上 下
698 / 1,063

695.転売屋は川を超える

しおりを挟む
ワインを大量に仕入れ、さぁ後はゆっくり帰るだけ。

そう思っていた俺達だったのだが、何故こうも問題ばかり起こるのだろうか。

「ん?混んでる?」

「まだ街道の途中だぞ?次の街まで半日はある。」

「でも前に馬車が止まってるんだもの。」

そんなまさかと体を起こし、運転席に移動して前を見つめる。

確かに街道の先に複数の馬車が見える。

この先は確か大きな川があったな。

「とりあえず行ってみるしかないだろう、道はここしかないんだ。」

「それもそうね。」

少し速度を落としながらゆっくりと街道を進むと、案の定川の手前あたりで馬車があふれていた。

何か騒ぎになっている訳ではない。

皆、のんびりと馬車を降りてお茶している感じだ。

「なんだ?」

「わかんない。」

「ちょっと見て来るか。」

「あ、一人で行かないでよ。キキ、馬車お願い!」

「ふぁ~い。」

適当な場所に馬車を止め、眠そうにっていうかさっきまで寝ていたキキに手綱を預けてエリザと共に先を進む。

しばらくして見えてきたのは誰も通らない巨大な石橋だ。

「なんで誰も進まないんだ?」

「さぁ。」

「まぁ、聞けばいいか。おーいなんで進まないんだ?」

「そりゃ魔物がいるからだよ。」

「魔物?」

「ほら、あそこ。」

煙管の様な道具でタバコをふかしていた紳士が指さした先は、橋の下。

川の真ん中に何やら黒い物が見える。

なんだろう、影でもないしよく見ると動いている感じがする。

橋と川面までは2m程。

さほど高くない川だけにさっさと渡ればとも思うんだが、それが出来ない理由があれなんだろう。

「あー、いるわね。」

「何が?」

「魔物よ魔物、あそこに潜んで橋の上を通る人を狙ってるんじゃないかしら。」

この上を通ってきたんだぞ?

その時は何もなかったと思うんだが。

「時々やってくるんだよなぁ。大丈夫だって、一晩したらどこかに行くから。」

「ってことはここに野宿か。」

「嫌なら手前の街に引き返す方がいいぞ~。」

そういうと紳士は再びタバコをふかしながらリクライニングチェアに寝転がった。

とりあえず一度戻るか。

「ただいま。」

「おかえりなさい、どうでした?」

「魔物がいるんだと。」

「川の真ん中に潜んで橋の上を通る人を狙ってるみたい。魚にしては大きいのよね。」

「川が黒く見えるってことはそれなりの数がいそうですね。」

「数まではわからないが、あの大きな川の真ん中を埋め尽くすぐらいだ。それぐらいの数はいるんだろう。」

「うーん、水中から強襲、大量、時間が経てばどこかへ行く・・・。もしかするとフライングフロッグかもしれません。」

飛ぶカエル?

ジャンプはするだろうけど飛ぶのか、あれ。

「えー!あのめんどくさいやつ!?」

「カエルが飛ぶのか?」

「水中から出てくるときはジャンプしますが、その後腕の下についた皮膜で滑空、上から獲物に襲い掛かり長い舌で巻き取り水中に引きずり込みます。」

「うわ、えっぐ。」

「高さがあると飛びますが、川の近くを歩くと水中から舌で襲ってくることもありますので注意が必要です。」

「結構強い強さで引っ張られるのよね。そりゃ通行禁止になるわよ。」

橋を通るといきなり上から襲われ、じゃあ川の浅い所を移動しようとすると無理やり水中に引きずり込まれる。

そりゃ誰も行きたがらないわけだ。

つまりここで野宿か、それとも引き返すか。

あぁ、早く帰りたかったなぁ。

「でも、素材が美味しいんですよね。」

「なに?」

「被膜は風を一切通さないので風よけに使えますし、肉は臭みもなく程よい弾力が癖になります。一か所に留まらずに移動するので中々手に入らないので必然的に値段が上がります。」

「狩ろう。」

「いや、狩ろうって簡単に言うけどさ。」

「ちなみにお酒に弱く少量のアルコールで動きが鈍ります。向こうは丸のみしかしてこないので、動きを鈍らせれば襲われても食べられることもありません。あとは水中から引きずりだしてとどめを刺すだけです。」

どや顔で説明するキキだが、本当に大丈夫なんだろうか。

飲まれなければというものの、引きずり込まれるのはやはり怖い。

やるのは俺じゃないけど。

「雷の魔法でどうにかする方法もありますが、生憎使えないんですよね。」

「となると方法は一つ。」

「おい、まさか。」

「ちょうどいい所にお酒があるじゃない。どうせまたジャニスさんが持ってきてくれるんだし、ここは珍しい素材を回収するところじゃないの?」

戦うっていっても周りに冒険者は数えるほどしかいない。

後は商人ばかりだ。

「じゃあ明日まで野宿する?」

「うぅむ・・・。」

「あ、そこにいるのはこの前の!」

「ん?」

どうしたもんかと考えあぐねていたら後ろから呼びかけられた。

振り返るとそこにいたのはこの前米を買った商人、ダンテだ。

「お、ダンテじゃないか。米はもう届けてくれたのか?」

「もちろんだ。別件で仕事をこなした帰りなんだが、まさかこんな所で会えるとはなぁ。」

「そしてまた魔物絡みだ。」

「今回は俺のせいじゃないぞ。」

「本当かぁ?」

「本当だって!」

最初は狼に襲われ、次にブドウ畑でゴブリンたちに遭遇、最後は帰りにカエルで足止め。

あれか、もしかして俺のせいか?

いやいやそんなはずはない。

ないよな?

「今回もどうにかならないか?」

「どうにかって言われてもなぁ、一応策はあるんだが・・・。」

「今日中に帰らないとカカァに怒られちまう、頼む何でもやるから教えてくれ!」

必死な理由がそれかよ。

とはいえ手伝いがあるのは助かるわけで。

「魔物、殺したことあるか?」

「そりゃ何回かは、だが武器があったらの話だって。」

「じゃああればできるのか?」

「そりゃまぁ。え、もしかして俺も戦うのか?」

「そういう事だ。安心しろ、いきなり食い殺されたりはしないらしい、多分。」

俺も戦ったことないし。

とはいえ、このままみすみす逃すのも惜しい。

滅多に出会えないのならそれなりの値段になるはずだ。

ここはやるだけやってみるとしよう。

「ちなみに今日はなんの荷物を運んでたんだ?」

「仕入れた火酒だ。全部で10箱、飲むのか?」

「今使う、半分くれ。」

「毎度あり!」

せっかく仕入れたワインを流すのはもったいない。

それに、ガツンと強い火酒の方がカエルも酔っぱらってくれるだろう。

さっそくダンテから火酒を買い、エリザと共に川上にぶちまける。

「あーあ、もったいない。」

「これが美味い肉になると思え、飲めない酒と食える肉どっちがいい?」

「お肉。」

「だろ?」

全部ぶちまけて橋に戻ると、何事かと商人と冒険者が集まっていた。

「お姉ちゃん、一匹おびき出してみたけど間違いないみたい。」

「じゃあもうすぐね。」

「おいおい、何をするんだ?」

さっきまで煙草をふかしていたおっちゃんが興味深そうに近寄ってくる。

よくみるといい体してるじゃないか。

「下のカエルを駆除して通り抜けるんだよ。」

「そんなことできるのか?」

「その為に準備してきた。おーい、戦えるやつは来てくれ!銀貨3枚出すぞー!」

「え、銀貨3枚?」

「動くまでは暇だし別にいいよな?」

「いいんじゃねぇか?」

金をもらえるとなると冒険者の目の色が変わる。

もちろん商人たちもだ。

「魔物を殺すって言っても武器なんてねぇぞ。」

「武器ならある。俺達が引っ張り出した奴にとどめを刺してくれればいい、どうだやるか?」

「それでここを通れるようになるんだよな?」

「家では可愛い子供が待ってるんだ、俺だって早く帰りたい。」

もう三日もリーシャの顔を見ていない。

早く帰って抱っこしたいんだよ俺は。

「俺はやるぞ!早く帰らねぇとカカァに怒られるからな!」

「俺だって商談に遅れそうなんだ。通れるなら何でもやるぜ!」

「俺もだ!」

「武器を貸してくれ!」

「そう来なくっちゃ。」

ダンテが声をあげてから他の商人も次々と名乗りを上げる。

そんな彼らに持ってきたものの売れ残った武器を渡し、臨時で雇った冒険者と共にエリザとキキが川辺へ近づく。

話に聞いていた通りある程度近づくと水中から長い舌が伸びてくるも、その勢いは弱くあっさりと掴まれそのままずるずると地上に引きずりだされる。

デカいカエルだ。

80cmぐらいありそうなそいつにはデカい脚と綺麗な被膜があった。

足は焼くと美味そうだ。

最初にエリザが引きずり出したやつを俺が受け取り、短剣で首元を一突きにしてやる。

抵抗はほとんどなく、すぐに息絶えた。

ビジュアルはあまりよくないが、危なげなく対処できるとわかってからはあっという間だった。

冒険者が次々にカエルを引っ張り出し、商人たちが上でとどめを刺していく。

時間にして1時間ほどでカエルは全部川から引きずり出された。

「いやー、助かった!これでカカァに怒られなくて済む。」

「そりゃなによりだ。」

「それにしてもびっくりしたよ、まさかお貴族様だったなんてなぁ。」

「俺か?」

「屋敷はデカいし、向こうの奥さんは美人だし。その割に偉そうじゃないんだから不思議なもんだ。」

「そういうのはあまり好きじゃ無くてな。」

魔物がいなくなったことで止まっていた馬車が順番に動き出す。

皆お礼を言いながら横を通り過ぎて行った。

意外にも使ってもらった武器が気に入ったとかでそのほとんどが売れてしまったし、なにより肉と素材が手に入ったのはデカい。

通れるようにしてくれたってことで素材は俺達の総取りでいいそうだ。

肉は残りの火酒をダンテから買い付け、別の商人に譲ってもらった壺に漬けてあるので大丈夫だろう。

『フライングフロッグの被膜。フライングフロッグは自慢の脚力で宙を舞った後、この被膜を用いて滑空、獲物を捕獲する。水中にいても水を含むことは無くまた空気を一切通さないことから風よけといて重宝されている。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨2枚最高値銀貨5枚最終取引日は49日前と記録されています。』

『フライングフロッグの肉。飛び上がるために巨大化した足の部分は見た目以上に柔らかく、また弾力も残っており食通を唸らせている。可食部が足のみなのが唯一の難点である。最近の平均取引価格は銅貨80枚。最安値銅貨70枚最高値銀貨1枚最終取引日は25日前と記録されています。』

どちらも予想以上に価値があるようだ。

それこそ、火酒を買った分なんてどうでもよくなってしまうぐらいに。

さて、もう少ししたら俺達の番。

早く帰ろう。

「シロウ、積み込んだわよ!」

「それじゃあまた。次は屋敷で会おう。」

「気を付けてな!」

「そりゃこっちのセリフだよ。」

二度あることは三度ある。

これで三度目だからもう四度目はないと思うんだが・・・。

若干の不安を感じながらも馬車に乗り込み俺達も出発した。

これ以上何も起きませんように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...