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711.転売屋は新しい道具を試す

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「シロウさん何してるし?」

「みたらわかるだろ、設営だよ。」

「こんな所で?」

「こんな所だからやるんだよ、暇なら手伝ってくれてもいいんだぞ。」

「嫌だし、めんどくさいし。」

「なら静かにしてろ。」

フワフワと浮かんだままベッキーが俺の周りを回っている。

本当に手伝うつもりはなさそうなので、俺も気にすることなく道具を広げることにした。

ここはダンジョンの最上層。

ダンジョンに潜る冒険者が行きかう場所だが、その一番奥を陣取って準備を進める。

まずは焚火。

使うのは折りたたんだ銀色の板、それをスライドさせるとあっという間に受け皿のようなものが組みあがった。

今度はその下についている折りたたまれた三本の足を伸ばすと、真ん中で絡まるようにしてバランスよく立つ。

その上に木材をいくつか乗せ、持ってきた着火剤で火をつける。

パチパチと音を立てながらあっという間に火が大きくなった。

うん、いい感じだ。

「凄いし、地面は湿気ってるのにすぐに火が付いたし。」

「焚火台って道具だ、重さもそんなにないしこれだけすぐに組み立てられるのはすごいな。」

「これがあればどこでも火がつけられるし?」

「そういう事になるな。」

「私も欲しいし。」

「いや、要らんだろ。」

火に近づいて暖を取るベッキー。

暖かさは感じるようでとろんとした顔をしている。

透明じゃなかったら普通の冒険者なんだが、地面に下半身がめり込んでいる時点で普通ではない。

なんせ死んでるからなぁ。

とろけた顔のベッキーを放置して次の道具を確認しよう。

取り出したのは蓋をされた小型の鍋。

蓋を開けると中から取っ手が出てきた。

それと二回りぐらい小さいカップも。

ちなみに蓋はそのままさらになるらしい。

これだけ入って重さは従来の小鍋と同じぐらい。

俺が頼んだ機構とはいえ、まさかここまで再現してくれるとは。

ドアさんといったか、もしかすると俺と同じ異世界から来たんじゃないかと錯覚してしまう。

どう見てもキャンプ道具そのまんまだ。

流石に試作品なので曲がっているところとか完璧でない所も見受けられるが、そんなの使い勝手と比べれば微々たるもの。

とりあえず中身を取り出し取っ手を装着、ドルグさんに作ってもらった火の魔道具を取り出してそいつの上に乗せた。

火の魔道具には鍋を置くための四つ足を合わせて加工してもらっている、これがあるおかげで鍋はガタつくことなく平衡を保てるというわけだ。

鍋に水を入れ、魔道具を着火。

後は湯が沸くのを待つだけだ。

「あ、また変なの使ってるし。」

「変じゃない、立派な冒険道具だ。」

「でも随分ペラペラだし?」

「そういう素材を使ってるんだよ。ティタムって知ってるか?」

「聞いたことあるし。」

「ほんとかよ。ともかく、それが手に入ったから加工して貰ったんだ。軽くて丈夫、熱伝導もそれなりにいいらしいが・・・。マジか、もうふつふつ言い出したぞ。」

小さい鍋の底に気泡が見え出した、一瞬人指し指を突っ込んでみるとかなり熱い。

弟のやつはそこまででもなかったのにいくら何でも火力強すぎだろ。

弟に小型化の先を越されたのが悔しかったのか、随分と気合入ってたもんなぁ。

「こっちでお茶を沸かして、これで火を起こして。凄いし、むっちゃ便利だし。」

「ちなみにこういうのもある。」

最後に取り出したのはこれまたティタムで作られたフライパン。

28cmフライパンぐらいある大き目のやつなので肉とか色々一気に焼けそうだ。

深さもそれなりにあり、鍋同様取っ手は分離しているので後付けになってる。

この大きさでこの軽さは優秀過ぎる。

流石に火の魔道具には乗らないので、こいつは直火で使うことになるだろう。

小鍋はふつふつ言い出したので火力を下げて香茶葉の入った袋を沈めておく。

フライパンに牛脂をのっけてそのまま直に熱して溶かし、いい感じに脂が回ったところで肉を投入。

いい感じの音を立てながら肉が一気に焼けていく。

火力調整は自分でできるのがいいな。

片手が埋まるのが難点だが、別に小難しい調理をするわけでもなし。

右手でフライパンを持ちつつ塩の入った小瓶を左手で振るう。

あっという間に肉の焼ける匂いが広がっていった。

「ミャウ。」

「ミケもきたし、無茶苦茶美味しそうだし!」

「いや、お前ら用の肉はないんだが。」

「なんでないんだし?」

「何でって言われてもなぁ・・・。」

物欲しそうな目で巨大な猫が俺を見てくる。

ミケもまた幽霊だ。

透けているだけなら無視することもできるが、実体化も出来るので俺を噛むこともできる。

さすがにそれはしないだろうけど、食べ物の恨みは怖いっていうからなぁ。

はぁ、仕方がない。

「生肉でいいよな?」

「ミャウ!」

「あ、ずるいし!私も欲しいし!」

「お前にはこっちだ、甘いの好きだろ?」

「お菓子だし!クッキー大好きだし!」

「それはエリザ作だ、今度お礼言っとけ。」

「もちろんだし!」

はぁ、持ってきておいてよかった。

幽霊の一人と一匹が嬉しそうに食い物にかぶりついている光景は中々にシュールだ。

食べた物がどこに行くかは考えちゃいけない。

肉がいい感じに焼けた所で皿代わりの蓋の上に乗せ、折り畳みのナイフとフォークを取り出す。

真ん中からスライドさせるとかちりと音を立ててまっすぐになりナイフとフォークに変身、使わない時は真ん中のボタンを押すとまたスライドさせることが出来るので半分の長さに変わる。

これは専用の入れ物があるようでポストカード程の入れ物に収まる優れモノだ。

厚みも3cmぐらいしかないので携帯性もバッチリ。

やっぱりドアさんは俺と同じ世界の人だって、絶対。

そうじゃないとこんな便利道具作れるはずがない。

今度顔合わせをしたら絶対に問い詰めてやる。

「あれ、シロウさんなにしてるんっすか、こんな所で。」

「みたらわかるだろキャンプだよ。」

「え、まさかあの大きな家追い出されたんですか?喧嘩したなら早めに謝ったほうがいいですよ、時間が経てば経つ程面倒になりますから。」

「助言は有難く頂戴するが、別に喧嘩もしてないし追い出されてもいない。っていうかなんで俺が謝る事前提なんだよ。」

「世の中そういうもんでしょ?」

「お前と一緒にするなっての。」

皿の上で肉を切り美味しくいただいていると馴染みの冒険者達がぞろぞろとやってきた。

ここはダンジョンの最上部。

確かにここでのキャンプは変かもしれないが、これも立派な調査だ。

今回の目的は二つ、ミラを経由してお願いしていたティタム製の冒険者道具。

その試作品を試すこと。

もう一つが、こうやって実際の冒険者を呼び寄せる事だ。

「あの、シロウさんその鍋薄くないですか?」

「持ってみるか?」

「え、軽!それに熱くない!何ですかこれ!」

「ティタム製の鍋だ、ヒートフロッグの革を巻いてあるから熱くないように作られてる。」

「じゃあその台も鍋も全部ティタムで出来てるんですか?」

「ちなみにその鍋とカップはセット、焚火台は折り畳み式だ。えーっと、予備はっとこれだな。」

「すげぇ!こんなに薄いのにあんなに薪がのるのかよ!」

「全部入ってこの軽さ?いや、ヤバイでしょ!」

ひたすらヤバイと凄いを言い続ける冒険者達、おそらくは語彙力がどこかに行ってしまったようだ。

いや、元から少ないか。

「ちなみに今度販売する新作だから、出来たら買ってくれ。」

「「「買います!」」」

「だがなぁ、素材が素材だけに少し値が張るんだ。ちなみにいくらなら買う?」

「この鍋なら銀貨10枚でも買いますよ。」

「いやいや20枚でも買うって。」

「すまん、俺はそこまでだせないわ。」

「なんでだよ!いつもの半分だぞ!その分別の荷物積み込めるんだぞ!」

その後もあーでもないこーでもないとワイワイ騒ぐ冒険者達、その声に引き寄せられるようにまた別の冒険者が集まってくる。

結局一人キャンプのはずがいつものように大騒ぎの飲み会に変わってしまった。

それでも大勢の冒険者にこの道具を知ってもらえたのはデカい。

皆口をそろえて欲しいと言ってくれている。

全部を量産するのは難しいが、作りが簡単なやつに絞れば何とかなるだろうか。

それと素材の手配だな。

今回は少量だったが、この分だと量産しても問題なさそうなので追加を注文しないと。

後は量産できるかどうかにかかっている。

今日の使い勝手も含めてドアさんと直接交渉することになるだろう。

これは売れる。

この街だけじゃなく国中の冒険者たちが使ってくれる。

今回の反応でそれが確信できた。

だがなぁ、これまでに似たようなのはあっただろうけどそれが広まらなかったのにも理由があるんだろうなぁ。

不安半分期待半分。

どうなるかはやってみてからか。

「シロウ様、参りましょう。」

「あぁ、今行く。」

翌朝、ミラにアポを取ってもらってすぐに話をすることになった。

さぁ、お仕事の始まりだ。

冒険者が喜ぶ道具が作れるかどうかで俺の儲けが一気に変わってくるだろう。

この半年で一番の山場だな。

頬を叩いて気合を入れ、俺はミラの待つ馬車へと急ぐのだった。
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