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709.転売屋は依頼を受ける
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彼が提示した内容は、ごくありふれたものだった。
物資の中に不足しているものがあるのでそれを補充したい。
ただそれだけ。
確かに物としてはこの辺りでは手に入りにくいものばかりだが、決して手に入らないわけじゃない。
そのほとんどが魔物の素材だった。
だから俺に声をかけたんだろうが、この依頼を勘ぐると色々と彼の後ろが見えてくる。
「そんなに大げさな依頼じゃなかったの。」
「そうでもない、あんな簡単な素材が不足しているって事はそこまで気を回す余裕がないって事だろ。彼は気づいた、だが他の連中は気づかなかった、そもそもこんな依頼なんて街長がするような話じゃない。ギルド協会とか冒険者ギルドなんかのもう少し下の連中が個別に依頼を出すもんだ。」
「だがそれが出来ていないと、なるほどな。」
「つまりそういった連中からもハブられているのか、それともそことも反発しているか。あぁ、そこが機能しないぐらいに人がいないかの三つが考えられる。」
「やはり商人にしておくには惜しい人間じゃな、シロウは。」
「いやいや、普通は気づくだろ。」
子供のお使いみたいなもんだぞ、今の内容。
それこそ羊男が末端の職員に命じて注文するような内容だ。
それを街長が行っていること自体がおかしすぎる。
「まぁよい。依頼をこなせばシロウは儲かる、そうじゃな。」
「そういうこと、そんじゃま下の様子を見に行くか。」
俺からしてみれば難しくもない素材を手配して運ぶだけで俺なりの儲けになる、金になるのなら断る理由はなにもないさ。
屋敷を出て先程苦労した坂道を悠々と下る。
道行く人はいつもどおりで、活気がないとかそういう感じは見て取れない。
冒険者もそれなりに歩いているし住民も皆にこやかだ。
見た目にはおかしい所はないが、分かる人には分かる。
漁師や職人達の姿がほとんどない。
前まではそんなこともなかったのに明らかに少ない。
やはり上と下との不和は深刻なんだろう。
そんな事を考えていると、坂の途中でミラと鉢合わせした。
「シロウ様。」
「お、ミラどうだった?」
「コレといったお話は聞けませんでした。表向きは特に険悪な感じではなさそうです。」
「だが実際はそうでもないと。あの二人は?」
「ネシア様と一緒に港に向かいました。接収の件を確認しに行くようです。」
どうせそっちもあの人物が一緒だと欲しい情報は聞き出せないだろう。
表向きはというミラの言葉がそれを物語っている。
周りで誰が聞き耳を立てているかわからないのでそれ以上言うことはできない、そんな顔をしていた。
「それじゃあ予定通りの仕事をするか。ゾイルはいたか?」
「おられましたが近づくと奥に消えてしまいました。」
「なら今のうちに挨拶しておこう、塩やらなんやらと仕入れるものは多い。」
「ご一緒します。」
一人でウロウロするのは余りよろしくない、ディーネと一緒の方が安心だ。
「ゾイル。」
「シロウじゃないか、あの男はいないみたいだな。」
「アニエスさんが連れまわしてる。あんまり良くないみたいだな。」
「よくない所じゃねぇよ、前以上に上の連中が顔を出してくるから下手なことが出来ねぇ。」
「表向きはなんて言ってるんだ?」
「水揚げの調査だとか健康調査だとか色々言って中に入り込もうとしてくる。まぁ、そんなことで俺達の中に入れるはずがないけどな。」
港に行くといつもの場所でゾイルが周りを見渡していた。
俺と話しながらも視線は動き、何かに警戒している様子が伺える。
そして一瞬その目が止まり静かに俺に目を戻した。
どうやら誰かがこちらに来たようだ。
その証拠に俺の横にいたディーネがその誰かを見ている。
「仕入れだったな、今日は何を買っていく?」
「冬に向けて塩を多めに頼む。それと干物だな、そろそろ生魚も食いたいんだがいいのはあるか?」
「この時期の生はまだ止めとけ、秋口になったら脂も乗るし安全だ。」
「ならしばらく待つか。」
「お話の途中失礼します、今お時間よろしいですか?」
いつもの感じで仕入れをしていると横から男が話しかけてきた。
ジロリと睨みつけてもニコニコとした顔を崩さない。
こいつがゾイルの言っていた上の差し金だろう。
「今商談中なんだが?」
「申し訳ありません、街長より仕入れの調査をしていまして。今何を注文されましたか?それと普段何を買われるのでしょうか。」
「ミラ、答えてやってくれ。」
「畏まりました。お邪魔になりますのでこちらへ。」
「あ、ちょっと!」
ミラが移動し、ディーネがその男を強引に連れて行く。
なるほど中々大変だ。
「ゴードンさんは?」
「いつもどおりとは言わないが、まぁ静かにしている。一番目をつけられているのはあの人だからな。」
「武器の件か。」
「お前に流したのは関係ないが俺たちに武具を流していると警戒されているらしい。常に上の誰かが店の中で待機してる。ま、そんなことで動じる人じゃないけど。」
「それもそうだな。仕入れついでに何か欲しいものがあったら教えてくれ、街長から依頼されたものと一緒に運んできてやる。」
「街長から?なんでまた。」
「さぁな、俺が言えるのは上は一枚岩じゃなさそうだってことだけだ。」
再びゾイルの目線が忙しそうに動き回る。
これ以上は難しそうなので早々に話を切り上げ、ミラのところに戻った。
「すまない、待たせた。」
「此方も話し終えたところです。」
「これは名誉男爵様とは露知らず、お許しください。」
「それが仕事なんだろ気にしてない。もういいか?」
「は、はい!」
ひどく怯えた様子でその男は逃げるように去っていった。
「何を言ったんだ?」
「誰の邪魔をしたのか丁寧にお話ししただけです。」
「シロウ、ミラを怒らせるのは止めた方がよいぞ。」
「・・・程々にな。」
これ以上は何も言うまい。
その後もいつものように買い付けを行い、それと一緒にこちらで足りない物の仕入れも行う。
こちらはこちらで色々と足りない物があるようだ。
いつもなら各自がそれぞれ仕入れをするのだが、この状況なのでそれも上手くいかず少しずつだが足りないものが出ていたらしい。
それを俺一人が独占して仕入れられるのは中々に美味い。
いや、美味いっていうレベルじゃない大儲けだ。
最後にシュウ達の所でグラスを買い付け、オークション受けしそうな一点物の品を手に入れた。
『影透かしの花瓶。西方に伝わる影透かしは、各工房に一人しか受け継ぐことが出来ない秘伝の製法と言われている。光に透かすと見えないほど小さな傷が影を作り、鮮やかな模様を映し出す。最近の平均取引価格は金貨20枚、最安値金貨5枚最高値金貨77枚。最終取引日は390日前と記録されています。』
平均価格でも金貨20枚を超える素晴らしい品。
これをその半値で買い付けることが出来た。
出す所に出せば金貨50枚ぐらい余裕かもしれない、もし高値で売れたら別の形で還元してもいいかもしれないな。
「自信作というだけあって見事な品だ。」
「応接室の花瓶に引けを取らない素晴らしさです。コレだけの品がこのような場所で売られているなんて、西方に行くとどんなものが手に入るのでしょうか。」
「そりゃ凄いものがたくさんあるんだろう。」
「私はこんな壊れそうな品よりも食べ物の方がいいんじゃが。」
「結構歩いたしな、そろそろアニエスさんと合流して飯にするか。」
まだ明るいが夕刻にさしかかろうかという頃だろ。
店が混む前に飯にしてもいいかもれない。
「ディーネ、アニエスさんの気配は分かるか?」
「あの女子なら・・・真ん中の大きな建物だな。」
「ってことはゴードンさんのところか。手間が省けた。」
ちょうど行こうと思っていたところだ。
ゾロゾロと店の前まで行った所で中からアニエスさんとネシアが出てきた。
「シロウ様、こちらでしたか。」
「ちょうど仕入れが終わったところだ、調査はどうだった?」
「ポーラ様より聞いた通りの内容でした。この前の一件以降それぞれの考えにズレがあるようですが致命的という感じはしません。」
「これもポーラ様が前街長より引継ぎ、尽力されているからです。ご納得いただけましたでしょうか。」
「今の所は。シロウ様はいかがでしたか?」
「あぁ、今回も良い品を仕入れることができた。ポーラさん直々に仕入れの依頼ももらったしな。」
「「ポーラ様が?」」
アニエスさんだけでなくネシアも驚きの声を上げる。
アニエスさんについて回っている間にそんな事が行われたとは思いもしなかったんだろう。
勝手をするなと言ってあったのかもしれない。
その辺はわからないが、この依頼がサプライズであることは間違いないようだ。
「色々と物資が不足しているそうじゃないか、まぁうちにある品ばかりだから近日中にうちの業者から納入させる。追加があったらその時に教えてくれ。」
「・・・わかりました。」
「ゴードンさんは中か?」
「はい。ですが仕事中のようで直接お話は出来ませんでした。」
「なら先に飯にして後でまた顔を出そう。」
「私はここで失礼します。アニエス監査官、どうぞよろしくお願い致します。」
「私の目で見たものをありのまま報告させて頂きます。それではネリア様、ポーラ様によろしくお伝えください。」
このあとまたゴードンさんと会うと言うのにネリアは同席しないようだ。
いや、同席出来ないぐらいに慌てているんだろう。
明らかに動揺してたもんなぁ。
小走りで去っていく彼の背中を見ながら思わず笑みが浮かんでしまった。
「とりあえず飯にしよう、ディーネが限界だ。」
「肉がいいぞ、魚は物足りん。」
「いや、ここまで来て生魚を食わない理由はないだろ。」
「それなら両方食えばいいじゃねぇか、良い店を紹介してやるぜ。」
「ゴードンさん、びっくりさせないでくれよ。」
突然後ろから両肩をガシッと捕まれ、心臓が飛び出るかと思った。
ネリアという邪魔者が出て行ったのを確認して出てきたんだろう。
「そこの飯は美味いのか?」
「もちろんだ、良い酒もある。あの男の慌てた様子を見る限り何かしてくれたんだろ?」
「俺は別に、寧ろやったのは街長だろうな。」
「どういうことだ?」
「まぁまぁそういう話は飯を食いながらにしようぜ。」
飯の話をしていたら腹の虫が鳴き出した。
流石に外でする話でもないので場所を変え、アニエスさんやゴードンさんから色々と聞かせてもらった。
ついでにゴードンさんからも依頼を受ける。
なんでもドラゴンの素材が足りないんだとか。
ドラゴンを目の前にして言う話じゃないかもしれないが、本人は目の前の巨大な肉に夢中なので別にいいだろう。
食ってるのもランドドラゴンの肉だし。
もっとも、キキ曰くあれはドラゴン種には分類されないんだとか。
じゃあ何だよというツッコミは無しだ、そういうのは本人に聞いてくれ。
そんなこんなで港町の夜は更けていく。
翌朝、早々に準備を済ませて港町を出発した。
長居は無用。
とりあえずエドワード陛下から受けた役目は果たしたし、いつもの仕事に戻らせてもらおう。
ナミル女史とも情報共有したいし。
川をグングンと遡りながら俺はまた深いため息をつくのだった。
最近増えたな、ため息。
物資の中に不足しているものがあるのでそれを補充したい。
ただそれだけ。
確かに物としてはこの辺りでは手に入りにくいものばかりだが、決して手に入らないわけじゃない。
そのほとんどが魔物の素材だった。
だから俺に声をかけたんだろうが、この依頼を勘ぐると色々と彼の後ろが見えてくる。
「そんなに大げさな依頼じゃなかったの。」
「そうでもない、あんな簡単な素材が不足しているって事はそこまで気を回す余裕がないって事だろ。彼は気づいた、だが他の連中は気づかなかった、そもそもこんな依頼なんて街長がするような話じゃない。ギルド協会とか冒険者ギルドなんかのもう少し下の連中が個別に依頼を出すもんだ。」
「だがそれが出来ていないと、なるほどな。」
「つまりそういった連中からもハブられているのか、それともそことも反発しているか。あぁ、そこが機能しないぐらいに人がいないかの三つが考えられる。」
「やはり商人にしておくには惜しい人間じゃな、シロウは。」
「いやいや、普通は気づくだろ。」
子供のお使いみたいなもんだぞ、今の内容。
それこそ羊男が末端の職員に命じて注文するような内容だ。
それを街長が行っていること自体がおかしすぎる。
「まぁよい。依頼をこなせばシロウは儲かる、そうじゃな。」
「そういうこと、そんじゃま下の様子を見に行くか。」
俺からしてみれば難しくもない素材を手配して運ぶだけで俺なりの儲けになる、金になるのなら断る理由はなにもないさ。
屋敷を出て先程苦労した坂道を悠々と下る。
道行く人はいつもどおりで、活気がないとかそういう感じは見て取れない。
冒険者もそれなりに歩いているし住民も皆にこやかだ。
見た目にはおかしい所はないが、分かる人には分かる。
漁師や職人達の姿がほとんどない。
前まではそんなこともなかったのに明らかに少ない。
やはり上と下との不和は深刻なんだろう。
そんな事を考えていると、坂の途中でミラと鉢合わせした。
「シロウ様。」
「お、ミラどうだった?」
「コレといったお話は聞けませんでした。表向きは特に険悪な感じではなさそうです。」
「だが実際はそうでもないと。あの二人は?」
「ネシア様と一緒に港に向かいました。接収の件を確認しに行くようです。」
どうせそっちもあの人物が一緒だと欲しい情報は聞き出せないだろう。
表向きはというミラの言葉がそれを物語っている。
周りで誰が聞き耳を立てているかわからないのでそれ以上言うことはできない、そんな顔をしていた。
「それじゃあ予定通りの仕事をするか。ゾイルはいたか?」
「おられましたが近づくと奥に消えてしまいました。」
「なら今のうちに挨拶しておこう、塩やらなんやらと仕入れるものは多い。」
「ご一緒します。」
一人でウロウロするのは余りよろしくない、ディーネと一緒の方が安心だ。
「ゾイル。」
「シロウじゃないか、あの男はいないみたいだな。」
「アニエスさんが連れまわしてる。あんまり良くないみたいだな。」
「よくない所じゃねぇよ、前以上に上の連中が顔を出してくるから下手なことが出来ねぇ。」
「表向きはなんて言ってるんだ?」
「水揚げの調査だとか健康調査だとか色々言って中に入り込もうとしてくる。まぁ、そんなことで俺達の中に入れるはずがないけどな。」
港に行くといつもの場所でゾイルが周りを見渡していた。
俺と話しながらも視線は動き、何かに警戒している様子が伺える。
そして一瞬その目が止まり静かに俺に目を戻した。
どうやら誰かがこちらに来たようだ。
その証拠に俺の横にいたディーネがその誰かを見ている。
「仕入れだったな、今日は何を買っていく?」
「冬に向けて塩を多めに頼む。それと干物だな、そろそろ生魚も食いたいんだがいいのはあるか?」
「この時期の生はまだ止めとけ、秋口になったら脂も乗るし安全だ。」
「ならしばらく待つか。」
「お話の途中失礼します、今お時間よろしいですか?」
いつもの感じで仕入れをしていると横から男が話しかけてきた。
ジロリと睨みつけてもニコニコとした顔を崩さない。
こいつがゾイルの言っていた上の差し金だろう。
「今商談中なんだが?」
「申し訳ありません、街長より仕入れの調査をしていまして。今何を注文されましたか?それと普段何を買われるのでしょうか。」
「ミラ、答えてやってくれ。」
「畏まりました。お邪魔になりますのでこちらへ。」
「あ、ちょっと!」
ミラが移動し、ディーネがその男を強引に連れて行く。
なるほど中々大変だ。
「ゴードンさんは?」
「いつもどおりとは言わないが、まぁ静かにしている。一番目をつけられているのはあの人だからな。」
「武器の件か。」
「お前に流したのは関係ないが俺たちに武具を流していると警戒されているらしい。常に上の誰かが店の中で待機してる。ま、そんなことで動じる人じゃないけど。」
「それもそうだな。仕入れついでに何か欲しいものがあったら教えてくれ、街長から依頼されたものと一緒に運んできてやる。」
「街長から?なんでまた。」
「さぁな、俺が言えるのは上は一枚岩じゃなさそうだってことだけだ。」
再びゾイルの目線が忙しそうに動き回る。
これ以上は難しそうなので早々に話を切り上げ、ミラのところに戻った。
「すまない、待たせた。」
「此方も話し終えたところです。」
「これは名誉男爵様とは露知らず、お許しください。」
「それが仕事なんだろ気にしてない。もういいか?」
「は、はい!」
ひどく怯えた様子でその男は逃げるように去っていった。
「何を言ったんだ?」
「誰の邪魔をしたのか丁寧にお話ししただけです。」
「シロウ、ミラを怒らせるのは止めた方がよいぞ。」
「・・・程々にな。」
これ以上は何も言うまい。
その後もいつものように買い付けを行い、それと一緒にこちらで足りない物の仕入れも行う。
こちらはこちらで色々と足りない物があるようだ。
いつもなら各自がそれぞれ仕入れをするのだが、この状況なのでそれも上手くいかず少しずつだが足りないものが出ていたらしい。
それを俺一人が独占して仕入れられるのは中々に美味い。
いや、美味いっていうレベルじゃない大儲けだ。
最後にシュウ達の所でグラスを買い付け、オークション受けしそうな一点物の品を手に入れた。
『影透かしの花瓶。西方に伝わる影透かしは、各工房に一人しか受け継ぐことが出来ない秘伝の製法と言われている。光に透かすと見えないほど小さな傷が影を作り、鮮やかな模様を映し出す。最近の平均取引価格は金貨20枚、最安値金貨5枚最高値金貨77枚。最終取引日は390日前と記録されています。』
平均価格でも金貨20枚を超える素晴らしい品。
これをその半値で買い付けることが出来た。
出す所に出せば金貨50枚ぐらい余裕かもしれない、もし高値で売れたら別の形で還元してもいいかもしれないな。
「自信作というだけあって見事な品だ。」
「応接室の花瓶に引けを取らない素晴らしさです。コレだけの品がこのような場所で売られているなんて、西方に行くとどんなものが手に入るのでしょうか。」
「そりゃ凄いものがたくさんあるんだろう。」
「私はこんな壊れそうな品よりも食べ物の方がいいんじゃが。」
「結構歩いたしな、そろそろアニエスさんと合流して飯にするか。」
まだ明るいが夕刻にさしかかろうかという頃だろ。
店が混む前に飯にしてもいいかもれない。
「ディーネ、アニエスさんの気配は分かるか?」
「あの女子なら・・・真ん中の大きな建物だな。」
「ってことはゴードンさんのところか。手間が省けた。」
ちょうど行こうと思っていたところだ。
ゾロゾロと店の前まで行った所で中からアニエスさんとネシアが出てきた。
「シロウ様、こちらでしたか。」
「ちょうど仕入れが終わったところだ、調査はどうだった?」
「ポーラ様より聞いた通りの内容でした。この前の一件以降それぞれの考えにズレがあるようですが致命的という感じはしません。」
「これもポーラ様が前街長より引継ぎ、尽力されているからです。ご納得いただけましたでしょうか。」
「今の所は。シロウ様はいかがでしたか?」
「あぁ、今回も良い品を仕入れることができた。ポーラさん直々に仕入れの依頼ももらったしな。」
「「ポーラ様が?」」
アニエスさんだけでなくネシアも驚きの声を上げる。
アニエスさんについて回っている間にそんな事が行われたとは思いもしなかったんだろう。
勝手をするなと言ってあったのかもしれない。
その辺はわからないが、この依頼がサプライズであることは間違いないようだ。
「色々と物資が不足しているそうじゃないか、まぁうちにある品ばかりだから近日中にうちの業者から納入させる。追加があったらその時に教えてくれ。」
「・・・わかりました。」
「ゴードンさんは中か?」
「はい。ですが仕事中のようで直接お話は出来ませんでした。」
「なら先に飯にして後でまた顔を出そう。」
「私はここで失礼します。アニエス監査官、どうぞよろしくお願い致します。」
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このあとまたゴードンさんと会うと言うのにネリアは同席しないようだ。
いや、同席出来ないぐらいに慌てているんだろう。
明らかに動揺してたもんなぁ。
小走りで去っていく彼の背中を見ながら思わず笑みが浮かんでしまった。
「とりあえず飯にしよう、ディーネが限界だ。」
「肉がいいぞ、魚は物足りん。」
「いや、ここまで来て生魚を食わない理由はないだろ。」
「それなら両方食えばいいじゃねぇか、良い店を紹介してやるぜ。」
「ゴードンさん、びっくりさせないでくれよ。」
突然後ろから両肩をガシッと捕まれ、心臓が飛び出るかと思った。
ネリアという邪魔者が出て行ったのを確認して出てきたんだろう。
「そこの飯は美味いのか?」
「もちろんだ、良い酒もある。あの男の慌てた様子を見る限り何かしてくれたんだろ?」
「俺は別に、寧ろやったのは街長だろうな。」
「どういうことだ?」
「まぁまぁそういう話は飯を食いながらにしようぜ。」
飯の話をしていたら腹の虫が鳴き出した。
流石に外でする話でもないので場所を変え、アニエスさんやゴードンさんから色々と聞かせてもらった。
ついでにゴードンさんからも依頼を受ける。
なんでもドラゴンの素材が足りないんだとか。
ドラゴンを目の前にして言う話じゃないかもしれないが、本人は目の前の巨大な肉に夢中なので別にいいだろう。
食ってるのもランドドラゴンの肉だし。
もっとも、キキ曰くあれはドラゴン種には分類されないんだとか。
じゃあ何だよというツッコミは無しだ、そういうのは本人に聞いてくれ。
そんなこんなで港町の夜は更けていく。
翌朝、早々に準備を済ませて港町を出発した。
長居は無用。
とりあえずエドワード陛下から受けた役目は果たしたし、いつもの仕事に戻らせてもらおう。
ナミル女史とも情報共有したいし。
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「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」
⋯⋯まじかよ。
これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。
語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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