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615.転売屋は街を案内する

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「宜しくお願いします、ディーネ様。」

「うむ、あの時一緒にいた女か。ミラと言ったな宜しく頼むぞ。」

屋敷に戻った俺達を真っ先に迎えてくれた女達だったのだが、なぜかミラだけがディーネの正体に気づき優雅に挨拶をした。

ひとまず事情を説明し食堂に移動する。

国王陛下への贈り物を手に入れるためとはいえ、まさかこんなことになるとは想像していなかった。

あのまま断るわけにもいかず、致し方なく屋敷へと案内することになる。

一応冒険者ギルドには連絡を入れておいたが、今頃大変なことになってるんだろうなぁ。

だってドラゴンだし。

しかも古龍種だし。

そもそも人型になれるなら最初から教えてくれたらいいのにとかいろいろと思うことはあるのだが、今は何も言うまい。

「あの、ミラ様は怖くないんですか?」

「元がドラゴンとはいえ、ディーネ様はお話の分かる方ですから。」

「よくわかっているではないか。貴様同様に物わかりのいい女が集まっているのだな。」

「物わかりがいいかは別として、ミラは直接話をしているのを見ているからな。俺達が害をなさなければ襲うことはないと理解してくれているんだろう。」

「人間のようなちっぽけな存在などこちらから襲う価値もない。とはいえ、襲われたのならば話は別、全力をもって受けて立つのが我らの誇りだ。」

「だから前回襲ってきたのね。」

「其方はこの前そこな亜人と一緒に巣まで来た女だな、なるほど今回顔を出さなかったのはそれが理由か。それにもう一人、その女も子を宿している。流石人間、まるでゴブリンのような繁殖力だ。ん?」

エリザとハーシェさんの腹を覗き込むように見ていくディーネだったが、ふとマリーさんの前で立ち止まる。

そして同じように腹を覗き込んだ。

え?

いや、まさか。

「お前からも気配を感じるな。まだ形にはなっておらんが、いずれ子になるだろう。大事にするがいい。」

そう言いながらマリーさんのおなかを優しく撫でた。

「ほ、本当ですか!」

「まだ定着して二日、いや三日か。心当たりがあるのではないか?」

ある。

むっちゃある。

三日前といえばちょうどマリーさんの順番だ。

マジですかそこで的中ですか。

しかも王都に行く前のこのタイミングですか。

「無事に産まれるでしょうか。」

「心配するな、魔力を少し流しておいた、いい子に育つだろう。」

「え、なにそれ!私もしてほしい!」

「心配するな、それだけ母体が丈夫であれば強い子が産まれるだろう。しかし、励みすぎではないか貴様。」

「コレには色々と事情があるんだよ。」

「ディーネ様、他にも子を成している方はいるのでしょうか。」

「残念だが他の女はまだのようだ、事情は知らぬがせいぜい頑張るがいい。」

マリーさんが愛おしそうにお腹を撫で、アニエスさんがそっと手を添えている。

めでたい筈なのにタイミングがタイミング過ぎて素直に喜べない。

「国王陛下への最高の贈り物が出来ましたね。」

「その言い方は勘弁してくれ。」

「いいじゃない、たっぷり褒めて貰えるわよ。」

「シロウ様は嬉しくないんですか?」

「もちろん嬉しいんだが、まさかこのタイミングとは・・・。」

「私が子を成す日が来るだなんて本当に夢のようです。」

「マリー様、おめでとうございます。」

「おめでとうございますマリー様!」

女たちの祝福を受けマリーさんが本当に幸せそうな顔をする。

早くも三人の子持ちになってしまった。

なんだろう現実のはずなのに素直に喜べないのは何故だろうか。

「どうした?」

「・・・外の空気が吸いたい。」

「せっかくだ、今の地上を見てみたい。なにせダンジョンを出るのはかなり久々だからな。」

「どのぐらいだ?」

「さぁ、貴様らの時間の概念でいうと300年かそこらか。昔は随分と荒れ果てていたが、人間という生き物は随分と住処に拘るものだ。」

確かに殺風景なダンジョンに比べれば拘りもあるかもしれない。

祭り騒ぎの食堂を静かに抜け出し、ディーネと共に外へ出る。

「はぁ、空気が美味い。」

「子を孕ませておいて罪悪感か。することをしていれば孕むのは当然だろう、むしろそのための生殖行為ではないのか?」

「まぁ、そうなんだけども。」

「シロウは変な所で気を使うのよ。素直に喜べばいいのに。」

「そなたも一緒か。」

「いけない?」

「いや、構わんさ。お?あれは何だ?」

「あれはねぇ・・・。」

抜け出したとはいえ、ばれてないはずもなくエリザが後から追いかけてきた。

一応護衛のつもりなんだろう。

でも助かった。

あれやこれやと考えが頭の中を暴れまわっていて、まともに話が出来そうもなかったのでエリザに街の案内を任せつつ何とか心を落ち着ける努力をする。

ディーネの言うようにすることしていたらできるのは当然。

いい加減慣れろよ、俺。

「特にここは人間が多いな。」

「ここは市場ね、ダンジョンで手に入れた素材や武具、食べ物なんかを各個人が売り買いする場所よ。シロウの仕入先でもあるわね。」

「ダンジョンのガラクタをありがたがって持ち帰るのはこのためか。この間引っこ抜いた私の髭も売ったのか?」

「いや、アレはリュートに加工した。そういう約束だったし。」

「確か人の作った楽器というものだな。機会があれば聞いてみたいものだ。」

「意外と詳しいんだな。」

「ダンジョンの主が随分とおしゃべりでな、色々と教えてくれる。」

「ボードね、そういえば最近あってないけど元気かしら。」

ダンジョンの主だったのか。

俺の中ではダンジョンに住む神様という扱いなんだが、主であれば龍の巣に住むディーネと知り合いなのも納得だ。

店子みたいものだろう。

そんな話をしながら市場を歩いていると、突然ディーネが足を止めた。

「どうした?疲れたか?」

「あれはなんだ?」

「あれ?」

ディーネの視線の先には古びた品々を置く露店があった。

失礼ながら店主も小汚い感じがする。

流れの商人だろうか。

あぁいう店紛い物をおいてる事が多いんだよなぁ。

「どこかで手に入れたものを売ってるんだろう、何が気になるんだ?」

「男の後ろに飾っている鱗、あれは私の同族のものだ。」

「え、ってことは古龍の?」

「随分と弱まってはいるが間違いない。」

「ちょっと聞いてみるか。」

ゾロゾロと連れだって露店へと向かう。

突然三人も現れたものだから店主が驚いたか俺達の顔を順番に見ていった。

「らっしゃい。」

「その後ろにある巨大な鱗、それはなんだ?」

「お、良い物に目を付けたな。大昔の巨大なドラゴンが落としたっていう鱗さ。」

「大昔の?鑑定してないのか?」

「鑑定しても種類が分からないんだ。なんでも海の向こうで見つかったものらしいぞ。」

「らしいって貴方がみつけたんじゃないの?」

「俺もアンタらみたいに気になって買っただけだ、いつどこで手に入れたかなんて知らねぇよ。」

大きさは縦1m横70cm程。

ウミガメの甲羅ぐらいの大きさがある。

鱗一枚でこの大きさなんだから本体はかなりの巨体なんだろうなぁ。

とりあえずまずは鑑定してみてからだ。

店主に許可をもらって触らせてもらう。

『邪竜の鱗。大昔にこの世界を支配しようとした邪竜ドリアレムの鱗。呪われている。最近の平均取引価格は銀貨20枚。最安値銀貨15枚最高値銀貨50枚最終取引日は988日前と記録されています。』

「は?」

「な?ドラゴンの鱗って所まではわかるんだが種類がわかんねぇんだよ。これだけ大きいんだからさぞ立派なやつだと思うんだがなぁ。」

「そんな奴ではないぞ。」

「なんだい、知っているような言い方して。」

「知っているも何もじっさ・・・。」

「いくらだ?」

「お、買ってくれるのかい?」

「銀貨20枚までなら出せる、面白そうだ。」

「よっしゃ!銀貨20枚で売ってやるよ。いやー、やっと手放せてホッとした。おまけに何かつけてやろうか?」

「いやいい、鱗だけくれ。」

ディーネが余計な事を言う前にさっさとこの場を離れたい。

ずっしりと重い鱗を両手に抱えひとまず端の方へ移動する。

「持とうか?」

「いやいい、邪竜の鱗らしいしなにより呪われてる。」

「えぇ!?」

「懐かしいな、やはりドリアレムの鱗であったか。」

「知り合いなのか?」

「旧知の友でもありまた敵でもあった。地下に潜る前にあったのが最後だから300年会っていないことになる。」

「という事は旧王朝時代ね。そんなに古い物には見えないけど。」

古ぼけてはいるがそこまで大昔の品ではなさそうだ。

せいぜい10年か20年ぐらいなものだろう。

という事はまだ生きていると考えられる。

「して、こんなものを買ってどうするのだ?」

「別に、呪われてるなら然るべき場所に置いておく方がいいだろう。」

「その場所とは?」

「王家の宝物庫がいいんじゃないか?」

「え、呪われてるんでしょ?」

「この前のやばい品と一緒に保管してもらえばいい。」

「あ、なるほど。」

土産物が呪われた品ってのはあれかもしれないが、そこしか思い浮かばなかった。

向こうもそれなりに察してくれるだろう、多分。

「変なことをする男だな、お前は。」

「珍しいものを買うのが俺の仕事だ。まぁ、金になることが前提だけども。」

「珍しい品か、ならばあそこにある壺やあっちの剣等も珍しいのではないか?微弱だが魔力を感じる。」

「マジか!教えてくれ!」

「人間は本当に物欲、性欲にまみれた生き物よなぁ。」

「だからここまで発展したんだよ。性欲はともかく物欲が無きゃ化粧品も美味い物も産まれないだろ?」

「ふむ、確かに。」

世の中欲が無きゃ何も発展しない。

欲まみれの人間だからこそ、様々なものが生まれるんだ。

「そして、そういう物がお金を産むのね。」

「そういう事。エリザもよくわかってきたじゃないか。」

「当然よ。」

「ならばその欲を満たす代わりに、私の欲も満たしてもらうとしよう。そろそろ腹が減った。」

「いいぜ、とっておきを食わせてやるさ。」

金になるものと引き換えにとっておきの上手い物を提供する。

両者win-winの関係の出来上がりだ。

その後も街の中を歩きながらお互いの欲を存分に満たし合うのだった。

ただし性欲ではないから誤解しないでくれ。
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