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673.転売屋は芋を探す

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「あの、シロウ様ちょっといいですか?」

「どうしたメルディ。」

「冒険者の方が珍しいお芋を持ってきたんですけど、あまり取引履歴も無いので値段がつけられなくて。」

「ふむ、ちょっと見せてみろ。」

いつものように店の中庭で装備品の値付をしていると、メルディが申し訳なさそうにやってきた。

手には掌大の楕円形をした何かを持っている。

ふむ、確かに余り見たことのないものだな。

キキの鑑定スキルである程度の種類はわかっても、値段は経験が物を言う。

特にあまり見たことのない物はどうしても躊躇してしまうものだ。

もっとも、俺には相場スキルがあるのでその心配は一切無いけどな。

『オニトポテ。通称子鬼の芋とも呼ばれている楕円形をした細長い芋。仄かな甘みがあり通常のトポテと違い火が通っても煮崩れしづらい。ただし、生育するためにはそれなりの魔素を必要とするため、余り地上では流通しておらず生育させるのも難しい。最近の平均取引価格は銅貨10枚。最安値銅貨5枚最高値18枚。最終取引日は20日前と記録されています。』

ふむ、オニオニオンと同じく魔物が育てている食材か。

普通のトポテと違って魔素がないと育たないというのは確かに地上では大きなハンデになるだろう。

別にコレじゃなくても普通のトポテを育てればいいわけだし。

でもこの形、そしてこの鑑定結果。

ここから導き出される答えは一つ。

フライドポテト食いてぇなぁ。

「どのぐらいある?」

「全部で20個です、痛みはありませんでした。」

「じゃあ全部で銀貨1枚ならいいぞといってやれ、それで渋るようなら後銅貨30枚だ。」

「何かに使えますか?」

「食うと意外に美味いらしい。」

「買い取ります!」

最近のメルディはエリザばりに食い意地が張ってきたよな。

まぁダメじゃないんだけどさ。

文字通り飛ぶようにして店に戻ったメルディの後姿を見つめながら俺は思わず笑みを浮かべる。

もちろんおかしかったからじゃない。

次なる仕込みを思いついてしまったからだ。

夏といえばエール。

そしてフライドポテト。

某ファーストフード店のようなマッシュしたものを成形しても良いし、皮付きであげても美味いんだよな。

ぶっちゃけ一度普通のトポテでやってみたんだが、思うような仕上がりにならなかった。

美味いのは美味いんだけど、コレじゃない。

だが、もしかするとあれなら俺の思っていた味を引き出せるんじゃないだろうか。

そんな風に思ってしまったわけだ。

だが問題がある。

食べればなくなるんだ。

冒険者に依頼を出して回収してきて貰うという手もいつも通りあるが、どうしてもそのやり方だとコストが上がる。

その点自分で栽培できれば大量生産できるので一気にコストを下げられる。

なんせさっきの相場は一個単位の価格だ。

それなりに大きかったけれど、一人前ともなれば最低でも3個は使う。

となると、原価だけで銅貨15枚。

売り出し価格は銅貨25枚ほどになってしまう。

フライドポテトなのに手軽に食えないってどういうことだよ。

それを解決するために、自分で育てようというわけだ。

幸いにもうちの畑は魔素が多い。

正確に言えば多いわけではなく後々で補充している感じはあるのだが、スカイビーンズの跡地やアネットの肥料を使えば十分に生育させることが出来るんじゃないだろうか。

一押しは畑の北側、カニバフラワーたちの傍が魔物の血と魔素を吸っていい感じに土が肥えている。

まさにぴったりの場所といえるだろう。

問題は畑に別の芋を植えているということだ。

アレをどうにかしなければ量産することすら出来ないんだよなぁ。

いや、そもそも量産できるかどうかすら分からないんだ。

まずは現物が手に入ってから考えよう。

引き続き作業に戻り、値付けを終えて店に戻る。

「さっきの芋ってどうなった?」

「買い取りました!」

「そうか。」

「でも、食べるには少ないですよね。」

「そうなんだよなぁ。欲しければ冒険者に依頼を出せば済む話なんだが、食うならたくさん食べたいだろ?」

「食べたいです!」

だよなぁ。

買い取った芋を手に取りしげしげと見つめる。

たしかメークインがこんな形だったはずだ。

とはいえ、まったく一緒というわけじゃない。

アレは結構すべすべしていたけれど、これはかなりごつごつ感が強い。

男爵っぽい感じ。

足して二で割るとちょうどいいだろうか。

味は・・・食べてないのでなんともいえない。

鑑定結果からすれば美味いんだろう。

とりあえず畑に持っていってみるか。

「一個もらうぞ。」

「どうぞ~。」

芋を手に取りその足で畑へと向かう。

夏野菜がコレでもかといわんばかりに生い茂っている。

今日も畑はお祭り騒ぎだ。

「これはシロウ様、こんな暑い時間にどうしました?」

「ちょっと見て欲しいものがある。」

最初にルフが気付き、それに気付いたアグリが此方にやってきた。

麦藁帽子に首から白いタオルをかけている。

まさに農作業中という感じだ。

そんなアグリに向かって持っていた芋を投げる。

慌てる事無く見事にキャッチされてしまった。

この男、出来る。

「これは・・・芋なのは分かりますが、見たことのない種類ですね。」

「オニトポテ、子鬼芋とも呼ばれているそうだ。」

「聞いたことはありますが、これがそうなんですね。」

「基本はダンジョンの中でしか育たないそうだ。なんでも生育に魔素が必要なんだと。」

「なるほど。確かに普通の畑では育たないでしょう。」

「そうだな、普通の所では。」

お互いに顔を見てニヤリと笑う。

そう、普通の畑では無理だ。

だが、ここは普通の畑ではない。

アグリという男が手塩にかけて耕し、作り上げた最高の実験場。

なんせあの飽食の豆を栽培して尚、土が枯れないんだから恐れ入る。

更にはその上に芋をまいているんだから。

ちなみに普通に成長していて、収穫の日は近い。

「文献を調べてみてからになりますが、可能性は十分にあるかと。」

「やってみてくれるか?」

「いくつあります?」

「今の所全部で20だ。味も分からないし、植えるのはそれを確認してからになる。」

「お眼鏡にかなうようなら最低でも100、いえ200は欲しい所ですね。」

「そうなるよなぁ。」

「植えて成長する保障はありません、予備は持っておくべきです。もし本当にここで栽培できるのならば新しい備蓄用食物として量産することが出来ます。いくらあっても問題ありませんよ。」

つまり金儲けの種になるということだ。

芋系は基本日持ちするから、麦が不作の今年はかなり重宝されるだろう。

もちろん味次第だが。

「わかった、とりあえず食ってみていけそうなら集めよう。」

「ではそれまでに此方も調べておきます。」

「よろしく頼む。」

「新しい食べ物ですが、年甲斐も無く興奮してしまいますね。」

「いや、マジで嬉しそうだな。」

「嬉しいですから。」

それは何より。

さすが農業オタク、まるで新しい玩具をもらった子供のようだ。

店に戻り虎の子の芋を半分料理に使う。

調理法はいたってシンプル。

茹でる、焼く、揚げる、以上だ。

検証の結果、揚げと茹ではいい感じだった。

鑑定スキルに書いてあったように仄かな甘みがあり、また湯がいても形が崩れない。

つまり肉じゃがやシチュー、フライドポテトなんかにも使えるというわけだ。

カレーに入れても美味しいだろう。

芋は万能食材だからなぁ。

ここに来るまでにもっと色々と勉強しておけばよかった。

とはいえ、図書館に行けばこの世界の調理法がたくさん書いてあるはず。

それを見ればいいだけだ。

メルディとキキのお墨付きを得たので早速冒険者ギルドへ向かい、芋の追加調達を頼む。

「え、子鬼芋をそんなに?美味しいの?」

「美味い。が、今回は食用じゃない。」

「食べないのに集める、植えるとか?」

「その通りだ。もしかするともしかするかもしれない、今回はその為の仕入れってことになる。」

「新しいお芋かぁ、ダンジョンで食べたときは美味しかったけど。わかったわ、すぐに手配するわね。」

珍しくカウンター内にいたエリザが嬉しそうに依頼書を作りはじめる。

講義だけではなく最近はこっちの仕事もし始めたとか。

冒険者に人気があるだけに、表にいるほうが都合がいいんだろう。

本人もまんざらではなさそうだ。

「ダンジョンで栽培している魔物には迷惑をかけるが許して貰おう。」

「代わりの物を置いておけば大丈夫よ、お肉とか。」

「まさか、物々交換できるのか?」

「そんなわけ無いじゃない。見たら襲ってくるし殺されるわ。」

だよな、びっくりした。

エリザ曰く盗むのは冒険者的の心情的にも余りよくないらしく、それを紛らわせるために肉を置いていくんだそうだ。

まぁそういうがあってもいいだろう。

心のバランスをとることは重要だ。

たとえ意思疎通が出来ないとしても、こちら側のエゴだとしても。

「どのぐらいかかる?」

「三日もあればそろうんじゃないかしら。それじゃあ子鬼芋200個、手配するわね。」

ポンとはんこを押してすぐに依頼は掲示板に張り出された。

さて、畑に戻ってアグリに報告するとしよう。

ものすごく嬉しい顔、するんだろうなぁ。

間違いなく。
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