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696.転売屋は帰還する

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流石に四度目の襲撃はなくあれ以降は穏やかな旅になった。

予定通り一週間で街へと帰還。

その日は仕事をする気にもならず、ぐっすりと休む・・・ことなんて出来るはずもなくたまった書類の山に忙殺された。

唯一の救いはリーシャを抱っこできたこと。

あの笑顔はどんな栄養ドリンクよりも元気になる。

「以上で書類は最後です、お疲れ様でした。」

「はぁ、ラフィムさんが鬼に見えた。」

「鬼がご希望でしたら今セーラが作っています書類をすぐにお持ちしましょうか?」

「勘弁してください。」

「冗談ですよ。中々大変な買い付けになったようですね。」

「まさか三度も魔物に襲われるとは思わなかったが、その分珍しい素材を手に入れることが出来た。エリザたちはもう休んだか?」

「エリザ様は早々にお休みに、キキ様はお店へ戻られました。」

流石のエリザも身重の体で久々の戦闘は疲れただろう。

お腹の子に負担をかけないためにも二日ぐらいゆっくりさせた方がいいかもしれない。

それにしてもキキは元気だなぁ。

コレが若さか。

「持ち込みは明日でいいだろう。アネットはどうしてる?」

「持ち帰られましたゴブリンとオーガの角を手に、嬉しそうに製薬室へと向かわれました。」

「珍しいものでもないだろうに。」

「それが、そうでもないらしく。」

「マジで?」

「ダンジョンの外に生息していた固体は角に魔素がたまらず、代わりにその土地の成分が蓄積するのだとか。詳しくは良く分かりませんが、薬効のあるコケが付着していたようでその成分が入っているかもしれないとのことです。」

よくわからんがいい物なら苦労して剥ぎ取った甲斐があったというものだ。

剥ぎ取ったのは俺じゃないけど。

「ワインの入荷については今日のうちにギルド協会へ打診、フライングフロッグの足は二割を自家消費、残りをイザベラ様のお店へ流します。この夏の目玉商品を探しておられましたのでちょうどよろしいかと。」

「遅い時間なのに悪いな。」

「コレが仕事ですから。」

「皮膜は冒険者ギルドに流さずちょっと保管しておいてくれ。」

「何か思いつかれましたか?」

「まぁ、そんな所だ。」

数は多くないがちょっと作ってみたいものがある。

前々から思っていたことなんだが、これからのシーズンを考えてもあって損はないはず。

とりあえず計画だけしておくとしよう。

「その探究心、敬服いたします。」

「探究心って言うか金儲けだな。売れば儲かる、だから作る。まぁそういうことをせず右から左に転がすだけで儲かるのが一番なんだが、なかなかなぁ。」

「あまり根を詰められませんよう、それでは失礼いたします。」

「おつかれさん。」

書類をまとめ、ラフィムさんが部屋を出て行った。

さて、俺も風呂に入って寝るとするか。

大きく伸びをしてから腕をぐるぐると回す。

ボキボキといい音を立てて骨が鳴る。

これ骨じゃなくて空気なんだっけ?

まぁどっちでもいいや。

執務室の明かりを消して廊下へ出ると、すぐ横に人影が出てきた。

「うぉ!ってミラか。」

「驚かせて申し訳ありません。」

「いやいい、どうした?」

「もう終わりですか?」

「あぁ、食堂で軽くつまんでから風呂に入るつもりだ。」

「ご一緒しても?」

「それはどっちだ?」

「もちろんどっちもです。」

一週間ぶりの帰還をどうやら待ちわびていたらしい。

ハーシェさんとリーシャには最初に挨拶したし、アネットは喜んで製薬室へ。

エリザがダウンしたとなると必然的にミラの出番だ。

いや、他の女達のために我慢していたんだろう。

愛いやつめ。

だらんと下げていた右腕を少しだけくの字にしてやると、するりと腕を絡ませてくる。

そのままぴたりと胸を押し付けゆっくりと廊下を進む。

ここで歩きにくいとか言ってはいけない。

言ったらどうなるか、分かるだろ?

「あれ、お館様こんな時間に。ミラ様もご一緒ですか。」

「やっと書類作業から解放されたんだ、今回仕入れてきたワインと何かつまめるものを頼めるか?」

「早速開けるんですね、ご一緒しても?」

「もちろんだ。今後はコレを飲むことを前提とした料理なんかも考えて貰わないといけないからな。」

「げ、また何かやるんですか?」

「当たり前だろ。」

せっかく手に入れた俺しか扱わない品だ、これを上手く生かさないでなんとする。

席に座るとすぐにワインが運ばれてきた。

グラスは二つ。

どうやら気を利かせてくれたらしい。

コルクに指を当てながらゆっくりと押し出していくと、ポンと良い音を立てて栓が外れた。

その途端に甘いぶどうの香りがふんわりと広がる。

「良い香りですね。」

「そうだな、グラスをくれ。」

ミラの前にグラスを置き、ゆっくりと注いでいく。

白ワイン独特の色をした液体が、シュワシュワと音を立てながらワイングラスを満たす。

「次は私が。」

「よろしく。」

瓶を手渡し、今度はミラがグラスに注ぐ。

お互いにグラスを取り、軽く触れ合わせてからそっと口に含んだ。

うーむ、向こうで飲んだ以上に美味いぞ。

フルーティーながら決して甘すぎず、シュワシュワとした刺激がたまらない。

グラスが違うからだろうか。

たしか、種類によってグラスを変えると何かの本で読んだことがある。

なるほどコレがそうなのか。

「美味いな。」

「はい、とても飲みやすくてそれでいてくどくありません。」

「お待たせしました。チーズとハムしかなかったんですけど、かまいませんか?」

「十分だ、ハワードも付き合え。」

「では遠慮なく。」

それからしばらくはこのたびの話とダンテが持ち込んだコメの話で盛り上がった。

まだ眠らせているようだが、早く食べてみたくて仕方がなかったらしい。

明日の昼はチャーハンでも作るか。

軽めの酒とはいえ飲みすぎると風呂に差し支える。

ある程度満たされた所でミラと共に風呂へ向かった。

「はぁ、久々の風呂はいいな。」

「旅行中は身体を拭く程度しかできませんから。」

「動いていないとはいえ汗はかくし、今回は色々あったから。」

「お聞きしました、大変だったようですね。」

「こっちは問題なかったようだが、手間をかけたな。」

「いえ。ですが一つお詫びしないといけないことがございます。」

一つの湯船でミラを抱くような感じでまったりしていると、突然ミラがくるりとこちらを向く。

形の良い乳がプルンと揺れた。

「なんだ、改まって。」

「シロウ様が留守の間、どうしても我慢できずベッドをお借りしました。お許しください。」

「お、おぉ。」

「我慢しようと思ったのですが、その日はどうも我慢できず。」

「ま、まぁそれぐらいは気にするな。」

「ありがとうございます。ちなみにその翌日にはアネットが、昨日はハーシェ様がリーシャ様と一緒にベッドを使用しております。もちろん清掃は済んでおりますのでご安心を。」

何を言い出すのかと思ったら、俺の予想の斜め上を行く内容だった。

っていうかミラだけじゃなくアネットやハーシェさんまで。

ぶっちゃけ意外だ。

「少しは満足できたのか?」

「いいえまったく。」

「だよな。」

「ですので、こうして貴重な時間を頂いています。」

またくるりと反対を向き、背中を俺に預けてくる。

お湯の中なのでそんなに重さは感じないが、しっかりと抱きしめつかの間の時間を共有。

もちろんその日の夜はミラと共に就寝した。

覚悟はしていたがそれ以上だったことを付け加えておく。

次からはその辺も考えて出かけるとしよう。


「随分ひどい顔ね。」

「悪いな、元からだ。」

「そのかわりミラはツヤツヤ、羨ましいわねぇ。」

「次は私の番ですね!」

満足気なミラと期待に目を輝かすアネット。

正直アネットがそこまでとは思っていなかったのだが、それに応えるのが男ってもんだ。

体力バカだからなぁ、薬飲んで頑張らないと。

朝食が終わった所で手をたたき、皆の意識をこちらに向ける。

「とりあえず今日から通常運行だ、引き続きよろしく頼む。ただしエリザは明日まで休んどけよ、今日は先生が来るんだからな。ミラは俺と一緒に回ってくれ、ハーシェさんはこの前買い付けた米の確認をするから昼以降時間を空けてくれ、アネットは持ち帰った素材の確認、セーラさんとラフィムさんは来月のオークションに向けた準備を進めて欲しい。目玉商品が無い状況だが、眠ったままの大物を売る絶好の機会だ。ハワードは昨日話した
件を宜しく頼むぞ、あと新しいコメは今日の昼に使うから卵とハムの準備宜しく。」

「え、マジですか!」

「何種類か作りたいものもあるから相談に乗ってくれ。後は・・・何かあるか?」

「出かけている間にモニカ様が来られました、それとルティエ様も。急ぎではないようですがお手すきの際に顔を出してあげてください。」

「モニカとルティエか、わかった。他は・・無いみたいだな。もうすぐ夏も終わりだから各自無理しないように。それじゃあ今日もよろしく頼む。」

「「「「はい!」」」」

そろそろ夏も後半。

色々と準備をしなければならない物もある。

無理せず頑張るとしよう。
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