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739.転売屋はドラゴンについて勉強する
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「じゃあ行ってくる。」
「いってらっしゃいませ。」
「何かあったら知らせてくれ、すぐに戻るから。」
少しだけ肌寒くなってきたのでジャケットを手に取り、そのまま屋敷を出る。
今日も秋晴れ。
風は少しずつ冷たくなっているので秋が深まっているのは間違いない。
秋はあっという間だ。
にもかかわらずやらなければいけないことはたくさんある。
長い冬の為の助走期間と言えば聞こえはいいが、助走という名の全力疾走。
息切れしないのが不思議なぐらいだよまったく。
「なんだ、また来たのかい。」
「邪魔して悪いな。」
「騒がないのなら別にいいさ、いつものだろう?」
「あぁ。今日はその種類についてで頼む。」
「後で持っていくよ。」
「これ、エリザから。」
「いつも悪いね、後で有難くいただくよ。」
挨拶を済ませ、いつもの場所に陣取る。
しばらくすると彼が目的の物を持って戻ってきた。
「こっちがドラゴンの生態について、こっちが種類の載った魔物図鑑、それからこっちが育成日記だ。」
「そんなのあったのか。」
「まだ仕分けしていない物の中にあったんだ、とはいえ目的の種類じゃないけれど。」
「それも大丈夫だ、助かる。」
「追加があったらまた声をかけてくれればいい、それじゃあ頑張って。」
アレン少年にお礼を言って持ってきてもらった本に手を伸ばす。
何の縁かワイバーンの卵なんて言う珍しい物を手にしてしまったわけだが、手にした以上無責任なことはできない。
無精卵なら食べれば終わりだが今回は有精卵。
ルフが毎日抱卵している甲斐があってか日に日に動きが大きくなっているらしい。
孵化の日も近いかもしれない。
それまでに最低限の飼育方法は見つけておかないと、大きくなったものの迷惑を掛けましたじゃ話にならない。
なにより自分で孵化させた命を自分で刈り取るなんて事はしたくないんだ。
そんなこと言ったら畜産系の職業の人はどうなるんだって話なんだが、まじであの仕事をしている人には頭が下がる。
野生の動物や魔物ならともかく自分で育てた生き物だもんなぁ。
とりあえず魔物図鑑から目を通す。
ドラゴンにも様々な種類がいて、生息数が多いのは通称三色ドラゴン。
赤青緑。
次に生息数は少ないものの強力な力を持つ白と黒。
他にもアンデットだの骨だのランドだの亜種が色々といるらしい。
あ、ランドドラゴンは正確にはドラゴンではなく別種の魔物に分類されているから正確にはドラゴンではなかったな。
その亜種の中に今回のワイバーン種が分類されているというわけだ。
飛行能力に長け、鋭い牙と爪で獲物を仕留める。
一応火も吐けるが威嚇程度の物らしい。
大昔はワイバーンを飼いならして飛行兵団を作った国もあったそうだが、コストランニングが悪く結果としてすたれていったそうだ。
大飯ぐらいだもんなぁどう考えても。
ダンジョン産の魔物はダンジョン内の濃い魔素を吸収して生息するのであまり食事は必要としない。
だが、外で産まれた魔物は希薄な魔素だけでは生きていけないので食事を必要とする。
じゃあダンジョンで産まれた外の有精卵はどうなるのか。
残念ながらこの疑問に対する答えは今の所見つかっていない。
「はぁ、疲れた。」
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
「エリザ、それにキキまで来たのか。」
「何かお力になれるかと思いまして。」
「何かわかった?」
「今の所は全然だな。そもそもワイバーンをダンジョンで孵化させようなんてバカな事を考えるのは俺しかないみたいだ。」
普通は考えないよなぁこんな事。
いくら飼育実績があるとはいえ市場に出回ることすら珍しい。
それを手に入れたうえでさらにダンジョンに縁があるやつなんてのは俺ぐらいなものだ。
答えが無くて当たり前。
「普通そうよねぇ。」
「ですが今回のケースは今後の貴重な資料になります。ワイバーンの生態は比較的解明されているとはいえまだまだ知らないことも多くあります。特に幼少期の生育については過去の文献でしか見つかりませんので、生の情報はかなり貴重といえるでしょう。」
「さすが元学者、そういう知見で判断するか。」
「すみません、つい。」
「いやいや、むしろ魔物に精通している人がいるからこそこんな事を考えついたんだ。礼を言うのは俺の方だって。」
「感謝しなさいよね。」
「ちょっとお姉ちゃん。」
まったく、自慢の妹だからってお前が威張る必要はないだろう。
これだから妹バカは。
「何やら騒がしいと思ったら君達か。」
「悪い邪魔したか。」
「いいさ、ちょうど休憩しようと思っていた所だし。それとご馳走様、今日のトポテケーキも美味しかった。」
「よかった、お口にあって。」
「次はグレープを使った奴がいいかなあ、良いのが入ったって聞いたけど。」
「情報が早いな。」
「甘い物には目が無くてね。」
しってる。
その後少年も交えながらドラゴンの育成について意見を交わす。
魔物を飼育するなど普通はあり得ない話だが、ルフの例もあるし不可能ではないはずだ。
それにワイバーン種とはいえドラゴンはドラゴン。
他の魔物に比べ知能は格段に上だ、だから過去に騎兵として調教できたんだろう。
逸話もたくさん出てきた。
もちろん作り話も混ざっているだろうが飼育していたドラゴンに食われたという話は一つもない。
つまり調教次第ではしっかりと管理できると考えていいだろう。
問題は飼育してどうするのかって所だ。
「やっぱり乗るしかないんじゃない?」
「確かに移動は早いかもしれないが、安全面はどうなんだ?」
「そりゃ訓練次第でしょ。」
「ワイバーンの飛行速度は馬車の数倍、もし騎乗することができるのならば隣町まででしたら朝に出て昼前には到着できるかと。飛行距離もそれなりにありますので港町までは一日かからないのではないでしょうか。」
「乗り手が耐えられたらの話だよな、それ。」
「ワイバーン騎士が伝令の為一日で王都までとんだ記録もあったはず、つまり耐えることが出来ればかなりの時短になるんじゃないかな。」
どこから飛んで一日なのかにもよるが、それでもここから二・三日で王都に到着出来ればかなりのプラスになるだろう。
大きなものは運べなくても携帯できるものは運べるし、なんなら運び屋のまねごとだってできる。
もちろん出来ればの話だ。
飛行機と違い背に乗るという事は風を一身に受けるということ。
時速何百キロって速さの圧に耐えられる自信はないぞ俺は。
「じゃあ飛べなかったらどうする。」
「・・・一緒に戦う?」
「あの巨体で何と戦うんだ?」
「そりゃ魔物でしょ。ダンジョンの中はさすがに無理だけど屋外ならどこででも戦えるわ。」
「ワイバーンとワイバーンが戦う姿はちょっと見てみたいかもしれません。」
「恐竜大戦争かよ。」
「なんだそれは。」
「きにしないでくれ。」
見てみたいとかちょっと思ってしまったじゃないか。
とはいえ、魔物対ドラゴンはこの前見せてもらったからなぁ。
一方的な蹂躙ではあったがそれはもう凄かった。
でも現実的なのはそっちの方だろう。
町の近くをウロウロさせたところで魔物の数は少ない、それならば魔物のいるところに連れて行って戦わせるぐらいしか生かす方法が見つからない。
せめて乗れなくても荷物の運搬とかさせられたらいいのになぁ。
ほら、伝書鳩的なやつだ。
ワイバーン急便と名付けるのはどうだろうか。
もっともちゃんと目的地まで飛んでくれるかは別だけど。
「もうすぐ産まれそうなんだし、ちゃんと考えてあげなさいよ。」
「だからこうやって頭を悩ませているんだろうが。はぁ、どうしてこうなった。」
「君が買ったからじゃないか。」
「アレは買ったというか買わされたというか。」
「はいはい、そういう事にしておいてあげるから。」
エリザが聞き飽きたという感じで話を流す。
お前にはもう言わねぇよ。
だが実際その通りなんだよなぁ。
残された時間はあまりない。
産まれてくる命をどう扱うか、しっかり考えなければならない。
はぁ、めんどくさいなぁ。
「それじゃあ僕は書庫に戻るよ、しっかりがんばるといい。」
「じゃあ私達も行くわね。」
「シロウ様頑張ってください。」
「へいへい、頑張らせてもらいますよ。」
文句を言っても時間は待ってくれないか。
再び一人になり残っていた本に目を通していく。
ここに答えがあるかはわからない。
だが、読まない事には始まらない。
仮に答えが無かったとしても知識は武器になりヒントになる。
それを身に着けるべく、俺は再び文字の海に繰り出すのだった。
「いってらっしゃいませ。」
「何かあったら知らせてくれ、すぐに戻るから。」
少しだけ肌寒くなってきたのでジャケットを手に取り、そのまま屋敷を出る。
今日も秋晴れ。
風は少しずつ冷たくなっているので秋が深まっているのは間違いない。
秋はあっという間だ。
にもかかわらずやらなければいけないことはたくさんある。
長い冬の為の助走期間と言えば聞こえはいいが、助走という名の全力疾走。
息切れしないのが不思議なぐらいだよまったく。
「なんだ、また来たのかい。」
「邪魔して悪いな。」
「騒がないのなら別にいいさ、いつものだろう?」
「あぁ。今日はその種類についてで頼む。」
「後で持っていくよ。」
「これ、エリザから。」
「いつも悪いね、後で有難くいただくよ。」
挨拶を済ませ、いつもの場所に陣取る。
しばらくすると彼が目的の物を持って戻ってきた。
「こっちがドラゴンの生態について、こっちが種類の載った魔物図鑑、それからこっちが育成日記だ。」
「そんなのあったのか。」
「まだ仕分けしていない物の中にあったんだ、とはいえ目的の種類じゃないけれど。」
「それも大丈夫だ、助かる。」
「追加があったらまた声をかけてくれればいい、それじゃあ頑張って。」
アレン少年にお礼を言って持ってきてもらった本に手を伸ばす。
何の縁かワイバーンの卵なんて言う珍しい物を手にしてしまったわけだが、手にした以上無責任なことはできない。
無精卵なら食べれば終わりだが今回は有精卵。
ルフが毎日抱卵している甲斐があってか日に日に動きが大きくなっているらしい。
孵化の日も近いかもしれない。
それまでに最低限の飼育方法は見つけておかないと、大きくなったものの迷惑を掛けましたじゃ話にならない。
なにより自分で孵化させた命を自分で刈り取るなんて事はしたくないんだ。
そんなこと言ったら畜産系の職業の人はどうなるんだって話なんだが、まじであの仕事をしている人には頭が下がる。
野生の動物や魔物ならともかく自分で育てた生き物だもんなぁ。
とりあえず魔物図鑑から目を通す。
ドラゴンにも様々な種類がいて、生息数が多いのは通称三色ドラゴン。
赤青緑。
次に生息数は少ないものの強力な力を持つ白と黒。
他にもアンデットだの骨だのランドだの亜種が色々といるらしい。
あ、ランドドラゴンは正確にはドラゴンではなく別種の魔物に分類されているから正確にはドラゴンではなかったな。
その亜種の中に今回のワイバーン種が分類されているというわけだ。
飛行能力に長け、鋭い牙と爪で獲物を仕留める。
一応火も吐けるが威嚇程度の物らしい。
大昔はワイバーンを飼いならして飛行兵団を作った国もあったそうだが、コストランニングが悪く結果としてすたれていったそうだ。
大飯ぐらいだもんなぁどう考えても。
ダンジョン産の魔物はダンジョン内の濃い魔素を吸収して生息するのであまり食事は必要としない。
だが、外で産まれた魔物は希薄な魔素だけでは生きていけないので食事を必要とする。
じゃあダンジョンで産まれた外の有精卵はどうなるのか。
残念ながらこの疑問に対する答えは今の所見つかっていない。
「はぁ、疲れた。」
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
「エリザ、それにキキまで来たのか。」
「何かお力になれるかと思いまして。」
「何かわかった?」
「今の所は全然だな。そもそもワイバーンをダンジョンで孵化させようなんてバカな事を考えるのは俺しかないみたいだ。」
普通は考えないよなぁこんな事。
いくら飼育実績があるとはいえ市場に出回ることすら珍しい。
それを手に入れたうえでさらにダンジョンに縁があるやつなんてのは俺ぐらいなものだ。
答えが無くて当たり前。
「普通そうよねぇ。」
「ですが今回のケースは今後の貴重な資料になります。ワイバーンの生態は比較的解明されているとはいえまだまだ知らないことも多くあります。特に幼少期の生育については過去の文献でしか見つかりませんので、生の情報はかなり貴重といえるでしょう。」
「さすが元学者、そういう知見で判断するか。」
「すみません、つい。」
「いやいや、むしろ魔物に精通している人がいるからこそこんな事を考えついたんだ。礼を言うのは俺の方だって。」
「感謝しなさいよね。」
「ちょっとお姉ちゃん。」
まったく、自慢の妹だからってお前が威張る必要はないだろう。
これだから妹バカは。
「何やら騒がしいと思ったら君達か。」
「悪い邪魔したか。」
「いいさ、ちょうど休憩しようと思っていた所だし。それとご馳走様、今日のトポテケーキも美味しかった。」
「よかった、お口にあって。」
「次はグレープを使った奴がいいかなあ、良いのが入ったって聞いたけど。」
「情報が早いな。」
「甘い物には目が無くてね。」
しってる。
その後少年も交えながらドラゴンの育成について意見を交わす。
魔物を飼育するなど普通はあり得ない話だが、ルフの例もあるし不可能ではないはずだ。
それにワイバーン種とはいえドラゴンはドラゴン。
他の魔物に比べ知能は格段に上だ、だから過去に騎兵として調教できたんだろう。
逸話もたくさん出てきた。
もちろん作り話も混ざっているだろうが飼育していたドラゴンに食われたという話は一つもない。
つまり調教次第ではしっかりと管理できると考えていいだろう。
問題は飼育してどうするのかって所だ。
「やっぱり乗るしかないんじゃない?」
「確かに移動は早いかもしれないが、安全面はどうなんだ?」
「そりゃ訓練次第でしょ。」
「ワイバーンの飛行速度は馬車の数倍、もし騎乗することができるのならば隣町まででしたら朝に出て昼前には到着できるかと。飛行距離もそれなりにありますので港町までは一日かからないのではないでしょうか。」
「乗り手が耐えられたらの話だよな、それ。」
「ワイバーン騎士が伝令の為一日で王都までとんだ記録もあったはず、つまり耐えることが出来ればかなりの時短になるんじゃないかな。」
どこから飛んで一日なのかにもよるが、それでもここから二・三日で王都に到着出来ればかなりのプラスになるだろう。
大きなものは運べなくても携帯できるものは運べるし、なんなら運び屋のまねごとだってできる。
もちろん出来ればの話だ。
飛行機と違い背に乗るという事は風を一身に受けるということ。
時速何百キロって速さの圧に耐えられる自信はないぞ俺は。
「じゃあ飛べなかったらどうする。」
「・・・一緒に戦う?」
「あの巨体で何と戦うんだ?」
「そりゃ魔物でしょ。ダンジョンの中はさすがに無理だけど屋外ならどこででも戦えるわ。」
「ワイバーンとワイバーンが戦う姿はちょっと見てみたいかもしれません。」
「恐竜大戦争かよ。」
「なんだそれは。」
「きにしないでくれ。」
見てみたいとかちょっと思ってしまったじゃないか。
とはいえ、魔物対ドラゴンはこの前見せてもらったからなぁ。
一方的な蹂躙ではあったがそれはもう凄かった。
でも現実的なのはそっちの方だろう。
町の近くをウロウロさせたところで魔物の数は少ない、それならば魔物のいるところに連れて行って戦わせるぐらいしか生かす方法が見つからない。
せめて乗れなくても荷物の運搬とかさせられたらいいのになぁ。
ほら、伝書鳩的なやつだ。
ワイバーン急便と名付けるのはどうだろうか。
もっともちゃんと目的地まで飛んでくれるかは別だけど。
「もうすぐ産まれそうなんだし、ちゃんと考えてあげなさいよ。」
「だからこうやって頭を悩ませているんだろうが。はぁ、どうしてこうなった。」
「君が買ったからじゃないか。」
「アレは買ったというか買わされたというか。」
「はいはい、そういう事にしておいてあげるから。」
エリザが聞き飽きたという感じで話を流す。
お前にはもう言わねぇよ。
だが実際その通りなんだよなぁ。
残された時間はあまりない。
産まれてくる命をどう扱うか、しっかり考えなければならない。
はぁ、めんどくさいなぁ。
「それじゃあ僕は書庫に戻るよ、しっかりがんばるといい。」
「じゃあ私達も行くわね。」
「シロウ様頑張ってください。」
「へいへい、頑張らせてもらいますよ。」
文句を言っても時間は待ってくれないか。
再び一人になり残っていた本に目を通していく。
ここに答えがあるかはわからない。
だが、読まない事には始まらない。
仮に答えが無かったとしても知識は武器になりヒントになる。
それを身に着けるべく、俺は再び文字の海に繰り出すのだった。
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