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803.転売屋は報告を聞く
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12月。
元の世界では年の瀬という感じだがこの世界では若干趣が違ってくる。
1年が24か月あるこの世界ではまだ折り返し、とはいえ季節は巡るので年が還るという意味を込めて月末には還年祭が大々的に行われる予定だ。
その年の節目に大騒ぎをするのはどこも同じ、準備が進む度に誰もがそわそわし始める。
もっとも、準備している方は大変だし今月はオークションやら何やらと忙しいんだよなぁ。
今回は王族が来る予定もないのでゆっくり楽しめる、はず。
フリじゃないからな、勘違いするなよ。
「どうされました?」
「なんでもない、12月になった途端に書類が増えたなと思っただけだ。」
「月初めは毎回こんな感じですから変わりませんよ。」
「そうか?」
「ラフィムがいないのでそう感じるだけでしょう。ですがそろそろ戻ってきますのでご安心を。」
「わかるのか?」
「二人で一人ですので。」
そう言うと、セーラさんはにこりと微笑んでから窓の外に目をやった。
この時期にしては珍しく青空が広がっている。
雪にならなくて何よりだ。
今回、ラフィムさんには特別な仕事をお願いさせてもらった。
本来であればミラやハーシェさんにお願いする仕事だったのだが、ミラは妊娠初期だしリーシャが熱を出してしまったのでハーシェさんが動けない為無理をお願いした感じだ。
まぁ、今回は情報収集がメインだしその手の仕事が得意なラフィムさんだけに心配はしていないんだが・・・。
「失礼します。」
静かなノックが二回、それから聞き慣れた声が執務室に響く。
ね、帰って来たでしょ?という感じで得意げな顔をするセーラさん。
それを感じるのか入って来たラフィムさんも同じような顔をしていた。
両手にはたくさんの荷物を抱えていて、まるで旅行帰りだ。
「お帰り、大変だったな。」
「ただいま戻りました。あ、これお土産です。」
「なかなかの量だな。」
「色々と持たされまして。」
誰にという部分はあえて聞かなかったことにしよう。
その方がいい。
「お帰りラフィム、どうだった?」
「それは報告を終えてから・・・ってちょっと、セーラ待って!」
セーラさんが小走りで駆け寄ったと思ったら、ラフィムさんが止めるのを聞かずに同化を始める。
二人は一人。
服ごと同化する様子は何度見ても不思議な感じ。
脱げないという事は体が服を表現しているわけで、ってことは実質全裸?
いやいや普通に上から服を着ているのも見ているし、とか思っているうちに同化が完了。
足元に散らばる荷物とは別に、吐き出されるように後ろに衣服がポトリと落ちた。
うーむ、まるで捕食された後だ。
「「もぅ、ちょっとは待ってくれればいいのに。」」
「半身との一週間の別離だ、寂しくもなるさ。」
「「それはわかりますが・・・。え!私がいない間にオデンしたんですか?でも向こうで美味しいお刺身食べてるでしょ、ずるい。」」
「喧嘩は報告が終わってからにしてくれ、今日は二人の好物を作ってやるから。」
「「失礼しました。」」
いつもはピタリと重なり一つの声に聞こえるはずの二人の声色が、微妙にズレて聞こえるのは離れていた時間が長いせいだろうか。
俺の所に来てからこんなにも離れたのは初めてのはず、再調整に時間が掛かるのかもしれない。
知らんけど。
「落ち着いたか?」
「はい、情報共有も終わりましたのでもう大丈夫です。」
「それじゃあ早速聞かせてくれ、まず最初に清酒の生産については問題なさそうか?」
「利権関係に関しては問題ないと言っていいでしょう。門外不出と謳ってはおりますが、過去に職人が出国したまま戻らなかった例が多々ありました。また、流出したからといってそれを咎める法は存在しませんので、こちらでの生産についても問題は無いかと。もちろん抗議は予想されますが、法的にそれを差し止めることが出来ないと断言できます。」
「よしよし、まずは第一歩だ。」
「続きましてジョウジ様の素性ですが、身分の偽りや犯罪歴はございませんでした。十数年とある酒蔵で職人として働いていたようですが、雇用主と揉めて出国されたようです。金銭の絡んだ問題はありませんでしたので、雇用した事でシロウ様の名を汚すこともないでしょう。」
「金銭関係でないのならば安心だ。詳しい話を知りたいところだが、その辺は本人から聞けば大丈夫そうだな。しかし、短時間でよくこれだけ仕入れたものだ。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですが詳細についてはいくらシロウ様とは言えお応えすることは出来ません、お許しください。」
今回ラフィムさんに頼んだのは清酒に関係する利権やジョウジさんの素性調査だ。
多額の金銭が動くだけに途中で頓挫しましたというのは困る。
確実に不安要素をつぶして安心して生産できるかを見極めなければならない。
幸いにもその辺は問題なさそうなので、第一段階はクリアといった所か。
「別に知らなかったからどうなるわけでもなし、引き続き頼りにしてる。水はどうだ?ポーラさんの許可は出たか?」
「二つ返事とまでは行きませんでしたが使用許可を頂いております。ただ、港町からかなり離れておりますので占有するのであれば我々の方で建物等を建ててほしいとの事です。」
「向こうの要求は?使用料か?」
「使用料に関しては手つかずの湧き水ですので不要との回答でした。先方の要求は二つ、港町での化粧品の流通、次にシロウ様との一日デートです。」
「デートか・・・。」
「迷われるのはそこですか。」
「どう考えても面倒じゃないか。」
化粧品に関しては需要の増加もあり増産はしているものの販売数と販売場所を絞っている状態だ。
現在はここと隣街と王都のみ。
そこからイザベラを通じて他の商人が取引のある貴族等に回しているというのが現状だ。
需要が増えすぎて供給できないという状況ではないものの、余裕があるわけでもない。
そこに港町の分となるとカーラと話し合う必要があるだろう。
とはいえ、少数でも流せば要求を達したという事も出来る。
問題はデートの方だよなぁ。
俺の体一つで清酒を作れると思えば安いのかもしれないが、めんどくさい上に何をされるか分かったもんじゃない。
「先行して湧き水付近に簡易の建物を建てるよう依頼してきました。後程請求書と仕様書を提出しますのでご確認ください。また、蒸留水を保管するのに利用していた入れ物ですが、空いた物を港町で保管してもらえるようお願いしてあります。湧き水を詰め終わりましたら港町を経由してガレイ様の船で運搬することになるでしょう。陸路も考えましたが振動による破損の可能性があるので水路での輸送と致しました。」
「水さえ手に入れば後はモーリスさんに頼んだコメの到着を待つばかりだ。普段から米を食っていたおかげで大量注文しても怪しまれることはなかったらしい。それどころか新米の提案を受けたそうだから、また美味いコメが食えるぞ。」
「それは楽しみです。」
「水、米と来て最後は場所か。」
ここまでは順調。
いや、順調すぎると言ってもいいぐらいだ。
多少目を瞑らないといけない事案はあるが、それをクリアすれば清酒を作ることが出来る。
それに比べれば些細な問題といっていいだろう。
「先日の大掃除の結果ですが、大半がゴミだったもののいくつか使用できそうなものがありましたので回収しております。リストはまた改めて提出しますがビアンカ様やアネット様がお喜びになるかと。」
「昔の薬師が使っていた器具関係だろ、高い物ならなお有難い。」
「現在はタンク以外のゴミを搬出して掃除中です、そちらの代金は半分アイル様が負担して下さるそうですので後日お礼をして頂けますでしょうか。」
「それはいいんだが、あのタンクが一番邪魔だろ。」
「ジョウジ様曰く、清酒造りにぴったりだそうでご自身で磨いて使用されるそうです。新規で購入すると概算で金貨3枚はするところでしたので、再利用できると非常に助かります。」
まさかあのデカブツを再利用することになるとは思わなかったが、使う本人がそれでいいというのであれば何も言うまい。
こっちからしてみれば初期投資の費用が浮くわけで、それだけ回収の時間が早くなるというもの。
最近姿を見ないと思ったらもう現地で活動していたのか。
「冒険者はどうだ、募集はあったか?」
「応募はあったそうですが、詳細を伝えると皆辞退されたそうです。」
「護衛兼作業員って感じで来てほしかったんだが、そうかいなかったか。」
「そもそも冒険者に酒を飲むなと強制するのが難しいのではないでしょうか。」
「酒を飲まない冒険者もいるぞ?」
「そうだとしても全体の1割にも満たない数です。さらにはダンジョンという最高の稼ぎ場を捨て、森に引きこもりたいと思う人は皆無。皆さん、一獲千金を狙ってここに集まっておられるわけですから。」
建物は何とかなっても、それを守る人は必要不可欠。
そこで、向こうに移住して作業員として働きつつ護衛や狩猟をしてくれる冒険者を募集してみたのだが、条件が厳しすぎてなかなか手は上がらなかったようだ。
『出来上がった酒は勝手に飲めない』
酒好きの冒険者からしてみれば目の前にある酒に手を出せないのは苦しい所だろう。
じゃあ金を出せばいいのかと言えばそういうわけじゃない。
味見はともかく大事な商品に手を出すなど言語道断だ。
加えて賃金も無茶苦茶高いわけでもない。
もちろんそれを増やす選択肢もあるが、製造を確約しているわけではないので無駄な経費はかけたくない所。
いい仕事にはいい報酬を、そこをケチっても良いことはないのだが下手に報酬を上げて金目当てに応募されても面倒だ。
まじめに酒造りをしつつ護衛や狩猟もしてくれるような奇特な冒険者なんて・・・いないよなぁ。
「そっちは時間をかけながら探すしかないだろう、基本は一人でやることになってるんだ。護衛だけ別に雇うという手もある。」
「ではしばらくは様子を見て判断致します。」
「あぁ、よろしく頼む。とりあえずは・・・以上か?」
「報告は以上になります。」
後は今の情報を精査しながら具体的に清酒造りを進めていくことになるだろう。
今の所は順調すぎるぐらいに進んでいる。
もちろん問題は山のように出てくるだろうが、少しずつつぶしていけばいいだろう。
まずは第一歩。
「ご苦労さん、今日はゆっくり休んでくれ。」
「そう言って事務処理をサボるおつもりですね?」
「・・・何の話だ?」
「私が不在の間に少しずつではありますが遅延が発生したようですね、では急ぎ取り戻しましょう。」
「疲れているだろ?」
「私と同化したことで疲労を分散させました、問題ありません。」
一人がまた二人に分かれる。
涼しい顔をするラフィムさんと、同じ顔をして全裸のセーラさん。
うーむ、なかなかのスタイル。
「とりあえず問題があるのはその服装ぐらいか。」
「見ました?」
「見た。」
「お見苦しい物をお見せしました。」
「いやいや、目の保養になったぞ。」
「なら頑張れますね。」
しまったと思った所でもう遅い。
まさか、あそこで服を吐き出したのはこのためか。
何で一人分の服しか吐き出されなかったのか不思議だったが、これを見越しての作戦だったとは。
恐るべし。
恥じらう事無く下着を身に着けるセーラさんと、してやったりのラフィムさん。
二人は一人、二人は一人。
やれやれサボるわけにはいかなさそうだ。
「とりあえず手土産を確認してからにするか。」
せめてもの抵抗をしつつ、楽しそうな二人に指示を受けながら書類の山を片付けるのだった。
元の世界では年の瀬という感じだがこの世界では若干趣が違ってくる。
1年が24か月あるこの世界ではまだ折り返し、とはいえ季節は巡るので年が還るという意味を込めて月末には還年祭が大々的に行われる予定だ。
その年の節目に大騒ぎをするのはどこも同じ、準備が進む度に誰もがそわそわし始める。
もっとも、準備している方は大変だし今月はオークションやら何やらと忙しいんだよなぁ。
今回は王族が来る予定もないのでゆっくり楽しめる、はず。
フリじゃないからな、勘違いするなよ。
「どうされました?」
「なんでもない、12月になった途端に書類が増えたなと思っただけだ。」
「月初めは毎回こんな感じですから変わりませんよ。」
「そうか?」
「ラフィムがいないのでそう感じるだけでしょう。ですがそろそろ戻ってきますのでご安心を。」
「わかるのか?」
「二人で一人ですので。」
そう言うと、セーラさんはにこりと微笑んでから窓の外に目をやった。
この時期にしては珍しく青空が広がっている。
雪にならなくて何よりだ。
今回、ラフィムさんには特別な仕事をお願いさせてもらった。
本来であればミラやハーシェさんにお願いする仕事だったのだが、ミラは妊娠初期だしリーシャが熱を出してしまったのでハーシェさんが動けない為無理をお願いした感じだ。
まぁ、今回は情報収集がメインだしその手の仕事が得意なラフィムさんだけに心配はしていないんだが・・・。
「失礼します。」
静かなノックが二回、それから聞き慣れた声が執務室に響く。
ね、帰って来たでしょ?という感じで得意げな顔をするセーラさん。
それを感じるのか入って来たラフィムさんも同じような顔をしていた。
両手にはたくさんの荷物を抱えていて、まるで旅行帰りだ。
「お帰り、大変だったな。」
「ただいま戻りました。あ、これお土産です。」
「なかなかの量だな。」
「色々と持たされまして。」
誰にという部分はあえて聞かなかったことにしよう。
その方がいい。
「お帰りラフィム、どうだった?」
「それは報告を終えてから・・・ってちょっと、セーラ待って!」
セーラさんが小走りで駆け寄ったと思ったら、ラフィムさんが止めるのを聞かずに同化を始める。
二人は一人。
服ごと同化する様子は何度見ても不思議な感じ。
脱げないという事は体が服を表現しているわけで、ってことは実質全裸?
いやいや普通に上から服を着ているのも見ているし、とか思っているうちに同化が完了。
足元に散らばる荷物とは別に、吐き出されるように後ろに衣服がポトリと落ちた。
うーむ、まるで捕食された後だ。
「「もぅ、ちょっとは待ってくれればいいのに。」」
「半身との一週間の別離だ、寂しくもなるさ。」
「「それはわかりますが・・・。え!私がいない間にオデンしたんですか?でも向こうで美味しいお刺身食べてるでしょ、ずるい。」」
「喧嘩は報告が終わってからにしてくれ、今日は二人の好物を作ってやるから。」
「「失礼しました。」」
いつもはピタリと重なり一つの声に聞こえるはずの二人の声色が、微妙にズレて聞こえるのは離れていた時間が長いせいだろうか。
俺の所に来てからこんなにも離れたのは初めてのはず、再調整に時間が掛かるのかもしれない。
知らんけど。
「落ち着いたか?」
「はい、情報共有も終わりましたのでもう大丈夫です。」
「それじゃあ早速聞かせてくれ、まず最初に清酒の生産については問題なさそうか?」
「利権関係に関しては問題ないと言っていいでしょう。門外不出と謳ってはおりますが、過去に職人が出国したまま戻らなかった例が多々ありました。また、流出したからといってそれを咎める法は存在しませんので、こちらでの生産についても問題は無いかと。もちろん抗議は予想されますが、法的にそれを差し止めることが出来ないと断言できます。」
「よしよし、まずは第一歩だ。」
「続きましてジョウジ様の素性ですが、身分の偽りや犯罪歴はございませんでした。十数年とある酒蔵で職人として働いていたようですが、雇用主と揉めて出国されたようです。金銭の絡んだ問題はありませんでしたので、雇用した事でシロウ様の名を汚すこともないでしょう。」
「金銭関係でないのならば安心だ。詳しい話を知りたいところだが、その辺は本人から聞けば大丈夫そうだな。しかし、短時間でよくこれだけ仕入れたものだ。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですが詳細についてはいくらシロウ様とは言えお応えすることは出来ません、お許しください。」
今回ラフィムさんに頼んだのは清酒に関係する利権やジョウジさんの素性調査だ。
多額の金銭が動くだけに途中で頓挫しましたというのは困る。
確実に不安要素をつぶして安心して生産できるかを見極めなければならない。
幸いにもその辺は問題なさそうなので、第一段階はクリアといった所か。
「別に知らなかったからどうなるわけでもなし、引き続き頼りにしてる。水はどうだ?ポーラさんの許可は出たか?」
「二つ返事とまでは行きませんでしたが使用許可を頂いております。ただ、港町からかなり離れておりますので占有するのであれば我々の方で建物等を建ててほしいとの事です。」
「向こうの要求は?使用料か?」
「使用料に関しては手つかずの湧き水ですので不要との回答でした。先方の要求は二つ、港町での化粧品の流通、次にシロウ様との一日デートです。」
「デートか・・・。」
「迷われるのはそこですか。」
「どう考えても面倒じゃないか。」
化粧品に関しては需要の増加もあり増産はしているものの販売数と販売場所を絞っている状態だ。
現在はここと隣街と王都のみ。
そこからイザベラを通じて他の商人が取引のある貴族等に回しているというのが現状だ。
需要が増えすぎて供給できないという状況ではないものの、余裕があるわけでもない。
そこに港町の分となるとカーラと話し合う必要があるだろう。
とはいえ、少数でも流せば要求を達したという事も出来る。
問題はデートの方だよなぁ。
俺の体一つで清酒を作れると思えば安いのかもしれないが、めんどくさい上に何をされるか分かったもんじゃない。
「先行して湧き水付近に簡易の建物を建てるよう依頼してきました。後程請求書と仕様書を提出しますのでご確認ください。また、蒸留水を保管するのに利用していた入れ物ですが、空いた物を港町で保管してもらえるようお願いしてあります。湧き水を詰め終わりましたら港町を経由してガレイ様の船で運搬することになるでしょう。陸路も考えましたが振動による破損の可能性があるので水路での輸送と致しました。」
「水さえ手に入れば後はモーリスさんに頼んだコメの到着を待つばかりだ。普段から米を食っていたおかげで大量注文しても怪しまれることはなかったらしい。それどころか新米の提案を受けたそうだから、また美味いコメが食えるぞ。」
「それは楽しみです。」
「水、米と来て最後は場所か。」
ここまでは順調。
いや、順調すぎると言ってもいいぐらいだ。
多少目を瞑らないといけない事案はあるが、それをクリアすれば清酒を作ることが出来る。
それに比べれば些細な問題といっていいだろう。
「先日の大掃除の結果ですが、大半がゴミだったもののいくつか使用できそうなものがありましたので回収しております。リストはまた改めて提出しますがビアンカ様やアネット様がお喜びになるかと。」
「昔の薬師が使っていた器具関係だろ、高い物ならなお有難い。」
「現在はタンク以外のゴミを搬出して掃除中です、そちらの代金は半分アイル様が負担して下さるそうですので後日お礼をして頂けますでしょうか。」
「それはいいんだが、あのタンクが一番邪魔だろ。」
「ジョウジ様曰く、清酒造りにぴったりだそうでご自身で磨いて使用されるそうです。新規で購入すると概算で金貨3枚はするところでしたので、再利用できると非常に助かります。」
まさかあのデカブツを再利用することになるとは思わなかったが、使う本人がそれでいいというのであれば何も言うまい。
こっちからしてみれば初期投資の費用が浮くわけで、それだけ回収の時間が早くなるというもの。
最近姿を見ないと思ったらもう現地で活動していたのか。
「冒険者はどうだ、募集はあったか?」
「応募はあったそうですが、詳細を伝えると皆辞退されたそうです。」
「護衛兼作業員って感じで来てほしかったんだが、そうかいなかったか。」
「そもそも冒険者に酒を飲むなと強制するのが難しいのではないでしょうか。」
「酒を飲まない冒険者もいるぞ?」
「そうだとしても全体の1割にも満たない数です。さらにはダンジョンという最高の稼ぎ場を捨て、森に引きこもりたいと思う人は皆無。皆さん、一獲千金を狙ってここに集まっておられるわけですから。」
建物は何とかなっても、それを守る人は必要不可欠。
そこで、向こうに移住して作業員として働きつつ護衛や狩猟をしてくれる冒険者を募集してみたのだが、条件が厳しすぎてなかなか手は上がらなかったようだ。
『出来上がった酒は勝手に飲めない』
酒好きの冒険者からしてみれば目の前にある酒に手を出せないのは苦しい所だろう。
じゃあ金を出せばいいのかと言えばそういうわけじゃない。
味見はともかく大事な商品に手を出すなど言語道断だ。
加えて賃金も無茶苦茶高いわけでもない。
もちろんそれを増やす選択肢もあるが、製造を確約しているわけではないので無駄な経費はかけたくない所。
いい仕事にはいい報酬を、そこをケチっても良いことはないのだが下手に報酬を上げて金目当てに応募されても面倒だ。
まじめに酒造りをしつつ護衛や狩猟もしてくれるような奇特な冒険者なんて・・・いないよなぁ。
「そっちは時間をかけながら探すしかないだろう、基本は一人でやることになってるんだ。護衛だけ別に雇うという手もある。」
「ではしばらくは様子を見て判断致します。」
「あぁ、よろしく頼む。とりあえずは・・・以上か?」
「報告は以上になります。」
後は今の情報を精査しながら具体的に清酒造りを進めていくことになるだろう。
今の所は順調すぎるぐらいに進んでいる。
もちろん問題は山のように出てくるだろうが、少しずつつぶしていけばいいだろう。
まずは第一歩。
「ご苦労さん、今日はゆっくり休んでくれ。」
「そう言って事務処理をサボるおつもりですね?」
「・・・何の話だ?」
「私が不在の間に少しずつではありますが遅延が発生したようですね、では急ぎ取り戻しましょう。」
「疲れているだろ?」
「私と同化したことで疲労を分散させました、問題ありません。」
一人がまた二人に分かれる。
涼しい顔をするラフィムさんと、同じ顔をして全裸のセーラさん。
うーむ、なかなかのスタイル。
「とりあえず問題があるのはその服装ぐらいか。」
「見ました?」
「見た。」
「お見苦しい物をお見せしました。」
「いやいや、目の保養になったぞ。」
「なら頑張れますね。」
しまったと思った所でもう遅い。
まさか、あそこで服を吐き出したのはこのためか。
何で一人分の服しか吐き出されなかったのか不思議だったが、これを見越しての作戦だったとは。
恐るべし。
恥じらう事無く下着を身に着けるセーラさんと、してやったりのラフィムさん。
二人は一人、二人は一人。
やれやれサボるわけにはいかなさそうだ。
「とりあえず手土産を確認してからにするか。」
せめてもの抵抗をしつつ、楽しそうな二人に指示を受けながら書類の山を片付けるのだった。
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