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626.転売屋は情報収集する

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「まさか、リングさんが迎えとは思わなかった。」

「せっかくお前がこっちまで来ると聞いたんでな、自ら志願したのだ。」

「マジか。」

「あの町から出なかったお前もさすがにあの方の誘いは断れなかったようだな。」

「そりゃあ、国のトップに呼ばれちゃわがままも言えないだろ。」

「しかも孕ませたって?」

「言い方。」

「本当のことだろう。いやいや、お前も私と同じ父親になるか。覚悟しろよ、大変だぞ。」

新米父親が何を偉そうになんて言ったら即座に首を刎ね飛ばされてしまうんだろうなぁ。

口は禍の元、静かにしていよう。

「その辺は理解しているつもりだ。」

「そうか、ならいい。」

「馬車は用意してあるんだったか?」

「さっきお前の女に会ったから指示を出しておいた、それにしても三人とはお前もなかなかやるな。」

「もうすぐ四人になる予定です。」

ミラが次は私だとサラリと宣言する。

はい、頑張らせていただきます。

「それで、何かわかったか?」

「思ったよりも素材の値段が違うな。向こうだとざらにある素材がこっちだと二倍、物によっては三倍もする。とはいえ輸送の費用を考えるとあまり儲かりそうにないが、数をこなせばって感じだな。それと同じように向こうで高い素材がかなり安いのも見受けられる。」

「つまり仕事があるという事だな?」

「その辺は諸々調べてからだな。利益が出ても手間があればやる意味はないし。お、ワイバーンイーグルの羽毛に募集が出てるぞ。相場の二倍?妙だな。」

「あぁ、おそらくは次の祭りで使うんだろう。あの羽毛は見栄えがするからな、だがここらでは手に入りにくい。」

「売りますか?」

「せっかくだ、路銀を稼がせてもらおう。」

相場の二倍なら今を逃す手はないだろう。

棚から牡丹餅っていうのはこういうことを言うんだろうな。

『ワイバーンイーグルの羽毛。巨大なワイバーンイーグルの羽毛は保温性が高くまた撥水性が高い。一枚一枚が大きいため装飾や布団などにも用いられる。最近の平均取引価格は銀貨2枚。最安値銅貨99枚最高値銀貨5枚。最終取引日は33日前と記録されています。』

取引所に張り出されていた取引量から考えると儲けは金貨3枚は固い。

あとはミラの交渉と取引単価次第だな。

「まさか、あるのか。」

「ちょっと船上でな。」

「相変わらず運のいい男だ。とはいえ出発するまであまり時間はないぞ、あの量だと昼前には出発だ。」

「それじゃあ手分けしたほうがいいな、ミラは他の相場を俺は荷物を手配する。いい感じのがあれば羽毛の代金で買い付けておいてくれ。荷台に空きはあるみたいだしな。」

「かしこまりました。」

「そんじゃま行くか、リングさん。」

「あぁ。」

せっかく本人が来てくれたんだ、早速義理を果たすとしよう。

荷物の移動を指示する傍ら約束通りキャプテンドレイクにリングさんを紹介する。

まさか王族を紹介されるとは思っていなかったんだろう、俺の時と違って随分と対応がぎこちなかった。

「ふむ、真面目そうないい青年じゃないか。」

「船長になってまだ間もない分汚れ仕事には染まってない。何かの折に使ってやってくれ。」

「この辺りでは数少ない人材ともいえるな。」

「そんなに汚職がひどいのか?」

「非合法の品を扱う輩が増えている、平和なのはいい事だが皆刺激に飢えているようだな。」

「いやだねぇ。」

「くれぐれも気をつけろ、お前が思っている以上に王都は面倒だぞ。」

自分の住む王都をそこまで言うなんてよっぽどなんだろうなぁ。

薬もそうだが金がある所には汚いものが集まってくる。

リングさん自ら来てくれたのも俺を守る為なんだろうが、どうしても後ろであの人の姿が見える。

「なら、残り一日でその辺を全部教えてもらうとしよう。時間はたっぷりある。」

「それがいいだろうな、まずは貴族間の関係から始めるか。」

「いや、そういうのは面倒なんでパスで。」

「あいつらがお前を放っておくことなどありえんぞ、晩餐会で失態を犯す前にしっかり頭に叩き込んでおけ。」

「まてまて、晩餐会あるのか?」

「あるにきまってるだろう。国王陛下直々にお前を紹介するんだ、せいぜい頑張るんだな。」

頑張るんだなって、マジかよ。

絶対にめんどくさい奴じゃないか。

貴族間の権力闘争に巻き込まれるとか勘弁願いたい。

あぁ、気楽な王都観光という夢はどうやら到着前に潰えてしまった。

「あれ、リング様がいる。」

「エリザ殿か、懐妊おめでとう。」

「ありがとうございます。で、なんでシロウはそんな顔してるの?」

「晩餐会の日に何をいうべきか今から考えているのだろう。」

「え、晩餐会あるの!?」

「美味いものが食えるのか?」

「もちろん、美味しいものがいっぱいあるはずよ。楽しみね。」

全然楽しみじゃねぇ。

横ではしゃぐエリザとディーネを睨みつけながら深い溜息を吐く。

その様子がおかしいのか無責任にもリングさんは笑ってるし。

あぁ、いやだいやだ。

今から船に乗って帰れないかな。

だめだよなぁ。


そんな俺をよそに予定通り昼前には馬車への搬入が終了し、二台の馬車に分かれて王都へと出発した。

ちなみに俺たちの乗った馬車は二台だが、その前後に荷物運搬用四台と護衛用二台の計6台の馬車がいるのでなかなかの車列だ。

港で一台分は捌いたはずなのになぜか台数は減っていない。

いったいどれだけの量を買い付けたんだろうか。

「このまま進んで今日の夜は私の別荘での宿泊だ、狭いところだが人目を気にしなくていい分安心だろう。」

「気を使ってもらって助かる。」

「ただ警護しやすいだけじゃない?」

「こういう時はわかってても礼を言うもんだ。」

「わかってるわよ。」

「それで、新しい人がいるようだがいつになったら紹介してもらえるんだ?」

「そうか、リングさんは初めてか。」

てっきりもう知っていると思っていたが、よくよく考えればまだ地上に出てきて一か月も経っていない。

順応性高すぎだな。

「ディーネじゃ、シロウに地上を案内させるために同行している。」

「リングだ。彼とはそうだな、友人という事にしておいてくれ。」

「そうだったのか?」

「違うのか?」

「王族にそう言ってもらえて俺は光栄だが・・・。あ、ちなみにディーネは古龍だ、人じゃない。」

「別にそんなに大層なものではないぞ、ただの老いぼれたドラゴンじゃ。」

「なるほど、燃えるような赤い瞳。マイクの謳っていた古龍は彼女の事だったか。」

うんうんと一人納得しているリングさんだが、ふつう驚くところじゃないだろうか。

だってドラゴンだぞ?

それともあれか?冗談だと思っているのか?

「驚かれないんですね。」

「シロウだからな、なんでもありだ。それに古龍であれば私もあったことがある、これでも王族なんでね。」

「ガルの気配を感じる、元気にしておるか?」

「陛下に言わせれば随分と大人しくなったそうだ。」

「ふふ、私を見てどんな顔をするか楽しみじゃなぁ。」

そういえば王都は別の古龍の庇護を受けてるってマスターが話してたっけ。

だから驚かないのか?

ってそれが理由になるのか?

わからん。

「さて別荘まで時間はたっぷりとあるが、随分とやる気のない顔だな。」

「貴族間のいざこざに興味はない、そういうのはミラとハーシェさんに任せるさ。どうせ一緒にいるだろ?」

「え、私は?」

「お前とディーネは食い物に夢中だろうから戦力外、それよりも俺はこっちの名産や特産のほうが気になるね。こっちで有名なものって何なんだ?」

「そうだな、一番はやはり魔石鉱山だろう。国の需要をすべて賄いさらには輸出で莫大な富を築いている。最近は魔力結晶の産出量が減っているという事だったが、新たな鉱山が見つかれば解決するはずだ。」

「魔石かぁ、興味ねぇなぁ。どうせ国有財産だろ?」

「そうなるな。一応ダンジョン産の魔石も豊富にあるから取引は盛んにおこなわれている。とはいえ、鉱山から産出されたもののほうが安定した出力を出すから魔道具に使われることはほとんどない。」

「じゃあ何に使われてるんだ?」

「触媒ですね。」

なるほど、鉱山から産出されたものは燃料でダンジョンのは加工用なのか。

すみわけをすることで価格をおちつかせているんだな、考えたじゃないか。

「他にないのか?食い物とか素材とか、そうだ今何が流行ってるんだ?」

「私にそれを聞くのか?お前のところの、イザベラだったか彼女に聞いたほうが早いと思うぞ。」

「つまり知らないんだな。」

「そういうのは妻の方が良く知っている。別荘に連れてきているから直接聞くといい。」

「ってことは、子供もか?」

「あぁ、息子も一緒だ。」

嫁さんと結婚するために、必死になってクリムゾンティアを探してたんだよなぁ確か。

あの時はあの時でなかなか大変だったが、それがあったからこそ今の関係がある。

「赤ちゃんに会えるのね、楽しみだわ。」

「赤ん坊とはいえ向こうは王族の跡取り息子だ、丁寧なあいさつをしろよ。」

「どの口が言うか。」

「さて、何のことだか。」

「まったく陛下の前ではくれぐれも粗相のないように頼むぞ。」

「陛下の前だけでいいのか?」

「お前にそれ以上は望まん。それにだ、下手にちょっかいを出すやつがいればあの方が容赦しないだろう。それぐらい他の貴族もわかっているはずだ。もっとも、お前がよほどの粗相をしないことが前提だがな。」

「一応気を付けるつもりではいる。そこまで馬鹿じゃない。」

見た目は若いが中身は40を超えたおっさんだ、それなりにマナーはわきまえているつもりだ。

まぁ、この体になってから随分と無茶をするようになってしまったけど昔は石橋を叩いて渡る慎重派だった、はずなんだがなぁ。

「ねぇ聞いた?馬鹿じゃないって。」

「もちろんわかっておるぞ、シロウはあぁ見えてなかなかキレる男だ。何せ私が認めた男だからな。」

「そりゃどうも。」

「シロウ様はわざとふざけておられるだけです、やるときはやります。」

「そうですね。だって三人の父親なんですから。」

「地味にくぎを刺されているのは気のせいだよな?」

「うふふ、どうでしょうか。」

その笑いは何ですかねハーシェさん。

まったく俺を何だと思っているんだ。

情報収集を続けながら馬車は最初の宿泊地へと走り続ける。

王都につくまであと一日。

それまでにできる限りの情報は集めておかないと。

ほら言っただろ、石橋をたたくタイプだってな。
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