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618.転売屋は魔力に酔う

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「かなり純度の高い魔力結晶です。これだけのものは鉱山でも見つからないでしょうね。」

「ダンジョンが発見されてから数百年、その間誰にも知られることなく魔力を蓄え続けた結果ということでしょうか。」

「そう考えるのが妥当だとおもいます。凄い、ずっと見ていたいぐらいです。」

「で、これはどれだけの価値があるんだ?」

「ざっと見積もっても金貨1万枚、産出量次第ではそれ以上でしょうか。」

一万枚かぁ。

意外と少ないな。

金額を聞き驚く冒険者とは対照的に俺の反応は冷めたものだった。

つまりはあの屋敷5つ分だろ?

5年は厳しいが8年もあれば稼ぎだせる金額だ。

これが世に出ればさらに冒険者に金が落ちる。

金が落ちれば高い品もバンバン売れる。

結果、俺に入ってくる金も増える。

問題はどうやって取り出すかだが・・・。

なんだろう、気持ち悪い。

「どうされました?お顔色が悪いようですが。」

「わからん、酒に酔ったような感じだ。」

「酒なんて飲んでおらんだろう。」

「もちろん飲んでないんだが・・・。悪い、ちょっと座る。」

魔力結晶の壁から離れるようにして、その場に座り込む。

僅かな吐き気と倦怠感、それとむかつき。

まさに二日酔いの症状だ。

いつもならアネットの薬で何とかなるのだが、流石の俺もこんな所で酒は飲まない。

少し離れたことで気分は幾分かマシになったが、よく見ると俺と同じようにだるそうな顔をする冒険者がいるようだ。

やばい毒でも出てるんだろうか。

もう一つ気になるのが疲れと比例するように膨れ上がるムラムラ感。

こんな状況で女を抱きたいと感じるのは生存本能のなせる業なのか、それとも。

あ、これもしかして。

「魔力酔いじゃな。」

「あ、やっぱりか。」

「うむ、これだけ濃度の高い魔素に当てられれば当然じゃろう。」

「魔力過多ですね。慣れない方はこのまま通路まで下がってください。」

「ほら、早く!」

ニアさんに蹴とばされるように魔術師以外の冒険者がこちらへ向かってくる。

俺も結晶の見えないところまで下がった。

はぁ、マシになった。

「やはり人間は脆いのぉ。」

「仕方ないだろ、魔力には縁がないんだ。」

「そんな事は無いだろう。貴様の場合は消費する場所がないだけ、保有量は中々の物じゃぞ。」

「そうなのか?」

「魔術が使えれば中々の使い手になれたものを、惜しい事をしたな。」

惜しいと言われてもセンスがないんだから仕方がない。

それに襲い来る魔物と平気で戦うようなメンタルも持ち合わせていないから結果オーライだよ。

「お待たせしてすみません。」

「悪いな、丸投げして。」

「良くなりましたか?」

「多少はな。で、どんな感じだ?」

「軽く削ってみましたが硬度もそれなりにありますので崩落の心配はなさそうです。とはいえ、この魔素の濃さから普通に採掘するのは難しそうですね。我々魔術師は常に魔力を放出することで対処できますが、なにぶん体力と腕力に乏しいので。」

「見つけたのはいいが対処に困る、か。」

「ひとまず上に報告して対策を練りましょう。採掘するにしても専用の耐魔素装備が必要になりますし、この量ですしっかりと管理する必要がありますね。」

放置したことにより勝手に採掘されましたじゃお話にならない。

最低でも警備を立てるなりして盗掘を避ける必要も出てくるだろう。

それに、他の冒険者の様に何も知らずに入り込んで高濃度の魔素により俺みたいに動けなくなるやつの未来が見える。

何もできないまま魔物の餌食になるのは流石に忍びない。

まぁ、盗掘するような奴に人権は無いといえばそこまでだが。

幸いにもここは休憩所からも近いし、警備も交代制で対応することが出来る。

この場所でよかったと思うべきだろう。

「話は終わりか?」

「あぁ、いいものが見つかったしとりあえず上に戻る。って、あれ?」

立ち上がろうとしたものの上手く力が入らない。

慌てて駆け寄ってきたアニエスさんに引っ張って貰ってひとまず立ちはしたが、膝は小刻みに震えている。

さらに立ち上がると一気に酔いが回ったようなめまいを感じた。

まるで世界が回っているような錯覚。

やばい、はきそう。

「シロウ様、無理しないでください。」

「他の人も大丈夫ですか?」

俺以外にも数人立ち上がれない冒険者がいた。

さっきまで魔物と戦い、傷一つなく対処したような猛者が魔素に当てられただけでこのざまだ。

放射性物質とかでてないよなぁ、マジで。

「ひとまずここから移動しましょう。」

「各自速やかに移動、動けない者に手を貸しながら後退だ!」

アニエスさんに肩を貸してもらいながら引きずられるようにして最初の通路まで戻ってきた。

ここまで来ると他の冒険者は普通に動けるようになったが、なぜか俺だけはそうならない。

立てば世界が回り、座っていればまだマシ。

心配そうな顔で俺を見てくる冒険者達に俺は無理やり笑顔を作った。

「とりあえず俺をおいて先に戻ってくれ、落ち着いたら俺も休憩所に向かう。」

「でも・・・。」

「案ずるな、私がいる。」

「わかりました。キキ様、参りましょう。」

「アニエス様がそういうのであれば。」

「ディーネ様シロウ様をよろしくお願いします。」

ぞろぞろと垂れ下がったロープを上り、最後にアニエスさんが一瞥をしてから上へと向かった。

残ったのは俺とディーネだけ。

「さて、残るはシロウお前だけだな。」

「わかってはいるんだが、どうやらこのまま上るのは無理そうだ。しばらくして良くならないのなら紐でくくって引っ張って貰うさ。」

「不調の原因は体内に残った魔素のせいだ。さっさと出してしまった方が楽になるぞ。」

「それはわかってるんだが・・・。」

「別に人間の生殖器を見たところでなんとも思わん、私の事は気にするな。」

「いや、気にするだろ。」

「それはあれか?私を女としてみてくれているわけだな。そうかそうか。うむ、なんともいえないこそばゆい感じ、久しぶりの感覚だ。」

なにやらディーネが一人で納得してクネクネしているんだが、マジでどこかにいって欲しい。

そりゃあ元の世界じゃ考えられないぐらいに女を抱いてきたが、いきなり知り合って間もない女、しかもドラゴンの前でオナニーとかできるはずがない。

この苦しみから解放されるためにも早急に出してしまいたいんだが。

「よし、決めたぞ。私が楽にしてやろう。」

「は?」

「案ずるな、我に任せておけばすべてうまくいく。」

「いやいやいや、そういうの良いから。自分で出せばすっきりするから、だからさっさと上に。」

「黙れ。」

突然本体のような低い声でディーネが俺を威圧してくる。

あまりの気迫に何も言えなくなってしまった。

素人でもわかる。

抵抗すれば殺されると。

もちろん本人にその気はないかもしれないが、絶対という言葉は無い。

俺は彼女を信頼して二人だけになったわけだが、もしかすると髭を切ったことをまだ恨んでいるのかもしれない。

復讐するのならまたとない機会。

あ、食われる。

「そんなに怯えた目をするな、今楽にしてやる。」

「や、やめろ。」

「そんな目をされると食べてしまいたくなるではないか。その細い腕、柔らかな腹。そして魔素を貯め主張する生殖器。」

「おい、人間のには興味がないんじゃなかったのか?」

「元の体ならそうかもしれんが、今は人の形。よく見ればいい顔をしているではないか。」

ゆっくりとした足取りながら一歩、また一歩と近づいてくるディーネ。

それから逃れようとずりずりと後退する俺。

だがすぐに壁に阻まれ逃げ場を失う。

そんな俺を見て口角をあげながらドラゴニアンドッグの前に立った時の様に仁王立ちをした。

「今、楽にしてやるからな。」

あぁ、これで俺も終わりか。

ディーネの真っ赤な瞳に魅入られ、そんな諦めのような気持が沸いてくる。

腰の上に腰を下ろし、しな垂れかかるかのように体を密着させてくる。

ただでさえ膨れ上がった情欲が女の匂いを嗅ぎ火に油を注いだかのように燃え上がる。

今すぐこの女を抱きたい。

口を開け、舌を突き出し、俺を食わんとディーネが近づいてくる。

そして。

貪るかのように、舌が俺の口を犯して回った。

「ん?」

その間わずか数秒。

先程までの劣情はどこへやら、まるで熟睡した翌朝のようなすっきりとした気分になっている。

そんな俺に気づいてか、ディーネがゆっくりと体を離した。

唾液の橋が掛かり、そして切れた。

「どうだ、スッキリしたか?」

「何をしたんだ?」

「ちょいとシロウの魔素を吸っただけじゃ。」

あっけらかんとした顔でそう言い切る。

「俺を喰うつもりじゃなかったのか?」

「何をバカなことを、今喰ってしまったら誰が私を案内するのじゃ?」

「あ、なるほど。」

「それともなにか?女子の様に犯してほしかったのか?」

「そんなわけないだろ。」

「その割に尻の下は随分と元気なようだが。」

「いきなり治まるわけがないだろうが、いいからさっさと降りてくれ。それともそっちが犯されたいのか?」

「ふむ、それもまた一興。お前とならよい子が出来るやもしれん、子を成すなど何百年ぶりか。」

え、出産経験あるの?

っていうかドラゴンと子供とか作れるの?

冗談を言ったつもりだったんだが予想もしなかった返答に俺の方が戸惑ってしまう。

その様子がおかしかったのか、腰の上に乗ったままディーネが声を出して笑いだした。

尻を押し付けながら。

はぁ、さっきまでの苦しさが無くなったのはいいけれど今後どういう扱いをすればいいんだ?

っていうか話し方変わり過ぎだろ。

「なぁ一つ聞いていいか?」

「なんじゃ?」

「話し方、変わり過ぎだろ。そっちが素なのか?」

「そうさな、あそこにいると誰とも話をせんからな。来ても冒険者程度、脅すための話し方が出てしまったのかもしれん。」

「なるほどなぁ。」

「嫌いか?」

「いや、こっちの方がとっつきやすい。」

「そうか、気に入ってくれたか。」

人の上で嬉しそうにはしゃぎ、そして尻を押し付けてくるディーネ。

いい加減邪魔になってきたのでわきの下に手を入れ、横にどける。

思った以上に軽かった。

「さて、帰るか。」

「早く帰らんとあの亜人が牙をむいてくるからのぉ。」

「え、アニエスさんが?」

「貴様に何かあればの話だ。食い殺されるつもりは無いが、お互いにそれなりの深手は負うじゃろうて。」

「勘弁してくれ。」

「まぁ、私がそんなことさせん。ほら、さっさと帰るぞ。」

「わかったから尻を叩くな。」

さっきまでの不快感はどこへやら、来た時以上にすっきりとした気がする。

ディーネがいればこの魔素の中でも何とかなるが、他の冒険者に同じことをさせるわけにもいかないわけで。

さて、戻ったら色々と考えないといけないなぁ。

そんな事を考えながら、垂れ下がったロープをゆっくりとよじ登るのだった。
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