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636.転売屋は新しいサイクルを考案する

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「なるほど、なんとも君らしい考えだ。」

「褒められていないって一言でわかるな。」

「そうとも褒めてはいない。でも貶しても叱ってもいない。君らしい、君ぐらいしか考えない事だ。」

「そんなことはないだろう、偽善者は世の中に山のようにいるさ。」

「でもそれを行動に移そうなんて奇特な人は滅多にいない。この王都でも人助け、しかも自分が儲けることが大前提。いやぁ、世間の目を気にして人助けの為に貧しい者達へ喜捨する貴族は山のようにいるけれど、自分の儲けの為に金を使う人は君が初めてじゃないかな。」

フェルさんとの夕食会の席での事。

エリザが今日あったことを面白おかしく話し、今後どうするかを説明した俺は大笑いされていた。

なんとも嬉しそうに笑うものだ。

それはまるで子供のような屈託のない笑いだった。

「ねぇ、コレはシロウ的には人助けなの?」

「いいや金儲けだ。」

「と、本人は言っているけど僕的にはそういう言い訳の人助けだと思うね。」

「で、どっちなのじゃ?」

「つまり両方一緒にしてしまおうということです。シロウ様らしい考え方ですね。」

「私はいいことだと思います。彼のように痛めつけられる子が減るわけですから。」

自分のお腹を撫でながらハーシェさんは力強く言い切った。

別にそんな大それたことじゃない。

食べるものに困り、飢え、吸い寄せられるようにやってきた飯屋の裏で殴り殺されそうになる子供を救いたいというただの偽善だ。

あの時は助けないといったが、何もしないのは俺の良心が許さない。

全員を助けるなんてのは不可能だから、せめて関係する人だけでも助けられたらと思っただけだ。

もちろんただで助けるようなことはしない。

やるからには投資した分以上に俺の金を増やしてもらう。

「それで、具体的にはどうするつもりなんだい?」

「ゴミ拾いだ。」

「え?」

「数日歩いてみてわかったんだが、王都ってのは見た目は綺麗だが足元は結構汚いんだな。」

「あー、確かにそうかも。」

「その点私達の街は綺麗ですよね。」

「そりゃあガキ共が拾ってるからな。綺麗だと冒険者もゴミを捨てにくいし、ガキ共が拾っているのを見ているから捨てる前に思い直すやつが多いんだ。」

「良心の呵責というやつですね。」

そういうこと。

その点王都はゴミが多いので自分も捨てていいかと思ってしまうんだろう。

見た目は綺麗な街だが、足元はゴミばかり。

一応大通りは掃除してあるようだが、頻度は少なく回収が追いついていないので結果的にゴミが目に留まる。

当たり前だと異常さに気づかない典型だ。

「ゴミ拾い程度で君の儲けになるのかい?」

「それだけじゃどうにもならないさ。だが、ゴミ拾いをすれば金になるとわかれば金のないやつは喜んでやるだろ。不衛生は病気の元、それをやるなとは誰も言わないさ。ちなみにその金を出すのは俺な。」

「その後はどうされるですか?」

「ゴミを下水道に持って行って処分する。確か王都もスライムを使ったゴミ処理機構を採用してたよな?」

「排泄物を含め全てのゴミは下水道でスライムにより分解、骨や鉱物などの消化できないものだけが排出されます。まさかそれを?」

「ご明察。ゴミと一言にいうが、中身次第では宝の山だ。とはいえ、下水道は臭いし弱いながらも魔物がいるからその辺は金のない新米冒険者にでも頑張ってもらおう。で、回収したゴミを選別して素材として売りに出す。」

「なるほど、それで儲けるわけだね。」

普通はゴミが金になると思わないだろう。

だが、俺は知っている。

あんな小さな町でもダスキーがたくさんの貴金属を運んで来たように、この街でも同じことが起きるはず。

しかも規模は倍以上。

ゴミを買うのにはそんなに金は必要ないが、選別した後は金になる。

もちろんこれが出来るのは最初だけ。

金になるとわかれば他の人が俺のあとを継いでやってくれるだろう。

何ならギルドに話を持ち掛けてもいい。

向こうからしてみれば新米冒険者の支援が出来る上に、運営資金も確保できる。

ゴミ拾いの代金もギルドが支払ってくれれば安心だ。

「でもゴミでしょ?みんなやりたがるかしら。」

「下水のゴミにお前ならいくら出す?」

「銅貨1枚も払いたくないわ。」

「なら銅貨5枚で買うと言ったら?」

「んー、余程お金に困っていたらやるかも。」

「つまり元手がその程度で済むってわけだよ。原価が安ければそれだけ儲けが多くなる。特に、やり始めはこれまで蓄積されたお宝が山ほどあるからな。何事も立ち上げが一番儲かる、初期投資なんてのは微々たるもんさ。まぁ、後続があまり儲からないからこういうのは民間ではなく公的な機関がやったほうが途中で止めにくい。さらに言えばそれが王家直々の要請ならどうだ?」

「中々にずるい考えだ。」

「それで助かる命があるならどう言われたってかまわないさ。俺は儲かり、誰かが助かる。ついでに町は綺麗になるし、新米冒険者は仕事にありつける。偽善者呼ばわり上等ってね。」

無償奉仕が善ではないと俺は思っている。

誰かが得をして誰かが損をするのは当たり前。

その損を上回るほどの得があるのであればそれはやるべきことなんだろう。

「その行いを偽善というのであれば、世の中の善とは何なんだろうね。」

「そういう難しい事は偉い人で話し合ってくれ。ってことで、こういった話はどこに持っていけばいい?」

「それなら清掃局がいいだろう、ゴミ拾いに金を出すといえば喜んで手伝ってくれるさ。」

「自分の懐を傷めずに街が綺麗になり、それが自分達の成果にもなる。いいじゃないか。」

「向こうには知り合いがいる、明日君が行くと伝えておくよ。」

「よろしくたのむ。」

「なに、彼女の絵を描かせてもらったんだ安い物さ。」

いつの間にかフェルさんはディーネと契約を交わしていくつか作品を描いていた。

マイクさんが広めた歌に出てくる古龍はこんなにも美しいのだと広めるためだとか。

プロがプロの宣伝をするんだ、そりゃ広まるだろう。

「では、後は分別するための人手が必要ですね。」

「いつもは婦人会に頼んでいたけど、こっちではどうするの?」

「そう言った組織がこっちにあれば助かるんだが。」

「それもあの小童共にやらせればよいではないか。ゴミを拾い、拾ったごみを選別する。それでその日食うだけの金がもらえるんじゃ、がめつい大人にやらせるよりも余程価値がある。」

「なるほど。じゃあ孤児院か何かだな。」

「そっちにも知り合いがいる、話しておくよ。」

「随分と顔が広いじゃないか。」

「絵描きとはそういうものさ。」

よくわからんが伝手があるのは助かる。

こうして即席のゴミ拾いが急遽決まった。


翌朝。

フェルさんの連絡を受けた清掃局が、ゴミ袋代わりのビッガマウスの頬袋と火ばさみ代わりのロングシザーシュリンプの腕を持ってきてくれた。

集合場所でもある冒険者ギルドの前に集合すると、日の出すぐにもかかわらず大勢のガキ共が集まっている。

皆お世辞にも綺麗な格好はしていないが、その目は死んでなかった。

「よく集まってくれた、今日はみんなにゴミ拾いをしてもらう。なに、やることは簡単だ、町に落ちてるゴミを片っ端からこの袋に入れて持ってきてくれ。袋一つにつき銅貨30枚出す。一人何回でもいいぞ、集められるだけ集めて持ってこい。金をもらったらそれをスライム処理施設まで持って行ったら仕事は終わりだ。報酬とは別に今日の分の食事も用意してるからそれを持って帰るように。わかったか?わかったら返事しろ。」

「「「「はい!」」」」

「よし、王都クリーン作戦開始だ。じゃんじゃん拾ってガンガン稼げ!」

「「「「おーーーー!」」」」

元気な声が夏の空に響き渡る。

その日、ゴミだらけだった王都の主要通りから瞬く間にゴミが消えた。

落とす傍からゴミを回収され、しまいにはいつゴミを落とすのかとみられる始末。

さすがにその状況で捨てる勇気はなかったのか、一度綺麗になった大通りからゴミが随分と少なくなった。

もちろん裏通りの方はまだまだ汚いが、まずは人通りの多い場所から綺麗にすれば意識も少しずつ変わるだろう。

継続は力なり。

俺がいる間は責任をもって俺が金を払うが、その後は清掃局が金を払うことが決定した。

今頃下水道のスライムは大騒ぎしているだろう。

もしかすると食べ過ぎで詰まるかもしれない。

それぐらいの量が集まった。

その日の夕方、報酬と大量の食糧を手にガキ共がホクホク顔で家に帰る姿が見られた。

孤児のほかに貧しい家から来ている子もいた事だろう。

支払った金額はこの時点で金貨2枚。

さて、明日はどれだけのゴミが下水から出てくるだろうか。

楽しみだ。
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