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652.転売屋は報告する

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流しそうめんもとい流しうどんの余韻覚めやらぬ中、俺はローランド様の屋敷にいた。

外はどっぷりと日が暮れているものの、大通りからはまだ住民達の声が聞こえてくる。

久方ぶりのお祭り騒ぎ、そりゃ夜中までコースですよね、知ってた。

「久しいな。」

「ご無沙汰しておりますローランド様。」

「ここに顔も出さずに流しうどんとは、お前らしいな。」

「お味はいかがでしたか?」

「暑さで食欲の無いときは食べやすいだろう。」

「喜んでいただけて何よりです。」

「あの、うどんの総評をいただく場ではないんですけど。」

空気を読まずに羊男がちゃちゃを入れてくる。

まったく、急いてはことを仕損じるって言葉を知らないのか。

「それで、王都はどうだった。」

「非常に素晴らしい所でした。人も多く商売をするにはうってつけといえるでしょう。」

「人口が多ければ需要も増える、お前のようにポンポンと新しいことを思いつく者には最高の場所だろう。だが、お前は帰ってきた。」

「住むには人が多すぎますし、更に言えば貴族の身分を重んじるめんどくさい人間が多いので帰ってきました。行くにしても往復一月は遠すぎます、引き続き此方でお世話になろうと思っていますが、出て行ったほうがよろしいですか?」

「お前がそうしたいのならば止めはせんが、あの屋敷は接収させてもらおう。」

「それは流石に横暴では?」

「魔力結晶のおかげで大儲けできただろう?陛下からの手紙にも色々と書かれていたぞ。」

確かに魔石を安く買い付けられたのは魔力結晶のおかげだけども、今の身分は違う。

陛下が何を書いたのかは気になるがその辺はしっかり否定しておかないとな。

「何を書かれたのかは存じませんが、悪いことではないことを祈ります。」

「確かに悪い内容ではなかったな。それで、どうだ貴族になった気分は。」

「変わりませんね。」

「そうか。」

「王都はともかくここでは貴族の身分を気にする人などいませんから。もちろんそれを振りかざす気もさらさらありません。所詮は一代限りの名誉男爵、自慢すると代々貴族に列せられている方々から反感を買ってしまいます。」

「金に物を言わせたわけでもない、別に隠す必要も無いだろう。」

「必要であれば身分を明かしますが私は私。それで金儲けが出来るとは思っていません。むしろ出て行くほうが多いのではないでしょうか。」

貴族になったことで今までと変わったことが二つある。

一つが税金、そしてもう一つが義務だ。

「それについてはシープから説明を受けているだろう?」

「いいえ、まだです。」

「なに?」

「お言葉ですが全部シロウさんのせいですよ。説明に伺おうにもやれ仕事が忙しいだの、やれ仕込みで忙しいだの言って会ってくれなかったんですから。」

「仕方ないだろう本当の事なんだから。」

「だから今日ここに呼んだ訳ですけども。ローランド様、この場でご説明してもよろしいですか?」

「かまわんぞ。私は少し席をはずす、すぐに戻るがそれまでに終わらせておけ。」

何かを思い出したかのようにローランド様が部屋を出て行く。

残ったのは俺と羊男、それとアナスタシア様だけだ。

「で?」

「時間もありませんからさっさと終わらせましょう。まずは税金からですね、名誉男爵とはいえ貴族に間違いはありませんのでシロウさんの税金は金貨200枚から金貨300枚に変更となります。」

「は?増えてんじゃねぇか。」

「その代わり街の外からの仕入れに関しては一切の税金をかけません。つまり、ガンガン輸入してガンガン売れば元が取れるというわけですよ。良かったですね。」

「金貨100枚も仕入れるか?」

「ちなみに昨年の仕入れにかかった税金は金貨200枚を越えていますから、昨年と同量で金貨100枚の儲けになります。うちとしては損ですけど、シロウさんのもたらす恩恵を考えれば結果として大きなプラスになります。引き続きガンガン儲けてガンガン仕入れてください。」

ナミル女史の所ほどではないが、ここでも仕入れに関しては税金がかけられている。

ダンジョン産の素材に関しては街の中なので関係ないので基本はここで仕入れているのだが、ここ最近は行商やら何やらでそれなりの数を仕入れているからなぁ、どうしても今までより支払う金額が大きくなってしまう。

それが免除されるのはぶっちゃけありがたい。

金貨100枚の増額など微々たるものだ。

「税金のほかにも取引所の使用料や冒険者ギルドへの依頼料なども減額されます。婦人会は所属がちょっと違うので向こうに聞いてみてください。」

「そもそもあそこで値切るつもりは無いさ。」

「そういうと思ったわ。後は貴族の役割について私から説明するわね。一応王都でも説明はあったと思うけど、ここならではの内容もあるから。」

「よろしく頼む。」

羊男が一歩下がり、部屋の隅の方に立っていたアナスタシア様が俺の前に移動する。

「ひとまず名誉男爵の爵位おめでとう、これで貴方もこちら側ってわけね。」

「期待してくれているところ申し訳ないが、贈り物の日は今まで通り庶民側だ。次も勝たせてもらうつもりだから宜しく頼む。」

「あら残念。」

「初めから期待してなかったって感じだな。」

「貴方がわざわざこちら側につくとははじめから思ってませんもの。むしろそちら側にいてくれる方が戦いにも熱が入るというもの、庶民に寝返った不届き者に灸を据えようと他の貴族も躍起になってくれるはずよ。」

「俺を火種にするのはマジでやめてくれ。」

「冗談よ。」

冗談に聞こえないから困るんだってば。

そんなことになったらマジでこの街出て行くからな、覚悟しとけよ。

「話を戻すわね。この街での貴族の役割はただ一つ、街を守ることよ。」

「それはどこも同じじゃないのか?」

「んー、他所の場合は自分の地位と国王陛下への忠誠の方が役割が大きいのよね。まぁ、街を守ることで陛下への忠誠を示すっていう意味もあるんだけど、ここはそうじゃないの。」

「文字通り街を守れという事か。」

「そういう事。表向きは他の街と同じだけど本質は違う。私達の役割は、この街とこの街に住まうすべての住民を守ること。その為には手段を択ばないわ。もっとも、そういうことになったのはこの前のダンジョンが溢れそうになった時ぐらいかしら。」

「その割には動いていたのは冒険者ばかりだったと思うが?」

「確かに動いたのは冒険者や貴方だけど、それを維持するために裏で動いたのは私達よ。主にお金という面でね。」

確かに資材や食料、武具を用意したのは俺じゃない。

てっきりギルド協会が動いていたと思っていたのだが、金を出したのは貴族。

貴族がこの街であまり叩かれないのもそのためか。

「つまり俺にも金を出せって事だろ?」

「どっちかっていうと、貴方には冒険者と一緒に頑張ってもらう感じかしら。お金は正直足りてるし、現場をしっかりとコントロールできる方がこちらとしても有難いのよね。」

「間者になる気はないぞ。」

「そっちには期待してないわ。間に合ってるもの。」

つまり冒険者側の情報は筒抜けと。

いや、反旗を翻す気はないのでそもそも筒抜けだろうが何だろうが問題は無いんだが。

「役割については以上よ。これからも貴方の活躍に期待しているわ。」

「そいつはどうも。」

「ちなみに今日の流しうどんも美味しかったわ、今度は甘いもので宜しくね。」

「甘いものなぁ、そっちはドルチェに任せてるから彼女に聞いてくれ。」

「その本人が悩んでいるみたいだから今度話でも聞いてあげなさい。」

「悩みねぇ。」

どうせ新作が思い浮かばないとかだろ?

俺だってそんなポンポンあれこれ思い浮かばないっての。

「話は終わったか?」

「ローランド様、ちょうど終わったところですわ。」

「そうか。ならこれを渡しておく。」

「これは?」

「この街に所属しているという証みたいなものだな。」

「ふむ、ちなみに何に使うんだ?」

「引き抜き防止ね。」

「あ、そういう感じか。」

てっきり恩恵を受ける為の何かかと思ったんだが、単なるお守りだった。

とはいえ、所属がはっきりしていると色々と便利なことも多いと聞く。

詳しい事はマリーさんとアニエスさんに聞けばいいだろう。

「ちなみに数年したら私は街長の座を退く、後任はアナスタシアの旦那になるだろうがお前にもそれなりの地位についてもらうつもりだ。陛下もそれを了承している、しっかり頼むぞ。」

「もしかして魔力結晶を献上したのはその布石か?」

「今回の件でやっと陛下の許可が下りた。晩年は海の見える地でのんびりと余生を送るつもりだ。他の貴族には来年の感謝祭の場で報告する、それまではここにいる三人と数名しか知らない話だ。内密に頼むぞ。」

「数年ってことはまだまだ先の話だし、その頃には子だくさんになってるだろうし余計に逃げられなくなっているわね。」

「頑張ってくださいね、シロウさん。」

「まったく他人事だと思いやがって。」

お前だってその頃にはもっと偉い地位にいるんだろ?

今まで以上に仕事を振ってやるから覚悟しろ。

「これからのお前の貢献に期待をする。宜しく頼むぞ、シロウ。」

「あまり無茶ぶりされたらこの証をさっさと返してとんずらするんで。」

「逃げた所で陛下からは離れられん。諦める事だ。」

「ちなみに一つ聞きたいんですが。」

「なんだ?」

「陛下とはどういう関係で?」

「古くからの友人とだけ言っておこう。」

つまり詳しく教える気はないと。

ローランド様の手紙を危険を気にせず開封するあたり、タダならぬ関係だというのはわかるんだが。

まぁ、いずれわかることだろう。

「それでは、そろそろ俺は戻ります。言いだしっぺとして、最後まで付き合う義務があるので。」

「飲み過ぎるなよ。」

「アネットの薬があるので問題ありません。」

「それもそうだな、アレはいい薬だ。お前が買い付けてくれて本当に助かっている。」

「それは本人に言ってやってください。では。」

堅苦しい話は終わり。

後は皆の場所に戻って大騒ぎの続きといこうじゃないか。

貴族になったところでやることは変わらない。

俺は俺だ。
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