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653.転売屋は空気清浄機を作る

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「うーん。」

「どうかしました?」

「何か臭わないか?」

「そうですかね。」

横で荷物を片付けていたメルディが首をかしげる。

首からタオルをぶら下げ、蒸し暑い倉庫の片づけをしていた時の事。

倉庫が臭いのはいつもの事なんだが、店のバックヤードまで臭いのはさすがにまずい。

俺はここで生活していないからいいが、生活している本人は流石に辛いだろう。

恐らく今感じないのはもっと臭い所にいたから。

元に戻れば臭いと感じるはずだ。

まさか、俺の加齢臭か?

「ただいま戻りました。」

「お帰り。」

「片づけご苦労様です・・・。あの、何か臭くありません?」

「やっぱり臭うよなぁ。」

「何でしょう、かび臭いというか生臭いというか。」

「昨日大量に毛皮を買い取ったからですかねぇ。」

可能性はあるだろう。

ここに持ち込まれる毛皮は全て加工前の物。

冒険者が魔物から剥ぎ取り、まだ血の滴っている奴を持ち込むことだってある。

血生臭い匂いがして当たり前ではあるのだが、これはちょっとひどすぎる。

「メルディ、王都で買い付けた小型の魔道具ってどこにある?」

「アレでしたらお屋敷に運んでありますよ。」

「収気石は?」

「それでしたらうちの倉庫に。」

「なら大きめのプロボックスと一緒に用意しといてもらえるか?すぐに戻る。」

こんな時こそ例の道具を作る時じゃないだろうか。

ひとまず片づけを止めて一旦屋敷へ戻る。

玄関で掃除をしていたミミィに話をすると、すぐに用意してくれることになった。

その間に裏口から地下の製薬室へ移動する。

「アネット、消臭草ってあるか?」

「もちろんありますが、何に使うんですか?ここでも下水道を掃除します?」

「いや、それはダスキーの仕事だからしない。別件で使うんだ。」

「わかりましたどのぐらい必要ですか?」

「あー、部屋の臭いを消すぐらい?」

「自分で使うんじゃないんですか?」

「よく考えればこれって臭いを感じる器官をマヒさせる薬草だったっけ。」

しまった、これで行けると勝手に勘違いしていた。

このままでは目的を達することが出来ない。

さて、どうするか。

「何をされるつもりだったんですか?」

「店のバックヤードが素材で臭いんでな、それを何とかしたかったんだ。臭いを取る薬か素材があればいいんだが。」

「置くだけで臭いを取るようなものはありませんが、水に混ぜると臭いを吸うようになる薬草はあります。ガーゼなんかにしみこませて使うんですけど、それではダメですか?」

「いや、それを使わせてくれ。すぐに用意できるか?」

「材料はありますから、すぐに用意しますね。」

さすがアネット、聞いてみるもんだな。

粉末状になった脱臭草と小型の風魔道具を手に再び店に戻る。

中に入るとやはり生臭いような臭いがした。

「おかえりなさいませ、用意できてますよ。」

「よし、そんじゃまサクッと作ってみるか。」

工作は嫌いじゃない。

複雑なものは作れないが、適当にくっつけるぐらいは俺にでも出来る。

用意してもらったプロボックスは膝の高さぐらいの箱で、透明なので中身がよく見える。

小さいやつは休憩所で弁当箱として使っているのだが、この世界では珍しい真四角の素材なので今回のやつにぴったりのはずだ。

『プロボックスの殻。遺跡に出没する魔物で四角い体が特徴。襲ってくる時は中に命が宿っているのだが、倒した後は中身が抜け殻だけが残る。入れ物として重宝されており、使用用途は多い。最近の平均取引価格は銅貨8枚。最安値銅貨3枚最高値銅貨15枚。最終取引日は本日と記録されています。』

まずは用意した収気石を砕き小さめのプロボックスに入れる。

次にアネットに用意してもらった脱臭草の粉末を水に溶かし、ガーゼにしみこませた後同じく別のプロボックスに敷き詰めた。

後は王都で買い付けた小型の魔道具を大型のプロボックスの下に設置すればひとまずは完成だ。

「何ですか、これ。」

「空気清浄機、のつもり。」

「つまり空気を綺麗にするんですか?」

「予定ではな。」

ひとまず魔道具に電源を入れると、魔石から魔力を受け取り扇風機ぐらいの風が下から上に噴き出し始めた。

魔道具というがこれは風を起こすのではなく、風を吸い込んで吐き出すサーキュレーター的なタイプだ。

なので部屋の空気を吸い込んで上に押し出す形になる。

その上に先程仕込んだ収気石を敷き詰めたボックスを置く。

するとまるでパズルのようにぴたりとはまってくれた。

こいつのいい所はまるであつらえたかのようにサイズが合う事なんだよなぁ。

さらにその上にガーゼを敷き詰めた奴を載せれば完成だ。

プロボックスは基本水や風を通さない。

だが、元々物理攻撃を通さない魔物時代と同じく、物理的なものは透過しないのだが弱点となる魔力を含んだものは透過する。

なので魔道具を通して魔力を含んだ風はプロボックスを通過し上に排出されるという寸法だ。

二つの層を作ったことにより風の勢いは大分衰えたが、そよそよとした風が上に排出され出した。

顔を近づけ臭いをかいでみる。

臭くはないな。

「どうですか?」

「わからんがとりあえずこれを一時間ぐらい回してみよう、結果はそれからだ。」

「空気清浄機、もしこれが実現したら凄くないですか?だって臭いの出る食べ物を食べても問題ないわけですよね?」

「まぁ、そうなるな。」

「お店屋さんとか工房とかから注文が殺到しちゃいますよ。」

「ま、それも結果が出てからの話だ。それに普通の魔道具じゃサイズがでかすぎて邪魔になる。このサイズだから価値があるんだよ。小型のやつは王都から買い付けないといけないから数が手に入らないんだよなぁ。」

俺が持ち込んだ数にも限りがある。

一応毎月送ってもらえるようロブとは契約を交わしているから、作ることはできるだろう。

欲を言えば量産したい。

となると手近なところで量産する必要があるのだが、出来るなら初めからやってるよなぁって話だ。

とりあえず効果がわからない事には始まらない。

ひとまず三人で店を出て、時間をつぶすことにする。

「不在の間よく店を回せたな。」

「えへへ、頑張りました。」

「ミラ様がしっかり帳簿を管理してくださっていたおかげで、類似品の価格がすぐに把握出来ました。あれは店の宝物ですね。あとはメルディ様が相場を把握してくださっていたので素材も問題ありません。」

「つまり俺はもう不要というわけか。」

「そんな事ないですよ!」

「冗談だ、今はまだ手放すつもりはない。まぁ、色々と忙しくてなかなか顔を出せないのは申し訳ないと思ってる。キキももっとダンジョンに潜りたいだろう。」

「お姉ちゃんが安定期に入るまでは大人しくしているつもりです。」

姉思いの妹だなぁ。

キキのおかげでエリザは無茶しないだろうし、何かあった時にも安心して任せることが出来る。

姉妹ならではの問題もあるみたいだけど、そこは二人で話し合ってもらえばいい。

「メルディは自分の店を持ちたいとか思うか?」

「そういうのはもっと知識を増やしてからにします。」

「今でも十分だとおもうがなぁ。」

「キキさんがいてくれるから何とかなってるんです。鑑定スキルがあればなぁ。」

「ミラ様の真実の指輪がまた見つかることがあればそれも可能でしょう。その為のダンジョンです、いつかは出てくるのでは?」

「その時の為に頑張ってお金を貯めますね!」

正直なところメルディがその気なら店を譲ってもいいと俺は思っている。

だがそれはまだ先になりそうだ。

しばらく時間をつぶしたのち店に戻った。

「臭くない!」

「お、確かに臭いが無いな。」

「結構な匂いだったはずですが、これはすごいですね。」

「心なしか空気が澄んでいるんですけど、何ででしょうか。」

「恐らくは収気石が不快な湿気を減らし、脱臭草を含んだガーゼが脱臭と同時に適度な湿気を放出しているからじゃないでしょうか。」

「なるほど、そういう効果もあったか。」

「でもあれですね、定期的に水を入れてやらないとだめですね。」

「それぐらいのメンテナンスは必要だろう。後はどのぐらいで乾燥するのかと、臭いをどれだけ消せるのかの確認だな。」

耐久度や効果はある程度把握しておかないと売ることもできない。

効果があるのは確認できたわけだし、あと何台か作って実証実験を継続しよう。

「これ、貰っていいんですか?」

「その為に作ったんだ遠慮なく使ってくれ。」

魔物の素材を扱うだけにどうしても臭いがつきまとう。

臭い所で仕事をするよりも爽やかな方が気分も上がるってもんだ。

それに、店もすっきりするしな。

とりあえずプロボックスの殻を大量に抱えて屋敷へと戻る。

まずは自分たちの分を作るとしよう。

俺と女達の部屋に置いて、それからアネットの工房か。

マリーさんの店や家にもあった方がいいだろう。

それなりの効果があるならばマスターやイライザさん、レイブさんに買ってもらうという手もある。

ローランド様とアナスタシア様にはあえて渡さない。

だって売れるってなれば高値で買ってくれるのはあの二人だからだ。

とりあえず25台は作れるから半分は売りに出せるわけで、今のうちに値段も決めておかないとな。

何かに使えるかもと思って買い付けたのだが、まさかこんな使い道が出来るとは思っていなかった。

世の中考え方次第で色々と思いつくもんだ。

そんな事を考えながら、夕暮れの街を大量の殻を抱いて歩くのだった。
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