転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
673 / 1,415

670.転売屋はお返しを考える

しおりを挟む
どこに行っても祝福の言葉をかけてもらい、この一週間はもうお祭り騒ぎのようだった。

それも落ち着いたとおもったら今度は大量の品々が屋敷に届くようになった。

街の外から、主に俺と関係のある人たちからの出産祝いだ。

恐らく来週ぐらいには王都の関係者からもお祝いが届くようになるだろう。

ありがたい。

ありがたいのだが、コレだけたくさんもらうと今度はお返しに困る。

そもそもお祝いにお返しとはいかがなものかと前々から思っていたのだが、気持ちを返すのは悪いことではないだろう。

さて、何を返すべきか。

昼食後、食堂に残った俺達は全員で知恵を絞っていた。

「お菓子はどうですか?」

「この町の人ならいいかもしれないが王都や遠方になると痛む可能性がある。食べ物は避けるべきだろう。」

「でも形に残るものは後々面倒になりませんか?」

「それもわかる。頂き物って捨てにくいんだよな。」

「となると消費が出来てかつ食べられないものですか。」

「加えておれらしさも出したい。となると、この街の品となるわけだ。」

つまりダンジョン産の素材を使ったものに限定される。

もちろんそれ以外にいいものがあれば拘るつもりは無いが、むしろダンジョン産のほうが利益が出るんだよなぁ。

贈り物で利益をだす。

そもそも矛盾しているがやるからには儲けたい。

別に贈るだけが全てじゃない。

贈り物は贈り物、売り物は売り物と分けて考えればいいだけの話だ。

となると日常的にも使えるものが良いよなぁ。

「ダンジョン産の素材で贈り物ねぇ、それって相手によって変えるんでしょ?」

「ん、あぁそうだな。それでもいいぞ。」

「それでも?」

「めんどくさいから一緒にしようと思ってたんだが、やっぱりまずいよな。」

「恐らく、というか間違いなく王族や貴族からもお祝いが届くでしょう。それを同じというのは返礼品とはいえ問題があるかと。」

「そういうのがめんどくさいんだよなぁ。」

「ダメですよ、リーシャへのありがたいお祝いなんですから。」

「ういっす。」

母親がそういうのであれば父親の意見などあってないようなものだ。

とりあえず住民用と貴族王族用を分けて考えることに。

住民用はいたって簡単だった。

「ココスヌスの実か。」

「ミルクは子供達用のお菓子に使えますし、実から分離した油は洗剤になります。どちらも喜んで貰えると思うんですけど。」

「採用。」

「え、もう決まり?」

「ダンジョン産の素材かつ今後も売りに出せる商品に化けるんだ、やらない手は無い。害は無いんだよな?」

「毒性はありませんし、洗剤自体も冒険者の中では一般的に使われています。まぁ、使いすぎるとお皿がぬるぬるになって別の意味で大変ですけど。灰を混ぜた砂でこすれば取れるので問題ないと思います。排水がスライムに影響しないのは実験で確認済みなので。」

「そこまで分かっていてなんで実用化されてないんだ?」

ぶっちゃけこの世界での洗い物は結構大変だ。

食器用洗剤がないので油分が中々落ちないんだよなぁ。

しかし、それを一手に引き受けてくれるのがこの洗剤。

それなら多用されてもおかしくないと思うんだが・・・。

「めんどくさいんです。」

「何が?」

「全部よ全部。ココスヌスは森の中に生息してるんだけど、擬態がものすごく上手で見つけるのが凄く大変なの。加えて落とす実はわずか、大量生産するのは難しいわよ。」

「マジか。」

「でも便利なのは間違いないので需要は常にあります。冒険者ギルドの数少ない常設依頼の一つですね。」

うぅむ、話だけ聞いたら非常に便利だと思ったんだが。

中々思い通りに行かないなぁ。

「ちなみに買取価格は?」

「一個当たり銀貨15枚ですが、一個で洗剤が10個ほど作れます。」

「となると決して高いともいえないか。」

「え?」

「中のミルクはそれなりの量になるのか?」

「10個もあれば山盛りの焼き菓子が作れますよ、バターの代わりになるので砂糖だけでも美味しいかと。」

なら100個ほど集めれば洗剤が1000個できるわけだろ?

加工料を加算しても一個当たり銀貨2枚の原価。

それを銀貨3枚で売れば金貨十枚の儲けになる。

半分配ったとしても儲けは金貨5枚。

皆に喜んでもらったうえに俺達の持ち出しは無し、むしろちょっと増える。

加えて大量の焼き菓子を作れるわけだ。

もちろん住民にお礼として配り、残りを冒険者のおやつにでもすれば喜ばれるだろう。

「とりあえず100個集めて洗剤に加工する、ミルクは焼き菓子に流用して余った皮は何かに使えるだろ、たぶん。」

「たぶんって何よ。それに100個って、かなりの量よ?」

「エルダートレントが狩られたことで森には入りやすくなってるだろ?そこに大量の冒険者を投入してローラー作戦を決行する。人海戦術だ。」

「ローラー作戦?」

「各自が見える間隔で横に広がり、同じペースで進むんだ。そうすれば擬態していようが何しようが襲ってくるだろ?後はそいつを根こそぎ倒してしまえば良い。そこで見つかった素材をいつもより高値で買うといえば人は集まるだろう。」

森で見つかる珍しい素材はココスヌスの実だけではない。

そういった素材も纏めて手に入るまたとないチャンスだ。

やるだけで儲けが出るのは確実。

俺も儲かるし冒険者も潤うしダンジョンは一掃される。

まさにwin-win-winの関係だ。

「相変わらずやることがえげつないわね。」

「そうか?」

「金貨15枚もの買取に加えて多額の依頼料に増額分の買取金額。でも、シロウ様の事ですから決して赤字にはならないのでしょう。千個の洗剤を銀貨3枚で売ればおおよそ金貨十枚の儲けになります。半分を配っても残りの儲けで増額分は相殺、こちらの持ち出しはありませんね。」

「さすがアナタ、そこまで考えていましたか。」

「ミラには俺の頭の中がわかるのか?」

「おおよそで計算いたしましたが間違いでなくて良かったです。」

おおよそで俺の考えをドンピシャで当ててくるあたり流石としかいえない。

もう俺無しで商売できるんじゃないだろうか。

「とりあえず一般向けのお返しはコレで終わり、あとはなににするか。」

「アナスタシア様やローランド様へのお返しですね。」

「ありきたりなものじゃダメよねぇ、やっぱり。」

「そりゃなぁ。」

ありきたりはダメだとわかっていても、ソレを何にするかが思いつかない。

うぅむ。

全員が腕を組みうつむいて知恵を搾り出す。

が、出てくるわけも無く時間だけが過ぎていった。

「皆様、こんなところで難しい顔をしてどうされました?」

「グレイスか。ちょうどいいところに来た、知恵を貸してくれ。」

「私などの知恵でよければいくらでも。」

「リーシャに来たお祝いへのお礼をどうするか悩んでいるんだが、アナスタシア様やローランド様なんかの貴族へは何を返すべきだと思う?」

「そうですね。形に残るものよりも消えるもの、とはいえ中々出回らないものがよろしいでしょう。御香などはいかがですか?服の香り付けだけでなく気分を落ち着かせるために使われることもあります、確か魔物からしか手に入らない特別な御香があったと記憶していますが。」

御香か。

ソレは良い考えかもしれない。

香水などは結構好みが分かれるが、御香はそこまで嫌われないはずだ。

珍しいものなら尚の事喜ばれる。

加えて魔物からしか手に入らないとなれば、これ以上のものは無いだろう。

もちろん簡単に手に入るとは思えない。

が、とっておきの品ならその苦労も惜しくは無い。

もっとも、苦労するのは俺ではなく冒険者だがな。

「龍舌香ですね。ドラゴンの体内でのみ精製される特殊な物質です。それを加工することで天上の香りを作り出すことが出来るといわれています。」

「流石に体内になるとディーネに頼るわけにもいかないな。」

「ならドラゴンを片っ端から仕留めていくまでよ。龍の巣以外にもドラゴンはいるしディーネに怒られることも無いはずよ。」

「それと龍の種類に応じて香りも変化するそうです。」

「となると複数種のドラゴンを狩る必要があるわけか。こりゃ大騒ぎになるな。」

「でも余ったら売るんでしょ?」

「当然だろ。」

「なら元は取れるわよね?」

その特別な物質がどのぐらいの値段で取引されているかにもよるが、この前のドラゴン騒動で下がった価格が随分と戻ってきているし、これをきに素材を仕入れなおしてもいいだろう。

親方が喜ぶはずだ。

「元は取れる。」

「なら決まり。キキ、早速ギルドに行って依頼を出すわよ。シロウいいわよね?」

「あぁ、だが余りふっかけるなよ?」

「ソレぐらい分かってるわよ。でもドラゴン退治は別だからね。」

「良い仕事には良い報酬をだしてやれ。」

「ふふ、了解。」

エリザだけならともかくキキもいるんだ、流石に無茶な値段はつけないだろう。

とりあえずコレで返礼品は決まった。

後はそれを加工する算段を手配するだけだ。

「では私は婦人会に声をかけてきます、お菓子作りが好きな人を集めておきますね。」

「じゃあ私は洗剤を加工する準備をしてきます、久々に圧縮機を引っ張り出さなくっちゃ。」

「よろしく頼む。」

流石俺の女達、何も言わなくても次の動きを勝手にしてくれる。

ありがたい話だ。

「ソレでは私達はお礼のお手紙を書きましょう。」

「え、俺も書くのか?」

「娘のためですよ、頑張りましょうね。」

「ういっす。」

「では私はお茶の準備をしておきます、奥様お館様頑張ってください。」

がんばるしかないだろうさ。

これも可愛い娘のためだ。

あれ、待てよ?

今後も同じ事を繰り返すのか?

しかもそのたびに中身を替えて?

マジか。

今回はコレだけで済んだが、産まれれば産まれるほど選択肢が少なくなっていく。

ま、まぁ何とかなるだろう。

たぶん。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

処理中です...