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614.転売屋は会いに行く

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「忘れ物は無いな?」

「はい、持てるだけ持ちました。」

「肉は風蜥蜴の被膜で包んでるから匂いが漏れる心配もないわ、一応道中で使う分も入れてるから使って。」

「ありがとな。」

「それと。」

「くれぐれも気を付けろ、だろ?ちゃんと鎧も身に着けたし脛当ても付けてる。戦闘時は身隠しの外套で極力隠れてるから大丈夫だろう。キキもアニエスさんもいるし今回はアネットも一緒だ。って、本当に来るのか?」

「たまには体を動かさないと、せっかく新しい武器も作って頂きましたので。」

2mを切るぐらいの少し短めの槍を持ち、作ったばかりの鎧に身を固めたアネットが胸を張ってこたえる。

いつもは留守番のアネットだが、エリザが参加できないので急遽参加することになった。

こう見えても中々の武闘派。

装備を整えてからというもの、俺の知らない所でちゃっかりダンジョンに潜っていたこともあるらしい。

まぁ、怪我しないのなら別にかまわないんだけどもせめて一言声かけてほしかったなぁ。

「すみません、遅くなりました!」

「マリー様まだ出発前ですので大丈夫ですよ。」

「よかった。これ、朝届いたばかりの新作です。カーラから特別に調合してもらっているので気に入って頂けると思います。」

「急な連絡だったのに良く手配できたな。」

「ドラゴン用と聞いた時は驚いていましたが、でもそれがよかったみたいです。」

「ちなみに何が違うんだ?」

「肌にいい成分はそのままに魔力の浸透力を上げているんだとか。正直よくわかりません。」

マリーさんにわからないんじゃ俺にわかるはずないよな。

ともかくディーネ用の特別性であることは間違いないようだ。

これで突入準備は完璧。

肉よし、化粧品よし、土産よし。

あとは竜の巣に到着する前に追加の肉を準備できれば申し分ない。

なんせあの巨体だ、食う量が半端ない。

前回それを指摘したら物凄い剣幕で怒られてしまった。

あの咆哮、まじでチビるかと思った。

っていうかチビってたね。

「では出発します。」

「アニエス、シロウ様を宜しくお願いします。」

「お任せを。前回のような不手際は二度と致しません。」

「だから、前回は・・・。」

「はいはい長くなるからさっさと行きなさい、お土産よろしくね。」

「残ればな。」

恐らくは最初に用意した分は残らないと思うから、帰り道にエリザ用の別の肉を調達する必要がありそうだ。

今回は総勢10名の大所帯で竜の巣まで向かう。

途中ダンジョンでベッキーとミケとも合流するので11人と1匹になるのかな?

ダンジョン前で見送りを受け、まずは休憩所を目指す。

そこで小休止を取った後、肉の確保。

そして竜の巣への行軍だ。

運よくワイルドボアの一段と遭遇した俺達は、肉食獣の如く獲物に襲い掛かりその大部分をしとめることが出来た。

ある程度はその場で解体、血抜きを済ませ残りは死体のまま台車に乗せて運搬する。

血の匂いが他の魔物を引き寄せる可能性は上がるが、みすみすコレだけの肉を置いていくのは惜しい。

「今日もお肉いっぱい食べるし!おっきくなるし!」

「ミャウ!」

「シロウ様。」

「ツッコんでやらないでくれ、本気で大きくなると思ってるから。」

「そうですか。」

「あ!またそんな顔してるし!ちゃんとおっきくなってるし!ほら!」

ほら!と言いながら自慢げに胸をそらすベッキー。

しかしながら胸のふくらみは正面からでは確認することができない。

まさに絶壁。

鎧を身に着けているから尚の事そう見えるんだけども。

「あー、そうだな。」

「適当だし!触って確認するし!」

「確認するも何も体を通り抜けるだろ?」

「実体化すれば問題無いし!」

「大切な技をそんな事で消費するなっての。」

デコピンしてやろうと指を伸ばすが透明な頭をすり抜けるだけ、本人はフフンと自慢げな顔をしている。

今実体化するとか言わなかったか?

まぁいいけどさぁ。

その後も何度か魔物に襲われながらも、比較的安全に龍の巣へと到着することが出来た。

ディーネに会いにきたとはいえ、ここは魔物の世界。

復活したドラゴン系の魔物が鋭い目つきで此方を睨んでくる。

「さて、今日はどっちだ?」

「適当に近場のドラゴンから仕留めましょう、前回のように挟撃されると厄介です。」

「それはわかってるんだが、今回は平和的に解決したいんだよなぁ。貰うもん貰う為にも。」

「ではどうします?」

「実はこういうものを持ってきたんだ。」

収納かばんに手を突っ込み、中から二つの品を取り出す。

一つは風の魔道具。

もう一つはカーラに用意して貰った化粧水だ。

魔物が襲ってくるか来ないかぎりぎりのところまで移動して、魔道具を起動。

羽無し扇風機のように風邪を取り込み、巣の奥に風を送り出す。

そしてその前に用意した化粧水を置き蓋を開けた。

その途端、少しかび臭かったダンジョン内が一気にフルーティーな香りに包まれる。

今回は柑橘系の果物を香り付けに使ったんだろう、爽やかな香りに少し胸がスッとした。

「こんなものでくるでしょうか。」

「おそらくな。」

もちろんコレだけで向こうが来るとは思っていない。

さぁ、最後のダメ押しだ。

息を大きく吸い込み気合を入れる。

「あー、大事な化粧水をこぼしてしまったぁぁぁぁぁ!」

俺の声は香りと共にダンジョンの奥へと届いたことだろう。

「なんじゃと!なんてもったいないことを!」

届いたと同時に間髪を入れずそんな声が返ってくる。

そして高速で何かが飛んでくるのが見えた。

それは見る見るうちに大きくなり、吹き飛ばされそうな風と共に俺の前に舞い降りる。

「なんて、冗談だ。」

「おのれ私を騙したか。」

「騙したんじゃない、呼んだんだ。前みたいに襲われるのは困るんでね。」

「ふん、小ざかしいマネを。」

「そう怒らないでくれ、今日はとっておきを持ってきたんだ。とりあえず肉からでいいか?」

「そうやって私を餌付けするつもりか?」

「飼いならしてどうしろっていうんだよ。要らないなら俺達が食うぞ。」

「そんなことは言っておらん。」

まったく素直じゃないんだから。

普通ならばコレほど巨大なドラゴンが来たら逃げ惑うものだが、話のわかる相手ならば問題ない。

会うのはコレで三度目。

最初にベッキーが切り取った髭もすっかり元通りになったようだ。

とりあえず持ってきた肉と、先程しとめた魔物を地面に下ろし少し離れる。

まずはじめにディーネが巨大な肉をひとのみにし、その後後ろに控えるドラゴンたちを呼び寄せた。

一人、じゃなかった一体につき一頭の肉をわしづかみにするとそのまま巣の奥へと飛んでいく。

まるで動物園の給仕のようだ。

「ふむ、今回の肉は中々だな。」

「気に入ってくれて何よりだ。それと、追加の化粧品とディーネ用に作らせた化粧水。なんでも魔力の浸透力が高いそうだ。」

「ほぉ、それは中々いい品だな。とはいえ、これっぽっちか。」

地面に置かれた500mlペットボトルほどの瓶。

俺達ならともかくドラゴンの巨体となると顔の一部分にしかぬれそうもない。

「大急ぎで作ったからコレしか用意できなかったんだ、髭にでも塗ってくれ。」

「なに、この体だから足りないだけの事。コレをこうすれば・・・。」

突然ディーネの体が白く輝き、あまりのまぶしさに目を閉じてしまう。

目の前が真っ白になり、それが落ち着いた頃ゆっくりと目を開けるもそこにドラゴンの巨体はなかった。

「どこを見ておる、こっちだ。」

「え?」

「この体になるのは中々に面倒だが、こうでもせんと化粧水がすぐに足りなくなるからな。どうだ、中々の美貌だろう。」

慌てて目線を下に下ろすと、さっきまでドラゴンのいた場所に同い年程の女性が立っていた。

鮮やかな赤い髪のその女性は程よい大きさの胸を隠すこともせず、腰に手を当てて仁王立ちしていた。

もちろん胸が見えているのだから下も丸見え。

髪と同じ真っ赤な陰毛がわずかに茂っていた。

「ディーネ、なのか?」

「私以外に誰がいる。それよりも褒めることがあるのではないか?」

「あ、あぁ。美人だな。」

「そうだろう。もっと褒めていいのだぞ。」

いきなり褒めろと言われても生憎そんなにポンポンと言葉が出てこない。

どうやら俺には女たらしの才能はないようだ。

胸も知りも俺の女達の方が上、だが一箇所だけ負けていない場所がある。

「綺麗な髪だな。」

「だろう?」

「あぁ、まるで燃えているようだ。」

「中々いい表現だな、褒めてやろう。」

「まさか人に化けられるとは思っていなかったが、よく考えれば当然か。あれっぽっちの化粧水じゃ普通足りないもんなぁ。」

「アレは中々に良い品だった。だが、今回はもっといいものを持ってきたのだろう?」

ゆっくりと近づいてくるディーネを前に、俺は外套を外してその体にかけてやった。

「これも贈り物か?」

「いいや、ただ単に裸でいられると目のやり場に困るだけだ。後で返せよ。」

「流石人間、この体にも発情するか。メスをたくさん抱えているだけある。」

「それは関係ないと思うが・・・。とりあえず説明するからしっかり聞いてくれ。」

後ろに控えるアニエスさんやアネットを見てディーネが目を細める。

生憎とキキは俺の女じゃないんでね。

そこは間違えてもらっては困る。

ひとまず戦闘は回避されたので全員が荷物を下ろし、俺はディーネの前に持ち込んだ品々を並べて説明を始める。

化粧水に乳液、それと新作のパック。

顔に張り付けてケラケラと笑う姿は同い年よりもだいぶ下に見える。

しかしそれも見た目だけ。

実際の年齢を聞いたわけではないが、かなりの高齢であることは間違いない。

もっとも、それは人間にとってはであってドラゴンにとって高齢かどうかは知らないけどな。

「ふむ、これもいい品じゃな。」

「気に入ってもらって何よりだよ。」

「そしてお前は、これと引き換えに龍の牙が欲しいと。」

「あぁ、それも滅多にお目にかかれない奴が欲しい。もちろんあればの話だが。」

「ある。」

化粧水をパシャパシャと顔にかけながらディーネがニヤリと笑った。

普通なら可愛らしいと思えるはずだがその裏に隠された意味を読み取れず、苦笑いを返してしまう。

「ここは私の巣だぞ、当然だろう。」

「それを聞いて安心した。ここまで来た甲斐があったよ。だがタダじゃないんだろ?」

「これだけの贈り物を貰っておいてさらに吹っかけるほど私は強欲ではないぞ、貴様と違ってな。」

「悪かったな強欲で。」

「なに人間とはそういう生き物、気にするな。」

「で?何が欲しい、何でもというわけじゃないが出来る限り用意させてもらうつもりだ。」

手にはいることが分かって引き下がるわけにはいかない。

なんとしてでも特別な品を持って帰らないことには、王都に行くこともできないからなぁ。

そんな俺の焦りを知ってか知らずか、ディーネはとんでもない言葉を発した。

「貴様近々何処かへ行くのだろう?ならば我もつれていけ、それが条件だ。」

全員の目が点になる。

それを気にすることなく、特別に用意された化粧品を手に塗ってディーネはうっとりと目を細めるのだった。
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