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819.転売屋は候補を見つける

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「シロウ様、出品リストが送られてまいりました。ご覧になられますか?」

「あぁ、みせてくれ。」

執務室でいつものように仕事をさぼって、もとい仕事をしているとミラが分厚い書類をもってやってきた。

もしかしなくてもあれ全部出品されるのか・・・多くない?

自分でもそれなりの数を出しているわけで多いのは当たり前なんだが、それでもちょっとなぁ。

いつもの倍まではいかないがそれに近い数はある

これ全部を見るのはいい暇つぶし、もとい大変そうだ。

ずっしりと重い書類の束を受け取り、上から順番にめくっていく。

ふむふむなるほど、これは面白い。

「如何ですか?」

「ん、あぁ今回は当たりが多そうだ。」

「それは何よりです。」

「売り上げ次第ではいくつか買い付けてもいいかもしれない、これなんてどうだ?真実の指輪ほどじゃないが鑑定スキルが使えるそうだ。これがあればメルディも仕事がしやすくなるだろう。呪われていないようだし、もし辞める事があるのなら返却してもらえばいい。」

なんでも真贋の指輪というものがあるようで、物の性質を見抜けるらしい。

想定落札価格は金貨30枚と高額だが、これで仕事がしやすくなるのであれば安いものだ。

呪われていないので他の人に渡せるのも大きいよな。

「それはいいですね、メルディさんが喜びそうです。」

「ミラもめぼしい奴があれば教えてくれ、候補に入れておく。」

「かしこまりました。」

二人でリストとにらめっこしながら良さげなものを探していく。

全部見るのに一時間ほどかかってしまったが何とか見終えることができた。

候補に挙がったのは全部で30個。

流石にこれを全部買うのは無理なので、ここから取捨選択していく感じだ。

しかし今回はすごいな。

物もそうだが奴隷の出品がかなり多い。

時期的な物もあるかもしれないが、一般人・冒険者・亜人なんでもござれ。

どう見ても貴族って感じの女性も出品されていた。

イザベラじゃないが、どこぞの貴族が没落でもしたんだろうか。

「とりあえずこんなもんか。」

「そうですね、皆さんにも回覧して追加があるか確認していただきます。」

「あぁ、全員分でそろってからまた考えよう。」

「では持っていきます。」

選ばれた分には付箋を貼り、誰が何を欲しているかわかりやすいようにしておく。

付箋が増えれば増える程に買う順位が上がっていくというわけだ。

流石の俺もこれ全部を買う財力はない。

なんせ、最近多額の投資をしたばかりなんだ。

清酒に廃鉱山、後々金になると分かっていても今はそこまでの金を産まないものばかり。

時期をずらせばどうってことなかったが、ちょっと集中してしまった感じがある。

それでも自由になるお金はそれなりにあるし、豪遊しなければ何とかなるはずだ。

その為にこの間セールをしたわけだし、オークションの販売分もある。

大丈夫何とかなる。

とか言いながらもやっぱり気になるので財務状況を確認してしまったけどな。

夕方、食堂に集合した俺達はいつものように夕食後のミーティングを行っていた。

デザートのオレンジがいつも以上に美味しい。

ふむ、スノーオレンジか覚えておこう。

「皆リストは見たか?」

「見ました、今年はすごい量ですね。」

「欲しい物はいくつかあったけど今回はパスかな。だってしばらくはダンジョンに潜れないし。」

「ま、それもそうだ。」

「今回は奴隷の出品が多いみたいですね、今回はそっちを増やしてみてはどうでしょうか。」

「奴隷なぁ。」

やっぱりそうなるよなぁ。

ハーシェさんの指摘通り人材の確保は急務だ。

さっき見た貴族の娘なんかは資料を見る限りそこそこの身分だったようだし、そこから考えて化粧品にもそれなりに精通してそうな感じがする。

もう一人人気の亜人は馬人族なので力も強いし、動きも早い。

子供が増えるとミミィが自由に動けなくなるので、買い物や雑務をこなすのにもってこいだろう。

この時点で奴隷候補は二人。

戻ってきたリストを見ても奴隷に入っている票は多めなようだ。

でもなぁ、高いんだよなぁ。

「現在の財務状況ならびにオークションの販売価格から逆算すると使用できるお金は金貨400枚程。冬に販売を始めたパックの販売が好評なうえに王都で貸し出しを始めた掃除機などの売り上げがこちらに届く事を考えればもう少し使用しても大丈夫だと思われます。」

「大丈夫だと分かっていてもまだこっちには届いていないわけだろ?出来るだけ手持ちの資金は潤滑に残しておきたいんだよなぁ。レールの移設にもそれなりの金がかかるし、ここにきて二回分の投資が響いてきたか。」

「でも来年にはかなり回収できるわけでしょ?シロウが目の前の儲けを放り出す方があり得ないわ。」

「オークションは次回もありますし、今回はあまり無理をする必要はないと思いますけど。」

「でもなぁ、欲しいだろ奴隷。」

「居れば助かりますね。」

グレイス達を含めこの場にいる全員が大きくしかも何度もうなずく。

そうなんだよ、全員の意志は決まってるんだよ。

よし、決めた。

今回は奴隷を買おう。

狙うは貴族と亜人、幸い出品も最初の方なのでそれにかかる金額次第で残りを考えよう。

そうしよう。

「あのー。」

「どうしたキルシュ。」

「この人達は買わないんですか?」

おずおずといった感じでキルシュが指差したのは何枚か重なった紙の一番下。

取り出してみるとキルシュとジョン、それとハワードを示す付箋が張ってあった。

内容は・・・。

「あー、今回は候補に入ってないな。」

「そう、ですよね。」

「え、どれどれ?」

「あぁ、奴隷の一家ですね。それにしても全員一緒というのは珍しい。」

「そうですね、若い女の子もいますし普通は分けられそうなものですけど。」

俺の周りに女達が集まって紙を覗き込んでくる。

書いてあるのは奴隷の四人家族。

40代の夫婦と10代後半の姉それと10台半ばの弟。

弟はキルシュやミミィと似た年になるだろう。

姉はルティエやモニカぐらいだろうか。

確かにその若さなら娼婦として単独で売られてもおかしくない。

弟も労働力としては申し分ない年だし四人全員一緒ってのは売られるときによほど交渉したんだろう。

えーっと、出品者はっと。

「あー・・・。」

「レイブ様でしたか、でしたらこの条件もうなずけます。」

「どうみてもシロウ狙いよね。」

「四人で金貨200枚は格安だと思います。」

「いやいや、いくら安くても買えば他の奴隷が買えなくなるぞ。」

「ですが屋敷の人不足は一発で解決しますよ。」

そうなんだよなぁ。

実際にどんな奴隷か確認してみないと分からない部分も多いが、屋敷の人不足は間違いなく解消できる。

人が増えれば厨房にも余裕が出来るし、買出しを任せることが出来ればミミィが子供達に専念できる。

もともと10人は欲しいって話だったんだから、これでやっと適正人数になるだろう。

マリーさんももうすぐこっちに来るし、人では大いに越したことは無い。

っていやいや、まだ買うと決めたわけじゃないから。

それに金貨200枚はあくまでも予定金額で、それよりも高騰するのが基本。

それなら予定通りの二人のほうが予算的にも問題は少ないはずだ。

「とりあえず保留だな。」

「あ、逃げた。」

「仕方ないだろ、今回は欲しいものが多すぎるんだ。しっかり精査してだな。」

「なんだかんだ言ってるけど、これは買うわよ。」

「私もそう思います。」

「アナタは優しい人ですから。」

いやいや何買う前提で話が進んでいるんだ?

保留だって言ってるだろうが。

ハーシェさんまでそんな事言って、リーシャは・・・っていない?

「オムツ換え終わりました!」

「ありがとうミミィちゃん。忙しいのにごめんなさい。」

「大丈夫です!って後二人増えたらわかりませんけど。」

「ほら御覧なさい。」

なんでエリザがほれ見たことかって顔してるんだよ。

そりゃミミィの苦労を考えたらそうかもしれないけど、それよりも買いたいものがたくさんあるんだよ。

畜生、こんなときにもっと金があれば。

それこそ金貨1000枚ぐらいあれば何も気にせず買えたというのに。

「とりあえずオークション当日まで考えさせてくれ。」

「仕方ないわね。」

「私もそれまでにいっぱいお薬作りますね!」

「露天はお任せください、出来るだけ在庫をはいてごらんに入れます。」

「えー、じゃあ私は・・・。」

「エリザ様はおとなしくしてくださいね、お腹の子に障ります。」

「ぶーぶー。」

何豚になってるんだこの脳筋は。

余計なことするなって言われてるんだよ、おとなしく部屋で寝てろ。

とりあえず目下の目標は現金を稼ぐこと。

幸いオークション前には各事業の売上金が集まってくるから、死ぬ気で利益を決定して使えるお金を増やすとしよう。

オークションまであと一週間。

小さなことからこつこつと、ってね。
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