転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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733.転売屋はマフラーを作る

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エスケープラビットの肉は美味かった。

いや、一言で美味かったと言ってしまうのが申し訳ないぐらいに美味かった。

この世界に来てそれなりの頻度でウサギの肉を食べてきているのだが、今までのは何だったのかという美味さだ。

肉は柔らかく、それでいてしっかりと歯ごたえもあり噛めば噛む程に肉の味がしみ出してくる。

青臭いような味じゃない、程よく脂がのり香り高く、ともかく美味いんだよ。

「美味かったなぁ。」

「美味しかったわね。」

「美味しゅうございました。」

翌日になっても全員があの味を思い出し深いため息をついている。

朝ごはんも上の空だ。

「お館様、そろそろ正気に戻ってくださいよ。今日は毛皮をどうするか話し合うんじゃなかったんですか?」

「おっとそうだった。」

「角はアネットとビアンカが持って行ったんでしょ?」」

「あぁ、薬の材料としてしっかり活用してくれるだろう。冬に向けて肌荒れ用の軟膏に使うとかなんとか。」

「アネットのは肌に合うのよねぇ。」

今回の素材は特に効能が高いらしく、特級品として売り出すんだとか。

ビアンカが一緒なので余計に張り切っているんだろう。

当分は放っておいた方がよさそうだ。

「毛皮ですがやはりマフラーなどの手軽なものに加工するのが一番ではないでしょうか。」

「量も少ないしコートはさすがに無理だよな。」

「ギリギリ一着というところでしょうか。」

「それなら数を作ったほうがいいんじゃない?エスケープラビットなんて中々出回らないんだし、多少高値でも売れるでしょ。」

「それはコートでも同じ事だ、珍しい素材だからこそ一点ものにして高値で売る。」

「でもそれだと買えるのは貴族だけよね?」

一点物のコートとなると軽く金貨は越えてくるだろう。

しかもそれが最高の職人の手で作られるんだ、上手くいけば金貨10枚も夢じゃない。

売るのもここじゃなく王都にすればもっと上の値段を目指せるんじゃないだろうか。

例の兄弟に依頼すれば向こうにとっても大きなチャンスになる。

両者win-win、何も考え無ければそれが一番だと思うのだが・・・。

「エリザは冒険者にこそ持たせるべきと思うわけだな?」

「せっかくの素材だし数を作って売っても良いかなって。早めに作れば目標にもなるし、頑張ってお金を貯めて買ってくれたら嬉しいじゃない。」

「そういう考え方もあるか。」

「冒険者の街だからこそ冒険者に身に着けてもらう、我々らしい考え方かもしれません。」

「反対意見は・・・なさそうか。」

「え、じゃあ!」

「マフラーで決まりだ、その代わり少し値段は高くするぞ。それでも売れるんだろ?」

「え、あ、うん。多分。」

そこは自信満々に売れるって言えよな、まったく。

冒険者は特需が一段落して少し落ち着きを取り戻している。

とはいえ、またあれこれ企画して依頼すれば冒険者にまた金が回るだろう。

先に餌を用意しておいて、それに向かって仕事をさせるというのは悪くない作戦だ。

ポイントカードも順調に発行数を伸ばしているし、それなりの数が戻ってきている。

これを上手く使って買って貰うって手もあるなぁ。

それかいっそのことポイント累積制にして一定数溜まれば交換とかも面白いかもしれない。

どこかのドラッグストアがやってたやつだ。

その為にわざわざ遠出して買いに行ったりする人もいるらしい。

それと同じことをここでもやる。

いや、それならギルドの方がいいか。

ギルドにポイントを持ち込んで交換する。

どうせ素材を買い取るときには冒険者証を出すんだし、それを使えば上手くポイントを管理できるだろう。

ギルドの仕事は増えるけど。

「では早速ローザ様にお願いしましょう。」

「ストールの進捗も確認したいしちょうどいいな。」

「お仕事頼み過ぎて怒られない?」

「向こうも仕事だしそれは大丈夫だろう、多分。」

「織り仕事はローザ様を通じて婦人会に依頼されているはずです、そこまで大変ではないでしょう。多分ですが。」

「全然大丈夫じゃないじゃない。」

エリザが呆れたような顔をする。

仕方ないだろ確認できてないんだから。

流石に全部丸投げはまずいので、毛皮を持ってローザさんの店へと向かう。

ちなみに毛皮の加工はブレラに別料金を払って大急ぎで仕上げてもらった。

向こうでも文句を言われたが、まぁいつもの事だ。

「おや、シロウさんじゃないか。」

「ローザさんお久しぶりだな。」

「貴族になったってのに、わざわざ自分で足を運んでくれるなんて嬉しいねぇ。」

「貴族っていったって名ばかりだからな。今日はこの前のストールと、もう一つお願いがあってきたんだ。ご主人は?」

「いまちょっと出てるよ。」

「婦人会か?」

「今の仕事に自信を持ってきたけど、まだまだ己惚れちゃいけないもんだねぇ。」

奥様が遠い目をしている。

恐らくは婦人会で似たような技量を持つ人を見つけたんだろう。

だからこんなセリフが出て来たと推測できる。

逆を言えば、安心して仕事を任せられるというわけだ。

「それは俺も同じだよ。」

「この町一番の稼ぎ頭が良く言うよ。で、何を持ってきたんだい?」

「これだ。」

収納カバンからエスケープラビットの毛皮を取り出しカウンターにのせる。

全部取り出す前に我慢できないという感じてローザさんは毛皮を手に取った。

「これは、エスケープラビットだね。」

「流石だな。」

「ここで見るのは久々だよ、いい仕事したね毛皮が殆ど傷んでない。」

「仕留めた人間が上手かったんだ。」

「火も毒も使わずに捕まえるのは大変だっただろう。それで、これをどうしたいんだい?この量ならコートにもできるけど。」

「いや、マフラーにしたいんだ。一点物よりもある程度手の出せる値段で売り出したい。」

「なるほどね、シロウさんらしい考え方だ。この前のポイントカードもなかなか良かったよ。」

「喜んでもらって何よりだ。いくつできる?」

「そうだね、全部で6個は作れるそうだ。」

「じゃあそれで頼む。こっちは急いでないからまずはストールを優先してくれ。」

急いで質の悪い物を作るよりも、時間を掛けて満足のいくものを作ってほしい。

ローザさんの目を見たらわかる、良い素材を見てうずうずしている感じだ。

「それじゃあ遠慮なくそうさせてもらうよ。」

「宜しく頼む。代金は・・・。」

「ストールの分に加算しておくから。」

「いいのか?」

「エスケープラビットなんて珍しい物触らせてもらうんだ、旦那も大喜びさ。」

向こうがそれでいいなら何も言うまい。

しばらくして婦人会から戻ってきたご主人と話をすることが出来た。

相変わらず体が大きい。

でも手先はとても器用なんだよなぁ。

人は見かけによらないものだ。

「ただいま。」

「おかえりなさいませ、如何でしたか?」

「喜んで受けてくれたよ。全部で六枚仕上がる予定だ。」

「予定より少ないですね。」

「その分良い品が出来ると思えばいい。値段は上がるが間違いない物が出来るだろう。」

「とはいえ六枚じゃちょっとねぇ。」

目玉商品と考えればそれぐらいでもいいかもしれないが、枚数が少ないということは値段が上がる。

値段が上がれば手を出しにくくなる。

いくら冒険者に金が回っているとはいえ限界はあるわけだから、ある程度価格を抑えたやつもあった方がいいかもしれない。

その為のストールなんだけど、肩掛けとマフラーじゃ用途が若干違う。

さてどうしたもんか。

「でしたらスノーミンクの毛皮はどうですか?そろそろ繁殖期ですからダンジョンでも姿を見かけるかもしれません。」

「そんな奴がいるのか。」

「あー、あの白いの?でも汚れない?」

「スノーミンクの毛皮は汚れに強く血に染まることもありません、少し高級な印象はありますがエスケープラビットに比べればお安い方かと。」

「ふむ、汚れに強いのはいいかもしれないな。特に白なんて普段は避けているだろうし喜んでもらえそうだ。」

「時間はかかるかもしれませんが、とりあえず依頼を出してみますか?」

「そうだな相場に一割乗せて出してくれ。」

「かしこまりました。」

せっかく作るなら喜んでもらえるものを。

そして売れるものを。

これで今年寒くならなかったら大損だけど、まぁ何とかなるだろう。

絶対この冬に売り切らないといけないわけじゃないんだし、そうなったらなったでまた考えればいいさ。

「冬が楽しみね。」

「そうだな、あまり寒すぎるのも困るがこの前みたいに雪が積もるといいかもな。」

「その頃には私もお母さんかぁ。」

「あっという間だぞ。」

「わかってる、楽しみだわ。」

愛おしそうに自分のお腹を撫でるエリザの手に自分の手を重ねる。

冬が楽しみ、でもその前に秋をもっと楽しまないと。

食欲の秋、スポーツの秋、秋の顔は非常に多い。

もっとも、俺は仕込みの秋だけど。
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