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757.転売屋は再び遡上に遭遇する

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「うーーさぶ。」

「どうぞ、香茶です。」

「すまん助かる。」

「今足湯を作っていますのでもう少しだけ待って下さい。」

背中に毛布を羽織り、手には暖かな香り茶。

しばらくしてお湯の入ったたらいが運ばれてきた。

焚火に手をかざしながら足を入れてやっと一息をつく。

いつもなら秋晴れが続くはずなのだが、生憎と今日は曇りがち。

さらには風が強いこともあって濡れている部分の温度が一気に奪われてしまう。

しばらくは体温を上げることに集中して、ある程度回復したら再び地獄に向かうとしよう。

今日は久方ぶりのキャンプ、という名の原石採集。

時期的に今日が最後になるだろうから回収できるだけ回収しておきたいのだが、天候のせいか中々体温が回復せず前ほど回収が出来ていない。

そういえばこの前の秋は大雨の後だったから大量の原石があったんだっけか。

ゾイルの話ではそろそろ遡上もあるということでそっちも狙いながらのキャンプだったのだが、生憎とそっちも空振りに終わるかもしれない。

世の中中々上手くいかないものだ。

それもこれも全てポーラ様の所で大量のごみ・・・じゃなかった素材を押し付けられたのがケチのつき始め。

保身のために致し方なく買い付けた素材が今も倉庫に積みあがっている。

せっかく倉庫を綺麗にしたというのに。

『チェリーウッドの破片。鮮やかなピンク色の花をつけるチェリーウッドの木は資材としても人気が高く、燃やすと甘いいい香りがする。また、栄養価が高いため粉末にして畑にまくこともある。最近の日金取引価格は銅貨65枚。最安値銅貨40枚最高値銅貨89枚最終取引日は二日前と記録されています。』

最悪畑にまけばいいかと思い銀貨50枚で買い付けたのだが、いざ畑に持って行ってみるとルフとレイが臭いに耐えられずプシュプシュとくしゃみを連発。

仕方ないから外の畑にまきに行くと、ココとカニバフラワーが文句を言ってきた

俺の勘だが魔物にはあまりうれしくない臭いのようだ。

ってことで買い付けたものの使い道がなく倉庫に放置されてる。

俺の資産からすれば銀貨50枚なんてのは微々たるものだが、それでも自分で買い付けたのではなく言われるがまま買い付けた、というか押し付けられた品だけに悔しさがやばい。

駄目だ、ネガティブな思考が強くなっている。

こういう時は・・・。

「元気になりますか?」

「なる。」

「ならお好きなだけどうぞ。」

近くに来たミラを抱き寄せ、体温を感じつつ胸を揉む。

揉むったら揉む。

あまりやると本気になってしまうので、吐息が怪しくなる前に手を放し大きく息を吐いた。

「よし、行ってくる。」

「行ってらっしゃいませ。」

気合を入れなおし再び川へ。

命綱をしっかりと身に着け、水の中へと足を進める。

刺すような水の冷たさにさっきの気合もどこへやら、早くもやめたくなってしまう気持ちをぐっと押し込んで水の中へと飛び込んだ。

流されないようにしっかりと水をかいて前に進んでいく。

一番流れの急な場所を狙って深く潜り、手に持っていたスコップを底に突き刺す。

流されながらぐりぐりとそこをほじくり、そのまま腰にぶら下げた網の中へ一気に入れる。

それを二回ほどしたところでもう息が苦しくなってしまった。

まだいけるはもう無理。

それを心掛け早めに水面へとそこを蹴った。

水から顔を出して酸素を取り込んだ所で命綱が一気に引っ張られた。

腹に食い込み思わず息を吐いてしまう。

慌てて呼吸をして引っ張られるままゆっくりと河原へ。

「だー、寒い!」

「お疲れ様。」

「エリザか、そっちはどうだ?」

「普通の魚ばかりね、でも今晩の分ぐらいは確保できたわよ。」

「サモーンは見当たらずか。」

「今回はハズレみたいね、あきらめましょ。」

原石が回収できただけでも良しとするしかないなぁ。

エリザの手を取り重たい体を持ち上げ再び拠点へと戻る。

流石にこの次は無理そうだ。

「おかえりなさいませ、エリザ様釣果はいかがですか?」

「今晩の分は確保したから後で取りに行きましょ。これ、上で見つけた原石ね。」

「わ、こんなにたくさん。」

「俺のより多いんじゃないか?」

「増水したときに河原に流れ着いたんでしょうね、ラッキーだったわ。」

「そんな事ならわざわざ冷たい水に潜らなくてもよかったんじゃ・・・。」

「腐らないの。ほら、着替えさせてあげるから早く脱ぎなさい。」

ぐぬぬ、子ども扱いしやがって。

上半身裸になり、エリザに背中を拭いてもらっていたその時だった。

「お姉ちゃん!来たよ!」

「サモーン!?」

「下から登ってくる、急いで!」

エリザと共に上流で釣りをしていたキキが慌てた様子で戻ってきた。

どうやら不幸はここまでのようだ。

慌てて濡れた服を着直して皆と共に川辺へと急ぐ。

そこには、昨秋程ではないものの一目でサモーンとわかる魚群が下流から上流へと遡上していた。

「ちょっと少ないけど、間違いないわね。」

「あぁ、入れ食いってわけにはいかなさそうだが何とか目的は達成できそうだ。」

「すぐに誘導します。」

「排水路に網を張って逃げられないようにしたらいい、今回は出来るだけ生け捕りにするぞ。」

「「「はい!」」」

昨年はあまりの大群に慌てて何匹も釣り上げてしまい処理に困った。

そこで今回は事前に広い河原に大穴を開け、そこを生け簀にしてギリギリまで生かして置くことにしたんだ。

事前に水を入れて置き、しっかり排水用の水路も掘ってある。

こういう時土の魔道具があると便利だよなぁ。

この前の襲撃の時に確保しておいてよかった。

川岸ギリギリにまで伸ばした水路の端を魔道具で壊すと同時に大量の水が流れ込んでくる。

その少し上流に飛び込み、サモーンを水路に誘導。

別に全部捕まえる必要はない、可能な限り確保できればそれでいい。

一時間ほどで巨大な生け簀はいっぱいになり、大量のサモーンを確保することができた。

どうなる事かと思ったが、何とか目的は達成できそうだ。

「お疲れさん、みんなよく頑張ってくれた。」

「今日はサモーン尽くしね!」

「約束通り酢飯も作った、好きに食べていいぞ。」

「やった!」

「今回も卵の醤油漬けを作られますか?」

「あぁ、モーリスさんにも頼まれているしな。好きだろ、イクラ丼。」

「あのプチプチした食感がたまりませんよね。」

着替えを済ませ、ささやかながら祝杯を挙げる。

早くも女たちの頭の中はいくらと寿司でいっぱいのようだ。

昨年作った新巻サモーンは好評だったし、日持ちしたから随分と楽しめた。

今回もかなりの量を仕込むことができるだろう。

塩もしっかり仕入れてあるし無くなる心配はないと思うが、正直それだけってのももったいないよなぁ。

エリザは満足そうに手巻き寿司を頬張り、ミラとハーシェさんは刺身に舌鼓をうっている。

二人ともわさびを大変気に入ったようだ。

逆にエリザは辛すぎてパス。

屋敷に戻った時に無茶苦茶文句を言われたものだが、これで不満は解消できただろう。

「結局何匹ぐらい捕まえたんだ?」

「数えられるだけで100はいたかと。」

「生け簀に入れるときに数えたんですけど、わからなくなっちゃって。」

「いいじゃない、仕込むときに数えたら。」

「とはいえ全部塩で仕込むのもなぁ、飽きないか?」

「ではどうします?」

自分で話を振っておいてどうするかを考えていなかった。

保存食といえば基本塩漬け。

もしくは乾燥か。

後は砂糖漬けや酢漬けもあるが、長期保存を考えると上記の二つだろう。

鮭とばがあるぐらいだから干物にするのは全然ありだ。

だが生をそのまま乾燥させるには時期的にまだちょっと早い。

冬であれば寒さもあって雑菌の繁殖を抑えられるので干物にしやすいんだけどなぁ。

となるとやはり塩漬け。

もしくは・・・。

「燻製にするか。」

「え、これもできるの?」

「一度塩水につけないといけないが、その後燻製してしまえば比較的長持ちする。塩分も多少は抑えられるし、何より味が変わる。ちょうどいいものがあるじゃないか。」

まさかこんなところで使い道を思いつくとは。

燻製と言えば煙で燻す保存食だが、何を燃やすかで味や香りを変えられる楽しみの多い保存食でもある。

友人が一時期は待っていて、卵やハムなんかをよく食べさせてもらった。

その時燃やしていたのが桜チップ。

独特の香りが特徴的だが、それと似たようなやつが倉庫にあるじゃないか。

チェリーウッドと言えば春に見た桜みたいな木の仲間だろう。もしかするともしかするかもしれない。

「塩漬け以外の保存方法があれば長い事楽しめますね。」

「あぁ、モーリスさんも喜ぶし何よりサモーンは高級魚。金になること間違いない。」

「余ったらまた焼いてしまえばいいしね。」

「ちゃんちゃん焼きでしたっけ、あれ好きです。」

「私はやっぱりおにぎりかなぁ。」

「ふふ、皆さん食べ過ぎないでくださいね。」

ハーシェさんの言う通りだ。

食べ過ぎて保存する分がなくなっては意味がない。

とはいえ、全部加工するのは難しいので必然的にそうなるだろうけど。

「とんだ不良在庫をつかまされたと思ったが、まさかこんなところで使い道ができるとは。もしかするとあれが始まりになるのかもな。」

「何が?」

「なんでもない。」

ケチのつき始めとか行ってしまって申し訳なかった。

そう心の中でポーラさんにお詫びしつつサモーンをどう食べるか話しながらキャンプの夜は更けていくのだった。
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