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761.転売屋は青い花に埋もれる
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「アナタ、ジャニス様が来てくださいました。」
「お、来たか。」
「ネモフィラーナをたくさん持ってきてくださったそうです、これでパックの量産に一歩前進しましたね。」
「それはいい事なんだけど・・・ま、とりあえず今は現物を確認するか。北の倉庫に案内してくれ、俺もすぐ行く。」
「かしこまりました。ミミィちゃん、リーシャをお願いね。」
「いってらっしゃいませ!」
最近はリーシャもミミィにすっかり慣れ、一人の時間が出来たハーシェさんは俄然仕事に熱中するようになった。
今までなかなか手伝えなかった負い目があるのかもしれないが、こちらとしては心配になるぐらいだ。
とはいえ、働き手があるのは非常に助かる。
なので無理をしない程度に頑張ってもらっていう感じだな。
さて、俺もこの書類を片付けて倉庫へ向かうとしよう。
蒸留水の貯蓄も進み、原料も確保できたとなれば量産化は目前。
用紙を裁断する手筈も整っているので、あとは箱をどうするかだけだ。
それが一番大変なんだけどもとりあえず今は棚上げだな
出来る事からコツコツとってね。
キリの良い所まで仕事を終わらせ俺も倉庫へと移動する。
乗りつけられた大きな馬車の横でジャニスさんとハーシェさんが談笑していた。
「すまない、待たせたな。」
「これはシロウ様お久しぶりです。」
「ジャニスさんも元気そうでなによりだ。今日はネモフィラーナを持ってきてくれたんだって?さすがにこの馬車全部となれば大変だっただろう。」
「正直に申しまして骨が折れました。とはいえシロウ様の頼みとなれば頑張らない理由はございません、どうぞご確認ください。」
『そんなことないですよ~』と謙遜するぐらいなら正直に言ってもらう方が好感が持てる。
南方で比較的手に入り易い素材とはいえこの量だ、大変でないわけがない。
確認してくれとの事なので馬車の裏に回り、下に降ろされた木箱の蓋を開ける。
中にはまるで夏の空をぎゅっと詰めたかのような鮮やかな青色をした小さな花で埋め尽くされていた。
思わず感嘆の声が漏れてしまう。
しかし、これだけの花運ぶのに時間もかかるだろうによく枯れないものだなぁ。
「凄いな。」
「綺麗ですね。」
「詳しく聞かずに仕入れをさせて頂きましたが、これだけの花を一体何に使うのですか?」
「悪いがそれは秘密だ。一つ言えるのは俺の金儲けの道具って事だな。」
「なるほど、これがどう化けるのか楽しみにしています。」
「仕上がった暁には声を掛けさせてもらおう。南方はまだまだ知り合いが少ない、ジャニスさんに任せるのが一番効率的だろうからな。」
頼りにしている。
それが伝わるだけでも今後の取引に大きなプラスとなる。
今言えるのはこれぐらいだが、完成すれば何に使ったかわかるわけだしそれがわかればよりやる気も出るだろう。
花を一つ手に取りそっと鼻に近づける。
スッと抜ける爽やかな甘い香り。
結構好みだ。
『ネモフィラーナ。南方に生息する青い花で、大地を埋め尽くさんと咲く姿は地上の青空と例えられる。植物の中では珍しく生え変わるのではなく今の花が若返る事から不死の花とも呼ばれている。最近の平均取引価格は銅貨60枚。最安値銅貨30枚最高値銅貨75枚。最終取引日は三日前と記録されています。』
なるほど、若返りの効果はここからきているのか。
これがシワの改善につながると。
効果を聞いた瞬間の食いつき方半端なかったもんなぁ。
花が満載の木箱に両手をつっこみ、水を掬うように持ち上げる。
両脇からこぼれるように花弁がハラハラと落ちていく。
これ全てからどれだけの成分を抽出できるかはわからないが、それなりの数が作れないとなると量産は厳しいかもしれない。
「状態もいい、全部でいくらだ?」
「木箱一つで銀貨55枚。全部で8箱ございますので金貨4枚と銀貨40枚になります。」
「これが仕入れられる全量か?それともまだ在庫は潤滑にあるのか?」
「仕入れはもちろん可能ですが、まさかこれでは足りませんか?」
「可能性の話だ。これがすべてなのであれば向こうにもそれ相応の値段で買ってもらうが、そうでないのであれば多少は加減しないと干からびるからな。」
もちろんそんな事はありえない。
なんせ供給元は俺で自分で買って持ち込むだけだし、この値段なら十分に利益がでる。
南方にしか咲かないという事だったからもう少し値段が張るものだと思っていたが、これなら何とかなりそうだ。
「なるほど。」
「まだまだあるのならこちらも安心だ。とりあえず次回がいつになるかは追って連絡させてもらうが、これだけの量を集めるのに何日かかるか目安だけでも教えてもらえると助かる。」
「この量ですと買い付けに二日、輸送に四日となります。」
「多めに見て一週間って所か、了解した。」
それぐらいなら問題ない。
さすがに三種類同時並行で成分抽出することもないだろうから、一週間もあれば何とかなる・・・おや?
話しながら再び木箱に手を突っ込んだ時、鑑定スキルが不思議な結果を吐き出した。
『ネモフィラニウム。ネモフィラーナを模倣するようにして生息している花で、若返る事なく生え変わる。ネモフィラーナよりも花弁が一枚多いのが特徴だが見た目が似ている為良く間違われる。鮮やかな青色から染物などに利用されることが多い。最近の平均取引価格は銅貨20枚。最安値銅貨11枚最高値銅貨75枚最終取引日は三日前と記録されています。』
ネモフィラニウム?
そのまま手を引き抜くと、ネモフィラーナと同じ見た目の花が握られていた。
が、よく見ると確かに花弁が一枚多い。
こいつ自体は若返るわけではないさそうなので化粧品には使えないだろう。
あれ、もしかしてかなりの数あるのか?
よくよく木箱の中身を観察してみると花弁の枚数が違うものがちらほら見える。
あー、これはもしかするともしかするかもしれない。
「ハーシェさん、ミラを呼んできてくれ。もしいればキキも頼む。」
「どうされました?」
「ジャニスさん、大変申し訳ないがどうやら種類の違う花が紛れているようだ。」
「え!?」
「ネモフィラニウム、知ってるか?」
「聞いたことはありますが、もしやこの中に?」
「こいつがそのようだ。ネモフィラーナよりも一枚花弁が多いのが特徴らしいが、見ると結構な数が入っている。向こうにも確認を取ったんだよな?」
「い、一応は。」
ジャニスさんが騙されたのか、それとも向こうが間違ったのか。
とりあえず今回は大量注文だっただけ選別している時間がなかったと考えるが、騙されているのならば気を付けてもらうしかない。
急ぎ地面に茣蓙を引き、静かに木箱の中身をぶちまける。
しばらくしてハーシェさんがミラとキキを連れて戻ってきてくれた。
花弁の枚数で把握できるが鑑定スキルで確認した方が間違いはないだろう。
とはいえ木箱8箱分、これはなかなか手間がかかりそうだ。
ってな感じで調べてみたのだが、全部鑑定し終わる頃にはすっかりと日が暮れてしまった。
そして調べれば調べるほど信じられない状況が浮かび上がってくる。
「まさかこんなにも混在しているとは。」
「きっかり木箱四箱分、もしこれがわざとではないのならかなり大雑把な検品と言えますね。」
ネモフィラニウムの混入率はまさかの50%。
持ち込まれた木箱8箱のうち4箱分が本来とは違う素材だった。
ミラのいうようにこれがわざとでないのならば、かなり杜撰な検品体制といえるだろう。
俺達が欲しいのは青い花ではなくあくまでもネモフィラーナだ。
そしてそれを理解したうえでわざと混入させたのであれば、重大な取引違反という事になる。
さすがのジャニスさんも顔を真っ青にしてうなだれている。
故意であれ偶然であれ間違ったものを納品したのは間違いようのない事実。
信用取引が基本の商売で信用を失墜するようなことがあれば基本二度目はない。
俺の場合はかなりの上顧客という事になるので、こんな風になるのもいたしかないだろう。
「ジャニスさん。」
「こんなことになってしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
「最初のようにわかった上でやったのであれば問題だが、今回の件は知らなかったんだろう?」
「もちろんです!何故あの時しっかり確認しなかったのかと後悔しております。」
「急かしたのはこっちだしそういう理由であれば咎めることはない。とはいえ、予定通りの金額で買うわけにいかないのはわかってくれ。」
「もちろんわかっております。」
ネモフィラニウムの価格は本来の三分の一。
流石にそのまま買うってわけにもいかないよな。
パックの原料になるからこそ少し高めに買わせてもらうわけで、そうでもない物を買う必要はそもそもない。
なので今回は持ち帰ってもらおうと思うのだけども・・・。
「アナタ、これで手を。」
「あぁ悪い。」
話の合間を縫ってハーシェさんが白いハンカチを差し出してくれた。
手をぬぐうと仕分けしていた時に花弁をつぶしてしまったんだろう、鮮やかな青色がハンカチに移ってしまった。
そういえば偽物の方は染物に使われるとか書いてあったからその分だろう。
しかし鮮やかな青色だ。
「ちょっといくつか貰うぞ。」
一応一声かけてから偽物を一掴みして手の中でしっかりとつぶす。
思っている以上に水分がしみ出し、ポタリと掌に滴った。
それを先程のハンカチで吸い取り残りもしっかりと吸わせてみる。
ふむ、結構簡単に染まるのは絹地のおかげだろうか。
「どうしました?」
「いや、随分と色が移るなと思ったんだ。綺麗じゃないか?」
「本当ですね、とても綺麗な色。」
「ネモフィラニウムの鑑定結果に染色に使われると出ましたが、なるほど確かに鮮やかな青色です。」
ハーシェさんとミラが興味深そうに染まったハンカチを見つめる。
キキは・・・あれは何か考えている顔だな。
「グリーンキャタピラの糸って染めにつかえたよな?」
「はい。でもこの感じだとグリーンキャタピラよりもシルクモスの卵を使った方が良いと思います。」
「何が違うんだ?」
「グリーンキャタピラの糸は少し太いんですけど、シルクモスの卵から採った糸は細くしなやかなんです。この色だったら細い方が良く染まるなと考えまして。」
「良い考えだ。」
俺もキキも考えていることは同じようだ。
この色なら染め物としてもそれなりに人気が出るだろう。
なら、特別な素材を使った方がより付加価値をつけることが出来る。
なんならルティエとコラボしてもいいかもしれない。
宝石箱に鮮やかな青色のハンカチを敷いてみるとか。
ジャニスさんから買い付けたクイーンエメラルド、アレを使ってもいいよな。
青い空、エメラルドグリーンの海。
最高の組み合わせじゃないか。
あれ、これよくね?
「ジャニスさん、とりあえず先方には混入していた旨を伝えてくれ。その上で今後も両方買わせてもらおう。」
「え、両方ですか?」
「では急ぎシルクモスの在庫を調べます。キキ様、卵ですよね?」
「そうです、ギルドの方はお任せください。」
「では私は染手を探しましょう。この感じですと比較的簡単そうですけど、やっぱりなれた人にしてもらうのが一番ですから。」
最近は何も言わなくても俺が何をしたいか大体把握してしまうんだよなぁ、皆。
ジャニスさんだけがその流れについていけず、慌てているのが少し面白い。
「向こうがどう出るのであれネモフィラーナもネモフィラニウムも両方買わせてもらおう。ただし、後者は一箱銀貨20枚だ。」
「十分ですありがとうございます。」
「最初の差額は先方に事情を説明して返却してもらうといい、ごねるようなら俺の名前を出して貰ってもかまわない。」
「よろしいのですか?」
「もちろんジャニスさんが出荷先を明かしたくないというのならば話は別だが、俺は先方と直接取引するつもりはないから安心してくれ。」
「何故です?」
「俺はジャニスさんから買いたいんだ。」
西方の食材をモーリスさんからしか買わないように、間に入って尽力してくれる人にはしっかりとお金を落としたいと思っている。
もちろんぼったくってくるようなら話は別だが、誠意を見せれば向こうもそれなりに応えてくれる。
ぶっちゃけると間に入ってもらった方が仕事が楽っていうのもあるけどな。
「まったく、シロウ様は人を使うのがお上手だ。」
「気に障ったか?」
「とんでもありません。今回の不手際を挽回するべく今後はより一層頑張らせて頂きます。」
「期待している。」
確認不足が原因とはいえ、そのおかげで新しい素材も見つかったわけだし俺からしてみれば結果オーライだ。
加えてより一層頑張ってくれるわけだしな。
さて、新しい素材をどう料理してやろうか。
なによりカーラにまず報告しよう、材料にめどが立ったとなれば向こうも喜ぶだろうし。
とりあえずまた、一歩前進だ。
「お、来たか。」
「ネモフィラーナをたくさん持ってきてくださったそうです、これでパックの量産に一歩前進しましたね。」
「それはいい事なんだけど・・・ま、とりあえず今は現物を確認するか。北の倉庫に案内してくれ、俺もすぐ行く。」
「かしこまりました。ミミィちゃん、リーシャをお願いね。」
「いってらっしゃいませ!」
最近はリーシャもミミィにすっかり慣れ、一人の時間が出来たハーシェさんは俄然仕事に熱中するようになった。
今までなかなか手伝えなかった負い目があるのかもしれないが、こちらとしては心配になるぐらいだ。
とはいえ、働き手があるのは非常に助かる。
なので無理をしない程度に頑張ってもらっていう感じだな。
さて、俺もこの書類を片付けて倉庫へ向かうとしよう。
蒸留水の貯蓄も進み、原料も確保できたとなれば量産化は目前。
用紙を裁断する手筈も整っているので、あとは箱をどうするかだけだ。
それが一番大変なんだけどもとりあえず今は棚上げだな
出来る事からコツコツとってね。
キリの良い所まで仕事を終わらせ俺も倉庫へと移動する。
乗りつけられた大きな馬車の横でジャニスさんとハーシェさんが談笑していた。
「すまない、待たせたな。」
「これはシロウ様お久しぶりです。」
「ジャニスさんも元気そうでなによりだ。今日はネモフィラーナを持ってきてくれたんだって?さすがにこの馬車全部となれば大変だっただろう。」
「正直に申しまして骨が折れました。とはいえシロウ様の頼みとなれば頑張らない理由はございません、どうぞご確認ください。」
『そんなことないですよ~』と謙遜するぐらいなら正直に言ってもらう方が好感が持てる。
南方で比較的手に入り易い素材とはいえこの量だ、大変でないわけがない。
確認してくれとの事なので馬車の裏に回り、下に降ろされた木箱の蓋を開ける。
中にはまるで夏の空をぎゅっと詰めたかのような鮮やかな青色をした小さな花で埋め尽くされていた。
思わず感嘆の声が漏れてしまう。
しかし、これだけの花運ぶのに時間もかかるだろうによく枯れないものだなぁ。
「凄いな。」
「綺麗ですね。」
「詳しく聞かずに仕入れをさせて頂きましたが、これだけの花を一体何に使うのですか?」
「悪いがそれは秘密だ。一つ言えるのは俺の金儲けの道具って事だな。」
「なるほど、これがどう化けるのか楽しみにしています。」
「仕上がった暁には声を掛けさせてもらおう。南方はまだまだ知り合いが少ない、ジャニスさんに任せるのが一番効率的だろうからな。」
頼りにしている。
それが伝わるだけでも今後の取引に大きなプラスとなる。
今言えるのはこれぐらいだが、完成すれば何に使ったかわかるわけだしそれがわかればよりやる気も出るだろう。
花を一つ手に取りそっと鼻に近づける。
スッと抜ける爽やかな甘い香り。
結構好みだ。
『ネモフィラーナ。南方に生息する青い花で、大地を埋め尽くさんと咲く姿は地上の青空と例えられる。植物の中では珍しく生え変わるのではなく今の花が若返る事から不死の花とも呼ばれている。最近の平均取引価格は銅貨60枚。最安値銅貨30枚最高値銅貨75枚。最終取引日は三日前と記録されています。』
なるほど、若返りの効果はここからきているのか。
これがシワの改善につながると。
効果を聞いた瞬間の食いつき方半端なかったもんなぁ。
花が満載の木箱に両手をつっこみ、水を掬うように持ち上げる。
両脇からこぼれるように花弁がハラハラと落ちていく。
これ全てからどれだけの成分を抽出できるかはわからないが、それなりの数が作れないとなると量産は厳しいかもしれない。
「状態もいい、全部でいくらだ?」
「木箱一つで銀貨55枚。全部で8箱ございますので金貨4枚と銀貨40枚になります。」
「これが仕入れられる全量か?それともまだ在庫は潤滑にあるのか?」
「仕入れはもちろん可能ですが、まさかこれでは足りませんか?」
「可能性の話だ。これがすべてなのであれば向こうにもそれ相応の値段で買ってもらうが、そうでないのであれば多少は加減しないと干からびるからな。」
もちろんそんな事はありえない。
なんせ供給元は俺で自分で買って持ち込むだけだし、この値段なら十分に利益がでる。
南方にしか咲かないという事だったからもう少し値段が張るものだと思っていたが、これなら何とかなりそうだ。
「なるほど。」
「まだまだあるのならこちらも安心だ。とりあえず次回がいつになるかは追って連絡させてもらうが、これだけの量を集めるのに何日かかるか目安だけでも教えてもらえると助かる。」
「この量ですと買い付けに二日、輸送に四日となります。」
「多めに見て一週間って所か、了解した。」
それぐらいなら問題ない。
さすがに三種類同時並行で成分抽出することもないだろうから、一週間もあれば何とかなる・・・おや?
話しながら再び木箱に手を突っ込んだ時、鑑定スキルが不思議な結果を吐き出した。
『ネモフィラニウム。ネモフィラーナを模倣するようにして生息している花で、若返る事なく生え変わる。ネモフィラーナよりも花弁が一枚多いのが特徴だが見た目が似ている為良く間違われる。鮮やかな青色から染物などに利用されることが多い。最近の平均取引価格は銅貨20枚。最安値銅貨11枚最高値銅貨75枚最終取引日は三日前と記録されています。』
ネモフィラニウム?
そのまま手を引き抜くと、ネモフィラーナと同じ見た目の花が握られていた。
が、よく見ると確かに花弁が一枚多い。
こいつ自体は若返るわけではないさそうなので化粧品には使えないだろう。
あれ、もしかしてかなりの数あるのか?
よくよく木箱の中身を観察してみると花弁の枚数が違うものがちらほら見える。
あー、これはもしかするともしかするかもしれない。
「ハーシェさん、ミラを呼んできてくれ。もしいればキキも頼む。」
「どうされました?」
「ジャニスさん、大変申し訳ないがどうやら種類の違う花が紛れているようだ。」
「え!?」
「ネモフィラニウム、知ってるか?」
「聞いたことはありますが、もしやこの中に?」
「こいつがそのようだ。ネモフィラーナよりも一枚花弁が多いのが特徴らしいが、見ると結構な数が入っている。向こうにも確認を取ったんだよな?」
「い、一応は。」
ジャニスさんが騙されたのか、それとも向こうが間違ったのか。
とりあえず今回は大量注文だっただけ選別している時間がなかったと考えるが、騙されているのならば気を付けてもらうしかない。
急ぎ地面に茣蓙を引き、静かに木箱の中身をぶちまける。
しばらくしてハーシェさんがミラとキキを連れて戻ってきてくれた。
花弁の枚数で把握できるが鑑定スキルで確認した方が間違いはないだろう。
とはいえ木箱8箱分、これはなかなか手間がかかりそうだ。
ってな感じで調べてみたのだが、全部鑑定し終わる頃にはすっかりと日が暮れてしまった。
そして調べれば調べるほど信じられない状況が浮かび上がってくる。
「まさかこんなにも混在しているとは。」
「きっかり木箱四箱分、もしこれがわざとではないのならかなり大雑把な検品と言えますね。」
ネモフィラニウムの混入率はまさかの50%。
持ち込まれた木箱8箱のうち4箱分が本来とは違う素材だった。
ミラのいうようにこれがわざとでないのならば、かなり杜撰な検品体制といえるだろう。
俺達が欲しいのは青い花ではなくあくまでもネモフィラーナだ。
そしてそれを理解したうえでわざと混入させたのであれば、重大な取引違反という事になる。
さすがのジャニスさんも顔を真っ青にしてうなだれている。
故意であれ偶然であれ間違ったものを納品したのは間違いようのない事実。
信用取引が基本の商売で信用を失墜するようなことがあれば基本二度目はない。
俺の場合はかなりの上顧客という事になるので、こんな風になるのもいたしかないだろう。
「ジャニスさん。」
「こんなことになってしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
「最初のようにわかった上でやったのであれば問題だが、今回の件は知らなかったんだろう?」
「もちろんです!何故あの時しっかり確認しなかったのかと後悔しております。」
「急かしたのはこっちだしそういう理由であれば咎めることはない。とはいえ、予定通りの金額で買うわけにいかないのはわかってくれ。」
「もちろんわかっております。」
ネモフィラニウムの価格は本来の三分の一。
流石にそのまま買うってわけにもいかないよな。
パックの原料になるからこそ少し高めに買わせてもらうわけで、そうでもない物を買う必要はそもそもない。
なので今回は持ち帰ってもらおうと思うのだけども・・・。
「アナタ、これで手を。」
「あぁ悪い。」
話の合間を縫ってハーシェさんが白いハンカチを差し出してくれた。
手をぬぐうと仕分けしていた時に花弁をつぶしてしまったんだろう、鮮やかな青色がハンカチに移ってしまった。
そういえば偽物の方は染物に使われるとか書いてあったからその分だろう。
しかし鮮やかな青色だ。
「ちょっといくつか貰うぞ。」
一応一声かけてから偽物を一掴みして手の中でしっかりとつぶす。
思っている以上に水分がしみ出し、ポタリと掌に滴った。
それを先程のハンカチで吸い取り残りもしっかりと吸わせてみる。
ふむ、結構簡単に染まるのは絹地のおかげだろうか。
「どうしました?」
「いや、随分と色が移るなと思ったんだ。綺麗じゃないか?」
「本当ですね、とても綺麗な色。」
「ネモフィラニウムの鑑定結果に染色に使われると出ましたが、なるほど確かに鮮やかな青色です。」
ハーシェさんとミラが興味深そうに染まったハンカチを見つめる。
キキは・・・あれは何か考えている顔だな。
「グリーンキャタピラの糸って染めにつかえたよな?」
「はい。でもこの感じだとグリーンキャタピラよりもシルクモスの卵を使った方が良いと思います。」
「何が違うんだ?」
「グリーンキャタピラの糸は少し太いんですけど、シルクモスの卵から採った糸は細くしなやかなんです。この色だったら細い方が良く染まるなと考えまして。」
「良い考えだ。」
俺もキキも考えていることは同じようだ。
この色なら染め物としてもそれなりに人気が出るだろう。
なら、特別な素材を使った方がより付加価値をつけることが出来る。
なんならルティエとコラボしてもいいかもしれない。
宝石箱に鮮やかな青色のハンカチを敷いてみるとか。
ジャニスさんから買い付けたクイーンエメラルド、アレを使ってもいいよな。
青い空、エメラルドグリーンの海。
最高の組み合わせじゃないか。
あれ、これよくね?
「ジャニスさん、とりあえず先方には混入していた旨を伝えてくれ。その上で今後も両方買わせてもらおう。」
「え、両方ですか?」
「では急ぎシルクモスの在庫を調べます。キキ様、卵ですよね?」
「そうです、ギルドの方はお任せください。」
「では私は染手を探しましょう。この感じですと比較的簡単そうですけど、やっぱりなれた人にしてもらうのが一番ですから。」
最近は何も言わなくても俺が何をしたいか大体把握してしまうんだよなぁ、皆。
ジャニスさんだけがその流れについていけず、慌てているのが少し面白い。
「向こうがどう出るのであれネモフィラーナもネモフィラニウムも両方買わせてもらおう。ただし、後者は一箱銀貨20枚だ。」
「十分ですありがとうございます。」
「最初の差額は先方に事情を説明して返却してもらうといい、ごねるようなら俺の名前を出して貰ってもかまわない。」
「よろしいのですか?」
「もちろんジャニスさんが出荷先を明かしたくないというのならば話は別だが、俺は先方と直接取引するつもりはないから安心してくれ。」
「何故です?」
「俺はジャニスさんから買いたいんだ。」
西方の食材をモーリスさんからしか買わないように、間に入って尽力してくれる人にはしっかりとお金を落としたいと思っている。
もちろんぼったくってくるようなら話は別だが、誠意を見せれば向こうもそれなりに応えてくれる。
ぶっちゃけると間に入ってもらった方が仕事が楽っていうのもあるけどな。
「まったく、シロウ様は人を使うのがお上手だ。」
「気に障ったか?」
「とんでもありません。今回の不手際を挽回するべく今後はより一層頑張らせて頂きます。」
「期待している。」
確認不足が原因とはいえ、そのおかげで新しい素材も見つかったわけだし俺からしてみれば結果オーライだ。
加えてより一層頑張ってくれるわけだしな。
さて、新しい素材をどう料理してやろうか。
なによりカーラにまず報告しよう、材料にめどが立ったとなれば向こうも喜ぶだろうし。
とりあえずまた、一歩前進だ。
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※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
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