転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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775.転売屋はおまちかねの品を売り出す

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いよいよこの日がやってきた。

これを売ると決まって早六ヶ月。

一時はどうなることかとも思ったが、無事にこうやって形になったものを見ると感慨深いものがある。

この商品は間違いなく売れる。

その自信はあるし実際前評判もすこぶるいい。

後は売って売って売りまくってどれだけの利益を稼ぎ出せるか。

裏に控える大量の在庫たち。

さぁ、いよいよ決戦のときだ。

「外はどんな感じだ?」

「警備の方々がしっかり整理してくださっているおかげで問題は起きていないみたいです。でも行列が城壁の外にまで続いていると言っていました。」

「マジか。」

「城壁の外って在庫足りるの?」

「足りるだろう・・・多分。」

「追加の分も仕込んでありますからおそらくは大丈夫です、きっと。」

町の外までという言葉を聞いてマリーさんも不安になってきたようだ。

俺の計算では足りるんだけどなぁ。

ちゃんと購入制限も設けているし、優先販売分も確保してある。

後は滞りなく品を引き渡して代金を受け取るだけ。

やれるだけのことはやった、後はやりきるだけだ。

「それじゃあ最後の確認だ。販売は二人一組で一人が代金を貰ってもう一人が商品を渡す。お金は後ろの箱に投げ込んでもらってかまわない、在庫は随時後ろから補充していくからがんがん渡して貰って大丈夫だ。担当は黄色がエリザとキキ、青がマリーさんとアニエスさん、緑がアネットとビアンカ。交代要員として俺とミラとハーシェさんがいるからトイレも含めて気にせず言ってくれ。メルディは在庫の搬入管理、冒険者への指示をよろしく頼む。文句を言うやつは追い出してかまわないから安心してくれ。ここまではいいな?」

「「「「はい!」」」」

「今日を乗り切る為にここまでやってきたんだとことん稼いでやろうじゃないか。よし、開店するか!」

全員の顔を順番に見ていき、最後に自分の両膝をたたいて気合を入れる。

さぁ、戦いの始まりだ。

「いらっしゃいませ。黄色を1つですね、銀貨3枚です。」

「商品を確認してね、大丈夫?それじゃあ次の人!」

「緑を1つ、銀貨3枚です。」

「確かに受け取りました、どうもありがとうございます。」

姉妹の息の合ったコンビネーションに、親友同士のスムーズな動きは安心してみていられる。

マリーさんの店の前に設けられた臨時の販売カウンターには開店と同時に三つの列が接続され、流れるように客が入れ替わっていくのと同時に、受け取った代金は確認後すぐ後ろの箱に落とされ、あっという間に銀貨の海に変わっていく。

やばい、ニヤニヤがとまらない。

用意された三つのパック。

黄色い箱にはレレモンのパックが入っており、効果は美肌。

緑の箱にはグローブキウィのパックが入っており、効果はハリの向上。

どちらの箱にも鮮やかな色のインクを使ってジョンの描いた模様がスタンプされている。

これがあるのと無いのとでは手に取ったときの感動がぜんぜん違う。

あのときスタンプさんのハンコに出会わなければこんなにも喜んでもらうことは出来なかっただろう。

そして仕上がったそれを奥様方が一生懸命箱に押していってくれた結果がこれだ。

金をかけたことによりさらにお金が舞い込んできている。

列は順調に消化されつつあり、少しずつ短くなっていく。

が、そうならないのが残りの1つ。

今回のパックの中でも一番の目玉商品。

女性の美への執念を体現したといえる青いパックだけは列が短くなる気配が一切ない。

「いらっしゃいませ。青を1つですね、銀貨5枚になります。」

「こちらが商品となります。どうもありがとうございました、どうぞ次の方。」

開始して早くも二時間程。

その間一切休憩することなく、そして笑顔を絶やすことなくこの二人は同じ動作を繰り返している。

さすが元王族、という言葉では片付かないと思うんだが。

「追加だ。」

「ありがとうございます。」

「交代するか?」

「大丈夫です。」

代金を受け取り商品を渡すわずかな間に尋ねてみるも返事は同じ。

大丈夫ならいいんだが、この列だからなぁ。

青い箱にはネモフィラーナの濃縮液をふんだんに使った美容液がたっぷり入っている。

効果はしわの改善。

女性の天敵を改善できるとなれば他の二つより高くても買い手はつく。

そうはいうものの正直銀貨5枚は高すぎかなとも思ったのだが、この列を見てぶっちゃけ後悔している。

倍でも十分売れただろう。

とはいえ、あまり高値にしすぎて購買客を絞るのもよろしくない。

金を取れる相手の分は別に用意してあるわけだし、そっちはそっちでかなりの利益を上げてくれるはずだ。

もちろん一般向けと差別化するために濃縮度が違うものの原価はほとんど変わらない。

入れ物を変えて特別感を出すだけでも喜ぶんだよな、貴族って言う人たちは。

もちろん向こうもそれをわかって買っているわけだけども。

「すごいわね、まだ列が途切れないわ。」

「他も落ち着いてきているとはいえまだまだ列はある。正直こんなに売れるとは思っていなかった。」

「でも在庫はあるんでしょ?」

「あるにはあるが無限じゃない。仕込みの時間もあるしこりゃ販売日を調整しないとまずいな。」

昼休憩に出ていたエリザが店に戻ってきた。

大きなおなかで同じ体勢は結構きついので早めにミラと変わってもらったんだ。

しばらくしたら俺もキキと交代する予定でいる。

「今日だけでどのぐらい儲かるのかしら。」

「金貨100枚は軽く超えるだろうな。とはいえ諸経費を引けばその半分ぐらいしか利益は無いぞ。」

「でも半分は出るでしょ?」

「まぁな。」

「やっぱり大儲けじゃない。冒険者って結構儲かると思ってたけどやっぱりシロウにはかなわないわね。」

「えらいのは開発したカーラであって俺はそれを売って利益を出しているだけだ。あっちへの報酬もあるし全部が全部懐に入るわけじゃないんだぞ。」

最終的な純利益は売価の三割って所だろうか。

それでも一日で金貨30枚。

継続して売ればそれ以上のお金が転がり込んでくる計算だ。

エリザの言うように大儲けといって問題ない。

「それでも実現する為に動いたのはシロウでしょ。」

「俺であり冒険者であり他にも大勢の人ががんばってくれた結果がこれだ。誰が一番だなんて別に考えなくてもいいだろ、みんなが喜んでくれているそれで十分じゃないか。」

「そうね、喜んでお金を払ってくれているわけだしね。」

「今日の飯はうまいぞ。」

「ふふ、そうね。」

裏に消えたエリザを見送った後、キキと交代してパックを売る。

あっという間に時間が過ぎ、気づけば夕方。

何とか在庫が切れる前に売りぬくことが出来た。

最後の客を見送り店を閉めて大きく息を吐く。

普通は売り切りたいものだが、今回ばかりは残ったことが素直にうれしい。

次の販売は二日後の予定だったがもう少し延ばさないと在庫を用意するのが難しそうだ。

「お疲れ様といいたいところだが後片付けが残っている。とはいえ今はゆっくりしてくれ、みんな良くがんばってくれた。」

「「「「お疲れ様でした。」」」」

みんな疲労の色は濃いが充実感のある顔をしている。

とりあえずここはみんなに任せて俺は冒険者や奥様方にお礼を言ってこよう。

「お供します。」

「休んでいていいんだぞ?」

「いえ、シロウ様だけ働かせるわけには行きませんので。」

疲れているはずのミラが当たり前のように俺の後ろをついてくる。

なんだかんだ一番動いていたのはミラじゃないだろうか。

売り場を担当すれば笑顔で客をさばき、裏方になれば忙しそうに在庫を運んだり現金を動かしたり。

メルディで対処出来なかった冒険者をあしらったのもミラだった気がする。

ほんとできた女だよ。

「なぁ。」

「なんでしょう。」

「俺と一緒に仕事をするのは大変じゃないか?」

「もちろん大変ではありますが、それよりも満足感のほうが大きいです。シロウ様と一緒にいることで私は知らない世界をたくさん知ることが出来ましたし、それはこれからも続くんだと思っています。違いますか?」

「いいや、違わないさ。」

「ではずっとお傍に。」

北風が俺たちの体温を奪っていく。

何も言わずにミラは俺の左腕に自分の右腕を絡め、少しだけこちらに体重をかけてきた。

服越しに感じる体温になんともいえない幸福感を感じる。

昔の俺ではこんなにも幸せな気分を感じることは無かっただろう。

心地いい疲労感と充実感、そして幸福感。

たくさんの感情が俺の心を満たしていく。

「ひとまず今日は無事に終わったがこの先はまだまだ分からない。1つ言い切れるのは間違いなく問題は起きるってことだ。大変だろうが引き続き宜しくな。」

「お任せください。」

「ミラが一緒で本当に良かったよ。」

「そういっていただけるだけで幸せです。」

「ちょっと、何いい雰囲気出してるのよ。」

なんだろう、映画の一番いいシーンで目の前の客が立ち上がったようなぶち壊し感は。

「・・・お前なぁ、遠慮って言葉を知らないのか?」

「これでもずいぶん待ったんだけど?」

「お疲れ様ですエリザ様。」

「冒険者のところに行くんでしょ、なら私が必要よね?」

「別に?」

「私も一緒でよかったって言うところでしょそこは。」

ミラをまねするように俺の右手に自分の左手を絡め、ガッツリ体重をかけてくるエリザ。

そういうところが残念なんだぞ、これだから脳筋は。

「頼りにしていますね、エリザ様。」

「まっかせなさい。」

「いっとくが全部終わるまで飯はないからな。」

「分かってるわよ、人を何だと思ってるのよ。」

「食いしん坊だろ。」「食いしん坊でしょうか。」

「ちょっと二人とも!」

寒空に笑い声が響く。

とにもかくにもパックの販売は大成功。

最高のスタートを切ったといえるだろう。

とはいえ、さっきも言ったように問題が起きるのは間違いない。

今後継続して販売していく中で考えもしなかったような問題が起きる。

絶対に。

それを含めても大成功だ。

さて、さっさとこっちの仕事を終わらせて今日の売上高を確認しに戻ろうじゃないか。

こうして待ちに待った商品は無事に多くの人に受け入れられたのだった。
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