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730.転売屋は掃除機を作る
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雑誌の反響で増えた客が減り、またいつものように冒険者がやってくるようになった。
普通の買取と違って冒険者の持ち込む素材なんかの儲けは少ないが、彼らと仕事をするのはやはり楽しい。
たまに当たりもあるし、なにより素材には可能性が秘められている。
「うわ、なんだこれ。」
「バキュームシェルですね、今でこそその程度の吸引力ですが生きている時は簡単に腕や足が中に吸い込まれてしまいます。」
「ちなみに吸い込まれるとどうなるんだ?」
「溶解液で溶かされるか、鋭い蓋で切り落とされるかのどちらかです。」
「こわ!」
「もっとも、水中にしか生息しないので水の中に入らなければ被害はありません。使い道もないのであまり出回らない素材なんですけど、何かあったんでしょうか。」
「なんでもどこぞの馬鹿が水魔法を暴走させたらしく、そこらじゅうが水浸しになったらしい。その時に押し流されたやつじゃないかって話だ。」
『バキュームシェル。水場でのみ生息する魔物で、近づく魔物を吸引して引き寄せ体内で消化して食べる。水場にさえ近づかなければ被害は少ないが、それでも年に数十人単位で足を切断する事例が報告されている。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨5枚。最終取引日は22日前と記録されています。』
見た目は真っ黒い俺の二の腕ほどの大きさをした巻貝だが、蓋の部分の片方を指でひっかけるようにして開くとなかなかの力で指が中に吸い込まれそうになる。
それにしてもキキの知識量はすごいなぁ。
鑑定スキルの内容とほとんど違いがない。
まさに歩く辞書、生き字引というやつだな。
「好んで採取する冒険者もいませんし、水中以外の場所で見つかることは稀ですからいい研究材料になりそうですね。」
「研究するのか?」
「死んで尚この吸引力です、いったいどうなっているのか興味ありませんか?」
「それはまぁ確かに。」
「吸い込んだ中身はどうなるのか、いっぱいになったらどうなるのか。もっとも、それも研究していたらの話ですのでよろしければシロウ様がお調べになりますか?」
「ふむ、それを言われると気になるじゃないか。」
どういう原理なのか気になるといえば気になる。
蓋をしたままだとただの置物、だが蓋を開ければ『シュオォォォォ』という高い音と共に近くのものを吸い込もうとする。
あ、埃が吸い込まれた。
少し面白くなってきたので、カウンター上を滑らせるといい感じにたまった埃を吸い込んでくれる。
拭き掃除程はきれいにならないが、それでも気になる埃はきれいになった。
「いいな、これ。」
「どのぐらい吸い込めるんでしょうか。」
「なんだ、やっぱり興味があるんじゃないか。」
「それはまぁ、元研究者ですので。」
片っ端から吸い込んでみるか。
スティッキーリーフという粘度の高い葉っぱで蓋を固定してやると、本当に掃除機のように吸引し続ける。
まるでハンドクリーナーのようだ。
そのまま机やら床やら目につくごみを吸えるだけ吸ってみると、10分程で吸引力が弱くなってしまった。
どうやら限界のようだ。
「これが限界か。」
「そのようです。」
「でもカウンター上に店の棚全部、それと床の隅。砂とかも考えれば結構な量を吸い込んだよな。」
「その分重量も増していますから中に蓄えられていると考えて間違いなさそうです。」
「とはいえ振っても中身が出てくる感じはない。中に返しでもついてるのか?」
「そう考えるべきでしょう。とはいえ上部に開放する場所はありませんから、出口は入口ということになりますが。」
振れば音はするけれど中身は出てこない。
吸引力は弱まったまま。
うーん、わからん。
「とりあえず汚れたし洗うか。」
「洗うんですか?」
「せっかく綺麗な黒だったのにドロドロだろ。最悪売るにしても綺麗にする必要があるし。」
ここまで黒いとオブジェか何かに使えるかもしれない。
もっとも、ゴミが入ったままだけどな。
裏庭に出て大きなたらいに水を張り巻貝をぶち込んだその時だった。
「「あ。」」
二人同時に間抜けな声が出てしまった。
いや、出るのは仕方がない。
だってさっきまでうんともすんとも言わなかった巻貝から大量のゴミがでてきたんだから。
それも逆噴射するような勢いで。
こいつ、死んでるんだよな?
「出てきたな。」
「はい、出てきました。」
「つまり水につけると中身が出てくるのか。」
「どういう原理かはわかりませんが、そういう事なんでしょう。」
試しに持ち上げてみるとゴミを吐き出したおかげか吸引力が復活していた。
水につければゴミが出てくる。
ふむ、いいことを思いついたぞ。
「キキ、死んでいると仮定して安全を確認する方法は何がある?ほら、誤って指突っ込んで溶けても困るし」
「それでしたら魔物の死骸を差し込んでみてはどうでしょう。」
「はい採用。即答だな。」
「これで何かされるんですね?」
「あぁ、安全が確認できれば試しにやってみたいことがある。」
「ギルドで使えそうな部位を探してみます。」
「よろしく頼む。」
綺麗になったのがうれしいのか貝は再び高音を発しながら吸引を続ける。
その後キキが持ち込んだコボレートの腕を巻貝にぶち込んでみたが溶けるとか切れるとかの変化は見られなかった。
一応は大丈夫そうだが、腕とか突っ込まないように注意するべきだろう。
ひとまずそれをもって屋敷に戻る。
「グレイス。」
「どうされましたお館様。」
「新しい掃除道具なんだが、使用感を教えてほしい。」
「随分と大きい貝ですね。でも見た目の割に軽い、なんでしょうかこれは。」
「掃除機だ。」
「そうじき?」
普段冷静なグレイスが不思議そうに首をかしげる姿はなかなか珍しい。
はしゃぐ感じではないが興味はあるようだ。
「蓋を開けてこれで固定すると・・・こんな感じで吸引を始める。」
「ほぉ、なかなかの力です。」
「で、これを床の隅やカウンター上にすべらせると・・・こんな感じで埃を吸ってくれる。って、いつもきれいだからわかりにくいな。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですがそういう使い方をするのならば倉庫がよろしいですね、少しお借りします。」
「小さいものは吸い込んでしまうかもしれないから注意してくれ。あぁ、それ用にメッシュでも張るって手もあるな。」
グレイスは貝を手に奥へと消え、それからしばらくして満足げな顔をして戻ってきた。
「その感じだと使用感は悪くなさそうだな。」
「荷物を動かさずに奥のごみを吸えるのは魅力的です。少々吸い込む力が強いのが欠点ですが、床に限って使えば便利でしょう。出来れば長い柄のような物をつけていただければ腰を痛めずに済みます。」
「ふむ、貴重な意見ありがとう。」
「これも魔物なのですか?」
「あぁ、バキュームシェルという水中に済む魔物だ。ちなみにごみを排出するには水につけるだけでいい、ひっくり返しても中のごみは出てこないから。」
「それは便利ですね。吸い込んだごみがこぼれる心配もなく、水につけるだけで排出できるとなれば処理が楽です。」
「売れるか?」
「私は欲しいと思います。」
グレイスがそう言うのであれば使用感は間違いないんだろう。
柄をつけてそれぞれの部屋に置いておけば、ゴミを落としたときなんかにサッと吸える。
まさに掃除機。
ハンディータイプを想定していたが、吸いすぎることを考えると床に限った方が間違いなさそうだが余計なものを吸いすぎないように工夫はした方がいいかもしれない。
とりあえずキキにお願いして何個か手配してもらうことにした。
最初に持ち込まれた方法でなら危険もなく回収できるはず。
なんなら水場に強力な魔法をぶち込んでむりやり掘り起こすという荒業もあるようだが、やりすぎないようにとくぎを刺しておいた。
そして二日後。
「すっごい便利ね、これ。」
「床にこぼしたゴミくずをしゃがまずに吸えるのは楽でいいです。今までは水で流していましたが、冬場は乾きにくくて困っていたんですよね。」
「使うとリーシャが泣く事以外は便利だと思います。」
「高い音が苦手なんだろう、子供は大人に聞こえない音が聞こえるというからな。」
とりあえず屋敷の必要と思われる場所に設置してみたが思った以上に反応が良かった。
棒の先に巻貝を固定するだけ。
蓋の部分を下にすれば自立できるのも好ポイントだ。
これは売れる、今までの経験がそう告げている。
だがあまりにも簡単すぎるので容易にマネできるという欠点もある。
ならばとる方法はただ一つだ。
「大量に生産して一気に流通させ、一時利益を一気に回収する。」
「それが一番でしょう、素材はすぐに特定できますので模造品が出回るのも時間の問題です。」
「貝だけ売っちゃダメなの?」
「キキのいうやり方を使えば乱獲できることを考えると一気に値崩れするのが目に見えている。今後は在庫を抱えてまで売るほど利益は出ないだろう。」
「だから最初に高値で売りきるのね。」
「イザベラにはもう報告して王都の分は向こうで製造してもらうことになった。メッシュをつけて誤吸を防ぐ方法も伝えてある。あとはいいように売りさばいてくれるだろう。」
「我々は近隣で売るだけですね。」
化粧品やサプリメントのように製造方法が複雑なものは独占して販売する事で長期的に利益を出せるが、貝に棒をつけただけのお手軽品じゃそういうわけにもいかない。
とはいえ最初のインパクトはでかい。
なので各街同時販売で一気に売り上げを回収する。
俺たちは足元と隣町、それと港町ぐらいでいいだろう。
というかそこしか商圏がない。
欲を出したいところだが、他人に任せて売上金を持ち逃げされる可能性もあるからなぁ。
「すぐに売り出せない品だけに情報の扱いには注意してくれ。素材も大量にではなくゆっくり確実に集めることにしている。販売は11月初日、それまで倉庫で大量に製造して保管だ。口の堅い奴を雇って倉庫で製造させるって手もあるんだが・・・。」
「それならいっそ奴隷を買ったら?」
「そのためだけに買うのか?高すぎるだろ。」
「でもそろそろ増やさないとグレイスたちも大変よ?」
「私たちは大丈夫です、この冬は我々だけで乗り切るつもりでしたので。」
「ほら、つまりは大変ってことよ。最初から屋敷を維持するには最低10人はいるって話だったんだから少しずつ増やしても問題ないわ。レイブさんに言ってまた貸し出してもらう手もあるんだし。」
「最初の仕事が倉庫で缶詰とか嫌すぎる。」
俺ならそんな雇用主の所で働きたくないけどなぁ。
でも秘密を守るなら奴隷が一番確実。
エリザの言うようにいずれは人を増やさないといけないんだし・・・。
ぐぬぬ、量産するのも楽じゃないな。
「まだ素材を集める前の段階です、まだ時間はありますからそれまでに考えましょう。」
「そうだな。」
「嫌われ者の魔物がこんな使い方されるなんて、本当にご主人様はすごい人です。」
「褒めても製薬室用の掃除機は追加してやらないぞ。」
「えぇぇぇ。」
「冗談だって。」
とりあえずこの冬一発目の仕込みは決まった。
これがどれだけの儲けをもたらしてくれるかはまだわからないが、それなりの儲けになる自信はある。
本当に魔物の素材はすごい可能性を秘めてるんだなぁ。
使われなかった素材がこの冬から一気に脚光を浴びる。
そういった品を今後も見つけたいものだ。
普通の買取と違って冒険者の持ち込む素材なんかの儲けは少ないが、彼らと仕事をするのはやはり楽しい。
たまに当たりもあるし、なにより素材には可能性が秘められている。
「うわ、なんだこれ。」
「バキュームシェルですね、今でこそその程度の吸引力ですが生きている時は簡単に腕や足が中に吸い込まれてしまいます。」
「ちなみに吸い込まれるとどうなるんだ?」
「溶解液で溶かされるか、鋭い蓋で切り落とされるかのどちらかです。」
「こわ!」
「もっとも、水中にしか生息しないので水の中に入らなければ被害はありません。使い道もないのであまり出回らない素材なんですけど、何かあったんでしょうか。」
「なんでもどこぞの馬鹿が水魔法を暴走させたらしく、そこらじゅうが水浸しになったらしい。その時に押し流されたやつじゃないかって話だ。」
『バキュームシェル。水場でのみ生息する魔物で、近づく魔物を吸引して引き寄せ体内で消化して食べる。水場にさえ近づかなければ被害は少ないが、それでも年に数十人単位で足を切断する事例が報告されている。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚最高値銀貨5枚。最終取引日は22日前と記録されています。』
見た目は真っ黒い俺の二の腕ほどの大きさをした巻貝だが、蓋の部分の片方を指でひっかけるようにして開くとなかなかの力で指が中に吸い込まれそうになる。
それにしてもキキの知識量はすごいなぁ。
鑑定スキルの内容とほとんど違いがない。
まさに歩く辞書、生き字引というやつだな。
「好んで採取する冒険者もいませんし、水中以外の場所で見つかることは稀ですからいい研究材料になりそうですね。」
「研究するのか?」
「死んで尚この吸引力です、いったいどうなっているのか興味ありませんか?」
「それはまぁ確かに。」
「吸い込んだ中身はどうなるのか、いっぱいになったらどうなるのか。もっとも、それも研究していたらの話ですのでよろしければシロウ様がお調べになりますか?」
「ふむ、それを言われると気になるじゃないか。」
どういう原理なのか気になるといえば気になる。
蓋をしたままだとただの置物、だが蓋を開ければ『シュオォォォォ』という高い音と共に近くのものを吸い込もうとする。
あ、埃が吸い込まれた。
少し面白くなってきたので、カウンター上を滑らせるといい感じにたまった埃を吸い込んでくれる。
拭き掃除程はきれいにならないが、それでも気になる埃はきれいになった。
「いいな、これ。」
「どのぐらい吸い込めるんでしょうか。」
「なんだ、やっぱり興味があるんじゃないか。」
「それはまぁ、元研究者ですので。」
片っ端から吸い込んでみるか。
スティッキーリーフという粘度の高い葉っぱで蓋を固定してやると、本当に掃除機のように吸引し続ける。
まるでハンドクリーナーのようだ。
そのまま机やら床やら目につくごみを吸えるだけ吸ってみると、10分程で吸引力が弱くなってしまった。
どうやら限界のようだ。
「これが限界か。」
「そのようです。」
「でもカウンター上に店の棚全部、それと床の隅。砂とかも考えれば結構な量を吸い込んだよな。」
「その分重量も増していますから中に蓄えられていると考えて間違いなさそうです。」
「とはいえ振っても中身が出てくる感じはない。中に返しでもついてるのか?」
「そう考えるべきでしょう。とはいえ上部に開放する場所はありませんから、出口は入口ということになりますが。」
振れば音はするけれど中身は出てこない。
吸引力は弱まったまま。
うーん、わからん。
「とりあえず汚れたし洗うか。」
「洗うんですか?」
「せっかく綺麗な黒だったのにドロドロだろ。最悪売るにしても綺麗にする必要があるし。」
ここまで黒いとオブジェか何かに使えるかもしれない。
もっとも、ゴミが入ったままだけどな。
裏庭に出て大きなたらいに水を張り巻貝をぶち込んだその時だった。
「「あ。」」
二人同時に間抜けな声が出てしまった。
いや、出るのは仕方がない。
だってさっきまでうんともすんとも言わなかった巻貝から大量のゴミがでてきたんだから。
それも逆噴射するような勢いで。
こいつ、死んでるんだよな?
「出てきたな。」
「はい、出てきました。」
「つまり水につけると中身が出てくるのか。」
「どういう原理かはわかりませんが、そういう事なんでしょう。」
試しに持ち上げてみるとゴミを吐き出したおかげか吸引力が復活していた。
水につければゴミが出てくる。
ふむ、いいことを思いついたぞ。
「キキ、死んでいると仮定して安全を確認する方法は何がある?ほら、誤って指突っ込んで溶けても困るし」
「それでしたら魔物の死骸を差し込んでみてはどうでしょう。」
「はい採用。即答だな。」
「これで何かされるんですね?」
「あぁ、安全が確認できれば試しにやってみたいことがある。」
「ギルドで使えそうな部位を探してみます。」
「よろしく頼む。」
綺麗になったのがうれしいのか貝は再び高音を発しながら吸引を続ける。
その後キキが持ち込んだコボレートの腕を巻貝にぶち込んでみたが溶けるとか切れるとかの変化は見られなかった。
一応は大丈夫そうだが、腕とか突っ込まないように注意するべきだろう。
ひとまずそれをもって屋敷に戻る。
「グレイス。」
「どうされましたお館様。」
「新しい掃除道具なんだが、使用感を教えてほしい。」
「随分と大きい貝ですね。でも見た目の割に軽い、なんでしょうかこれは。」
「掃除機だ。」
「そうじき?」
普段冷静なグレイスが不思議そうに首をかしげる姿はなかなか珍しい。
はしゃぐ感じではないが興味はあるようだ。
「蓋を開けてこれで固定すると・・・こんな感じで吸引を始める。」
「ほぉ、なかなかの力です。」
「で、これを床の隅やカウンター上にすべらせると・・・こんな感じで埃を吸ってくれる。って、いつもきれいだからわかりにくいな。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですがそういう使い方をするのならば倉庫がよろしいですね、少しお借りします。」
「小さいものは吸い込んでしまうかもしれないから注意してくれ。あぁ、それ用にメッシュでも張るって手もあるな。」
グレイスは貝を手に奥へと消え、それからしばらくして満足げな顔をして戻ってきた。
「その感じだと使用感は悪くなさそうだな。」
「荷物を動かさずに奥のごみを吸えるのは魅力的です。少々吸い込む力が強いのが欠点ですが、床に限って使えば便利でしょう。出来れば長い柄のような物をつけていただければ腰を痛めずに済みます。」
「ふむ、貴重な意見ありがとう。」
「これも魔物なのですか?」
「あぁ、バキュームシェルという水中に済む魔物だ。ちなみにごみを排出するには水につけるだけでいい、ひっくり返しても中のごみは出てこないから。」
「それは便利ですね。吸い込んだごみがこぼれる心配もなく、水につけるだけで排出できるとなれば処理が楽です。」
「売れるか?」
「私は欲しいと思います。」
グレイスがそう言うのであれば使用感は間違いないんだろう。
柄をつけてそれぞれの部屋に置いておけば、ゴミを落としたときなんかにサッと吸える。
まさに掃除機。
ハンディータイプを想定していたが、吸いすぎることを考えると床に限った方が間違いなさそうだが余計なものを吸いすぎないように工夫はした方がいいかもしれない。
とりあえずキキにお願いして何個か手配してもらうことにした。
最初に持ち込まれた方法でなら危険もなく回収できるはず。
なんなら水場に強力な魔法をぶち込んでむりやり掘り起こすという荒業もあるようだが、やりすぎないようにとくぎを刺しておいた。
そして二日後。
「すっごい便利ね、これ。」
「床にこぼしたゴミくずをしゃがまずに吸えるのは楽でいいです。今までは水で流していましたが、冬場は乾きにくくて困っていたんですよね。」
「使うとリーシャが泣く事以外は便利だと思います。」
「高い音が苦手なんだろう、子供は大人に聞こえない音が聞こえるというからな。」
とりあえず屋敷の必要と思われる場所に設置してみたが思った以上に反応が良かった。
棒の先に巻貝を固定するだけ。
蓋の部分を下にすれば自立できるのも好ポイントだ。
これは売れる、今までの経験がそう告げている。
だがあまりにも簡単すぎるので容易にマネできるという欠点もある。
ならばとる方法はただ一つだ。
「大量に生産して一気に流通させ、一時利益を一気に回収する。」
「それが一番でしょう、素材はすぐに特定できますので模造品が出回るのも時間の問題です。」
「貝だけ売っちゃダメなの?」
「キキのいうやり方を使えば乱獲できることを考えると一気に値崩れするのが目に見えている。今後は在庫を抱えてまで売るほど利益は出ないだろう。」
「だから最初に高値で売りきるのね。」
「イザベラにはもう報告して王都の分は向こうで製造してもらうことになった。メッシュをつけて誤吸を防ぐ方法も伝えてある。あとはいいように売りさばいてくれるだろう。」
「我々は近隣で売るだけですね。」
化粧品やサプリメントのように製造方法が複雑なものは独占して販売する事で長期的に利益を出せるが、貝に棒をつけただけのお手軽品じゃそういうわけにもいかない。
とはいえ最初のインパクトはでかい。
なので各街同時販売で一気に売り上げを回収する。
俺たちは足元と隣町、それと港町ぐらいでいいだろう。
というかそこしか商圏がない。
欲を出したいところだが、他人に任せて売上金を持ち逃げされる可能性もあるからなぁ。
「すぐに売り出せない品だけに情報の扱いには注意してくれ。素材も大量にではなくゆっくり確実に集めることにしている。販売は11月初日、それまで倉庫で大量に製造して保管だ。口の堅い奴を雇って倉庫で製造させるって手もあるんだが・・・。」
「それならいっそ奴隷を買ったら?」
「そのためだけに買うのか?高すぎるだろ。」
「でもそろそろ増やさないとグレイスたちも大変よ?」
「私たちは大丈夫です、この冬は我々だけで乗り切るつもりでしたので。」
「ほら、つまりは大変ってことよ。最初から屋敷を維持するには最低10人はいるって話だったんだから少しずつ増やしても問題ないわ。レイブさんに言ってまた貸し出してもらう手もあるんだし。」
「最初の仕事が倉庫で缶詰とか嫌すぎる。」
俺ならそんな雇用主の所で働きたくないけどなぁ。
でも秘密を守るなら奴隷が一番確実。
エリザの言うようにいずれは人を増やさないといけないんだし・・・。
ぐぬぬ、量産するのも楽じゃないな。
「まだ素材を集める前の段階です、まだ時間はありますからそれまでに考えましょう。」
「そうだな。」
「嫌われ者の魔物がこんな使い方されるなんて、本当にご主人様はすごい人です。」
「褒めても製薬室用の掃除機は追加してやらないぞ。」
「えぇぇぇ。」
「冗談だって。」
とりあえずこの冬一発目の仕込みは決まった。
これがどれだけの儲けをもたらしてくれるかはまだわからないが、それなりの儲けになる自信はある。
本当に魔物の素材はすごい可能性を秘めてるんだなぁ。
使われなかった素材がこの冬から一気に脚光を浴びる。
そういった品を今後も見つけたいものだ。
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