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622.転売屋は出発する

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夏が来た。

そしてその日はやってきた。

「それじゃあ行ってくる。」

「道中お気をつけて。」

「昨日話し合ったとおり不在時の管理者はアネットだ、皆しっかりサポートしてやってくれ。」

「本当に私でいいんでしょうか。」

「この中では一番の古参だからな。ビアンカ、自分の仕事もあると思うがもう少しだけこっちで宜しく頼むな。」

「むしろ安心して仕事が出来ます。向こうはまだ出没してるみたいですから。」

苦笑いを浮かべながらもアネットと一緒にいられるのが嬉しいと見える。

今日は王都へ向かう日。

もろもろ準備を済ませ、屋敷の前に停車した馬車の前で行くメンバーと残るメンバーで最後の引継ぎを行っている。

屋敷に残るのは、アネットとビアンカ。

それとグレイスたちの五人。

店はキキとメルディがいるので問題なく運営できるだろう。

その為に雇用したんだししっかりと頑張ってもらわないとな。

で、残りのメンバーで王都に行くわけだが、マリーさんとアニエスさんも別馬車だが同行する。

元々来る予定ではあったけれど、妊娠したことで行かないという選択肢はなくなった。

カーラにも声を掛けたそうだが丁重にお断りされたらしい。

今は研究に没頭したいんだと。

「こまごまとしたことはそっちで処理してくれ、緊急の内容はギルド協会を通じて連絡してもらえるようシープさんには頼んである。移動中は難しいが大きな街につくたびに一応確認はするつもりだ。金はある、最後はそれで処理できるだろ。」

「最後はそれなのね。」

「金に勝るものはないからな、それでどうにもならないような相手ならば縁がなかっただけだ。大丈夫、街のみんなが何とかしてくれるって。」

「他力本願過ぎない?」

「むしろ自分の事で精一杯だからそれぐらいじゃないと持たないっての。」

王都へは片道10日、向こうで10日滞在して帰りも10日。

一か月の長丁場ながら滞在期間が短いのでその間にあれこれやらなければならない。

まぁメインは顔を出しに行くだけだから残りは観光でもいいんだが、俺の性格上絶対にそれは無理だ。

新しい市場で商売しないとか、みすみす金をどぶに捨てるようなもの。

とはいえ、無理して倒れるわけにもいかないのでその辺はミラ達にしっかり手綱を握ってもらうとしよう。

「ふふ、それもそうね。」

「いい加減出発しないと日が暮れる、それじゃあ一か月後に。」

「「「「いってらっしゃいませ!」」」」

それぞれが馬車に乗り込み所定の席へ。

いつも使う馬車では手狭なので今回は別のやつを用意してもらった。

「思ったよりも中は広いのぉ。」

「6人乗りだからな。とりあえずハーシェさんとエリザを真ん中にして座ってくれ、ミラとディーネはその横な。」

「シロウ様はどうされるんです?」

「隣町までだし運転台だ。」

「え、シロウの運転?ちょっと揺らさないでよ?」

「バカを言え、運転は専門家に任せる。二頭引きを俺に操れって方が無理だっての。」

「あはは、安心したわ。」

普段の馬車程度ならば俺でも操れるが、さすがにこの大きさは不安が残る。

なので今回は横で待機するだけだ。

一応見張りはするけれど、あくまでもおまけだな。

本職がいるし。

「挨拶はお済ですか?」

「あぁ、とりあえず畑まで頼む。向こうでみんなと合流だ。今日はよろしく頼むな、アインさん。」

「こちらこそ宜しくお願いします。」

「最初はどうしようかと焦ったが、アインさんが名乗りを上げてくれて助かった。」

「ちょうどガレイの所に行く予定でしたので大丈夫です。」

「元気にしてるか?」

「おかげさまで張り切り過ぎているぐらいです、また船に乗れて本当にうれしいみたいで。」

馬車はゆっくりと大通りを南下していく。

仕事モードのアインさんはどちらかというとクールな感じで表情を崩さないのだが、ガレイの話題が出ているときは柔らかくなるんだよなぁ。

本人は気づいてないけど。

「そういや、前の仕事はやめたんだって?」

「さすがに二足のわらじは大変なので。」

「ガレイも喜んでいるだろう。」

「どうでしょう、でも二人の方が効率がいいのでもうとっくに前の仕事の売り上げを抜いてしまいました。」

「そんなにか?」

「シロウさんが思っている以上にあの船は凄いんですよ。」

自分の事のようにアインさんが船を褒めている。

本当に仲がいい二人だなぁ。

「あー、シロウだ!」

「シロウだ!」

「ちゃんと働いてるか?」

「働いてるよ!」

「さぼってないよ!」

畑に到着してすぐ、馬車を見つけたガキ共が群がってきた。

停車前に近づくなとあれほど言ったのに、まったく言うことを聞かない奴らだ。

マリーさん達はまだ来ていないようなのでひとまず馬車を降りると、遅れてアグリがやってきた。

「今日が出立でしたね。」

「あぁ、留守の間畑をよろしく頼む。収穫物は計画通りに卸して、余剰分は好きにしてくれ。計画通りの売り上げさえ上げてくれればいいからな。」

「畏まりました。好きにさせていただきます。」

「その言い方、ひっかかるなぁ。」

「気のせいですよ。」

アグリのことだ、余剰分は間違いなく売りさばいて利益にしてしまうだろう。

稼げば稼ぐだけ自分に入ってくるとはいえ、過労で倒れて貰っても困るんだけどなぁ。

「遅くなり申し訳ありません。」

そんな事をしているとアニエスさんの操る馬車がやってきた。

乗っているのは一人のはずなのに、随分と大きいなぁ。

「気にするな今来たところだ。マリーさんは?」

「今は中でお休みになっています、昨夜は遅かったようですから。」

「なんでまた。」

「色々とあるんです。」

まぁ色々あるんだろうけども、そっとしておいた方がよさそうだな。

「出発しますか?」

「いや、もう一組来るはずって、来た来た。」

アニエスさんの馬車とほぼ時を同じくして馬車の一団が到着した。

俺達のような旅行用ではない普段使いの幌馬車。

その数5台。

「悪い、書類関係で手間取った。」

「気にするな。で、問題はないのか?」

「あぁ、頼まれていたものは倉庫から全て積み込んである。それぞれに護衛が2人。10人もいたら大丈夫だろ。」

「と、おもうぞ。」

「今回は王家の紋章も付けております、よほどのバカでなければ襲ってこないはずですが。」

「そのバカがいるから世の中困るんだよなぁ。」

「違いない。」

先頭の馬車に乗るダンが大きく笑う。

やってきた一団が載せている荷物は、全てこの日のために用意した俺のとっておきばかり。

少量にする予定だったのだが、せっかく持っていくのだからとあれやこれやと詰め込みすぎてしまった感は否めないが、まぁそれもご愛嬌。

金になるのに何もしないほうがもったいない。

一応船に積み込めるだけの量にはセーブしてある。

流石に高額品なので盗賊に襲われることも考え、冒険者ギルドが用意したとっておきの冒険者に護衛をお願いしたわけだ。

ちなみに費用はギルド持ち。

この前のお礼なんだとさ。

「そんじゃま全員そろったし出発するか。」

「なら先頭は俺達が、シロウたちの馬車は真ん中に頼む。」

「その辺は任せる、好きにやってくれ。」

「ノンストップでいいんだよ?」

「あぁ、時間が惜しい。」

全員馬車に乗り込み、さぁ本当に出発!っいうところで再び後ろから声が聞こえてきた。

仕方なく馬車を止め声の主を待つ。

「わー、まってまって、待ってください!」

「この声はシープさんか。」

「いやー間に合わないかと思いましたよ。出発早すぎません?」

膝に両手を置き、ぜーぜーと荒い呼吸のまま情けない目で俺を見てくる。

そんな目で俺を見たって俺は騙されないぞ。

絶対に面倒なこと頼むつもりだろう。

「今でないと向こうに着くのが遅くなるからな。で、なんだよ見送りか?」

「そんなわけないじゃないですか。」

「よしじゃあしゅっぱ・・・。」

「冗談ですって!」

「んだよ、用があるなら早くいってくれ。」

ほら、いつもの感じだ。

冗談言う前にさっさと本題にだな。

大きく深呼吸した後、呆れる俺に向かって何かを突き出してくる。

これは、手紙か。

「ローランド様から国王陛下への親書です。くれぐれもご本人に直接お渡ししてほしいとのことですので、責任重大ですよ。」

「罠とかし込んでないよな?」

「シロウさんなら鑑定すればわかるのでは?」

「あぁ、そうか。」

受け取ってないので鑑定スキルは発動していなかった。

とりあえず受け取ると頭の中に鑑定結果が流れてくる。

『手紙。ローランド様より国王陛下にあてた手紙。魔封が施されている。仕掛けがある。最近の平均取引価格は銅貨25枚。最安値銅貨1枚最高値銀貨15枚。最終取引日は本日と記録されています。』

取引履歴って出てくるんだな。

っていうか何か仕掛けられてるし。

「あー、何か仕掛けてあるんだが?」

「え、本当ですか!?」

「どうするよ。いきなり爆発しましたとかシャレにならんのだが。」

「でも、間違いなく渡すように言われてますし・・・。」

「一応仕掛けがあるって言った方がいいよなぁ。」

「でもサプライズだと効果半減ですよ。」

「俺はまだ死にたくない。」

「ローランド様の事ですからそこまで派手にはされないと思います。」

いや、思いますじゃ困るんだって。

こんな小さな手紙だし大それたものは仕掛けられないとおもうんだが。

最後にとんでもないもの持って来やがって。

やっぱり面倒ごとじゃねぇか。

「これを拒否することは?」

「出来ないでしょうねぇ。シロウさんだから託されたわけですし。」

「はぁ、マジでめんどくさい。」

「あはは頑張って下さい。それじゃ、確かに渡しましたから!」

面倒ごとから解放されたような、っていうか間違いなく解放されたすがすがしい顔で街へと戻る羊男。

「出発、しますか?」

「あぁ、出してくれ。」

受け取ってしまったものは仕方がない。

とりあえず懐にしまい全員に号令を出す。

さぁ、王都に出発だ!

そんな明るい気持ちになれないのは間違いなく羊男のせい。

帰ったら覚えとけよ。
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