転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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642.転売屋はホームシックにかかる

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「あぁ、早く帰りたい。」

「まだあと二日あるんだけど?」

「やることはやったし買い付けるものは買い付けた、もう帰っていいんじゃないか?」

「まだ食べていない物が沢山あるからのぉ、もう少し我慢じゃ。」

結婚式も終わり、残り滞在時間はあと二日。

本来であれば残り二日を金儲けのために使うべきなんだろうが、燃え尽き症候群的なものだろうか早くも屋敷に戻りたくなってきた。

別に王城での生活に不満があるとかそういうのではない。

むしろ至れり尽くせりでお礼を言わなければならないぐらいだ。

過度の干渉は無く、ただ快適な居住空間と食事を提供してくれる。

マリーさんも式を挙げてからはこちら側に戻ってきた。

どうやらお別れは済んだようだ。

ま、今生の別れでもないし必要となれば向こうから来ることもあるだろう。

最低三人産めとか言われたしな。

善処はするが約束はしていない。

流石に乳飲み子を連れて10日の行程はさすがに厳しいものがあるからなぁ。

「ミラ、今日の予定は?」

「取引所にて頼んでおいた品が届いているかの確認と、発送準備です。こちらに来てすぐに買い付けた品は先行して発送してありますが、日持ちする物は輸送費の節約のために帰りの船便に持ち込む予定となっております。リストを作ってありますので後でご確認ください。それと税の納付ですね。」

「結構買い付けたなぁ。」

「今日明日でさらに追加が来る予定です。戻ってからも大忙しですよ。」

「むしろかかって来いって感じだ。」

「いつもはめんどくさいとか言うくせに。」

エリザがぼそっと呟いたので返事代わりに尻を揉んでやる。

手を叩かれると思ったがまんざらでもなさそうだ。

「アナタ、もう一つ忘れていませんか?」

「ん?」

「例の餌にはまだ獲物はかかっていませんよ。」

「もちろんわかってる。俺の予想ではそろそろなんだがなぁ。」

「餌?獲物?」

「魔石の買い付けです。取引所に買い付け依頼を出してもう一週間以上、問い合わせはあるものの成約には至っていないのだとか。こちらに滞在している間に接触してくるというのがシロウ様の読みなのですが。」

「嫌われてるんじゃない?」

向こうは代々続く大貴族。

こちらはどこの馬の骨ともわからないぽっと出の名誉貴族。

『貴族』という文字の通り、その身分は貴きものだと信じている人たちにとって、俺のような存在は認めたくないものなんだろう。

しかも、国王陛下のお気に入りと来たものだ。

さらにさらに古龍の庇護までうけているものだから尚の事気に入らない。

ちょっかいをかけることも出来ず、ただ指をくわえてみているだけ。

そんな邪魔で面倒な相手に膨れ上がってきた在庫を買い叩かれるのはプライドが許さないんだろうなぁ。

とはいえ、向こうも巨額の損失が出る前に何とかしたいとは思っているだろう。

プライドと金。

俺がいるまでに決着が出ると思ってはいるのだが、なかなか答えは出ないようだ。

「まぁ、連絡があればよし。無ければ俺の読みが甘かったってだけだ。大儲けはお預けだな。」

「例のゴミも全部売れたわけだし今でも十分に稼いでいると思うけど。」

「いいえ、シロウ様は今の倍稼ぐおつもりですから。この二日が勝負です。」

「倍って・・・。そんなに稼いでどうするのよ。」

「金はいくらあっても困るもんじゃないだろ。屋敷の使用人も増やさないといけないし、いつ何時巨額の損失が出るとも限らない。心配するな、全員食わせていくだけの甲斐性はあるつもりだ。」

「ふふ、もちろんわかっています。」

「無茶さえしなければそれでいいわ。くれぐれも一人で裏通りとか行かないでよね。」

さすがにそこまでバカじゃないさ。

とりあえず書類に全て目を通し、追加の買い付け準備をすすめるとしよう。

餌に食いついてくるか、それとも逃げられるか。

何事も我慢が大事ってね。

準備を済ませてまずはギルド協会へと顔を出す。

流れの商人とはいえ、この町で儲けた分はしっかりと納税する義務がある。

もちろんごまかすことも出来るのだが、面倒ごとになるのはごめんだ。

「は?免除?」

「はい、国王陛下よりそう伺っております。」

「いやいやいや、そういうのはしなくていいから。ちゃんと払うから。」

「そう言われましても、貴族の方は免除する決まりでして。」

「取引所はちゃんと請求してきたぞ?」

「アレは手数料ですから。」

うーむ、素直に喜ぶ所なんだろうけど納得がいかない。

陛下が俺を特別扱いしているのであればここはしっかりと拒否する所なんだろうけど、貴族全体と言われてしまうとそういうわけにも行かないわけで。

「それでいいのか?」

「元々貴族の方々はここでお商売をされませんから。しても別の国で、もしくは別の地域でとなりますのでそちらで納税義務を果たされます。最終的にはその税がここに集まってきますのでここでは免除、という決まりなんです。」

「なるほどなぁ。確かに最後には金が集まるわけだし、二重課税を防ぐためなのか。」

「地方でお金を落として貰うのも貴族の大切な仕事ですから。」

「そういうことなら納得した。へんなことを言ってすまない。」

「いえ、戻られた先でしっかりと税を納めてくだされば結構です。」

「それに関しては問題ない、うちの職員は厳しいからな。」

協会職員の女性がにこやかに笑う。

貴族だから特別扱いではなく、ちゃんと理由がある。

貴族は地方で金を落とせ、か。

戻ったら貴族の納税金額を確認しておかないとなぁ。

「ちなみに来年より寄付金額に応じて減免が行われることになりました。シロウ様は発案者として今年よりその減免を受けることになります。」

「俺の寄付ではなく、別の貴族の分を立て替えただけなんだが?」

「それでも寄付は寄付です。他の皆様の分は来年度改めて計算いたしますので。」

「それは特例だよな。」

「特例ではありますが陛下の指示ではございません。あくまでも、この国を良くする制度を発案された方への特例です。」

「わかった。」

「この度はここ王都に多額の寄付と素晴らしい品々を持ち込んでくださりありがとうございました。ギルド協会はまたの来訪を心よりお待ちしております。出来ればまた素晴らしい品々と共にお越しください。」

俺が大量の品を持ち込むことで市場が活性化し、それにより街に落ちる税金が増える。

そりゃまた来て欲しいと思うわけだ。

廊下に出るとミラが俺の帰りを待っていた。

どうやらハーシェさんは先に取引所へ向かったようだ。

「お待たせ。」

「お疲れ様です。」

「税金の支払いは免除だ、加えて来年度の税も減免を受けられるらしい。」

「それはようございました。」

「驚かないんだな。」

「貴族の特権とはそういうものだと思っておりましたので。」

「その分下に金を落とせ、だとさ。免除された分の半分は買い付けておくか。」

今回の減免分は金貨20枚。

儲けが金貨400枚だったので5%分を納税するつもりだったのだが、それが丸々浮いた形になる。

追加で金貨10枚分、何を買い付けるかなぁ。

ギルド協会を出て大通りへ。

それから取引所へと向かう。

エリザとディーネはまた食い倒れだろう。

マリーさんは部屋の片づけをしているそうだ。

「ミラは満喫できたか?」

「はい、とても楽しい旅になりました。」

「半分は仕事みたいなものだったが、まぁ儲かったし。それに凄いものもたくさん見れたな。」

「でも、少し疲れました。あまり人が多いと目が回ってしまうので、やはり元の街の方が合っているようです。」

「それは俺も思う。何事も分相応というものが在る、俺にこの街は大きすぎるみたいだ。」

どこを見ても人人人。

それも見知らぬ人ばかり。

俺達の町は人は少なくても顔見知りは多い。

安心感が違うんだよなぁ、やっぱり。

ここでは後ろについてきてくれている聖騎士団の護衛無しに好きに歩くのは難しい。

監視されているわけではないのだけれど、どうも気になってしまうんだよな。

「あ、アナタ!」

もうすぐ取引所というところで、大きなお腹を抱えたハーシェさんが此方に走ってくるのが見えた。

ミラと共に慌てて駆け寄る。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。」

「何かありましたか?」

「お客様です。ラウドーン家次期当主様が取引所でお待ちです。」

「かかったか。」

「はい。」

そりゃ慌てて走ってくるわけだ。

なかなかエサにかからないと思っていたが、最後の最後で大物がかかったらしい。

さぁ、これが本当に最後の仕事になるだろう。

向こうがどうでるか、見せてもらおうじゃないか。
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