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683.転売屋は服を売る

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「アナタ、王都から荷物が届きましたよ。」

「お、ようやく到着か。」

「空気清浄機は予約者へ、出産祝いはひとまず応接室に集めてあります。あとでリストを作りますので見ておいてくださいね。それと・・・。」

「まだあるのか?」

「服が届きました。」

お、そういえばそんなのもあったな。

予定よりも早いのはあの三人が頑張ってくれたからだろう。

「中身は見たか?」

「いえ、ひとまずご報告だけと思いまして。」

「なら皆で中身を確認しておいてくれ、欲しいのがあれば先に抜いて貰ってかまわない。余った分を売りに出すから。」

「よろしいのですか?」

「いいのがあればな。」

この間下着だの服だのを大量に購入した所なのでそこまで持っていくことはしないだろう。

服の販売に関してはローザさんの許可も取っているので遠慮は要らない。

とりあえず初めてだし露店に出してみるか。

「では皆で確認してからご報告いたします。」

「よろしく。終わったらエリザにでも言って市場に持ってこさせてくれ。」

「わかりました。」

確かまだ全員屋敷にいたはずだ、そんなに時間はかからないだろう。

市場へと向かい、いつもの場所を借りるつもりだったのだが生憎と先客がいたため別の場所を使うことになった。

まぁいいか、後でおっちゃんとおばちゃんに挨拶しておけば。

前もって用意しておいた簡易のハンガーラックを広げ、荷物が届くのを待つ。

「お待たせ、今日はここなのね。」

「あぁ先客がいたみたいだ。ま、どこでもいいだろう。」

「ちょっと奥まってるけどその分広いしね。」

「いいのはあったか?」

「前にいっぱい買ってもらったから。キルシュとミミィに一着ずつ選んであげたけど、かまわないでしょ?」

「あぁ、問題ない。」

たまにはいつもの使用人服と違うものを着てもいいだろう。

奴隷とはいえちゃんと休みの日もある。

小遣い程度だが好きに使える金も渡しているし、気分転換になるだろうさ。

「ここにかけていけばいいのよね?」

「あぁ、一緒にハンガーも入っていただろ?あまり見せられないやつだけはしまっておいて、問題ない奴は展示しておこう。あまり直置きしたくないし。」

「せっかく王都から運んできたんだから。値段はどうするの?」

「そこなんだよなぁ、高すぎると売れないしかといって安いと利益が出ない。王都の品ってことで多少高くても売れると思うんだが。」

「じゃあ一着銀貨20枚ぐらい?」

「それぐらいから様子を見るか。」

売れなければ値段を下げていけばいい。

この世界では中古と新品の割合が半々。

田舎に行けば行くほど中古率は上がっていくが、まったくないわけではない。

この街なんかはまさに半々だな、ローザさんの服は良く売れているが中古品も露店で取引されている。

まだ着れるはもう着ない、だったか。

着ない服を寝かせておくぐらいなら他の人に使って貰うって言う下地があるんだよな。

冒険者なんかは特にそんな感じだ。

普段鎧を着ていることが多いだけに、私服はあまり持っていない。

だからといって新品を買うかといえばそうでもない。

普段着ないからこそ安くてもいい、そういう考えの奴は結構いる。

その点、店に並んでいるのは王都らしい洗練された色使いとデザイン。

素人の俺でも売れる!と実感できる品ばかりだ。

金を持ち始めた冒険者にお洒落着として買ってもらおうという計画、だったんだが。

「売れないわね。」

「だな。値段っていう感じでもなさそうだし、興味がないのか?」

「興味はあると思うけど。実際に下着は売れたでしょ?」

「むしろそれだけだろ。この服なんかは綺麗だし時期的にも売れそうなんだけどなぁ。」

真っ白なワンピースの裾をつまんで広げてみる。

麦藁帽子をかぶれば避暑に来たお姫様って感じすらするいい感じのデザイン。

シンプルだが素材はしっかりしているし、上から何か羽織れば秋口ぐらいまで使えそうだ。

にもかかわらず、見ていく人はいるものの皆首をかしげて去っていってしまう。

興味がないわけじゃない。

実際その足で三軒となりの中古服を見に行き、似たようなのを買っていったのを俺は見ている。

値段じゃない。

じゃあデザインが悪いのか?ともいえない。

うーむ分からん。

ちなみに値段は銀貨5枚下がっている。

銀貨十枚にしてしまうと利益が出なくなってしまうので、そこまで下げるのは正直避けたい所だ。

「いらっしゃい、良かったら見て行って。」

「あ!エリザさん、今日はギルドじゃないんですね。」

「シロウの手伝いに借り出されてるの。王都のデザイナーから買い付けた奴なんだけど、一着どう?最近彼氏出来たって言ってたわよね。」

女性冒険者がエリザに気付き声をかけてきた。

そのままスムーズに商品紹介へと移るもあれこれ見た割にはあまり反応はよろしくなかった。

「なぁ、ぶっちゃけどう思う?」

「え、どう思うってのは?」

「気に入ってくれてはいるみたいだが買わないだろ?値段か?それともデザインか?正直に教えてくれ。」

「いいわよボロクソに言っても、怒らないから。」

「エリザの言うとおりだ、売れない理由が知りたい。遠慮なく言ってくれ。」

分からないなら聞けばいい。

なんともいいにくそうな顔をしていた冒険者だったが、意を決したように顔を上げる。

「綺麗なのは分かるんですけど、生地は薄いしあんまり丈夫そうじゃないなぁって。それにコレ着てどこに行くんですか?回りは草原、行く場所もダンジョンか飲み屋ぐらいですよ?似合わなさ過ぎますって。」

「あー、確かにそうかもね。コレ着てダンジョンは場違いすぎるわ。」

「ですよね。可愛いのは分かるんですけど、彼氏の前でもコレはちょっと着ないかなぁって。」

「なるほどなぁ、着ていく場所がないか。」

「そもそも私達そんなお上品じゃないですし、コレに銀貨15枚だすなら新しい下着買って美味しいご飯食べます。」

下着は買うのか。

そういやエリザも服は少ないが下着は多かったなぁ。

見えない部分で楽しむからと思っていたのだが、どっちかっていうと湿ったままなのがイヤなのかもしれない。

清潔さは探索に必要不可欠だし、下着なら鎧を着ても邪魔にならない。

そうか、そういう奴が好まれているのか。

「貴重な意見ありがとう、非常に参考になった。」

「よかったです。」

「それじゃあエリザ様また。」

「えぇ、また明日ね。」

ぺこりと頭を下げて冒険者は去っていった。

そうか、いくら物がよくても需要に見合わなければ売れるはずがないか。

それもそうだよな。

「なるほどなぁ。」

「売れないわけね。」

「あぁ、欲しいと思わなければ売れるはずがない。至極真っ当な答えだ。」

「でもどうするの?毎月新しいのが送られてくるのよ?投げ売りするの?」

「いやいや、輸送コストもかけてるんだそんなもったいないことできるか。」

「でもどうするの?値段下げても売れないわよ?他の街に出す?」

「他所も同じようなもんだ。王都ならともかく着ていく場所が無ければ売れるはずがない。」

「じゃあ・・・。」

売れない理由はわかった。

でもそれは『冒険者』にであって、全ての客に対してではない。

着ていく場所が無いのなら、着ていく場所がある人に売ればいい。

こんな街でも着飾りたいと思っている人はそれなりにいる。

しかも、そういう人ほど王都というブランドに弱い。

なにもわざわざ安売りする必要なんてないんだ。

むしろがっつりふっかけて売ってやればいい。

「ちょうど明日貴族との顔合わせって事でアナスタシア様に呼ばれている。確かそこには奥様方も大勢来ていたはずだ。王都の最先端デザイン、加えて化粧品とアクセサリーの新作発表、売れない要素はどこにもないな。」

「なるほどね。」

「せっかく持ってきてもらって悪いが今日は撤退だ。いくら王都のデザインとはいえこの街ではローザさんの服にかなうはずがないって事がよくわかったよ。」

「だから自信ありげだったのね、ローザさん。」

「だな。今度詫びを入れておく。」

王都の品だから売れる、迷惑はかけないだなんて啖呵を切った自分が恥ずかしい。

まぁ、向こうもそれをわかっているから認めてくれたんだろう。

早々に服を片付け、市場を後にする。

あぁ、ちゃんとおっちゃんおばちゃんには声をかけたぞ。

最近はエリザがお菓子作りに嵌ってしまったのでバターの消費量が半端ないんだ。

毎日仕入れないと追いつかない。

食べる方の身にもなってくれよな、美味いけどさぁ。

「ねぇ、ローザさんの所に行くならさドレスの件も話したいから一緒に行ってもいい?」

「もちろん構わないぞ。」

「よかった、フラワーリーフを使いたいって話しておいたからそろそろデザインが上がってると思うの。すっごい値段になるから覚悟しなさいよね。」

「望む所だ。金貨10枚でも作ってやる。」

「それで済めばいいけど。」

「マジか。」

「それはローザさん次第ね。でもあり得るんじゃないかしら。」

「安定期に入ったらお前もしっかり稼げよ?」

「わかってるわよ。そろそろ私も限界だし、早く体を動かしたいわ。」

早々にダンジョンでストレスを発散してもらわないと、俺の腹がやばいことにある。

ただでさえ食いすぎるのに、これ以上甘いものを摂取したらマジで昔の体に逆戻りだ。

運動するにも限界ってもんがある。

最近は夜の米を減らしたり色々と努力してるんだが、その頑張りを無駄にするわけにはいかない。

荷物を抱え屋敷へと戻る。

さて、詫び菓子は何にするか。

いっそのことエリザに作ってもらえば一石二鳥じゃないだろうか。

うん、それがいい。

作ってもいいぞといえば喜んで手の込んだのを作ってくれるだろう。

エリザの機嫌もよくなって一石三鳥だ。

そんな魂胆を知らずに先を行く大事な嫁(エリザ)を喜ばせるべく、俺はそっと耳打ちするのだった。
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