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746.転売屋は速乾タオルを発見する

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「いらっしゃい。」

「いやー、今日も大量ですよ!」

「そりゃなによりだ。」

「あいつらが運を連れてきてくれたんですかね。」

「もしそうだとしても二度と来てもらいたくないな、俺は。後始末が大変だった。」

「あー、確かに。」

襲撃から一週間。

捕縛した連中は連絡した聖騎士団によって連行されていった。

歩ける者は半分ほど、残りはポーションをつかっても回復せず色々な部分を欠損してしまったそうだ。

もちろんそれに対しては何も思わない。

そもそも自業自得だし命があっただけマシと思ってほしい。

冒険者と戦わせたら間違いなく全員殺されているだろう。

魔物と戦う冒険者は戦いのプロといってもいい、知能の高い人間を相手にしたとしても結果は同じだ。

冒険者をなめるなよ。

でだ。

彼らが去った後、何故かダンジョン内に魔物が増えたんだ。

それも珍しい魔物がひょっこり顔を出す感じで。

その報告を聞くやいなや冒険者は戦いの後だというのにダンジョンへと殺到。

そして今日を迎えるまで新しいお祭り状態だ。

「とりあえず出すもの出せ、忙しいんだから。」

「了解でーす。」

ドサドサと大量の素材がカウンターの上に載せられていく。

今回は・・・なんだこれ。

「布?」

「いや、これでも皮・・・のはずです。」

「はずって。」

「だって剥ぎ取りましたし、布っぽいけど。」

とりあえず鑑定してみるか。

『ドライテーラの皮。テーラは触れるものの水分を奪う珍しい魔物で、特にドライ種はくるまれるとものの数分で体中の水分を持っていかれるほど危険。普段は水辺や水分の多い土の中に隠れているのだが、地殻変動などが起きると驚いて出てくることがある。最近の平均取引価格は銀貨12枚。最安値銀貨8枚最高値銀貨20枚最終取引日は31日前と記録されています。』

テーラ、しらんなぁ。

話を聞くと長い布のようにひらひらと浮遊していたらしい。
 
一反木綿かよ。

水分を奪うとのことなので試しに水をかけてみるとあっという間に吸い込まれてしまった。

触ってもぬれている感じはない。

さすがに殺された後は体を干からびさせるようなことはないようだ。

しかし面白い。

見た目は布。

さわり心地も布。

なんだろう、すごいふわふわしている。

どこかで触ったことがあるんだが・・・。

「美容院だ。」

「え?」

「なんでもない、こっちの話だ。こいつは結構いたのか?」

「いましたねぇ、そこらじゅうフワフワ浮きまくってました。でも襲ってくる感じはなかったんですよねぇ。」

「襲ってこない?ますますわからん。」

「ちなみに高いですか?」

「んー、とりあえずこいつは銀貨3枚で買おう。」

「え!そんなにするんですか!?」

「見た感じ剥ぎ取りもきれいだし何かに使えるかもしれない。ほかの連中にも声をかけておいてくれ。」

「わかりました!」

この吸水力、それにこのさわり心地。

もしかするともしかするかもしれない。

「で、これをどうするの?」

「見た感じタオルとあまり変わりませんが。いえ、さわり心地はいいですね。」

「本当です。ふわふわでいつまでも触っていたくなります。」

「ちなみにドライテーラはこの触り心地で相手の抵抗を弱め、その間に水分を奪い尽くします。」

「え、そんなに怖い魔物なんですか!?」

「とはいえこれはただの皮。そこまでの能力はないはずです。」

冒険者から買い取ったその日のうちに山のような皮が持ち込まれた。

白い山はさながらクリーニング待ちのタオルのよう。

実際の触り心地は普段使っている物が安物に思えてしまうぐらいだ。

「キキの言うように吸水性能はそこまでないが、でもこんな感じで・・・。」

テーブルの上にわざと水をこぼし、その上に皮を置くとあっという間に吸い取ってしまった。

皮をどければテーブルにはまったく水気は残されていない。

「すごい。」

「耐久性はあまりよくない上に値段はそれなりにする。だから手拭きには使えないだろうが、水を扱う場所では喜ばれるだろう。」

「何度も手を洗う仕事ではすぐにタオルがしけってしまいます、調理場などでは喜ばれるかもしれませんね。」

「でも高いんでしょ?」

「この短さで使うなら銀貨1枚ってところか。」

「やっぱり高いわね。」

「普通の布は銅貨10枚ほどですから、それなら10枚買って取り替えます。」

まぁ普通はそうだよな。

いかに便利とはいえ値段は高くもちが悪いとなればなかなか売れないだろう。

だが、俺は別の用途で考えている。

「ただいま戻りました。」

「お帰りなさいハーシェさん。」

「悪いな、いきなり風呂に入れなんていって。」

「いえ、大丈夫です。言われたとおり髪は濡らしたままです。」

部屋に入ってきたハーシェさんの髪は多少絞ってあるとはいえびしょびしょ。

床にはポタポタとしずくが落ちている。

髪の長い人の欠点はこれなんだよなぁ。

ドライヤーとかあればまだ乾くのも早いのだが、あいにくとこの世界にそんな便利なものはない。

なので何枚も布を使って水気を取らなければならない。

それがなかなかに重労働。

それを嫌って髪の毛を短くする冒険者も多いのだとか。

「早速だがこれを使ってもらえるか?拭くというよりも巻くような感じで。」

「わ、すごいふわふわですね。えっと、こうでしょうか。」

ミラに手伝ってもらいながらハーシェさんの髪が頭の上に巻かれていく。

見た目は巻貝のような感じ。

なるほど、こうやって邪魔にならないようにするんだなぁ。

巻き終わるまでに約60秒。

「できました。」

「ふむ、とりあえず後100数えるから待ってくれ。」

追加で後100秒。

それから巻貝をはずしてもらうと・・・。

「わ、もう乾いています!」

「ホントだ、さらさら!」

「ここまで約三分。この短時間でこの髪の量が乾くのはなかなかに魅力的だろう。ちなみに銀貨5枚だ。」

「買います!」

「なるほど、時間をお金で買うわけですね。」

「貴族には長いほうを銀貨10枚で、短いほうは銀貨5枚で一般に流す。ただの手拭きじゃなくて吸水速乾性の高いタオルとして付加価値をつけてやれば多少高くても売れると思ったんだが、ハーシェさんの反応を見る限り間違いなさそうだな。」

たかが髪の毛を乾かす布と侮るなかれ。

元の世界ではこれが色々な形で売られていたのを覚えている。

どれも髪の毛を乾かすという隠れた重労働からの開放を謳っていた。

実際美容院でも時短のために使われている。

つまりは一般家庭だけでなく娼館なんかでも売れるということだ。

そしてこれがあることで髪の毛を伸ばそうと思う冒険者も増えるかもしれない。

そうなれば、髪留めなどのアクセサリーが売れる。

需要が増えれば増えるほど、めぐりめぐって俺の収入が増えるというわけだ。

最高だな。

「でも、ドライテーラって中々出てこないでしょ?今回はたまたま大量発生したけど、理由はわかってないし。継続して売るのは難しくない?」

「もちろんそれを踏まえての値段設定だ。継続して売れればありがたいが、珍しい魔物だからこそ一気に買い漁って少量ずつ売るに限る。もちろん継続して捕まえるための努力もするつもりではある。本来隠れていたやつらが何で出てきたかは不明だが、出現場所が決まっていることからその付近に隠れているのは間違いないだろう。そこで・・・。」

「ベッキーさんとミケさんに地面の中を探ってもらうというわけですね。」

「そのとおり。あいつらなら地面の中も大丈夫だし、何よりつかまっても干からびる心配がない。だって体はないし何より死んでるし。」

「幽霊って便利ねえ。」

俺もそう思う。

ダンジョンにはまだドライテーラとその仲間がフヨフヨしているそうなので片っ端から持ってくるように依頼を出しておいた。

最上級はドライテーラだが、ほかのテーラの皮でも吸水性があるのは確認してある。

種類に応じて値段を変えるなどして対応すれば比較的長期間売れるんじゃないだろうか。

当分倉庫は布でいっぱい。

いや、皮か。

「これのいいところはブレラの所で皮の処理をしなくていいところだ。一度洗って血を流せばすぐに乾いてこの仕上がり。耐久テストはある程度必要だが、初見の魔物じゃないしある程度のデータは残っているはず。そうだよな、キキ。」

「はい。珍しい魔物ではありますが過去に何度も取引されています。髪の毛を乾かす程度の使用方法なら一ヶ月は持つんじゃないでしょうか。」

「つまり年間24回は交換するであろう消耗品。それが銀貨5枚で売れるんだぞ、最高じゃないか。しかも家庭ではなく個人単位でだ。」

「この街だけでもかなりの利益になりますね。輸出できれば更にと言いたいところですが、さすがに難しいでしょう。」

「代用品があれば別だがな。」

「そんなのがいたらキキがもう答えてるわよ。」

それをしないということは、この能力を有する魔物はほかにいないということ。

もちろんキキが知らないだけで他にもいるのかもしれないが、そんなのはもっと珍しいはずなので量産できるはずがない。

「どれだけ集まるかはわからないが、ある程度数が集まって魔物の出現数が減ったら一気に売りに出す。あ、全員分持ってきてるから今日から使ってかまわないぞ。」

「やった!さすがシロウ!」

「夏はいいんですけど、やっぱり寒くなると髪の毛乾かすのが億劫だったんですよね。」

「助かります。」

儲けが出るだけでなく女たちの株も上がり言うことなしだ。

ありがとう速乾タオル。

フワフワの布を頬に当てて嬉しそうにしている女たちを見つめながら、俺は小さくガッツポーズをするのだった。
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