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688.転売屋は芋の生育を確認する
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「そうか、やっぱり駄目か。」
「はい。ナミル様が仰っていたように、初期の生育異常が確認出来ます。このまま栽培を続けても実が大きくなることはないでしょう。」
「前にもあった病気なのか?」
「そうですね、過去に何度か流行しています。ですが麦と一緒に流行った記憶はありません。」
「このまま行くと未曽有の大飢饉ってか?」
炎天下の畑でアグリと共に作付けしたばかりの芋を確認して回る。
が、どれもこれまでのような生育は見られず芽が出ているものはごくわずか。
土の中にいるにもかかわらず、種芋がしぼむという状況だ。
『ブラックトポテ』と呼ばれる疫病らしく、生育の遅れが主な症状らしく運よく出来上がった実も真っ黒ですぐに腐る事からその名前が付いたらしい。
うーむ、最初の作付けが大成功だっただけに二度目でこれは正直痛いな。
調子に乗って芋祭りなんてしたせいで備蓄を随分と減らしてしまった。
まぁ、やってよかったと思っているので後悔はしていない。
後悔するぐらいなら早々に対策を取ればいいだけだ。
「王都に備蓄があるはずですので、それを放出すれば国民すべてが飢えて死ぬという事はないでしょう。ですが口に出来る量が減るのは確実です。」
「量が減るうえに値段も高騰、俗に言う『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』ってやつか?」
「ケーキも小麦で出来ていますが。」
「知ってる、冗談だ。ここの場合は肉を食っとけと言えばいいだけだしな。」
「そうですね、この街に限れば麦と芋が無くても生きてはいけます。さらには麦ではなく米食の文化が根付いてきていますから、そっちに関して言えば豊作になりそうだとモーリスさんからも聞いています。飢えることはないでしょう。」
「あるとしたらそれ以外の街か。」
俺達はよくてもナミル女史やビアンカの所はそうも言ってられない。
早々に対策は取っているだろうが、代替品だった芋が不作になるとは考えていなかったはずだ。
現状ではその分が丸々不足してくる。
それを補う何かがなければ飢えるのは必至、つまりその何かがあれば大儲けができるというわけだ。
「喜ぶべきはオニトポテが順調なことでしょうか。予想よりも生育が早い、この分で行けば二回の収穫は確実です。もっとも、土が持てばの話ですが。」
「この間の襲撃で埋めた魔物が養分になってくれることを祈るしかないな。」
「そうですね、彼らの魔素がどれだけ地面に吸収されるかで生育が一気に変わります。しかし、コレがもし成功したら。」
「芋不足は解消とまでは行かないがかなり抑えられるはずだ。輸出は無理でも近隣の街が飢えないだけの量が取れればいい。」
「一回目の生育がよければ貸し畑も全てオニトポテに変更して量産します。」
「答えはあと二週間って所か。」
魔物が育てている食べ物は総じて収穫までの時間が早い。
通常二ヶ月はかかる芋の収穫も、オニトポテは半分の一ヶ月いや三週間で実をつけそうな勢いで大きくなっている。
この分で行けば二回は確実、秋の天候次第では三回目も不可能ではない。
そこまでいければ安泰だろう。
「引き続き生育状況を毎日確認してくれ。それと、普通の芋は廃棄だ。」
「すぐにとりかかります。」
「病気がどこから持ち込まれたかは知らないが、わざわざ病気を残しておく必要はない。根っこも含めてしっかり燃やしておいてくれ。」
「お任せください。」
本当は土ごと入れ替えたい所だが、他の野菜には影響しない病気のようなので土の自浄作用に期待するしかない。
空いた場所には二回目のオニトポテを植える予定だ。
畑を任せてその足でギルド協会へと向かう。
少し遅刻しているが大丈夫だろう。
「すまない、畑を確認していたら遅くなった。」
「そういう理由であれば仕方ありません。それで、芋はいかがでしたか?」
入ってすぐに一番大きい応接室へ案内される。
部屋の中にはいつもの面々、羊男とニアそれとアナスタシア様が俺を待っていた。
「残念だが普通の芋は全滅だ、疫病はもう入り込んでいると考えていい。今掘り起こして燃やすよう指示を出してきた。」
「そうですか。」
「オニトポテは?そっちはどうなの?」
「有難いことに今の所は順調といっていいだろう。一回目は確実、二回目は土に残った魔素がどれだけあるかにかかっている。とりあえずこの夏が終わるまでに二回の収穫を目指している所だ。」
「二回、ここは足りても他所の分までは足りませんわね。」
「そういう事だ。で、俺がいない間に何か決まったのか?」
今回の打ち合わせは確実に起きる食糧難にどう対処するか。
正確に言えばどうやって近隣に売り込む分を確保するかという話だ。
俺達は恵まれている。
地の利をしっかりと生かして売れるときに恩を売っておこうというわけだ。
街が街を支援する場合は俺のようにぼったくることは出来なくとも、それなりの値段で売ることは許容されているらしい。
もちろん安価で流すこともあるが、それは貧しい街を支援するときの話。
良い感じで蓄えているナミル女史の所なんかは普通に売りつけても問題ないだろう。
「とりあえず干し肉などの加工品を増やすことになりました。というかそれしか出来ないんですよね。」
「魔物関係の作物は常に供給できるわけじゃないし出来るとしたら魔物の肉を加工するぐらいかなって。それでも何もしないよりかはマシだと思う。」
「これが現実だよなぁ。」
「特別日持ちのする加工品を作っているわけじゃないしね、素人の私達が出来るのはそれぐらいよ。」
「前々から準備していてもこれが限界か。コメは良い感じにあるのになぁ。」
「シロウさんがお米を広めてくれたおかげで麦への依存度が随分下がりましたからね、それが出来ていなかったら毎日芋ばっかりですよ。」
「流石に連日はきつい物があるわ。」
他の街にもコメが広まれば仕入れをもっと安くできる。
今後はそっちの普及も視野に入れるべきだろう。
現状で食えと持って行っても受け入れられにくい。
まずはおにぎりからスタートだな。
「とりあえず干し肉を量産するってことは塩がいるな、岩塩は足りてるのか?」
「今採掘量を増やすように依頼してるけど、依頼料が安すぎてみんなやりたがらないのよねぇ。割りましても肉を集める方がどうしても高いし、お腹も膨らむし。」
「となると俺が手配しなきゃならないのか。」
「期待してるんですけど、ぶっちゃけいけます?」
「俺が行かなきゃ大丈夫だと思うが、あっちはあっちで結構きな臭いんだよなぁ。」
「聞いてるわ、長が変わってこの前の流行り病で揉めたそうね。」
「そうらしい。一触触発まではいかないが、火がくすぶっているのは間違いない。あそこが使えなくなると塩の供給が一気に落ちるぞ。」
今はガレイに頼んでいるので手に入るが、それも出来なくなる可能性がある。
無理やり大量に買い付けて備蓄する手もあるが、他の物資を置いておくので手一杯で置く場所がない。
いや、隣町に無理言っておいてもらう手もあるのか。
食糧支援を条件に頼めば断られることもないだろう。
岩塩があるとはいえ、今の生活には海塩も必須だ。
ゾイルに頼んでみるか。
「そうなったら他の地域から塩を回してもらうしかないですね。確か南方にも海があったはず、かなり遠いので割高にはなると思いますが不可能ではないかと。」
「南方か。」
「たしかハーシェさんを通じて取引していたわよね?」
「あぁ、避妊薬用の素材を買い付けてる。他のも時々だが取引している感じだ。」
「向こうから買い付け出来ないかしら。」
「頼んだことがないから何とも言えないな。食料品はあまり買い付けてこなかったから何があるかは正直わからない。とはいえ、今後はそっちも視野に入れるべきなんだろう。」
街を中心として東西をメインに商売してきたが、南方にも一応は商圏が広がっている。
北はいくつか村があるだけで後は山しかないので商圏ってほどじゃないんだよな。
牧畜の盛んな北側から仕入れるものはおっちゃんから仕入れることにしているし。
大量に注文するとしても同じだ。
いくら直接買い付けの方が安かったとしても、こればっかりは譲れない。
金儲けしか考えていない俺にだってそういう矜持は持ち合わせているつもりだ。
「理想を言えば新たな主食を発見できればですけれど、兎にも角にも我々にできることをするだけです。冒険者ギルドは肉の確保を、シロウさんには塩と芋をお願いします。」
「塩は渡すが芋はやらんぞ。」
「どうしてもだめですか?」
「言い値で買ってくれるなら話は別だ。」
「さすがにそれは。」
「なら大人しく干し肉を作ってろ。」
俺の大事な金づるをみすみす手放すはずないだろうが。
オニトポテはこの食糧難で一番輝く金の卵。
もちろん収穫量にもよるが失敗しないと俺は信じている。
あのアグリが出来ると言っているんだ、出来るんだろう。
「とりあえず干し肉と備蓄用の塩を依頼するわね、量は問わないから買えるだけ買ってちょうだい。費用は貴族と町が負担するから。」
「待て、俺も負担するのか?」
「貴族なんだし当然でしょ?」
「自分で仕入れて自分に金払うのか。」
「免除にした方が色々と面倒なんじゃなくて?」
「まぁそうだな。」
どちらにしようが儲かることに変わりはない。
塩は街から依頼料を、芋はギルド協会を介して直接売りつける。
どう転んでも儲かる話だ。
とりあえず細かい所をいくつか詰め、話し合いは終了した。
「しっかし、後から後から問題ばっかり起きるなぁ。」
「本当にそれです、疫病といいこの前の襲撃といい何なんですかね。」
「厄払いした方がいいんじゃないか?」
「シロウさんがですか?」
「なんでだよ。」
「だってほぼシロウさんに関わることじゃないですか。芋とか塩とか。」
「人聞きの悪い事を言うなよ。」
本気で俺のせいとか言われちゃ溜まったもんじゃない。
手広く仕事していたらどうしてもそんな風に見えるだけだっての。
まったく、失礼なやつだ。
「これ以上悪いことが起きないなら厄払いでも奉納でもなんでもするわよ。」
「アナスタシア様までそんな事を言うのか。」
「それで話が終わるなら安いもんじゃない。この前花贈りのお祭りをしたけど、もう一回やってもいいんじゃない。」
「それにかこつけて騒ぎたいだけなんじゃないか?」
「そんな事ないわよ?」
「本当か?」
「私が冗談言うと思う?」
いや、言うだろ。
備蓄を増やさないといけないのに大騒ぎしている余裕はないと思うんだが。
とはいえ気晴らしは必要だ。
あまり抑制しすぎてもよろしくない。
ガス抜きがてら何かしてもいいかもしれないなぁ。
もちろん金のかからない方法で。
「はい。ナミル様が仰っていたように、初期の生育異常が確認出来ます。このまま栽培を続けても実が大きくなることはないでしょう。」
「前にもあった病気なのか?」
「そうですね、過去に何度か流行しています。ですが麦と一緒に流行った記憶はありません。」
「このまま行くと未曽有の大飢饉ってか?」
炎天下の畑でアグリと共に作付けしたばかりの芋を確認して回る。
が、どれもこれまでのような生育は見られず芽が出ているものはごくわずか。
土の中にいるにもかかわらず、種芋がしぼむという状況だ。
『ブラックトポテ』と呼ばれる疫病らしく、生育の遅れが主な症状らしく運よく出来上がった実も真っ黒ですぐに腐る事からその名前が付いたらしい。
うーむ、最初の作付けが大成功だっただけに二度目でこれは正直痛いな。
調子に乗って芋祭りなんてしたせいで備蓄を随分と減らしてしまった。
まぁ、やってよかったと思っているので後悔はしていない。
後悔するぐらいなら早々に対策を取ればいいだけだ。
「王都に備蓄があるはずですので、それを放出すれば国民すべてが飢えて死ぬという事はないでしょう。ですが口に出来る量が減るのは確実です。」
「量が減るうえに値段も高騰、俗に言う『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』ってやつか?」
「ケーキも小麦で出来ていますが。」
「知ってる、冗談だ。ここの場合は肉を食っとけと言えばいいだけだしな。」
「そうですね、この街に限れば麦と芋が無くても生きてはいけます。さらには麦ではなく米食の文化が根付いてきていますから、そっちに関して言えば豊作になりそうだとモーリスさんからも聞いています。飢えることはないでしょう。」
「あるとしたらそれ以外の街か。」
俺達はよくてもナミル女史やビアンカの所はそうも言ってられない。
早々に対策は取っているだろうが、代替品だった芋が不作になるとは考えていなかったはずだ。
現状ではその分が丸々不足してくる。
それを補う何かがなければ飢えるのは必至、つまりその何かがあれば大儲けができるというわけだ。
「喜ぶべきはオニトポテが順調なことでしょうか。予想よりも生育が早い、この分で行けば二回の収穫は確実です。もっとも、土が持てばの話ですが。」
「この間の襲撃で埋めた魔物が養分になってくれることを祈るしかないな。」
「そうですね、彼らの魔素がどれだけ地面に吸収されるかで生育が一気に変わります。しかし、コレがもし成功したら。」
「芋不足は解消とまでは行かないがかなり抑えられるはずだ。輸出は無理でも近隣の街が飢えないだけの量が取れればいい。」
「一回目の生育がよければ貸し畑も全てオニトポテに変更して量産します。」
「答えはあと二週間って所か。」
魔物が育てている食べ物は総じて収穫までの時間が早い。
通常二ヶ月はかかる芋の収穫も、オニトポテは半分の一ヶ月いや三週間で実をつけそうな勢いで大きくなっている。
この分で行けば二回は確実、秋の天候次第では三回目も不可能ではない。
そこまでいければ安泰だろう。
「引き続き生育状況を毎日確認してくれ。それと、普通の芋は廃棄だ。」
「すぐにとりかかります。」
「病気がどこから持ち込まれたかは知らないが、わざわざ病気を残しておく必要はない。根っこも含めてしっかり燃やしておいてくれ。」
「お任せください。」
本当は土ごと入れ替えたい所だが、他の野菜には影響しない病気のようなので土の自浄作用に期待するしかない。
空いた場所には二回目のオニトポテを植える予定だ。
畑を任せてその足でギルド協会へと向かう。
少し遅刻しているが大丈夫だろう。
「すまない、畑を確認していたら遅くなった。」
「そういう理由であれば仕方ありません。それで、芋はいかがでしたか?」
入ってすぐに一番大きい応接室へ案内される。
部屋の中にはいつもの面々、羊男とニアそれとアナスタシア様が俺を待っていた。
「残念だが普通の芋は全滅だ、疫病はもう入り込んでいると考えていい。今掘り起こして燃やすよう指示を出してきた。」
「そうですか。」
「オニトポテは?そっちはどうなの?」
「有難いことに今の所は順調といっていいだろう。一回目は確実、二回目は土に残った魔素がどれだけあるかにかかっている。とりあえずこの夏が終わるまでに二回の収穫を目指している所だ。」
「二回、ここは足りても他所の分までは足りませんわね。」
「そういう事だ。で、俺がいない間に何か決まったのか?」
今回の打ち合わせは確実に起きる食糧難にどう対処するか。
正確に言えばどうやって近隣に売り込む分を確保するかという話だ。
俺達は恵まれている。
地の利をしっかりと生かして売れるときに恩を売っておこうというわけだ。
街が街を支援する場合は俺のようにぼったくることは出来なくとも、それなりの値段で売ることは許容されているらしい。
もちろん安価で流すこともあるが、それは貧しい街を支援するときの話。
良い感じで蓄えているナミル女史の所なんかは普通に売りつけても問題ないだろう。
「とりあえず干し肉などの加工品を増やすことになりました。というかそれしか出来ないんですよね。」
「魔物関係の作物は常に供給できるわけじゃないし出来るとしたら魔物の肉を加工するぐらいかなって。それでも何もしないよりかはマシだと思う。」
「これが現実だよなぁ。」
「特別日持ちのする加工品を作っているわけじゃないしね、素人の私達が出来るのはそれぐらいよ。」
「前々から準備していてもこれが限界か。コメは良い感じにあるのになぁ。」
「シロウさんがお米を広めてくれたおかげで麦への依存度が随分下がりましたからね、それが出来ていなかったら毎日芋ばっかりですよ。」
「流石に連日はきつい物があるわ。」
他の街にもコメが広まれば仕入れをもっと安くできる。
今後はそっちの普及も視野に入れるべきだろう。
現状で食えと持って行っても受け入れられにくい。
まずはおにぎりからスタートだな。
「とりあえず干し肉を量産するってことは塩がいるな、岩塩は足りてるのか?」
「今採掘量を増やすように依頼してるけど、依頼料が安すぎてみんなやりたがらないのよねぇ。割りましても肉を集める方がどうしても高いし、お腹も膨らむし。」
「となると俺が手配しなきゃならないのか。」
「期待してるんですけど、ぶっちゃけいけます?」
「俺が行かなきゃ大丈夫だと思うが、あっちはあっちで結構きな臭いんだよなぁ。」
「聞いてるわ、長が変わってこの前の流行り病で揉めたそうね。」
「そうらしい。一触触発まではいかないが、火がくすぶっているのは間違いない。あそこが使えなくなると塩の供給が一気に落ちるぞ。」
今はガレイに頼んでいるので手に入るが、それも出来なくなる可能性がある。
無理やり大量に買い付けて備蓄する手もあるが、他の物資を置いておくので手一杯で置く場所がない。
いや、隣町に無理言っておいてもらう手もあるのか。
食糧支援を条件に頼めば断られることもないだろう。
岩塩があるとはいえ、今の生活には海塩も必須だ。
ゾイルに頼んでみるか。
「そうなったら他の地域から塩を回してもらうしかないですね。確か南方にも海があったはず、かなり遠いので割高にはなると思いますが不可能ではないかと。」
「南方か。」
「たしかハーシェさんを通じて取引していたわよね?」
「あぁ、避妊薬用の素材を買い付けてる。他のも時々だが取引している感じだ。」
「向こうから買い付け出来ないかしら。」
「頼んだことがないから何とも言えないな。食料品はあまり買い付けてこなかったから何があるかは正直わからない。とはいえ、今後はそっちも視野に入れるべきなんだろう。」
街を中心として東西をメインに商売してきたが、南方にも一応は商圏が広がっている。
北はいくつか村があるだけで後は山しかないので商圏ってほどじゃないんだよな。
牧畜の盛んな北側から仕入れるものはおっちゃんから仕入れることにしているし。
大量に注文するとしても同じだ。
いくら直接買い付けの方が安かったとしても、こればっかりは譲れない。
金儲けしか考えていない俺にだってそういう矜持は持ち合わせているつもりだ。
「理想を言えば新たな主食を発見できればですけれど、兎にも角にも我々にできることをするだけです。冒険者ギルドは肉の確保を、シロウさんには塩と芋をお願いします。」
「塩は渡すが芋はやらんぞ。」
「どうしてもだめですか?」
「言い値で買ってくれるなら話は別だ。」
「さすがにそれは。」
「なら大人しく干し肉を作ってろ。」
俺の大事な金づるをみすみす手放すはずないだろうが。
オニトポテはこの食糧難で一番輝く金の卵。
もちろん収穫量にもよるが失敗しないと俺は信じている。
あのアグリが出来ると言っているんだ、出来るんだろう。
「とりあえず干し肉と備蓄用の塩を依頼するわね、量は問わないから買えるだけ買ってちょうだい。費用は貴族と町が負担するから。」
「待て、俺も負担するのか?」
「貴族なんだし当然でしょ?」
「自分で仕入れて自分に金払うのか。」
「免除にした方が色々と面倒なんじゃなくて?」
「まぁそうだな。」
どちらにしようが儲かることに変わりはない。
塩は街から依頼料を、芋はギルド協会を介して直接売りつける。
どう転んでも儲かる話だ。
とりあえず細かい所をいくつか詰め、話し合いは終了した。
「しっかし、後から後から問題ばっかり起きるなぁ。」
「本当にそれです、疫病といいこの前の襲撃といい何なんですかね。」
「厄払いした方がいいんじゃないか?」
「シロウさんがですか?」
「なんでだよ。」
「だってほぼシロウさんに関わることじゃないですか。芋とか塩とか。」
「人聞きの悪い事を言うなよ。」
本気で俺のせいとか言われちゃ溜まったもんじゃない。
手広く仕事していたらどうしてもそんな風に見えるだけだっての。
まったく、失礼なやつだ。
「これ以上悪いことが起きないなら厄払いでも奉納でもなんでもするわよ。」
「アナスタシア様までそんな事を言うのか。」
「それで話が終わるなら安いもんじゃない。この前花贈りのお祭りをしたけど、もう一回やってもいいんじゃない。」
「それにかこつけて騒ぎたいだけなんじゃないか?」
「そんな事ないわよ?」
「本当か?」
「私が冗談言うと思う?」
いや、言うだろ。
備蓄を増やさないといけないのに大騒ぎしている余裕はないと思うんだが。
とはいえ気晴らしは必要だ。
あまり抑制しすぎてもよろしくない。
ガス抜きがてら何かしてもいいかもしれないなぁ。
もちろん金のかからない方法で。
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