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720.転売屋は片付けの準備をする

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さて、夏も残すところあとわずか。

メインイベントはオークション、と言いたい所だが目下進行中の懸案事項が一つ。

そう、港町だ。

今の所は平穏なようだが、どうもきな臭い感じは消えていない。

あそこが使えなくなると金儲けの手段がいくつか無くなってしまうからなぁ、それだけは何とも避けたいところ。

とはいえ、その為に俺が出来ることはあまりない。

一応国王陛下から下命されている仕事とはいえ、向こうも本気でどうにかしろとは思っていないだろう。

メインは監査官であるアニエスさんだ。

俺は貴族という身分とディーネというお守りを駆使して自分の儲けを維持したいだけ。

街が揉めているとかはぶっちゃけどうでもいいだよなぁ。

揉めていたとしても俺はゴードンさんやゾイルと取引をするし、必要であればポーラさんとだって商売をする。

彼らがそれを咎めることはないだろう。

これも仕事だからな、俺が金儲けを生きがいにしていることもわかっているだろうし。

とはいえ、それを快く思っていない奴もいるわけで。

それが今回の一番のネック、毒、めんどくさい原因というわけだ。

「さて、気持ちよくオークションを迎える為にも面倒ごとはさっさと片づけてしまいたいわけだ。それに国王陛下からの下命に答える為にも結果を出す必要がある。その為の情報を提供してもらうべく集まってもらったわけだけども・・・。何だよその顔は。」

「いや、珍しくシロウさんがやる気だなと思って。」

「全くやる気はない。ぶっちゃけどうでもいいしめんどくさいが、俺の金儲けの為には致し方ない。」

「つまりすべては自分の為と。」

「その通り、何か問題が?」

「いえ、何も。」

「だよな。」

ギルド協会の一室を借りてそこにいつもの面々が集合していた。

こっちは俺とミラ、それとアニエスさん。

ギルド協会からは羊男、冒険者ギルドからはニア、それとガレイさんとアインにも来てもらった。

立ち位置としてはこっちだが、今回は向こうサイドでお願いしている。

貴重な情報源だからな。

「あくまでも私達は情報提供者で今回の件には関係しない、そのスタンスでいいのよね?」

「問題ありません。あくまでも私達の仕事ですので、情報源を明かすことはありません。監査官特権というものです。」

「それを聞いて安心した。ほら、一応こういう立場だし他の街との関係もあるからさ。でも、実際大変みたいよ向こうは。」

「というと?」

「うちはまぁ特殊だけど、冒険者の扱いが随分とぞんざいなんだって。仕事も適当だし、冒険者を便利屋としか思っていない感じがするって向こうの職員がぼやいていたわ。必要な素材なんかをお願いしても、自分達で何とか出来るだろって笑われるとか。それに、前以上に経費について厳しくなって予算が通りにくくなったんだって。その結果が冒険者の待遇や扱いの悪化、そこから来る冒険者離れ。冒険者がいなくなると護衛が減るから、さらに陸路が衰退。安全な海路に依頼が殺到して、結果今まで以上に下との関係が悪化するわけ。」

ニアには冒険者ギルドの知り合いを通じて向こうの状況を調べてもらったわけだが、これは思った以上に大変な感じだ。

港の方が随分と虐げられているのは知っていたが、それ以上に冒険者の扱いがよろしくない。

そりゃ冒険者も港の方に手を貸すよなぁ。

そのせいで、この前のように武器が不正に横流しされているとか噂が出てしまうんだろう。

全部身から出た錆というやつじゃないか。

「実際に船を使った依頼も随分と増えています。いつもなら彼女の所に来る依頼の三割はこちらに流れていると考えられます。」

「待遇が悪く冒険者が集まらない、それでも改善するつもりは無く現状維持かむしろ悪化。早く何とかしてあげないと街自体が衰退するわよ、マジで。」

「とはいえそれを俺に言われてもなぁ。むしろそれをやらなきゃいけないのは向こうのギルド協会だろ、そこんとこどうなんだよ。」

「どうなんだよと言われましても。それはもう大変なことになってますって。」

「そうなのか?」

「我々の仕事は公平を保つこと、もちろん街の運営にも関わりますがそれは公平でなければなりません。それが出来ていない上に、出来ないことを強制されているんですからそりゃもう不満の嵐です。」

「・・・それを止めるのがギルド協会の仕事じゃないのか?」

いくら街長が偉いとはいえ、中立の立場にいるのがギルド協会のはず。

街の運営には多くの人間、そして組織がかかわっている。

ギルドだってたくさんあるし、問題も山積みだ。

それはどこも同じだろう。

でもそれを中立な立場で公平に上手くさばくのがギルド協会の仕事。

まぁ、羊男が無理難題言ってくるのは公平なのかと聞かれれば何とも言い難いが、その分ちゃんと報酬が出ているので公平と考えることが出来る。

でも向こうはそれが出来ていない。

つまり偏った運営がなされているわけだ。

ポーラさんはそれを対話で正すと言っていたが、ぶっちゃけそれで解決するような状況じゃないよな。

それこそ監査官という第三者機関を入れてしっかりと綺麗にするべき案件だ。

だからこそアニエスさんが陛下より下命されて調査に行くことになったわけだけども。

「もちろんそれはわかっていますが、我々も食べて行かないといけなくてですね。」

「食べていくために不正を許すのか?」

「不正ではありません。」

「それ、苦しくないか?」

「苦しいのは向こうの職員です、ちょっと話を聞くだけだったのに夜中まで付き合わされたんですから。」

「つまり不満は膨れ上がり今にも爆発しそう、そういう事だな?」

「今すぐにまでは言いませんが、かなり膨らんでいると言っていいでしょう。針でつつけば大爆発間違いなしです。」

つまりその針の役目を俺達がしなければならないというわけか。

問題は爆発した後だが、それを頑張るのは俺じゃない。

港町が正しく運営されるようになることが、結果として俺の利益にもつながっている。

「クーデターとか起きないのか?」

「さすがにギルド職員とはいえ貴族に喧嘩を売れば首を切られますから。」

「これだから貴族は。」

「シロウさんも貴族では?」

「俺がそんなことすると思うのかお前は。」

「シロウ様はそんな事をしません、むしろいいように持って行って絞れるだけ搾り取るかと。」

「アニエスさん、俺をなんだと思っているんだ?」

「違うんですか?」

「正確には裏から根回しをして徹底的に利益を回収するですね。今回ですと冒険者ギルドを味方につけ、向こうが求めている素材や道具を提供。ギルド協会には監査官が一緒にいるシロウ様の動きを公認していただき、港での取引を活性化させることで結果としてに上の動きを弱体化させ公平性を保てるようにします。その過程で多くの利益が生まれる事でしょう。」

アニエスさんに次いでミラまで。

っていうか、そんな大それたことはさすがに考えてないんですけど?

「そこまでしなきゃダメなのか?」

「そこまですれば向こうも黙っていられないでしょう。何かしらの手を打ってくるはずです。」

「で、それを俺にどうしろと。」

「もちろん迎え撃ちますよね?」

「いやいや、どう考えても命を狙われるよなそれって。いくらディーネがいるとはいえ四六時中狙われるのはごめんだぞ。」

「そこまで行く前に終わると思いますよ。」

「何を根拠に。」

他人事だと思って気楽なこと言いやがって。

貴族になっても俺はただの一般人、政治関係のごたごたを正すような知識も権力も持ち合わせていない。

そういうのは然るべき組織がそれこそ公平に捌くべきだ。

港町は宜しくない勢力に牛耳られている。

それによって不均衡が生じ、今や爆発寸前。

唯一の希望はポーラさんが完全に向こう側ではないという事だけだが、それだけじゃよわいんだよなぁ。

「それに関しては私の方で動いています。ホリアが上手くやってくれればの話ですが。」

「おい、聖騎士団の副団長まで噛んでるのかよ。」

「むしろそれぐらいの人間が動かないと解決しない話でしょう。ね、大丈夫でしょ?」

「お前知ってたのか?」

「港町の仲間を助けたいのは私も同じです。仲間の為にも悪は滅びるべき、今の状況は公平ではありませんからね。」

「冒険者ギルドも同じよ、ダンジョンに潜るだけじゃなく護衛の仕事も私達の大切な仕事。それを取り上げられるのは死活問題だわ。それを解決するために手段は選んでいられない、今回の件はちょうどいいタイミングだったというわけ。」

つまり、俺を出汁にあれこれやろうというわけか。

エドワード陛下もそれをわかった上で下命を出した。

噛ませ犬ってわけかよ俺は。

「あー、やってらんねぇ。」

「まぁまぁ腐らない腐らない。」

「これで腐らないでいられるかってんだ。骨折り損のくたびれ儲けじゃねぇか。」

「え、ちゃんと儲けは出ていますよね?ポーラ様に頼まれた品を含め、かなりの量を運ぶはずでは?」

「それとこれとは話が別だ。」

「つまり報酬が欲しいと?」

「そんなのはいらない。だから俺にわかるように一から十まで説明しろ、何がどうなってどうしたいのか。まずは俺に話をするのが筋ってもんだろ。」

「でもシロウさん面倒ごと嫌いですよね。」

「大っ嫌いだよ。」

「矛盾してるなぁ。」

「うるせぇ。」

俺だってわかってるよそんな事は。

話をざっくりまとめると、不満は溜まっていたが現状では自分達の立場が危ういので何もできなかった。

だが監査官が来たことで状況は一変、第三勢力が介入することで現状が変わるかもしれないという期待が大きくなり、必然的に内部の情報が流出。

かなり細かい部分まで情報が漏れだし諸悪の根源が特定されることになった。

ただの貴族ならともかく監査官や更には聖騎士団が動くとなれば話は別だ。

皆ここぞとばかりに情報を流してくれたのだとか。

それはもう出るわ出るわ、多くの悪行が白日の下にさらされポーラさんについても色々とわかってきた。

やはりあの人は雇われ街長のような立場で、いわば操り人形。

それも弱みを握られて逃げられなくするという極悪仕様だったようだ。

ここまでピースがそろえば後はそれをはめ込んでいくだけで状況は解決するだろう。

あれ?俺要らないんじゃね?

とか思ってもそういうわけにいかないわけで。

マジで勘弁してくれよ。

「という事でシロウさん宜しくお願いします。」

「はぁ。」

「もっとやる気出してくださいよ、全部言えってシロウさんが言ったんじゃないですか。これもシロウさんの儲けの為です、お金好きですよね?」

「全部それに直結させるなよな。」

「違うんですか?」

「違わねぇ。」

話を聞きに来たはずが、話に巻き込まれた気分だ。

いや、最初から巻き込まれていたのか。

なんだか自分だけ蚊帳の外で気合を入れていたのが恥ずかしいというか悲しいというか。

まぁ、これも清々しく夏を終える為に必要な事。

やるしかなか。

「では出発は明日、荷物の搬出は私達に任せてください。」

「宜しく頼む。」

「それじゃあお先に失礼します、ガレイ行くわよ。」

「わかった。」

アインさんとガレイのもたらした情報もすごかった。

皆今の状況を快く思っていなかったのは間違いない。

あとはアニエスさんがそれを良い感じに料理するだけ。

俺は皿の端を彩るパセリになろう。

それが一番安心だ。

こうして、この夏最後のメインイベントオークションを前に面倒ごとを解決する運びとなった。

はぁ、頑張ろう。
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