転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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753.転売屋は画家と再会する

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秋も深まりだんだん日が落ちるのが早くなってきた。

あと一か月もすれば冬がやってくる。

それまでにやってしまわないといけないものは山積みなのは、まぁいつものことだろう。

忙しいのはいいことだ。

忙しいということはつまり金になるという事。

とはいえ、無理をして倒れたら余計に大変なことになってしまうのである程度はセーブしなければならない。

書類仕事に区切りをつけて、椅子に座ったまま大きく伸びをする。

早く椅子が仕上がるといいんだが。

ギシギシと音がするたび不安になってしまう。

ふと、目線を壁に向けるとそこにかかっているのはカニバフラワーの絵。

そこから少し離れた窓際にはこの前買い付けた空の絵が飾ってある。

マイシャという画家の絵は屋敷の皆にも人気があり、屋敷に招待した後持ってきていた絵をすべて買い上げてやった。

目を真ん丸にして驚き、そして何度もお礼を言いながら帰っていったのを覚えている。

元気にしているだろうか。

フェルさんの絵と比べると素人の俺でも全然違うということがわかるが、それでも素朴なその絵は気分を落ち着かせてくれる、ような気がする。

知らんけど。

「失礼します。」

「ん?その声は・・・どっちだ?」

「セラフィムです、お客様が参られましたお通ししてもよろしいでしょうか。」

わざわざセラフィムさんが案内をする客?

基本はグレイスが相手をして一定以上の客はミラが対応するようになっているのだが、それを超えてわざわざ連れてくる客なんていただろうか。

あのアナスタシア様でさえミラが担当するのに。

「入ってくれ。」

「失礼します。」

セラフィムさんが扉を開け、遅れて入ってきたのはまさかの人物だった。

なるほど、王家つながりか。

「やぁ、久しぶりだね。」

「フェルさん久しぶりだな、お元気そうで何よりだ。」

部屋に入ってきたのは俺の大切な友人、宮廷画家のフェル=ジャン=メールその人だ。

部屋に飾られているカニバフラワーを描いたのもまさにこの人。

しかし王都に缶詰になっているはずの人がこんな辺鄙な所までどうしたんだろうか。

「まずは名誉男爵おめでとう、君ならすぐに貴族になると思っていたよ。」

「別に貴族になりたくて頑張っていたわけじゃないんだが、まぁそのおかげでいろいろと仕事もしやすくなったしプラスも多い。とはいえ、素直にお礼を言わせてもらおう。それで今日はどうしたんだ?随分と遠かっただろ。」

「ドレイク船長からガレイ船長を紹介してもらってね、随分と楽をさせてもらったよ。ここに来たのは足りなくなった画材を買い付けに来たのさ。」

「イザベラを通せばいくらでも融通したのに。」

「やっぱり自分の目で顔料を確認したいじゃないか。」

まぁそういう事ならば断る理由もない。

他にもアレコレ理由があるからこそ直接来たんだろうし、その辺を詮索するのは野暮ってもんだ。

「それじゃあ倉庫に案内しよう。いや、休憩してからの方がいいか?」

「そうだね、折角だからエリザさんの作ったお菓子なんかをいただきながら・・・おや?」

ふと窓辺の方に視線を動かしたフェルさんの動きが止まる。

その先にあったのは例の絵。

流石画家、気づくのが早いな。

「なかなか悪くない絵だね、これはどこで?」

「この前芸術市かなんかが来ていてな、その時に買い付けたんだ。名前は確か・・・マイシャだったか。」

「まだ無名の画家みたいだね、でも線は悪くない。それにこの描き方、迷いのない気持ちのいい絵に仕上がっている。」

「フェルさんが見てもそう感じるのか。」

「僕だって絵を見るのは好きだよ、自分の絵を見るよりもよっぽど好きだ。」

なるほどなぁ。

画家もまた観者というわけか。

ま、それもそうだな。

「因みにその画家、フェルさんのその絵を見て倒れたんだぞ。」

「え、倒れたのかい?」

「フェルさんのファンらしくてな、どこかでこの絵の事を知ったらしく是非見せてほしいって言われたんだ。で、見せたら感動しすぎて卒倒した。」

「絵を見て泣かれたことは何度もあるけど、流石に倒れられたのは初めてだよ。」

「それだけいい絵だってことだ、俺は好きだぞ。」

「光栄だよ。」

褒められ慣れているフェルさんが照れているのはなかなかに面白い。

セラフィムさんにお願いして香茶とエリザのお菓子を部屋に運んでもらい、王都の話なんかを聞かせてもらう。

今王都では芋ブームが来ているらしい。

小麦が不作なのでそのかわりにトポテが流行りだし、さらにスイートトポテにもそれが波及しているのだとか。

向こうではあまり疫病ははやらなかったんだろう。

そうでないと今頃飢饉になっているはずだ。

焼き芋を売りに出せば儲かるかもしれないとか考えてしまったが、よくよく考えれば薄利すぎて屋台を輸送するだけで大赤字になりそうだ。

現地でやるならともかくここから何かをしようとするとやっぱり無理があるなぁ。

「しかし、セラフィムさんがシロウさんの奴隷になるとは思いもしなかった。今度二人そろって絵をかかせてもらえると嬉しいんだけど。」

「それに関してはお断りさせていただきます。形に残るのは好きではありません。」

「そうか、なら仕方ないね。」

「代わりに新しいカニバフラワーなど見に行かれてはどうですか?」

「新しい?」

「あぁ、代替わりしたんだ。というか生まれ変わりか?ともかく背は小さくなったな。」

「ふむ、それはぜひ見てみたい。」

小腹も満たされたところだし散歩がてら街をうろうろすることに。

特に変わった所はないのだが、新しく畑にやってきたコッコやアグリ一家を紹介させてもらった。

最後にカニバフラワーの所に案内すると、向こうもフェルさんを覚えていたのか『カカカカ』と歯を鳴らして歓迎?してくれたようだ。

小さくなっても鮮血のような赤色に変わりはない。

フェルさんもそれがうれしかったのか、手に持っていたスケッチブックに彼らの姿を描き写していく。

有名画家の素描を間近で見られるとかファンが知ったらどう思うだろうか。

怖いので自慢するのはやめておこう。

満足したところで裏口から倉庫へと向かう。

「今回は何を探しているんだ?」

「コレってものではないんだけど、各色減ってきたからまとめて仕入れるつもりさ。」

「もちろんお金は持ってきたんだよな?」

「あはは、そんなこともあったねぇ。」

「まぁ、何かあっても請求先は決まっているから俺は別に構わないぞ。」

「流石に彼女に迷惑はかけられないよ。」

「マリーさんはいいのか?」

「彼はいいのさ。」

フェルさんの中ではマリーさんでありロバート王子でもある。

気の置ける相手だからこそそういう冗談も言えるんだろう。

ひとまず言われるがまま顔料の元となる素材を倉庫の中から引っ張り出すことに。

この前掃除しておいたおかげで非常にスムーズに探すことが出来た。

前の状況だったらどうなっていたことか。

危ない危ない。

「フォレストリザードの胆石にロックゴーレムの核、スカイビーンズの種なんかも画材になるのか。面白いなぁ。」

「見た目は思っていた色と違っても加工していくうちに本来の色が出て来るんだよ。あぁ、サニーキャットのしっぽまであったんだ、ありがたい。」

「なるほどなぁ。メルディ、そっちはどうだ?」

「ありました!クリソプレーズです!」

「あるもんだねぇ。」

「そりゃなんでもあるのがダンジョンだからな。持って降りてきてくれ。」

「はい!」

『クリソプレーズ。緑色をした宝石で王髄とも呼ばれる。魔加工することにより森の加護を得る。最近の平均取引価格は銀貨29枚。最安値銀貨20枚最高値銀貨37枚最終取引日は11日前と記録されています。』

緑と言ってもどっちかっていうと翡翠とかの鮮やかな緑に近い。

深い緑のモルバタイトとはまた違う色合いだな。

「うん、間違いない。いい色だ。」

「綺麗ですねぇ。」

「気に入ってもらって何よりだ。メルディ、これをもって先に屋敷に戻ってくれ。ミラに言えば代金を計算してもらえるから。」

「わかりました!」

かき集めた素材を一つの木箱にまとめ、軽々と持って倉庫を出るメルディ。

ロックゴーレムの核って見た目の割に無茶苦茶重たいはずなんだが、流石だな。

満足そうなフェルさんなんだが、先ほどからどうも様子がおかしい。

上の空というかなんというか。

「どうした、何が気になるんだ?」

「何のことだい?」

「カニバフラワーを描いている時はそうでもなかったが、終始上の空だっただろう。そんなにあの絵が気になったか?」

「君に見破られるなんて僕もまだまだだなぁ。」

「見破る以前にわかりやすすぎる。俺からしてみればフェルさんの絵の方がずっと上手いと思うんだが?」

「違うんだよ。僕の絵とあの絵には根本的に違いがある。」

とても悔しそうな顔でそう言い切るフェルさん。

俺にはわからない何かがあるんだろう。

確かに彼の絵には惹かれるものがあった、もしかしたらそれがフェルさんにはわかるのかもしれない。

こういう時どう声をかければいいのだろうか。

下手に褒めても逆効果だろうし、本人の中で収まるのを待つしかないんだろうなぁ。

時間にして3分もたっていないだろうか。

少しだけ表情の戻ったフェルさんが無理やり笑顔を向けてくる。

「落ち着いたか?」

「悪かったね、変な気づかいさせてしまって。」

「それは構わないさ。」

「僕にもあんな素直な絵を描く時期があったなって、思ったんだよ。」

「素直な絵?」

「誰かに依頼されるわけでもなく、自分の思うままに自分の好きな絵を描くのさ。」

「今でもできるんじゃないのか?」

「出来る、と言いたいけど難しいだろうね。どうしても客の顔が頭に浮かぶんだ、あの人はこういうタッチが好きだとか、こういう描き方をしたら喜んでくれるだろう、とかね。」

なるほど、ある種の職業病的な奴か。

純粋に楽しめないというやつだ。

ゲームを作っていた友人が言っていたっけ、作れば作るほど何も考えずに楽しむことができなくなったって。

荒さがしをしたり、いい点を見つけて悔しくなったり。

ともかく『楽しむ』事ができないらしい。

でもそれは本人の問題であって周りがどうにかできるものじゃない。

「純粋に楽しめないのか。」

「そういう事。それこそ、あの絵を描いた時ぐらいじゃないかな自分の好きな絵を描いたのは。」

「カニバフラワーか。」

「あれは楽しかった。」

確かにあの絵を描いている姿は中々楽しげだった。

なんていうんだろうか、筆が躍る?

ともかく思いのまま描いていたって感じだ。

「ってことはだ、まだそういう絵が描けるってことだろ?」

「そうかもしれないけどそういう題材には中々出会えないものさ。仕事柄一度でも見た物にはあまり感動できないんだ。」

「ふむ、じゃあ見たことないものなら感動できると?」

「そういうものがあればだけど。」

あきらめたような顔が倉庫の中にまで差し込んできた夕日に染まる。

フェルさんが見たことのない物か。

ダンジョンの中にはたくさんあるんだろうけど・・・。

いや、外にもある。

俺はこれを見て感動したんだ。

もちろん見たことあるかもしれないが、あの景色はここでしか見れない。

それを是非彼にも見てほしい。

「ついてきてくれ。」

そう思った俺はフェルさんと共に倉庫の奥に進んでいった。

二階へ上がり、外階段へと移動して屋上へと出る。

「これは・・・。」

「俺がこの街で一番好きな景色だ。特にこの時間の空は他所では中々お目にかかれないものだと思っている。どうだ、少しは感動できるか?」

「どこを見てもオレンジ色に染まっている。」

草原のど真ん中に立つダンジョン街、さらに一番高い場所から見る景色はこの国の中でもここでしか見れないと思っている。

360度全てがオレンジ色に染まる瞬間。

そしてオレンジ色が藍色に変わる時間が俺は好きだ。

「季節によってこのオレンジ色が違うんだ、それこそ顔料を変えないと出せないぐらいに。」

「それはぜひ見てみたいね。でも、今はこの色を覚えさせてほしい。すごい、世の中にはまだまだこんなに綺麗な景色があったのか。」

「満足したら呼んでくれ、顔料の追加注文も大歓迎だ。」

返事を聞かずに俺は下に降りた。

あの日見たのと同じ顔をしている人に声をかけるなんて野暮ってもんだろう?

ほら、まだまだ純粋に楽しめる事があるじゃないか。

それがわかっただけでも大儲け。

因みに俺も追加の顔料を買ってもらって大儲けだったとさ。
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