転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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643.転売屋は魔石を買い付ける

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取引所の一室を借りて相手と向かい合う。

向こうは一人、こっちは二人。

ミラは別件で動いてもらっている。

間に合うかはわからないが、その時はその時だ。

「呼ばれた理由は分かっているな?」

「さぁ、見当もつかない。俺は妻にそっちが待っていると聞いただけだ。」

「知らないふりをする必要はない、今日はお互いに腹を割って話そうじゃないか。」

「腹を割ってねぇ。」

「そちらが欲しがっている魔石一万個、こちらで用意しよう。」

「内訳は?」

「君の希望通りで構わない。中型一万個でも五千個ずつでもどちらでも用意しようじゃないか。」

「大損じゃないのか?」

「あぁ、君のせいでね。」

正確に言えばローランド様だけどな。

大量の魔力結晶が市場に流れると知れ渡り、今まで市場を支えていた魔石がすべて値崩れし始めている。

昨日調べた感じでは小型が銀貨2枚、中型が銀貨5枚という感じだろうか。

今までの流通価格から考えるとそれぞれ銀貨1枚の値下がり、小型に限って言えば33%ダウンだからなぁ。

使用用途が沢山あるだけにそれ以上の値下がりはないと思うのだが、それよりもさらに安い俺の提案に載って売るという事はもっと値崩れすると読んでいるんだろう。

「ふむ、なら小型三千個と中型七千個で頼もう。金貨240枚でいいな?」

手数料を入れて金貨247.2枚の取引。

儲けのほとんどをこれに持って行かれるが、向こうでの売り上げを考えると安いもんだ。

なんせ倍で売れるからな。

「もちろん。とはいえ数が数だけに今すぐというわけにはいかない、確か二日後にはここを出るんだったね。」

「その予定だ。」

「こうするのはどうだろう、明後日までに出来るだけ用意して足りない分は後日こちらから発送させてもらう。もちろん輸送費はこちらで持つよ。」

「大損な上に輸送費まで持ってくれるとは大盤振る舞いじゃないか。俺みたいな新参者は好ましくないんじゃなかったのか?」

あまりにも話が出来過ぎている。

なので少しカマをかけるつもりで言葉を発したのだが、その瞬間に場の空気が変わった。

横に座るハーシェさんが身を固くするのが分かる。

「その通り嫌いだとも。」

「だがその嫌いな相手に頼らないといけない程に状況が悪いと。俺が想像するに魔石の値下がりは予想していなかった、そんな感じか。即金が必要なら多少融通する余裕はあるぞ。」

「悪いが君の援助を受けるつもりはない。」

「が、魔石は買ってほしい。まぁ、俺は格安で魔石を仕入れられればそれでいい。というかだ、こっちで値下がりしていても他所ではそこまで下がっていない筈。そっちで売ることはできないのか?」

「アナタ、魔石の販売に関しては貴族間で厳しい取り決めがあります。なので指定の場所以外では販売できなかったかと。」

「成程、他人のシマは侵せないわけか。」

なら俺の魔石もダメなんじゃないだろうか。

あれ、もしかして俺も大損?

「魔石鉱山を所有していない貴族になりますので魔石の販売に制限はありません。ですが、そこを管轄する方にお伺いを立てるのがよろしいかと。」

「ちなみにそれは?」

「ローランド様です。」

「なら問題ないな。」

そもそもこれはあの人が発端だ。

売るなとは言わせない。

「ともかくだ、君は魔石を手に入れ私は売り上げを得る。悪い話じゃないだろう?」

「そうだな、間違いなく品が届くのであればの話だが。」

「僕が契約を反故にするとでも?」

「いいや、子爵様がそんなせこい事をするはずがないと思っている。貴族の名を汚すようなことをしない相手だともな。とはいえ、品が届くかどうかは現物を確認しない限り安心できない。輸送中に何が起きるかわからないだろう?」

「まぁ、そうだね。」

「って事で輸送に関しては俺の指定する業者を使ってもらえないか?船長と業者には伝手がある、彼らを使ってもらえるのであれば俺も安心だ。」

「わかった、後でその業者を教えてくれ。」

お、あっさり引き下がった。

てっきり何かしてくるつもりなのかと思ったんだが、俺の勘ぐりすぎだろうか。

まぁいい、あまり油を注ぎすぎて炎上するのは避けたい。

貴族になったとはいえ身分は向こうの方が上だしな。

「ハーシェさん、ドレイクさんとガレイさんの連絡先を伝えてくれるか?それと、不在時の監督はウィフさんに頼むつもりだ。」

「わかりました。」

「金は今すぐの方がいいよな?」

「まさか、持ち歩いているのかい?」

「さすがに400枚持ち歩くようなことはしないさ。とはいえ、手付ぐらいは払っておくべきだろう。手数料もあるし取引所で契約書を作ってもらって来る、少し待っていてくれ。」

ハーシェさんをこの場に残すのは申し訳ないが、相手の気が変わらないうちに書面に残しておきたい。

部屋を出て係員に契約成立を告げ、すぐに書類を作ってもらい所定の手数料を支払った。

「これで契約は完了だ。確認してくれ。」

「小型魔石三千個に中型魔石七千個。明後日までに用意できる分に関しては現物と共に書面にて記し、現場で照合。残りに関してはその日までにおおよその日付を提示して、確認後残代金を先に支払う。問題ないよ、サインはここだね。」

「手付は金貨40枚だ、足りるか?」

「十分だ。」

金貨10枚の山が四つ。

お互いに確認をして、ストーンさんは無言で金貨を袋に詰めた。

そしてそのまま立ち上がり、スッと手を伸ばしてきた。

「正直君がこんなにも素直に受けてくれるとは思っていなかった。」

「そうか?」

「あぁ、お互いにあまりいい印象は持っていなかっただろう?」

「まぁな。とはいえ、仕事は仕事だ。そっちにどんな事情があるのであれ、お互いに得るものがあるのであれば断る理由はない。本当に金は良いのか?」

「結構だ。」

そこまできっぱりと断られたのなら何も言うまい。

俺も手を伸ばし握手を交わす。

一度だけしっかりと握り合い、すぐに手を離すと何も言わず部屋を出ていく。

それを二人で何も言わずに見送った。

「はぁ、疲れた。」

扉が閉まってから一呼吸置き、ソファーに崩れ落ちる。

大きく息を吐くと同時にどっと疲れが全身を襲って来るのが分かった。

「お疲れ様です。」

「俺が不在の間何か言われなかったか?」

「特に何も。ただ静かに窓の外を見ていました。」

「ふむ、予想外だ。」

「もっと何かしてくると思っていましたね。」

「あぁ。」

今回の餌は向こうにとってかなり厳しい条件のはずだ。

相場の半値。

投げ売りに近い値段で俺に売るってことは余程金に困っていると思われる。

なので何かしらの方法で値段を釣り上げるとか個数をちょろまかすようなことをしてくると思ったのだが、それをするそぶりも見せない。

輸送手段も全てこちらの思うまま、その場での個数確認も快諾ときたもんだ。

うーむ気味が悪い。

「契約書類に怪しい個所も不備もありません。」

「ということは正しく契約は遂行されるという事だ。もし違える事があれば向こうにはそれ相応の報いを受けてもらう事になる。貴族という身分を汚すようなことはしないだろう。」

「これもアナタが貴族になったおかげですね。」

「どうだろうな。」

新参者の俺を嫌っているのは間違いない。

だからこそ、困っているにもかかわらず俺に頼る事が出来ないんだろう。

金に困っていると決まったわけじゃないが、プライドを汚してでも俺に頼る所からそう推測できる。

「ともかく最後の取引はこれで終了。ここでの儲けは随分と減ったが、まぁ向こうで取り返せば問題ない。」

「街での価格は小型魔石が銀貨3枚、中型魔石が銀貨8枚ですからこれだけで金貨410枚の儲けになります。王都での儲けを越えてしまいましたね。」

「それだけデカイ山だっただけに保険を掛けたわけだが・・・。」

「シロウ様!」

「お、ミラ。それにウィフさんとイザベラも悪かったな急がせて。」

「さっきストーン子爵とすれ違ったよ。その様子だと間に合わなかったようだね。」

慌てた様子で部屋に飛び込んできたのはミラとウィフさんそれとイザベラの三人だ。

別件でお願いしていた保険がまさにこの三人。

相手が相手だけに第三者を呼んでおいた方が安心かと思ったんだが、それもいらぬ心配だったようだ。

「それで大丈夫ですの?」

「拍子抜けするぐらいにうまくいった。これが契約書だ。」

「・・・特に怪しい所はありませんわね。」

「取引所専門の用紙に直筆のサインもある、手数料も支払ってある以上契約は成立したとみなされるだろう。」

「おめでとうございますシロウ様。」

「ありがとうと素直に喜ぶところなんだろうが、なんだかなぁ。」

「いいじゃないか、自分が認められたと思えばいい。」

「後ろ盾のおかげだけどな。」

「そういうのを使えるなら遠慮なく使うのがこの世界だ。出し惜しみをして足元をすくわれた例が目の前にいるだろう?」

「さぁ、いったい誰の事だか。」

夫婦漫才はさておき、確かにウィフさんの言う通りではある。

気を抜けば足元をすくわれ破滅させられる世界。

食うか食われるか。

儲けるか損をするかという意味では元いた場所と変わらないんだけども。

そうならないように使える物は使えって事なんだろう。

今のようにな。

「ともかく来てくれて助かった。今回用意できなかった魔石に関してはウィフさんに監督してもらうつもりでいる、引き受けてもらえるか?」

「それぐらいなら大丈夫だよ、ただ数を確認して送り出すだけだろう?」

「業者は私の知り合いを使って問題ありませんわね?」

「あぁ、こっちの業者は指定していない。イザベラに任せる。」

「わかりましたわ。」

これにて本当にすべて終わり。

残り時間は後一日半って所か。

長かったような短かったような。

ま、全部終わったし後は出発の日をのんびり待つとしよう。

「さぁ祝杯を上げようじゃないか、君の無事と多大な儲けに。」

「どうせ俺のおごりなんだろ?」

「わかってるねぇ。ちょうど君の奥さんと古龍様が望んでいた肉が手に入ったんだ、みんなで楽しもうじゃないか。」

「ちゃっかりしてるなぁ。」

「ウィフが珍しく頑張って見つけたお肉ですのよ?しっかり味わってもらわないと。」

「大丈夫だ、あの二人には何を食べさせても美味いっていうから。」

馬鹿舌ではないけれど、食えればオッケー的な部分もある。

ま、大儲けしたんだし祝杯は上げていいだろう。

大きな充実感を胸に、俺達も取引所を後にするのだった。
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