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815.転売屋は失敗する

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「ん?お前、そんな髪色だったか?」

「あ、気付きました?ちょっと変えてみたんですよ。」

「変える?」

「シロウさん知らないんですか?今、無茶苦茶流行ってるんですよ。」

自慢げな顔で鮮やかな栗色の髪の毛を軽く撫でる馴染みの冒険者。

いつも同じ素材を同じ量持ち込んでくれるのでよく覚えているが、確か元の髪色は深い紺色だったはず。

元の世界では髪の毛の色を変えるなんてのは良くある話だが、この世界では聞いたことがない。

美容師はいるけれど、ブリーチやカラーはしていなかったと思うんだがなぁ。

仮に出来たとしてもこんなに鮮やかに変わるだろうか。

「そこ、詳しく聞かせてくれ。」

「へへ、高いですよ。」

「じゃあいい。」

「冗談ですって!ミミクリーワームの体液を使ったんです。」

「ミミクリーワーム聞いた事ないな。」

「色んなものに擬態する魔物で見つけるのがなかなか大変なんですけど、そいつの体液をかけると色が変わるんです。それこそ剣とか鎧とかも。」

ふむ、そんな魔物がいるのか。

キキがいれば色々と話を聞けたのだが、生憎と今日はダンジョンに入っている。

「で、それで髪の毛を変えたのか。」

「元の色も嫌いじゃないんですけど、試しにやったらいい感じの色になったんで。」

「試しに?」

「何色になるかは選べないんですよ、相棒は紫になってましたね。」

「なかなかギャンブルだな。」

「そこが面白いんじゃないですか。」

冒険者は賭け事が好きだからなぁ、おおかた飲みながら遊んでいたんだろう。

一人がやりだすと周りもそれに同調して、最終的には大騒ぎになるのがいつもの話だ。

剣や鎧の色も変わるらしいしそれ目当てに体液を掛けるやつもいるはず。

ギャンブル性が高いからこそ嵌る。

トレーディングカードとかもそうだが、中身がわからないからこそ面白いってのはどの世界でも共通だな。

だが一つ気になることがある。

「その色、すぐに戻せるのか?」

「お湯を掛けて体液を流せば戻りますよ。皮膚とかは変わらないんで、その辺は安心です。」

「なるほどなぁ。」

「シロウさんもやったらどうですか?面白いですよ。」

「いや、俺は遠慮しとく。今日の買取は銀貨5枚な。」

「え、いつもより多いですよ。」

「情報料だよ。」

いつもは銀貨3枚の買取。

銀貨2枚で面白い話が聞けたんだ、今後の儲けを考えれば安いもんだろう。

買取金を受け取り冒険者が出て行くのと同時に、店の札を休憩中に変える。

いい話を聞かせてはもらったものの裏取りは必要だ。

彼らの仲間内だけで流行っているんじゃ儲けになりはしない。

急ぎイライザさんの店に向かって今の話を振ってみると、ここ数日そういう遊びをする冒険者が増えているそうだ。

店が汚れるので使う時は外に行ってもらっているみたいだけど、お湯を掛ければすぐに流せるのでそこまで困ったことにはなっていないようだ。

使っているのは主に武器。

自分達のイメージカラーに合わせて同じ色になるまで使ったりしているらしい。

ふむ、なかなかいいじゃないか。

簡単に変化を楽しめるのは言い換えると複数回楽しめるという事。

今度は冒険者ギルドに向かい値段を調べてみたが、一回分で銅貨20枚程度らしくそこまで高価な物ではないようだ。

『ミミクリーワーム。様々なものに擬態して敵の目を欺く魔物。積極的に攻撃してくることは無く、普段から擬態しているので見つけられずにスルーすることは多い。最近の平均取引価格は銅貨25枚。最安値銅貨10枚、最高値銅貨38枚、最終取引日は本日と記録されています。』

鑑定結果では物の色を変えるとは出てこなかった。

ふむ、最近見つかった効果なんだろうか。

物は試しとギルドで買い取ったやつを売ってもらい、店の在庫にかけてみる。

「お、マジで色が変わった。」

「鉄の剣がなんていうか、子供の玩具みたいです。」

「この色はなぁ。」

横で見ていたメルディが素直な感想を出してくれたが、俺も同じ感想だ。

体液は半透明でとろみのある感じで、それを剣にかけると下に流れながら刃の色が銀からショッキングピンク的なのに変わってく。

この色の武器は流石に使えない。

外れと言ってもいいだろう。

ギルドから買い付けた分でちょうど一回分。

そこまで高価じゃないだけにリトライしたくなるよなぁ。

今度は上からお湯をかけてみると、ピンク色がみるみるうちに元の銀色に戻っていく。

溶けると元の色に戻るのか地面がピンク色になる感じもない。

うーむ、面白い。

「売れるな。」

「仕入れますか?」

「あぁ、とりあえず冒険者に依頼して集めてみよう。一回分銅貨10枚で個数に制限はかけない。俺はギルドに依頼を出すからメルディは店頭に貼る分を書いてくれ。」

「はい!」

流行りに遅れたのは少々痛いが、やらないよりもやったほうが儲けが出る。

たとえ一個の儲けが銅貨10枚でも、100回分売れれば銀貨10枚になる。

どの色が出るかわからない以上回数をこなすのは必然。

つまり数が売れる。

元の世界でも何が出るかわからないトレーディングカードなんかは未開封でも高値で取引されてた。

物によっては数倍、数十倍の物だってあった。

もちろんそれは需要と供給のバランスが崩れた事で起きた事例だが、ここに来れば大量に手に入るとなれば冒険者が集まってくるのは間違いない。

冒険者が集まれば客も増える。

客が増えれば結果的に俺の金が増えるわけだ。

撒き餌としてはもってこいの素材だろう。

ってことで急ぎギルドに依頼を出し、ミミクリーワームの体液を集めることになった。

最初こそ数は集まらなかったものの、その日のうちに100回分。

その翌日には200回分が持ち込まれた。

その間に売れた者もあるが手元に残っているのはおおよそ150回分。

このペースで行けば今日は300回分ぐらい集まりそうだな。

「シロウさん持ってきましたよ!」

「おぅ、いらっしゃい。って多いな。」

「巣があったんで根こそぎ倒してきました。」

「カニみたいに絶滅させるなよ。」

「それは無いと思いますよ。」

「だといいがな。」

持ち込まれたのは全部で40回分ほど。

他にも持ち込みがあったので今日だけで300を超えた計算になる。

しかし妙だな。

「髪色、戻したんだな。」

「明るいのもいいんですけど、こっちのほうが落ち着くんですよねぇやっぱり。」

「俺はそっちの方が似合うと思うぞ。」

「へへ、ありがとうございます。」

「銀貨4枚、確認してくれ。」

カウンターの上に銀貨を積み上げていくと冒険者の目の輝きが増していく。

わかる。

現金買取ってこれが一番楽しいよな。

「ありがとうございます!これ、いつまでやります?」

「一応まだ継続する予定だが・・・どうしたんだ?」

「いや、仲間もやりたいっていうもんで。」

「そうなのか?てっきり消費するもんだと思ったんだが。」

「あー、なんか飽きてきたんですよね。」

ふむ、確かにやり過ぎると飽きも来るだろう。

特に色を合わせたいとかいう連中は揃ったら興味なくなるしな。

あれ、もしかしてヤバイ?

「とりあえずギルドの依頼も取り下げるし、お前だけにしておいてくれ。」

「へへ、了解っす。」

なんだか嫌な予感がするぞ。

とりあえず急ぎギルドに行って依頼を取り消しておかないと。

流行ってのは流行るのも早いし廃れるのも早い。

そしてそれに気づくのが遅れたやつが大損を被る。

俺も過去に何度か失敗したことがあるんだが、これはまさにその流れだ。

今回は気付くのが遅かっただけに乗り遅れた感は否めないんだよなぁ。

そんな俺の予感を裏付けるようにその後も買取が立て続けに起き、あっという間に在庫が膨れ上がってしまった。

その数1000回分。

ギルドの依頼は取り消したものの、それまでに仕入れた分は買い取るしかなく結果として在庫が膨れ上がってしまった。

金額にしては金貨1枚ほど。

俺にしてはまだ少ない方だが、一般的な感覚で行くと大金だ。

「どうするのよこれ。」

「どうするかなぁ。」

「多量に使用すると皮膚炎を起こす事がわかってからは一気に使用が減りましたね。」

「装備品も錆が出るとわかりましたし、使われることはないと思います。」

買取を停止してすぐはまだ売れていたのだが、ミラとキキが言うように多用していた連中に被害が出始めてからぱったりと使われることが無くなってしまった。

なんでも髪の毛の色を変えまくっていたやつの髪がごそっと抜けたらしい。

そりゃそうだろう。

地肌だけでなく髪の毛まで抜けるとなれば怖くて使えるはずが無い。

加えて装備品にもわずかながら劣化が見受けられた。

遊びで使って商売道具がだめになったとか笑い話にもならない。

そんなこんなでせっかく集めた体液は全て無駄になってしまったというわけだ。

やれやれ、相場スキルがあっても市場の動きを読めなければ意味がない。

こればっかりは運もあるが、今回のは完全に俺の読み違いだ。

「ま、何とかなるだろ。」

「本気でそう思ってる?」


「俺を誰だと思ってるんだ?買い取ったからには無駄にはしないぞ。」

「とか何とか言っちゃって。今までにどれだけ無駄にしてきてるのよ。」

「無駄じゃない、寝かせてるだけだ。」

買い取ったからにはもちろん金に買えるつもりではいる。

だが今はそのときじゃない。

こいつもいずれ何かに使える日が来るはず。

多分だけど。

久方ぶりの失敗。

まぁ長いことやってるとそんなこともあるだろう。

相場スキルがあるとはいえ連戦連勝とは行かないものだ。

今日という日を教訓に明日から又がんばればいい。

「かっこいい事いってるけど負け惜しみよね、それ。」

「うるさい。」

まったくひと言多いやつめ、これだから脳筋は。
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