上 下
656 / 1,237

654.転売屋は消毒液を配る

しおりを挟む
「へーくしょい!」

「お前なぁ、くしゃみする時は手を当てろよ。」

「へへ、すいません。」

「ほら、全部で銀貨17枚と銅貨50枚だ。風邪か?」

「ダンジョンで流行ってるらしいんですよ。」

「マジか、うつすなよ。」

慌てて口元を抑えるがもう遅いだろうなぁ。

夏風邪は結構しんどいからできれば貰いたくない。

後でしっかりうがいをしておこう。

「いや、それが不思議なもんでくしゃみとかじゃうつらないらしいっすよ。」

「なんだそれ。」

「いや、ほんとの話ですって。同じ飯食ったり同じ武器使ったりするやつだけ貰うんです。」

「ふむ、という事は飛沫じゃなくて接触感染か。」

「せっしょ?」

「こっちの話だ。しっかり手をあらえよ。」

「あはは、了解っす。じゃあまた!」

金を受け取り冒険者が帰っていく。

飛沫感染ならマスクとか必要だろうけど、どうやら今回は違うらしい。

接触感染となるとマスクよりも別の物が必要になるな。

「また何かするんですか?」

「何かとは人聞きの悪い、大事な顧客を守るために動こうとしているだけだ。」

「でもお金は稼ぐんですよね?」

「当然だろ。」

「知ってました。何をすればいいですか?」

「ちょっと待て、何をするか考える。」

接触感染ということは、ウイルスが付着した物を口に含んだりすることで感染するはずだ。

ということは、触れた傍から原因を絶っていけば感染は減っていくはず。

何もしなければ二三日で爆発的に広がってしまうだろう。

ギルドも手は打っているだろうが、元の世界の医療知識には敵うまい。

する事は一つ。

消毒だ。

「このぐらいのボトルを用意してくれ、液体を入れるから漏れにくくてさらにはボタンを押す事で中身が出るようなやつ。」

「えぇ、そんな難しいのあるかなぁ。」

「キキにきいてみろ、何か知ってるかもしれないぞ。とりあえずボトルは必須だから優先的に頼む。」

親指と人差し指で10cm程の大きさを指定する。

イメージは小型の消毒用スプレーだ。

別にスプレーにこだわる必要はないのだが、少量を効率的に吹き付けるにはアレが一番適している。

で、メルディに入れ物を手配してもらっているうちに俺は中身を探すとしよう。

行くのはもちろんアネットの所だ。

「消毒液ですか、確かにありますけど頻繁に使うと手荒れしますよ。」

「じゃあそれを薄めるのはどうだ?」

「うーん、薄めると効果が下がるんですよねぇ。」

「となると手荒れしにくい消毒液になるか。」

「夏風邪の薬は準備できますけど、それじゃダメなんですよね?」

「アネットの仕事を取るわけじゃないが、稼ぎ頭の冒険者が軒並みダウンするのは避けたいんだ。かかる前に予防する、かかればアネットの薬でさっさと治す。どちらにせようちの商品を使うわけだから儲けは変わらないだろう。いや、違うな。」

「病気にならなくても薬が売れるわけですから、儲かります。」

「だな。」

薬は感染して初めて売れる。

でも予防は違う。

罹らない為に使用するので必然的に数が出る。

その差は明白、これは新しい儲けを思いついてしまったかもしれない。

とはいえそれに使う素材が見つからないんじゃ始まらない。

うぅむ、何かいいもの無いものか。

「お肌に優しい消毒液、矛盾してるか。」

「んー、無くはないと思います。」

「というと?」

「クリーンドライアドの涙はあらゆる病を寄せ付けません、それを薄めればもしかしたら。」

「ドライアドって言えば木の妖精だったか?」

「総称はそうですが、クリーンドライアドは樹木の魔物です。男性であれば女性に、女性であれば男性の形に変化して近づいたところを襲って来る結構危ない奴です。樹液が涙のように垂れてくることから涙と呼ばれているんです。」

「じゃあ倒しても問題ないな。」

妖精とか精霊とか聞くとなんとなく忌避感が強いが、魔物であれば容赦はしない。

しかし樹液が病を寄せ付けないってのは変な感じだな。

「ダンジョン上層部の森林地域に出ますので探すのは容易だと思います。でも、捕まるとややこしいので複数人で移動するように依頼を出した方がいいかと。」

「了解した。アネットは薄めるための蒸留水と罹った時用の薬を量産しておいてくれ。ギルドに依頼を出してくる。」

「畏まりました。」

よし、中身は決まったし容器も準備した。

後は配る算段を漬ければ仕込みは終わりだ。

「ニア、いるか?」

「シロウさん、入る前に当て布した方がいいかも。」

「ダンジョンで風邪が流行ってるって話だろ?」

「え、知ってるの?」

「客から聞いた。だがいつもと感染方法が違うらしいな。」

「そうなのよねぇ、保菌者と接触したら貰う感じ見たい。とはいえ飛沫しないとも限らないし、マスクは必須だと思うのよ。」

過去に何度もダンジョン産の風邪を経験しているだけに動きが早い。

だが原因を確定できていないのでどうしても後手後手になっている感じだ。

売り込むなら今しかない。

「俺は接触を減らすべきだと考える、そこで冒険者に消毒液を配って装備品に吹き付けたり食事の前に使わせるのはどうだ?飛沫だろうが接触だろうがようは原因を体に入れなければいいんだろ?マスクをしても手を介して体に入れたんじゃ意味がない、それなら触れる物から原因を取り除けば完全に防ぐことは出来なくても患者を減らすことはできると俺は思うんだが、どうだ?」

「うーん、確かに一理あるけど。めんどくさがりの冒険者がやるかしら。」

「気軽に使えれば全員じゃなくても使う奴は出てくるはずだ、感染して辛い思いをするぐらいならかからないに越したことは無いだろ?」

「まぁそうね。」

「消毒液として使えそうなのがクリーンドライアドの涙らしいからそれの回収を依頼したい。依頼料はボトル一本で銀貨1枚。緊急依頼として追加で銅貨50枚出す、構わないよな?」

「はぁ、シロウさんに先を越されたら高くつくのよねぇ。でもこのままじゃ被害は増えるばかりだし、何もしないよりかはマシか。わかったわ、緊急依頼を出します。その代わり安く卸してよ?」

言われなくてもわかっているさ。

儲けを出すつもりではいるがぼろ儲けするつもりはない。

冒険者は俺の大事な顧客、彼らが働けなくなるのは俺の利益にも直接影響するからな。

損して得取れ。

いや、大儲けを辞めて小儲けを取れか。

原料確保のめどはついた、後はボトルだ。

急ぎ店に戻ると早くもメルディが裏庭に何かを積み上げていた。

「あったか?」

「キキさんに聞いていい感じのを用意しました!」

「でかした!」

メルディが自慢げに掲げたのはウツボカズラの口をキュットしめたような植物の実?だった。

頭の方には細い管のようなものが飛び出ている。

押し出すとそこから中身が出てきそうだ。

『シャワープラント。子房内に獲物を溶かす溶液を溜めており、それをかけられて装備や服が溶ける被害が多く報告されている。何故か皮膚は溶けず装備品が溶けるので特に女性冒険者に嫌われている。子房は溶液を満たすために丈夫で入れ物として使われることもある。最近の平均取引価格は銅貨13枚。最安値銅貨9枚最高値銅貨18枚、最終取引日は7日前と記録されています。』

「シャワープラントの子房が中に液体を貯めつつ、少量ずつ中身を出すのに適しています。数も確保できますしちょうどいいかと。」

「ちなみにクリーンドライアドの涙を薄めて入れるつもりなんだが、子房が痛んだりしないか?」

「同じ植物系ですし、結構硬いので大丈夫だとは思います。」

「在庫は?」

「とりあえず今35ありました。」

「なら涙と一緒に手配するか。他にも使い道ありそうだしな。」

「調味料をかけたりですか?」

「メルディお前・・・。」

「わぁごめんなさい冗談です!」

いやいやそれはありだろう。

ありどころか大アリだ!

前々からドレッシングや醤油なんかを少量ずつ手軽にかけれないかなと思っていたんだ。

現物を見てみないとわからないが、出る量次第では使えるかもしれない。

耐久度とか詰まり方とか調べてみる必要はあるだろうけど、夢は大いにふくらむ。

なんなら化粧水を入れたっていい。

ガラス製は割れやすいと冒険者からは不評だったからな、少量を手軽に持ち歩けるのは嬉しいだろう。

「いいアイデアだ。」

「え、じゃあ。」

「そういう使い方をするなら数がいるよな。保管場所の手配しっかりやれよ。」

「は、はい!」

「俺はまたギルドにいく、あとは任せた。」

これで準備は完了だ。

あとは素材が集まれば消毒液を配布できる。

でもそれだけじゃあれだよな。

いっそのことマスクも作るか?

不織布はさすがにないけど、布マスクでも無いよりかましだろう。

「となると、確保すべきは布と人手か。」

困ったときの婦人会ってね。

布はモニカの所に大量にあったはずだからそれを融通してもらおう。

なんなら聖水のお清め済みとか言ってみるか?

科学的根拠は何もないけど、そういうのみんな好きだろ?

「って、さすがにそれはやり過ぎか。」

さすがにそれはまずいよなぁ。

追及されないとはいえ、胡散臭すぎるのはポリシーに反する。

普通でいいんだよ普通で。

そうと決まればギルドにいってそれから教会と婦人会。

忙しくなるぞ。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?

青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。 魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。 ※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...