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695.転売屋は川を超える
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ワインを大量に仕入れ、さぁ後はゆっくり帰るだけ。
そう思っていた俺達だったのだが、何故こうも問題ばかり起こるのだろうか。
「ん?混んでる?」
「まだ街道の途中だぞ?次の街まで半日はある。」
「でも前に馬車が止まってるんだもの。」
そんなまさかと体を起こし、運転席に移動して前を見つめる。
確かに街道の先に複数の馬車が見える。
この先は確か大きな川があったな。
「とりあえず行ってみるしかないだろう、道はここしかないんだ。」
「それもそうね。」
少し速度を落としながらゆっくりと街道を進むと、案の定川の手前あたりで馬車があふれていた。
何か騒ぎになっている訳ではない。
皆、のんびりと馬車を降りてお茶している感じだ。
「なんだ?」
「わかんない。」
「ちょっと見て来るか。」
「あ、一人で行かないでよ。キキ、馬車お願い!」
「ふぁ~い。」
適当な場所に馬車を止め、眠そうにっていうかさっきまで寝ていたキキに手綱を預けてエリザと共に先を進む。
しばらくして見えてきたのは誰も通らない巨大な石橋だ。
「なんで誰も進まないんだ?」
「さぁ。」
「まぁ、聞けばいいか。おーいなんで進まないんだ?」
「そりゃ魔物がいるからだよ。」
「魔物?」
「ほら、あそこ。」
煙管の様な道具でタバコをふかしていた紳士が指さした先は、橋の下。
川の真ん中に何やら黒い物が見える。
なんだろう、影でもないしよく見ると動いている感じがする。
橋と川面までは2m程。
さほど高くない川だけにさっさと渡ればとも思うんだが、それが出来ない理由があれなんだろう。
「あー、いるわね。」
「何が?」
「魔物よ魔物、あそこに潜んで橋の上を通る人を狙ってるんじゃないかしら。」
この上を通ってきたんだぞ?
その時は何もなかったと思うんだが。
「時々やってくるんだよなぁ。大丈夫だって、一晩したらどこかに行くから。」
「ってことはここに野宿か。」
「嫌なら手前の街に引き返す方がいいぞ~。」
そういうと紳士は再びタバコをふかしながらリクライニングチェアに寝転がった。
とりあえず一度戻るか。
「ただいま。」
「おかえりなさい、どうでした?」
「魔物がいるんだと。」
「川の真ん中に潜んで橋の上を通る人を狙ってるみたい。魚にしては大きいのよね。」
「川が黒く見えるってことはそれなりの数がいそうですね。」
「数まではわからないが、あの大きな川の真ん中を埋め尽くすぐらいだ。それぐらいの数はいるんだろう。」
「うーん、水中から強襲、大量、時間が経てばどこかへ行く・・・。もしかするとフライングフロッグかもしれません。」
飛ぶカエル?
ジャンプはするだろうけど飛ぶのか、あれ。
「えー!あのめんどくさいやつ!?」
「カエルが飛ぶのか?」
「水中から出てくるときはジャンプしますが、その後腕の下についた皮膜で滑空、上から獲物に襲い掛かり長い舌で巻き取り水中に引きずり込みます。」
「うわ、えっぐ。」
「高さがあると飛びますが、川の近くを歩くと水中から舌で襲ってくることもありますので注意が必要です。」
「結構強い強さで引っ張られるのよね。そりゃ通行禁止になるわよ。」
橋を通るといきなり上から襲われ、じゃあ川の浅い所を移動しようとすると無理やり水中に引きずり込まれる。
そりゃ誰も行きたがらないわけだ。
つまりここで野宿か、それとも引き返すか。
あぁ、早く帰りたかったなぁ。
「でも、素材が美味しいんですよね。」
「なに?」
「被膜は風を一切通さないので風よけに使えますし、肉は臭みもなく程よい弾力が癖になります。一か所に留まらずに移動するので中々手に入らないので必然的に値段が上がります。」
「狩ろう。」
「いや、狩ろうって簡単に言うけどさ。」
「ちなみにお酒に弱く少量のアルコールで動きが鈍ります。向こうは丸のみしかしてこないので、動きを鈍らせれば襲われても食べられることもありません。あとは水中から引きずりだしてとどめを刺すだけです。」
どや顔で説明するキキだが、本当に大丈夫なんだろうか。
飲まれなければというものの、引きずり込まれるのはやはり怖い。
やるのは俺じゃないけど。
「雷の魔法でどうにかする方法もありますが、生憎使えないんですよね。」
「となると方法は一つ。」
「おい、まさか。」
「ちょうどいい所にお酒があるじゃない。どうせまたジャニスさんが持ってきてくれるんだし、ここは珍しい素材を回収するところじゃないの?」
戦うっていっても周りに冒険者は数えるほどしかいない。
後は商人ばかりだ。
「じゃあ明日まで野宿する?」
「うぅむ・・・。」
「あ、そこにいるのはこの前の!」
「ん?」
どうしたもんかと考えあぐねていたら後ろから呼びかけられた。
振り返るとそこにいたのはこの前米を買った商人、ダンテだ。
「お、ダンテじゃないか。米はもう届けてくれたのか?」
「もちろんだ。別件で仕事をこなした帰りなんだが、まさかこんな所で会えるとはなぁ。」
「そしてまた魔物絡みだ。」
「今回は俺のせいじゃないぞ。」
「本当かぁ?」
「本当だって!」
最初は狼に襲われ、次にブドウ畑でゴブリンたちに遭遇、最後は帰りにカエルで足止め。
あれか、もしかして俺のせいか?
いやいやそんなはずはない。
ないよな?
「今回もどうにかならないか?」
「どうにかって言われてもなぁ、一応策はあるんだが・・・。」
「今日中に帰らないとカカァに怒られちまう、頼む何でもやるから教えてくれ!」
必死な理由がそれかよ。
とはいえ手伝いがあるのは助かるわけで。
「魔物、殺したことあるか?」
「そりゃ何回かは、だが武器があったらの話だって。」
「じゃああればできるのか?」
「そりゃまぁ。え、もしかして俺も戦うのか?」
「そういう事だ。安心しろ、いきなり食い殺されたりはしないらしい、多分。」
俺も戦ったことないし。
とはいえ、このままみすみす逃すのも惜しい。
滅多に出会えないのならそれなりの値段になるはずだ。
ここはやるだけやってみるとしよう。
「ちなみに今日はなんの荷物を運んでたんだ?」
「仕入れた火酒だ。全部で10箱、飲むのか?」
「今使う、半分くれ。」
「毎度あり!」
せっかく仕入れたワインを流すのはもったいない。
それに、ガツンと強い火酒の方がカエルも酔っぱらってくれるだろう。
さっそくダンテから火酒を買い、エリザと共に川上にぶちまける。
「あーあ、もったいない。」
「これが美味い肉になると思え、飲めない酒と食える肉どっちがいい?」
「お肉。」
「だろ?」
全部ぶちまけて橋に戻ると、何事かと商人と冒険者が集まっていた。
「お姉ちゃん、一匹おびき出してみたけど間違いないみたい。」
「じゃあもうすぐね。」
「おいおい、何をするんだ?」
さっきまで煙草をふかしていたおっちゃんが興味深そうに近寄ってくる。
よくみるといい体してるじゃないか。
「下のカエルを駆除して通り抜けるんだよ。」
「そんなことできるのか?」
「その為に準備してきた。おーい、戦えるやつは来てくれ!銀貨3枚出すぞー!」
「え、銀貨3枚?」
「動くまでは暇だし別にいいよな?」
「いいんじゃねぇか?」
金をもらえるとなると冒険者の目の色が変わる。
もちろん商人たちもだ。
「魔物を殺すって言っても武器なんてねぇぞ。」
「武器ならある。俺達が引っ張り出した奴にとどめを刺してくれればいい、どうだやるか?」
「それでここを通れるようになるんだよな?」
「家では可愛い子供が待ってるんだ、俺だって早く帰りたい。」
もう三日もリーシャの顔を見ていない。
早く帰って抱っこしたいんだよ俺は。
「俺はやるぞ!早く帰らねぇとカカァに怒られるからな!」
「俺だって商談に遅れそうなんだ。通れるなら何でもやるぜ!」
「俺もだ!」
「武器を貸してくれ!」
「そう来なくっちゃ。」
ダンテが声をあげてから他の商人も次々と名乗りを上げる。
そんな彼らに持ってきたものの売れ残った武器を渡し、臨時で雇った冒険者と共にエリザとキキが川辺へ近づく。
話に聞いていた通りある程度近づくと水中から長い舌が伸びてくるも、その勢いは弱くあっさりと掴まれそのままずるずると地上に引きずりだされる。
デカいカエルだ。
80cmぐらいありそうなそいつにはデカい脚と綺麗な被膜があった。
足は焼くと美味そうだ。
最初にエリザが引きずり出したやつを俺が受け取り、短剣で首元を一突きにしてやる。
抵抗はほとんどなく、すぐに息絶えた。
ビジュアルはあまりよくないが、危なげなく対処できるとわかってからはあっという間だった。
冒険者が次々にカエルを引っ張り出し、商人たちが上でとどめを刺していく。
時間にして1時間ほどでカエルは全部川から引きずり出された。
「いやー、助かった!これでカカァに怒られなくて済む。」
「そりゃなによりだ。」
「それにしてもびっくりしたよ、まさかお貴族様だったなんてなぁ。」
「俺か?」
「屋敷はデカいし、向こうの奥さんは美人だし。その割に偉そうじゃないんだから不思議なもんだ。」
「そういうのはあまり好きじゃ無くてな。」
魔物がいなくなったことで止まっていた馬車が順番に動き出す。
皆お礼を言いながら横を通り過ぎて行った。
意外にも使ってもらった武器が気に入ったとかでそのほとんどが売れてしまったし、なにより肉と素材が手に入ったのはデカい。
通れるようにしてくれたってことで素材は俺達の総取りでいいそうだ。
肉は残りの火酒をダンテから買い付け、別の商人に譲ってもらった壺に漬けてあるので大丈夫だろう。
『フライングフロッグの被膜。フライングフロッグは自慢の脚力で宙を舞った後、この被膜を用いて滑空、獲物を捕獲する。水中にいても水を含むことは無くまた空気を一切通さないことから風よけといて重宝されている。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨2枚最高値銀貨5枚最終取引日は49日前と記録されています。』
『フライングフロッグの肉。飛び上がるために巨大化した足の部分は見た目以上に柔らかく、また弾力も残っており食通を唸らせている。可食部が足のみなのが唯一の難点である。最近の平均取引価格は銅貨80枚。最安値銅貨70枚最高値銀貨1枚最終取引日は25日前と記録されています。』
どちらも予想以上に価値があるようだ。
それこそ、火酒を買った分なんてどうでもよくなってしまうぐらいに。
さて、もう少ししたら俺達の番。
早く帰ろう。
「シロウ、積み込んだわよ!」
「それじゃあまた。次は屋敷で会おう。」
「気を付けてな!」
「そりゃこっちのセリフだよ。」
二度あることは三度ある。
これで三度目だからもう四度目はないと思うんだが・・・。
若干の不安を感じながらも馬車に乗り込み俺達も出発した。
これ以上何も起きませんように。
そう思っていた俺達だったのだが、何故こうも問題ばかり起こるのだろうか。
「ん?混んでる?」
「まだ街道の途中だぞ?次の街まで半日はある。」
「でも前に馬車が止まってるんだもの。」
そんなまさかと体を起こし、運転席に移動して前を見つめる。
確かに街道の先に複数の馬車が見える。
この先は確か大きな川があったな。
「とりあえず行ってみるしかないだろう、道はここしかないんだ。」
「それもそうね。」
少し速度を落としながらゆっくりと街道を進むと、案の定川の手前あたりで馬車があふれていた。
何か騒ぎになっている訳ではない。
皆、のんびりと馬車を降りてお茶している感じだ。
「なんだ?」
「わかんない。」
「ちょっと見て来るか。」
「あ、一人で行かないでよ。キキ、馬車お願い!」
「ふぁ~い。」
適当な場所に馬車を止め、眠そうにっていうかさっきまで寝ていたキキに手綱を預けてエリザと共に先を進む。
しばらくして見えてきたのは誰も通らない巨大な石橋だ。
「なんで誰も進まないんだ?」
「さぁ。」
「まぁ、聞けばいいか。おーいなんで進まないんだ?」
「そりゃ魔物がいるからだよ。」
「魔物?」
「ほら、あそこ。」
煙管の様な道具でタバコをふかしていた紳士が指さした先は、橋の下。
川の真ん中に何やら黒い物が見える。
なんだろう、影でもないしよく見ると動いている感じがする。
橋と川面までは2m程。
さほど高くない川だけにさっさと渡ればとも思うんだが、それが出来ない理由があれなんだろう。
「あー、いるわね。」
「何が?」
「魔物よ魔物、あそこに潜んで橋の上を通る人を狙ってるんじゃないかしら。」
この上を通ってきたんだぞ?
その時は何もなかったと思うんだが。
「時々やってくるんだよなぁ。大丈夫だって、一晩したらどこかに行くから。」
「ってことはここに野宿か。」
「嫌なら手前の街に引き返す方がいいぞ~。」
そういうと紳士は再びタバコをふかしながらリクライニングチェアに寝転がった。
とりあえず一度戻るか。
「ただいま。」
「おかえりなさい、どうでした?」
「魔物がいるんだと。」
「川の真ん中に潜んで橋の上を通る人を狙ってるみたい。魚にしては大きいのよね。」
「川が黒く見えるってことはそれなりの数がいそうですね。」
「数まではわからないが、あの大きな川の真ん中を埋め尽くすぐらいだ。それぐらいの数はいるんだろう。」
「うーん、水中から強襲、大量、時間が経てばどこかへ行く・・・。もしかするとフライングフロッグかもしれません。」
飛ぶカエル?
ジャンプはするだろうけど飛ぶのか、あれ。
「えー!あのめんどくさいやつ!?」
「カエルが飛ぶのか?」
「水中から出てくるときはジャンプしますが、その後腕の下についた皮膜で滑空、上から獲物に襲い掛かり長い舌で巻き取り水中に引きずり込みます。」
「うわ、えっぐ。」
「高さがあると飛びますが、川の近くを歩くと水中から舌で襲ってくることもありますので注意が必要です。」
「結構強い強さで引っ張られるのよね。そりゃ通行禁止になるわよ。」
橋を通るといきなり上から襲われ、じゃあ川の浅い所を移動しようとすると無理やり水中に引きずり込まれる。
そりゃ誰も行きたがらないわけだ。
つまりここで野宿か、それとも引き返すか。
あぁ、早く帰りたかったなぁ。
「でも、素材が美味しいんですよね。」
「なに?」
「被膜は風を一切通さないので風よけに使えますし、肉は臭みもなく程よい弾力が癖になります。一か所に留まらずに移動するので中々手に入らないので必然的に値段が上がります。」
「狩ろう。」
「いや、狩ろうって簡単に言うけどさ。」
「ちなみにお酒に弱く少量のアルコールで動きが鈍ります。向こうは丸のみしかしてこないので、動きを鈍らせれば襲われても食べられることもありません。あとは水中から引きずりだしてとどめを刺すだけです。」
どや顔で説明するキキだが、本当に大丈夫なんだろうか。
飲まれなければというものの、引きずり込まれるのはやはり怖い。
やるのは俺じゃないけど。
「雷の魔法でどうにかする方法もありますが、生憎使えないんですよね。」
「となると方法は一つ。」
「おい、まさか。」
「ちょうどいい所にお酒があるじゃない。どうせまたジャニスさんが持ってきてくれるんだし、ここは珍しい素材を回収するところじゃないの?」
戦うっていっても周りに冒険者は数えるほどしかいない。
後は商人ばかりだ。
「じゃあ明日まで野宿する?」
「うぅむ・・・。」
「あ、そこにいるのはこの前の!」
「ん?」
どうしたもんかと考えあぐねていたら後ろから呼びかけられた。
振り返るとそこにいたのはこの前米を買った商人、ダンテだ。
「お、ダンテじゃないか。米はもう届けてくれたのか?」
「もちろんだ。別件で仕事をこなした帰りなんだが、まさかこんな所で会えるとはなぁ。」
「そしてまた魔物絡みだ。」
「今回は俺のせいじゃないぞ。」
「本当かぁ?」
「本当だって!」
最初は狼に襲われ、次にブドウ畑でゴブリンたちに遭遇、最後は帰りにカエルで足止め。
あれか、もしかして俺のせいか?
いやいやそんなはずはない。
ないよな?
「今回もどうにかならないか?」
「どうにかって言われてもなぁ、一応策はあるんだが・・・。」
「今日中に帰らないとカカァに怒られちまう、頼む何でもやるから教えてくれ!」
必死な理由がそれかよ。
とはいえ手伝いがあるのは助かるわけで。
「魔物、殺したことあるか?」
「そりゃ何回かは、だが武器があったらの話だって。」
「じゃああればできるのか?」
「そりゃまぁ。え、もしかして俺も戦うのか?」
「そういう事だ。安心しろ、いきなり食い殺されたりはしないらしい、多分。」
俺も戦ったことないし。
とはいえ、このままみすみす逃すのも惜しい。
滅多に出会えないのならそれなりの値段になるはずだ。
ここはやるだけやってみるとしよう。
「ちなみに今日はなんの荷物を運んでたんだ?」
「仕入れた火酒だ。全部で10箱、飲むのか?」
「今使う、半分くれ。」
「毎度あり!」
せっかく仕入れたワインを流すのはもったいない。
それに、ガツンと強い火酒の方がカエルも酔っぱらってくれるだろう。
さっそくダンテから火酒を買い、エリザと共に川上にぶちまける。
「あーあ、もったいない。」
「これが美味い肉になると思え、飲めない酒と食える肉どっちがいい?」
「お肉。」
「だろ?」
全部ぶちまけて橋に戻ると、何事かと商人と冒険者が集まっていた。
「お姉ちゃん、一匹おびき出してみたけど間違いないみたい。」
「じゃあもうすぐね。」
「おいおい、何をするんだ?」
さっきまで煙草をふかしていたおっちゃんが興味深そうに近寄ってくる。
よくみるといい体してるじゃないか。
「下のカエルを駆除して通り抜けるんだよ。」
「そんなことできるのか?」
「その為に準備してきた。おーい、戦えるやつは来てくれ!銀貨3枚出すぞー!」
「え、銀貨3枚?」
「動くまでは暇だし別にいいよな?」
「いいんじゃねぇか?」
金をもらえるとなると冒険者の目の色が変わる。
もちろん商人たちもだ。
「魔物を殺すって言っても武器なんてねぇぞ。」
「武器ならある。俺達が引っ張り出した奴にとどめを刺してくれればいい、どうだやるか?」
「それでここを通れるようになるんだよな?」
「家では可愛い子供が待ってるんだ、俺だって早く帰りたい。」
もう三日もリーシャの顔を見ていない。
早く帰って抱っこしたいんだよ俺は。
「俺はやるぞ!早く帰らねぇとカカァに怒られるからな!」
「俺だって商談に遅れそうなんだ。通れるなら何でもやるぜ!」
「俺もだ!」
「武器を貸してくれ!」
「そう来なくっちゃ。」
ダンテが声をあげてから他の商人も次々と名乗りを上げる。
そんな彼らに持ってきたものの売れ残った武器を渡し、臨時で雇った冒険者と共にエリザとキキが川辺へ近づく。
話に聞いていた通りある程度近づくと水中から長い舌が伸びてくるも、その勢いは弱くあっさりと掴まれそのままずるずると地上に引きずりだされる。
デカいカエルだ。
80cmぐらいありそうなそいつにはデカい脚と綺麗な被膜があった。
足は焼くと美味そうだ。
最初にエリザが引きずり出したやつを俺が受け取り、短剣で首元を一突きにしてやる。
抵抗はほとんどなく、すぐに息絶えた。
ビジュアルはあまりよくないが、危なげなく対処できるとわかってからはあっという間だった。
冒険者が次々にカエルを引っ張り出し、商人たちが上でとどめを刺していく。
時間にして1時間ほどでカエルは全部川から引きずり出された。
「いやー、助かった!これでカカァに怒られなくて済む。」
「そりゃなによりだ。」
「それにしてもびっくりしたよ、まさかお貴族様だったなんてなぁ。」
「俺か?」
「屋敷はデカいし、向こうの奥さんは美人だし。その割に偉そうじゃないんだから不思議なもんだ。」
「そういうのはあまり好きじゃ無くてな。」
魔物がいなくなったことで止まっていた馬車が順番に動き出す。
皆お礼を言いながら横を通り過ぎて行った。
意外にも使ってもらった武器が気に入ったとかでそのほとんどが売れてしまったし、なにより肉と素材が手に入ったのはデカい。
通れるようにしてくれたってことで素材は俺達の総取りでいいそうだ。
肉は残りの火酒をダンテから買い付け、別の商人に譲ってもらった壺に漬けてあるので大丈夫だろう。
『フライングフロッグの被膜。フライングフロッグは自慢の脚力で宙を舞った後、この被膜を用いて滑空、獲物を捕獲する。水中にいても水を含むことは無くまた空気を一切通さないことから風よけといて重宝されている。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨2枚最高値銀貨5枚最終取引日は49日前と記録されています。』
『フライングフロッグの肉。飛び上がるために巨大化した足の部分は見た目以上に柔らかく、また弾力も残っており食通を唸らせている。可食部が足のみなのが唯一の難点である。最近の平均取引価格は銅貨80枚。最安値銅貨70枚最高値銀貨1枚最終取引日は25日前と記録されています。』
どちらも予想以上に価値があるようだ。
それこそ、火酒を買った分なんてどうでもよくなってしまうぐらいに。
さて、もう少ししたら俺達の番。
早く帰ろう。
「シロウ、積み込んだわよ!」
「それじゃあまた。次は屋敷で会おう。」
「気を付けてな!」
「そりゃこっちのセリフだよ。」
二度あることは三度ある。
これで三度目だからもう四度目はないと思うんだが・・・。
若干の不安を感じながらも馬車に乗り込み俺達も出発した。
これ以上何も起きませんように。
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