかはわからないが何とかなるだろう。」

「新しい子に手を出すなとは言わないけど、それよりも別の子に気持ちを受けてあげてよね。」

「普通は浮気するなっていうんじゃないか?」

「だって今更だし。それに、シロウに関わった人はみんな幸せになるから、だからいいの。」

「いい女だな。」

「でしょ?もっと褒めていいのよ。」

まったくすぐ図に乗るなぁこの脳筋は。

手を出しまくっている俺が言うのもなんだが、一応は気を付けているつもりだ。

それに、幸せにしてもらってるのは俺の方。

それをわからせるために俺はエリザの尻を強く揉むのだった。
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