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655.転売屋は新築のお祝いをする

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「ダンジョンの風邪はシロウの読み通り下火になって来たみたいよ。」

「そりゃ何よりだ、罹るよりも罹らない方がいいからな。」

「消毒の習慣がつくとお腹を下すことも減ったみたい。戦った後は手を拭いているけど、拭き残しとかあるしね。」

「やばい病気を貰う前に原因をしっかりと駆除、何事も予防が一番だ。」

「儲かった?」

「ボチボチだな。調味料入れには向かなかったようだ。」

メルディの案を聞いた時はこれだ!と思ったんだけどなぁ、油はともかく醤油とかは中で塩分が凝固するのかすぐ詰まってしまい使い物にならなかった。

とはいえ、当初の目的である携帯用の消毒液入れとしてはしっかりと定着したのでそっちの儲けは申し分ない。

あ、あとマスクも結構売れた。

本来の目的は飛沫を防ぐためだったんだが、布が足りなくなった奥様方がカラフルな布地をマスクにしてしまい、むしろそっちの方が売れ出した。

口元を見られないのが特に女性冒険者にも好評らしい。

また、街の奥様方の中にも化粧をしなくてもいいと受け入れられているのだとか。

うぅむ、世の中思ったようにはいかない物だが案外何とかなるものだ。

「シロウ様、冒険者ギルドより消毒液の契約書が回って参りました。」

「お、見せてくれ。」

「てっきり専売すると思ったけどそうしなかったのね。」

「まぁな。しかし、思ったよりも安いなぁ。」

「元々の素材が安いので致し方ないかと。とはいえ、当初の利益に加え毎月金貨1枚が勝手に支払われると思えば十分な利益です。一年で金貨24枚ですから、一般家庭の収入からしてみれば大儲けですよ。」

「まぁ、それもそうだな。」

何もせずに年間金貨24枚。

5年で金貨120枚。

ギルドとの契約はこんな感じだ。

『今後消毒液を取り扱うにあたり一切の業務を冒険者ギルドが取り仕切る。開発報酬として月額金貨1枚を先方に支払いその権利を放棄する。ただし、緊急の依頼があった場合はその限りではない。』

ようは今後は冒険者ギルドが作るから毎月金貨1枚で手を引いてくれって事だな。

ただしあくまでも冒険者が使用する分であって、一般が使用する分は関係ない。

健康志向の住民には受け入れられているし、化粧品には効果があったので引き続き容器は仕入れる事になるだろう。

契約にもあるように緊急依頼の際は報酬を払うようだし悪い話ではないさ。

「では契約書に問題がなければ提出してまいります。」

「なら途中まで一緒に行こう。」

「アグリ様の所ですね?」

「あぁ。」

「じゃあギルドは私が行くから二人で行って来たら?」

「いいのか?」

「別の用事もあったし。アグリさんによろしく、トトマトが食べたいから貰って来てね。」

「自分で言いにくいからって丸投げしやがって。」

そう言うのは自分で言えよなまったく。

とはいえ、悪阻の時期に入ったエリザはハーシェさんと違い吐いたりしなかった。

かわりに食べ悪阻という奴になったらしくひたすらトトマトを食べている。

それはもうひたすら食べてる。

身体の半分はリコピンで出来ていますと言っても過言ではない量だ。

まぁ、今年の畑もアネットの肥料とアグリ達の手入れのおかげもあって豊作。

毎日食べても追いつかない量なので怒られることは無いだろう。

とりあえず書類はエリザに任せてミラと共に畑へと向かう。

っと、その前に。

「モーリスさん。」

「シロウさん!よく来てくれましたね。」

「とりあえず出産おめでとう、アンナさんも無事だって?」

「おかげ様で母子共に健康です。妊娠中はどうなる事かと思いましたが、これもシロウさんが仕事を振り分けてくれたおかげです。」

「いやいや俺は特に何もしてないから。とりあえず今日は買う物を買ってさっさと行くよ。」

「西方の種でしたね、準備できています。」

「それとお酒と菓子もよろしく。」

「では先にマリー様の所で奥様用の化粧品を買ってきます。」

「あぁ、よろしく頼む。」

つい三日前、アンナさんが無事出産した。

妊娠中は色々と大変だったが、出産は無事に終わり母子共に健康だそうだ。

本来であればモーリスさんにもお祝いを渡すところなのだが、しばらくは店を閉めてアンナさん達の世話をするそうなので再開してからにすることにした。

とはいえ、今日は前々から頼んでいたやつなので無理を言って開けてもらったというわけだ。

多目に代金を支払いマリーさんの店へ。

ミラと合流した後、畑へと向かう。

心なしかマリーさんの対応が違ったのは気のせいではないんだろう。

ま、まあ結婚式あげたわけだし?

前よりも何倍も綺麗に見えるのは元から綺麗だからだろう。

そうに決まってる。

「これはシロウ様、よくお越しくださいました。」

「おー、いい感じに仕上がったなぁ。これ新築祝いな。」

畑に行くとすぐにアグリが俺に気付き、小走りでやってきた。

今の反応ルフ達よりも早かったんじゃないだろうか。

「費用まで出して貰った上にお祝いまで、申し訳ありません。」

「それはそれコレはコレ、これから今まで以上に稼いでくれるわけだし問題ない。えぇっと・・・。」

「お初にお目にかかります、妻のネネットと申します。」

「シロウだ。これまた美人の嫁さんもらったなぁ、アグリが身を固めるわけだ。」

アグリの一歩後ろで待機していたのは健康的に日焼けをした小柄の女性だ。

身長は150cmも無いんじゃないだろうか。

アグリと比べると身長差がかなりある。

目力が強く中々の美人さんだ。

「いつも夫がお世話になっています。それと、家にまでお気遣いいただきまして。」

「使い勝手は問題ないか?」

「お蔭様で暮らしやすい家になりました。」

「それは何よりだ。あ、祝いだが化粧品が奥さんでアグリは酒な。子供二人にはロングホーンカウの革を使った手袋だ。冒険者用だから長持ちするだろう。菓子は適当に食ってくれ。」

「何から何まで本当にありがとうございます。」

畑を丸投げしてるのはむしろこっちの方なので、お礼を言われるほどでもない。

倉庫はいずれ建てる必要があったわけだし、その上が住居になっただけだ。

「申し訳ありません、息子達は今畑に出てまして。」

「勤勉なことだ。」

「後で改めてお礼に伺います。」

「そこまでしなくてもいいさ、それで畑はどんな感じだ?」

「夏野菜は今年も豊作です、保存できるものに関しては出きるだけ備蓄にまわし日持ちしないものに関してはギルド協会を通じて近隣の街に出荷しております。特にトトマトは例年以上の豊作ですよ。」

「そのおかげでうちも大助かりだ。エリザがまたトトマトを欲しがってるんだ、後で持って行ってくれるか?」

「ではすぐに、シロウ様失礼いたします。」

奥さんがぺこりと頭を下げて畑へと駆けて行く。

うーむ、顔は美人なのに背が小さい。

まるで子供に大人の顔をくっつけたようだ。

いや、悪い意味じゃない。

なんていうかギャップが凄くてものすごく印象に残ってしまった。

出る所が出ているだけに余計にそう感じるんだろう。

「いい嫁さんもらったなぁ。」

「本当に、よく働きます気が利きますし、私にはもったいないぐらいです。」

「その嫁のためにもしっかり頑張ってくれよ。」

今でも十分に頑張ってくれているのだが、一応はっぱをかけておこう。

とはいえ無理をされても困るので程ほどで十分だ。

「ご期待に沿えるように頑張ります。それでですね、一つご相談が。」

「なんだ?」

「畑の外に植えておりました飽食の豆ですが、そろそろ収穫の時期が来ています。スカイビーンズの残りは薬にすることが決定していますが飽食の豆はいかがいたしましょう。そのまま食べることも出来ますが、個人的には他の野菜ともども保存用に加工するべきだと思うのですが。」

「もとよりその予定だが、他の野菜もなのか?」

「トトマトや他の豆類なども豊作のうちに加工しておいても良いかと思います。それと、当初の予想通り麦は不作のようですので、代わりになります芋を追加で植えようかと。飽食の豆の後に植えてもよろしいでしょうか。」

やはり麦は不作か。

それならば主食の代わりになる芋を植えるのは当然の流れなのだが、なんで豆の後に?

飽食の豆はその土地の栄養をほとんど持っていってしまうため、しばらく作物は育たないというのは周知の事実。

にもかかわらずあえてそこに植える理由がわからないんだが。

「それはかまわないが、何でそこに?」

「周りの土の状態から、思ったよりも痩せていないように感じるんです。それを見る為にもあえてあそこに植えようかと。」

「ふむ、生育状況をみれば一目でわかるか。」

「仰る通りで。」

「どちらにせよ主食代わりに使う芋は必須なんだ、他の畑と同時並行で進めても問題ないだろう。もし問題なかったのなら、それはそれで問題なのか?」

「なぜ痩せなかったのか、その検証は必要になります。」

「まぁそれはおいおいの話だ。いいぞ、やってくれ。」

「かしこまりました。種芋の準備は出来ていますので貸し畑も含めて量産に入ります。ちなみにローランド様より畑拡張の許可がでているのですが、どうされますか?」

「え、まじ?」

それは初耳なんだけど。

え、この間畑を広げた所なのにまた広げるの?

それってつまり俺の持ち分がまた増えるって事?

いくら畑を丸投げとはいえ、さすがにこれ以上はどうなんだ?

「ちなみに貸し畑を境に今と同じ量だそうです。」

「倍じゃねぇか!」

「今からですと秋までには何とか。」

「どう考えても自己消費分を超えるよなぁ。」

「はい、ですので税金を掛けられる前提で作物を植える必要が出てきます。あくまでも自家用と言い張るのであれば住民を増やす必要があるのですが、そのあたりは何か聞いておられますか?」

「まったく。」

「そうですか。では準備を進めつつ税金関係の資料を集めておきます。あ、でも貴族になられたわけですから個人用でもいけるんでしょうか。」

「しらん。」

そもそも畑を増やすことすら聞いてないんだ。

まったく、俺の不在の間にいったい何をやるつもりだったのか。

っていうか、この前会った時に教えてくれよ。

はぁ、アグリに丸投げしていなかったら今頃どうなっていたことか。

新築祝いとは別にボーナスを支払う必要があるかもなぁ。

やれやれ、どうなることやら。


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