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619.転売屋は耐魔素装備を準備する
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「だから、吸魔草を集めない事には話にならないって言ってるの。鮮度が落ちれば効果が落ちるんだから、ダンジョン産でなければ意味がないって何度言えばいいの?」
「とはいえダンジョン内でそれを賄うとなるとかなりの費用が。」
「費用なんて後でいくらでも回収できるじゃない。そんな事言ってるとシロウさんに全部買い占められるわよ!」
「おい。」
「え、買い占めないの?」
「いや、その程度のやる気なら買い占めるつもりだが?」
「ほら!そうなったら余計な費用が掛かるんだから、さっさと許可出して!」
ギルド協会でニアが荒れている。
それはもう荒ぶっている。
それもそうだろう、足元からいきなり石油が出てきたようなものだ。
魔導具をはじめ多くの物に使用されている魔力結晶。
純度によってその価値は何種類にも分けられるのだが、その最上位の品がダンジョンに眠っていたんだ。
時価総額金貨1万枚。
もしかするとそれ以上の金額が転がり込んでくるとなると、熱くなるのも仕方ないだろう。
旦那が担当であれば話がスムーズに進むのだが、生憎とローランド様の所に行って不在。
代理が俺達の相手をしてくれるのだが、どうも頭が固い。
こんなんで本当に代理と呼んでいいんだろうか。
マジで買い占めるぞ?
「そんなこと言われましても、我々にも予算があってですね。」
「俺達からせしめた大量の税金じゃ足りないっていうのか?損して得取れ、一時的な出費で大きな儲けを逃すっていうなら俺が主導でやってもいいんだぞ?ただしギルド協会には定価でしか卸さないからな。損はしないんだから文句はないだろ。」
「う。」
「金貨100枚、たった金貨100枚でそれ以上のお金が入ってくるのに。これだから役人は嫌いなのよ!」
「いや、お前も職員だから役人だろ。」
「一緒にしないでよね、ギルド職員でもその根っこは冒険者よ。」
「そいつは失礼した。ってことでギルド協会は金を出したくないようだから俺が代わりに金を出す。金貨100枚、ダンジョンの吸魔草根こそぎ刈り取ってこい。」
「オッケー!そういう事だから旦那によろしく、もう遅いんだからね!」
バンと両手で机を叩いて立ち上がり、反動で椅子は後方へと飛んでいく。
ニアはそのまま部屋を出て行ってしまった。
俺も立ち上がり転がった椅子を元に戻す。
「ってことだから、今回は冒険者ギルドに正式な依頼を出してうちが買い占めさせてもらう。こっちには話は通した、だが飲まなかった。そうだな?」
「別に飲まなかったわけでは。」
「だが金は出さなかったそれは事実だ。金がないなら他の場所ならねん出するなり借りて来るなりすればいい、それを怠った自分たちを恨むんだな。」
彼にも立場がありさらに言えば預かっている権力にも限界がある。
それはわかる。
だが時としてそれをも無視して動くべき時があるんじゃないだろうか。
それがまさに今だったのだが、彼はその機会を逸してしまったようだ。
ニアを追いかけて応接室を出るも、本人はもう外に出てしまったようだ。
慌てて外に出るとニアのオーラに気おされて道行く人がモーゼの様に左右に割れていた。
「おい、スポンサーを置いていくなよ。」
「だって。」
「怒りはわかるが向こうも仕事だ。だが許可は得た、派手にやるとしよう。」
「権利はこっち持ち、あくまでもシロウさんは出資者ね。」
「正確には耐魔素装備の提供先だな。どうせ所有権はローランド様が持つんだ、出資したところでメリットは少ない。それよりも消耗品の方が間違いなく儲かる。探索準備は整ってるんだろ?」
いくら俺達が気合を入れても、ダンジョンの持ち主はこの街の長。
発見者報酬があったとしても雀の涙程度なので、儲けるならば採掘にかかる道具を売りさばくに限る。
「後は吸魔草を刈り取るための依頼を出すだけ。場所が場所だけに依頼料が高額になるんだけど、皆やる気だから人数は確保出来るわ。」
「久々の大口依頼だ、気合入ってるんだろうなぁ。」
「なんせ50人規模の依頼だもの。交代要員に運搬要員にも同額の費用を出すんだから、しっかり働いてもらわないと。」
「しっかし、そんなに大変なのか?吸魔草を回収するのは。」
「場所が悪いのよ。魔素が濃い場所にしか生えないうえに、周りは魔物でいっぱい。それを駆除しながら鮮度が落ちる前に地上へ運ばないといけないの。魔素が濃いだけに魔物も凶悪だしよっぽどの理由がないと刈らないのよね。それこそ、今回みたいなのが無いと。」
本来は魔石鉱山などにのみ自生しており、そういう場所は大抵街から離れている。
運んでいるうちに鮮度が落ち効力が下がってしまうために、自生するのが確認されるとわざわざ加工用の工場が作られるくらいなんだとか。
だから今回こんな感じで大騒ぎしているんだなぁ。
「大変なのは良くわかった。俺は回収後の準備をしてくるから後よろしくな、費用は屋敷でもらってくれ。ハーシェさんには話を通してある。」
「オッケー!さぁやるわよー!」
ガッツポーズをしながら大通りを行くニアと別れ、その足で婦人会の詰め所へと向かう。
そろそろ準備が出来ているはずだ。
「こんにちは。」
「あらシロウさん、準備できてるわよ。」
「悪いないつも急で。」
「今回は簡単だったし大丈夫、頼まれていた布300枚と染め用の大型たらいが10個は広場に置いてあるから。」
婦人会に行くとイレーネさんがわざわざ出迎えてくれた。
いつもの事ながら急な仕事は全部丸投げ、ほんと頭が上がらない。
「助かった。夕方までに初回分がダンジョンから上がってくるから、後は手はずどおりに頼む。」
「細かくしてそれをたらいに。一つにつき10枚ずつ布に浸してしみこませていけばいいのよね?」
「半日浸せば完成、残った汁は濾してから捨ててくれ。残ったかすはこっちで回収させて貰う。」
「触っても大丈夫なのよね?」
「あぁ、吸い込んでも問題はない。が、魔力の少ない人は避けた方がいいだろう。」
「一応元魔術師とかそういった子達にお願いしているから問題ないと思うけど、気をつけるように言っておくわ。」
吸魔草自体に害はないが、液をしみこませている過程で若干魔力を吸われる可能性はある。
気をつけてもらったほうがいいのは間違いない。
「出来た布はそのまま冒険者ギルドに運んで貰って代金を受け取ってくれ。10枚につき銀貨15枚、そのうちの一割が婦人会の報酬だ。」
「そんなにもらって大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったら依頼してないって。」
「それもそうね。ありがたく頂戴するわ。」
「じゃあよろしく、何かあったら屋敷まで報告に来てくれ。」
「貴方も無理しないようにね。」
別に働いているのは俺じゃないから無理はしてないつもりだ。
依頼をするだけで金が転がり込んでくるわけだしな。
今回作っているのは採掘の際に使う耐魔素装備こと吸魔マスク。
布に吸魔草のエキスをしみこませることで、一枚につきおおよそ四時間程度の魔素を吸い込まないよう防ぐことが出来る。
一人が一日に2枚使うとして、一度に作業するのが五人なので10枚。
それを三交代で行うので一日で30枚使う計算だ。
今回依頼した分で十日しか持たないんだよなぁ。
まぁ、回収して再利用するし供給量が多ければ増産してしまえばいい。
生は鮮度が落ちるがマスクに加工すればさほど劣化しないのだとか。
ちなみに一回300枚分の布で冒険者ギルドから支払って貰う金額は金貨45枚。
そのうち一割は婦人会に報酬で支払うが残りは約金貨40枚となる
金貨100枚で依頼した回収依頼で何個取れるかにもよるが、3セットで元が取れる計算だ。
利益は3セットごとに金貨20枚。
ほんと、ぼろ儲けといっていいだろう。
ニア曰く、吸魔草自体はかなりの数自生しているので供給は問題ないらしいけど心配は心配だ。
とはいえもしもがあるので、別の方向でも魔素対策を考えている。
それを確認するべく俺は屋敷へと戻った。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ、アネット様がお呼びでしたよ。」
「お、出来たか。」
「声にあまり覇気がありませんでしたが、大丈夫でしょうか。」
「まぁ、余り気乗りしないものを作らせてるからなぁ。あ、犯罪ではないから安心してくれ。」
「もちろん信じておりますとも。」
「何かあったら地下まで頼む、ただしハーシェさんとエリザは近づかせるなよ。」
害がないものとはいえ、子供に害がないかは知られていない。
危険な薬剤も使っているし、基本は近づかない方がいいだろう。
問題はアネットが妊娠したときなんだよなぁ。
本人曰く問題ないといっているがその自信はどこから来るんだろうか。
「アネット、戻ったぞ。」
「ご主人様お帰りなさいませ。」
「出来たって?」
「一応は。でもコレは吸魔草を使っていませんので、代用品みたいなものです。」
「それでも十分だ。悪いな、いやなもの作らせて。」
「お気遣いありがとうございます。拷問や監禁に使うのであればアレですが、あくまでも非常用とのことですから。それに、コレがあればディーネ様に頼まなくても大丈夫になります。」
そう言いながら真っ黒い丸薬を手の上で転がすアネット。
頼んでいたのはマスクでも取りきれなかった魔素を除去する薬だ。
本来は魔術師に魔法を使わせないようにするための薬らしく、一般には使われていない劇薬として正しい製法は一般に出回っていない。
はずなんだが、なぜか図書館で調べるとレシピが残されていることがわかった。
ほんと、なんでそんな本があるんだろうなぁあの図書館は。
蔵書もどこから仕入れてるか不明だし。
まぁ、気にしちゃいけないんだろうけど。
で、レシピがわかったのでアネットにお願いしてそれに近いものを作ってもらったというわけだ。
ちなみに本当のレシピでは吸魔草を使うのだが、そのまま使うと効果が強すぎるのでマスクに加工した残りかすを使って効力を弱めるらしい。
これにより魔力過多になっても心配なし。
俺もディーネに襲われなくて済むわけだ。
ほんと、アレはやばかった。
地上に戻ってからディーネの様子が違うと女達がすぐに気づき尋問を受けたわけだが、正直もう思い出したくない。
一触即発の危険な状況になったとだけ言っておこう。
はぁ、女って怖い。
「とりあえず今日から探索開始だから、残りかすは明日の昼には届けられるはずだ。無理しない程度に量産してくれ。」
「畏まりました。そうだ、エリザ様が探しておられましたよ。」
「エリザが?」
「なんでもダン様が動いたとか。」
「わかった。」
そうか、向こうにも動きがあったか。
ひとまず結晶採掘の手はずは整ったので、後は皆に任せて俺は俺の仕事をするとしよう。
王都に行くまでに決着を付けたかったので、思ったよりも早くて助かった。
金が冒険者に流れる前にきっちり片付けておかないとなぁ。
「とはいえダンジョン内でそれを賄うとなるとかなりの費用が。」
「費用なんて後でいくらでも回収できるじゃない。そんな事言ってるとシロウさんに全部買い占められるわよ!」
「おい。」
「え、買い占めないの?」
「いや、その程度のやる気なら買い占めるつもりだが?」
「ほら!そうなったら余計な費用が掛かるんだから、さっさと許可出して!」
ギルド協会でニアが荒れている。
それはもう荒ぶっている。
それもそうだろう、足元からいきなり石油が出てきたようなものだ。
魔導具をはじめ多くの物に使用されている魔力結晶。
純度によってその価値は何種類にも分けられるのだが、その最上位の品がダンジョンに眠っていたんだ。
時価総額金貨1万枚。
もしかするとそれ以上の金額が転がり込んでくるとなると、熱くなるのも仕方ないだろう。
旦那が担当であれば話がスムーズに進むのだが、生憎とローランド様の所に行って不在。
代理が俺達の相手をしてくれるのだが、どうも頭が固い。
こんなんで本当に代理と呼んでいいんだろうか。
マジで買い占めるぞ?
「そんなこと言われましても、我々にも予算があってですね。」
「俺達からせしめた大量の税金じゃ足りないっていうのか?損して得取れ、一時的な出費で大きな儲けを逃すっていうなら俺が主導でやってもいいんだぞ?ただしギルド協会には定価でしか卸さないからな。損はしないんだから文句はないだろ。」
「う。」
「金貨100枚、たった金貨100枚でそれ以上のお金が入ってくるのに。これだから役人は嫌いなのよ!」
「いや、お前も職員だから役人だろ。」
「一緒にしないでよね、ギルド職員でもその根っこは冒険者よ。」
「そいつは失礼した。ってことでギルド協会は金を出したくないようだから俺が代わりに金を出す。金貨100枚、ダンジョンの吸魔草根こそぎ刈り取ってこい。」
「オッケー!そういう事だから旦那によろしく、もう遅いんだからね!」
バンと両手で机を叩いて立ち上がり、反動で椅子は後方へと飛んでいく。
ニアはそのまま部屋を出て行ってしまった。
俺も立ち上がり転がった椅子を元に戻す。
「ってことだから、今回は冒険者ギルドに正式な依頼を出してうちが買い占めさせてもらう。こっちには話は通した、だが飲まなかった。そうだな?」
「別に飲まなかったわけでは。」
「だが金は出さなかったそれは事実だ。金がないなら他の場所ならねん出するなり借りて来るなりすればいい、それを怠った自分たちを恨むんだな。」
彼にも立場がありさらに言えば預かっている権力にも限界がある。
それはわかる。
だが時としてそれをも無視して動くべき時があるんじゃないだろうか。
それがまさに今だったのだが、彼はその機会を逸してしまったようだ。
ニアを追いかけて応接室を出るも、本人はもう外に出てしまったようだ。
慌てて外に出るとニアのオーラに気おされて道行く人がモーゼの様に左右に割れていた。
「おい、スポンサーを置いていくなよ。」
「だって。」
「怒りはわかるが向こうも仕事だ。だが許可は得た、派手にやるとしよう。」
「権利はこっち持ち、あくまでもシロウさんは出資者ね。」
「正確には耐魔素装備の提供先だな。どうせ所有権はローランド様が持つんだ、出資したところでメリットは少ない。それよりも消耗品の方が間違いなく儲かる。探索準備は整ってるんだろ?」
いくら俺達が気合を入れても、ダンジョンの持ち主はこの街の長。
発見者報酬があったとしても雀の涙程度なので、儲けるならば採掘にかかる道具を売りさばくに限る。
「後は吸魔草を刈り取るための依頼を出すだけ。場所が場所だけに依頼料が高額になるんだけど、皆やる気だから人数は確保出来るわ。」
「久々の大口依頼だ、気合入ってるんだろうなぁ。」
「なんせ50人規模の依頼だもの。交代要員に運搬要員にも同額の費用を出すんだから、しっかり働いてもらわないと。」
「しっかし、そんなに大変なのか?吸魔草を回収するのは。」
「場所が悪いのよ。魔素が濃い場所にしか生えないうえに、周りは魔物でいっぱい。それを駆除しながら鮮度が落ちる前に地上へ運ばないといけないの。魔素が濃いだけに魔物も凶悪だしよっぽどの理由がないと刈らないのよね。それこそ、今回みたいなのが無いと。」
本来は魔石鉱山などにのみ自生しており、そういう場所は大抵街から離れている。
運んでいるうちに鮮度が落ち効力が下がってしまうために、自生するのが確認されるとわざわざ加工用の工場が作られるくらいなんだとか。
だから今回こんな感じで大騒ぎしているんだなぁ。
「大変なのは良くわかった。俺は回収後の準備をしてくるから後よろしくな、費用は屋敷でもらってくれ。ハーシェさんには話を通してある。」
「オッケー!さぁやるわよー!」
ガッツポーズをしながら大通りを行くニアと別れ、その足で婦人会の詰め所へと向かう。
そろそろ準備が出来ているはずだ。
「こんにちは。」
「あらシロウさん、準備できてるわよ。」
「悪いないつも急で。」
「今回は簡単だったし大丈夫、頼まれていた布300枚と染め用の大型たらいが10個は広場に置いてあるから。」
婦人会に行くとイレーネさんがわざわざ出迎えてくれた。
いつもの事ながら急な仕事は全部丸投げ、ほんと頭が上がらない。
「助かった。夕方までに初回分がダンジョンから上がってくるから、後は手はずどおりに頼む。」
「細かくしてそれをたらいに。一つにつき10枚ずつ布に浸してしみこませていけばいいのよね?」
「半日浸せば完成、残った汁は濾してから捨ててくれ。残ったかすはこっちで回収させて貰う。」
「触っても大丈夫なのよね?」
「あぁ、吸い込んでも問題はない。が、魔力の少ない人は避けた方がいいだろう。」
「一応元魔術師とかそういった子達にお願いしているから問題ないと思うけど、気をつけるように言っておくわ。」
吸魔草自体に害はないが、液をしみこませている過程で若干魔力を吸われる可能性はある。
気をつけてもらったほうがいいのは間違いない。
「出来た布はそのまま冒険者ギルドに運んで貰って代金を受け取ってくれ。10枚につき銀貨15枚、そのうちの一割が婦人会の報酬だ。」
「そんなにもらって大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったら依頼してないって。」
「それもそうね。ありがたく頂戴するわ。」
「じゃあよろしく、何かあったら屋敷まで報告に来てくれ。」
「貴方も無理しないようにね。」
別に働いているのは俺じゃないから無理はしてないつもりだ。
依頼をするだけで金が転がり込んでくるわけだしな。
今回作っているのは採掘の際に使う耐魔素装備こと吸魔マスク。
布に吸魔草のエキスをしみこませることで、一枚につきおおよそ四時間程度の魔素を吸い込まないよう防ぐことが出来る。
一人が一日に2枚使うとして、一度に作業するのが五人なので10枚。
それを三交代で行うので一日で30枚使う計算だ。
今回依頼した分で十日しか持たないんだよなぁ。
まぁ、回収して再利用するし供給量が多ければ増産してしまえばいい。
生は鮮度が落ちるがマスクに加工すればさほど劣化しないのだとか。
ちなみに一回300枚分の布で冒険者ギルドから支払って貰う金額は金貨45枚。
そのうち一割は婦人会に報酬で支払うが残りは約金貨40枚となる
金貨100枚で依頼した回収依頼で何個取れるかにもよるが、3セットで元が取れる計算だ。
利益は3セットごとに金貨20枚。
ほんと、ぼろ儲けといっていいだろう。
ニア曰く、吸魔草自体はかなりの数自生しているので供給は問題ないらしいけど心配は心配だ。
とはいえもしもがあるので、別の方向でも魔素対策を考えている。
それを確認するべく俺は屋敷へと戻った。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ、アネット様がお呼びでしたよ。」
「お、出来たか。」
「声にあまり覇気がありませんでしたが、大丈夫でしょうか。」
「まぁ、余り気乗りしないものを作らせてるからなぁ。あ、犯罪ではないから安心してくれ。」
「もちろん信じておりますとも。」
「何かあったら地下まで頼む、ただしハーシェさんとエリザは近づかせるなよ。」
害がないものとはいえ、子供に害がないかは知られていない。
危険な薬剤も使っているし、基本は近づかない方がいいだろう。
問題はアネットが妊娠したときなんだよなぁ。
本人曰く問題ないといっているがその自信はどこから来るんだろうか。
「アネット、戻ったぞ。」
「ご主人様お帰りなさいませ。」
「出来たって?」
「一応は。でもコレは吸魔草を使っていませんので、代用品みたいなものです。」
「それでも十分だ。悪いな、いやなもの作らせて。」
「お気遣いありがとうございます。拷問や監禁に使うのであればアレですが、あくまでも非常用とのことですから。それに、コレがあればディーネ様に頼まなくても大丈夫になります。」
そう言いながら真っ黒い丸薬を手の上で転がすアネット。
頼んでいたのはマスクでも取りきれなかった魔素を除去する薬だ。
本来は魔術師に魔法を使わせないようにするための薬らしく、一般には使われていない劇薬として正しい製法は一般に出回っていない。
はずなんだが、なぜか図書館で調べるとレシピが残されていることがわかった。
ほんと、なんでそんな本があるんだろうなぁあの図書館は。
蔵書もどこから仕入れてるか不明だし。
まぁ、気にしちゃいけないんだろうけど。
で、レシピがわかったのでアネットにお願いしてそれに近いものを作ってもらったというわけだ。
ちなみに本当のレシピでは吸魔草を使うのだが、そのまま使うと効果が強すぎるのでマスクに加工した残りかすを使って効力を弱めるらしい。
これにより魔力過多になっても心配なし。
俺もディーネに襲われなくて済むわけだ。
ほんと、アレはやばかった。
地上に戻ってからディーネの様子が違うと女達がすぐに気づき尋問を受けたわけだが、正直もう思い出したくない。
一触即発の危険な状況になったとだけ言っておこう。
はぁ、女って怖い。
「とりあえず今日から探索開始だから、残りかすは明日の昼には届けられるはずだ。無理しない程度に量産してくれ。」
「畏まりました。そうだ、エリザ様が探しておられましたよ。」
「エリザが?」
「なんでもダン様が動いたとか。」
「わかった。」
そうか、向こうにも動きがあったか。
ひとまず結晶採掘の手はずは整ったので、後は皆に任せて俺は俺の仕事をするとしよう。
王都に行くまでに決着を付けたかったので、思ったよりも早くて助かった。
金が冒険者に流れる前にきっちり片付けておかないとなぁ。
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