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657.転売屋はプレゼンを受ける

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「以上が今週の報告書となります、決裁の必要な分に関してはミラ様にお渡ししておりますのでご確認の上サインをお願いします。」

「今週も非常に分かりやすかった、ありがとう。」

「当然の事をしたまでです。」

深々と頭を下げるとお下げが左側に垂れる。

えーっと、左って事はラフィムさんのほうか。

「で、実際どんな感じだうちの仕事は。」

「正直に申しまして非常に非効率かと。」

「だよなぁ。」

「手広く仕事をし、リスクを分散されていることは非常に素晴らしいと思います。しかしながらその報告を直接シロウ様まで届ける必要があるのでしょうか。今回決裁をお願いする書類も半分以上が代理でまかなえてしまいます。本当に必要な書類をすばやく確認するためにも今のやり方は改善するべきだと思います。」

「ラフィムさんの考えは至極当然だ。俺も出来るならば改善したいが、具体的にどうすればいいと思う?」

「ハーシェ様がお話されていたようですが、一括管理する部署を設けそこである程度の決裁をしてしまうべきでしょう。シロウ様には別途報告を上げて状況確認していただく必要はありますが、業務効率は格段に上がります。もしくは税金の管理を簡単にするために起業するのもひとつです。」

一応買取屋という会社なわけだけども、もっと大きな塊にするということだろうか。

「起業ってことは新しく会社を興すのか?」

「分かりやすくシロウ商店と仮称いたしますが、商店の中に統合部署を設けてその中で更に業務を細分化。報告を一箇所に集約することで、情報と共に在庫も一元管理いたします。こうすることで、どこにどんな素材がありどこが必要にしているかを把握しやすくなるでしょう。幸い各部署には既に適任者が所属していますので、上から下への業務連絡も容易いはずです。」

「店をミラ、冒険者ギルドをエリザ、製薬をアネットという感じか。」

「ハーシェ様の担当が少々多くなりますので、別の人員もしくは私共で対応する方がよろしいかと。少数部署は統合して管理するという方法もあります。」

「詳しく決めるのにどのぐらいかかる?」

「もうすぐセーラが戻りますのですぐにでも。一時間ほどいただければ縦割りの組織図も準備できます。」

「わかった、ひとまずどういう形になるか組織図を作成してもう一度説明してくれ。ミラとハーシェさんにも立ち会って貰う。」

流石に俺一人で決めるのはアレだ。

ぶっちゃけ即決してもいいんだろうけど他の意見もしっかりと聞いておきたい。

しかし俺が会社の社長なぁ。

確かに誰かの下で働くのは好きじゃないから一人でやってきたわけだけど、まさか誰かを使う方の立場になるとは。

ぶっちゃけ俺でいいんだろうか。

ミラを社長にした方が色々と回りやすいんじゃないだろうか。

そんな事を考えてしまう。

まぁ、そういった別の意見を聞くためにもミラやハーシェさんに参加して貰うわけで。

うん、なるようになるさ。


「では、お手元の資料をご確認ください。」

きっかり一時間後。

屋敷の応接室に集まり、プレゼンを受ける。

メンバーは俺、ミラ、ハーシェさんのはずだったんだが、追加でアネットとエリザも参加することになった。

主要メンバーなのでちょうどいいだろう。

(おさげが両方に垂れているので合体した)セラフィムさんから配られた書類に、各自目を通していく。

うーむ、見事な出来だ。

パソコンも無いから全部手書きだぞ手書き。

それを寸分たがわず人数分用意している。

活版印刷的な物があれば楽なんだろうが、生憎とそういうものはない。

「あ、私の名前がある。」

「今回シロウ様のお仕事を集約するにあたり、皆様方に責任者としてお力をお借りすることといたしました。あくまでも最高責任者はシロウ様ですが、皆さまである程度判断できる内容に関しては即断していただいて構いません。もちろんシロウ様の指示を仰ぐ必要があれば聞いてくださっても問題ありません。今回の目的は大量の書類をいかに迅速に処理するか、そして責任者を分担することで各部署とより綿密な連携をとれるようにするためです。」

「あくまでも最高責任者は俺なのか。」

「もちろんです。仮称としてシロウ商店とさせて頂いておりますが、本人と関係のない名前を付けるのが王都の流行りでもありますので、そのあたりは皆さまでお決め頂ければと思います。」

「新しい名前だって、何がいいかな。」

「出来ればご主人様と分かるほうが都合がいいと思うんですけど、違うのも憧れますね。」

「ね、二つ名みたい。」

早くもアネットとエリザが別の話題で盛り上がっている。

今からが本題なんだけど。

「ふむ、私が婦人会ですか。」

「ハーシェ様にお願いすることも可能でしたが、業務が集中する為振り分けさせて頂きました。婦人会はシロウ様の発案を先方が実行、その報告を受ける事がほとんどですので比較的負担は少ないかと思われます。また、発案に合わせて必要な素材の迅速な在庫把握が必須となる点でも、ミラ様にお願いすることといたしました。主に店と全体を把握してもらいつつ、婦人会にも注視していただければと思います。」

「シロウの突拍子もないネタにすぐ反応できるのはミラぐらいしかいないわよね。」

「そういう事であれば喜んでお受けいたします。」

全体を把握する感じから副社長的なポジションになるんだろう。

店だけでも大変なだけにあまり多めに仕事を振るのは避けたんだろうな。

「私はいつもと一緒ですね。」

「製薬ならびにポーションや消毒液などの薬品関係は引き続きアネット様にお願い致します。申し訳ありませんが、他に受け持つ方がいませんでした。」

「得意分野ですから大丈夫です。」

「私も行商関係ですね。でも、こんなお腹で大丈夫でしょうか。」

「ハーシェ様には行商のほか水運と西方製品ならびにモーリス様の代理販売をお願いします。産後は私とサーラが出来る限り補佐いたしますのでご安心ください。」

「宜しくお願いします。」

行商関係全般は引き続きハーシェさんとはいえ、もうすぐ出産だ。

出来る限り俺も手伝うつもりなので、まぁ大丈夫だろう。

「ねぇ、冒険者ギルドとの窓口とジムを受け持つのはわかるんだけど、なんで調理キットが私なの?」

「そりゃ食い意地張ってるからだろ。」

「うるさいわね。」

思いっきり睨まれてしまった。

おーこわ。

「今の所婦人会と町の奥様方のおかげで調理キットは順調な売上を上げていますが、今後は畑も大きくなりより消費量を増やす必要があります。そこでエリザ様には冒険者の需要を探って頂きたいのです。ノンアルコール品に関しても、ダンジョンや護衛先で必要かどうか見極めて頂ければと思います。」

「なるほど、そういう事なのね。」

「ギルドとの買取素材の取引に関してはミラ様と我々が行いますが、シロウ様が発案された単発の商材や、緊急依頼品などはキキ様を通じて即時に手配してくださってかまいません。ただし、値段に関してはシロウ様に伺ってからでお願いします。」

冒険者相手の情報はエリザが一番仕入れやすい。

今何が足りていないのか、ダンジョン内で急に増えた素材は何か。

今後は学校の建設などもあるしより冒険者の力が必要になるだろう。

その時に彼らを動かすのは俺ではなくエリザの方が都合がいい。

俺はあくまでも商人だから冒険者の中には使われることに反発するやつもいるだろう。

そういった連中も、実力者であるエリザの話は聞くんだよなぁ。

餅は餅屋、ってことで食い物と酒関係もエリザに一任するわけか。

なかなかいい人選だと思う。

「で、俺が買取全般とルティエやアーロイの職人対応、それと化粧品。畑も俺なのか?」

「アグリ様が一番信頼しておられるのはシロウ様ですから。」

「確かに私達が行ってもアグリさんって他人行儀なところがあるわよね。」

「私も薬草でお世話になっていますけど、やっぱりちょっと違います。」

そうなのか。

てっきり皆にも同じ感じだと思ったんだがなぁ。

「シロウ様には引き続き新たなお仕事を発案していただき、今回の分担で空いた時間を有効に利用いただければと思います。露店の買い付けなどは我々ではわかりかねます。」

「ま、その為にいるわけだし任されよう。」

「王都関係の仕事はセーラが受け持ちます。イザベラ様の代理店報告並びに買い付けました服の販売はお任せください。そういえば空気清浄器も向こうで販売するのだとか?」

「まだイザベラに話しは通していないがそうなるだろう、ここでの反応を見る限り一般よりも貴族に流した方が売れそうだ。それにわざわざ魔道具を送ってもらってまた製品を送り返すより、向こうで作った方がコストがかからないだろ?製造方法はしっかり隠せばいい。」

「ではそのようにお伝えしておきます。」

「最後にこの度扱うようになりました魔石関係と事務方全般をラフィムが担当させて頂きます。関係各所より屋敷に届きます書類は一度私に集約され、夕方までにお部屋にお届けしますのでお手隙の時間にお読みくだされば大丈夫です。ただし、緊急の内容のみ随時お伺いに参りますのでその際はご協力いただければ。」

「それぐらいはするさ。で、各担当で処理された最後の最後に俺の所に報告が上がってくると。」

「収支報告は毎週末と月末にお届けします。また、決裁の必要な書類は随時お届けしますので確認次第裁定を下してください。今回業務を集約、管理することにより税金の管理もしやすくなるでしょう。貴族の地位を存分に生かせるよう取り計らいます。簡単ではありますが、以上が起業するメリットになります。いかがでしょうか」

自信満々の顔、ではなくいつもと変わらない冷静な顔でセラフィムさんが俺達の顔を順番に見ていく。

メリット多数、デメリットはほぼなし。

しいて言えば俺が社長的なポジションに収まることになるのだが、今も同じなのでデメリットにすらなりえないか。

貴族になった事で税制面でのメリットも出ているだけに、このタイミングで改めて大きな会社にしてしまうべきなんだろうなぁ。

「申請書類とかあるのか?」

「とくには不要です。ですが、各担当者への伝達や責任者となる皆様の慣れもあると思いますので6月を試験運用、7月を本格始動と考えております。」

「ハーシェさんは出産と被るが、まぁセラフィムさんに任せれば大丈夫だろう。みんなはどんな感じだ?」

「いいんじゃない?そんなに難しそうにないし。」

「シロウ様の仕事を楽にするという意味でも必要な事だと思います。」

「私は今まで通りなので大丈夫です。」

「出来る限り頑張ります。」

特に問題無しと。

「じゃあ細かな部分も含めて準備を始めてくれ、セラフィムさん宜しく頼む。」

「お任せください、ご清聴ありがとうございました。」

再び深々と頭を下げるセラフィムさん。

こうして俺達の店は会社として動き出すことになるのだった。
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