上 下
612 / 1,063

610.転売屋は手紙を受け取る

しおりを挟む
「シロウ、お手紙だよ。」

「手紙?」

「これは、イザベラ様からですね。」

「この間手紙をもらったばかりなんだが?」

「急な要件でしょうか。」

「それなら別の方法で連絡してくるはずだ。」

いつものように事務仕事、ではなく店でのんびりと店番をしているとガキが手紙を持ってきた。

受け取りのサインをして飴玉を一緒に渡すと、飛び上がって喜んでいた。

飴玉で喜べるのか、羨ましい。

そなことを考えながらペーパーナイフで封を切り中身を確認する。

お、花の香りがする手紙だ。

今はこういうのが流行りなのか。

え~っと、なになに?

「いかがですか?」

「・・・王都に来るなら色々持ってこいだとさ。」

「イザベラ様らしいですね。」

「向こうの流行りがわかるのは有難いが、それなら自分で仕入れればいいのにな。」

「出来るのにしない、それがイザベラ様なりの筋の通し方なのでしょう。」

「別にどんな方法で儲けてもらってもかまわないんだが。その分俺に金が入ってくるわけだし。」

あくまでも代理店というスタンスは崩したくないという事なんだろうけど、金になるのなら好きにしてもらってかまわないけどなぁ。

今度会ったときにしっかり伝えておくとしよう。

「何をご所望ですか?」

「掃除道具の新作とルティエの試作品、それと向こうで流行り出している西方の物ならなんでもいいそうだ。」

「西方のというと、あのグラスでしょうか。」

「そうなるなぁ。」

「食べ物関係はどうされます?」

「傷むリスクを考えるとせいぜい茶葉ぐらいだろう。醤油やコメなんてのは向こうにもありそうだし下手に広げて値段がつり上がっても困る。麦は不作になりそうなんだってな。」

「はい。ハーシェ様の伝手で色々と情報を集めましたが、穀倉地帯で病気が広がっているそうです。今年はそれなりに値上がりしそうですね。」

やはり前に仕入れた情報通りか。

ギルド協会も街も早めに麦の確保に動いたおかげで大きな問題は起きそうにない。

念のためにコメの備蓄も増やす予定だが、こっちは逆に大量注文という事で値を下げてくれた。

この事からもコメの需要はまだまだ広がっていないことがわかる。

主食さえ何とかしてしまえば野菜や肉類はダンジョンで手配できるのがうちの強みだよなぁ。

後は酒関係をどうするかか。

「エールはどうなんだ?」

「そちらはゲイル様が代表して手配してくださっているそうです。」

「あれやこれやと備蓄しようとしても置く場所が無いからなぁ。」

「作っても使われなくなれば無駄になりますから。」

「そうなんだよなぁ。難しい所だ。」

土地はある。

だからどんどん作って備蓄すればいいじゃないかという考えもできるのだが、次にまた不作になるとは限らない。

一過性の物なのだとしたらすぐに使われなくなってしまうわけで、そうなるとただの無駄。

それにそういうのを考えるのは俺ではなく街やギルド協会の仕事だ。

「ま、難しい事は偉い人に任せておけばいいだろう。とりあえずルティエに発破をかけて、掃除道具に関してもいくつか見本を用意しておこう。スティッキーツリーの樹皮はどうなった?」

「上手に剝がすのが難しく難航しています。」

「とりあえず時間かかかってもいいから綺麗に剥がすように工夫してもらってくれ。アレは間違いなく売れる。」

「だからこそ数が必要なんですよね。」

「あぁ。」

『スティッキーツリーの樹液。粘度が高い樹液を相手に吹きかけ身動きを取れなくするために使われる。一度くっつくと中々剥がせないが、お酒や大量の砂などで粘度を下げる方法がある。主に接着剤として使用されている。最近の平均取引価格は銅貨30枚。最安値銅貨21枚最高値銅貨35枚。最終取引日は三日前と記録されています』

根っこがまるで足のように動き、口っぽい部分から自分の樹液を吐き出して獲物を捕らえる姿はディズニーに出てきそう。

獲物は冒険者から無機生命体まで魔力で動くものなら何でも。

樹液で動かなくした後は根っこで押さえながら上に乗り、空っぽになるまで魔力を吸い上げてくる見た目のわりに中々にグロイ魔物でもある。

だが魔力を感知すれば何でもいいので、魔石を餌におびき出し根っこの部分から上をぶった切ってしまえば足の部分だけで逃げていく。

あたふたと根っこの部分だけ逃げていくのはなかなかにコミカルな映像なんだろうけど、生憎と本物を見たことはない。

樹液が糊の役目を果たすので普段から需要のある魔物ではあるのだが、今回は樹液が自分の外皮にくっつかない特性を生かして掃除道具に加工することにした。

その名もコロコロ。

いや、マジでそれしか名前が思いつかなかった。

ほらあれだ、テープをはがして絨毯とか服についた埃をからめとるやつ。

で、粘着が無くなったらまたテープをはがして復活させるあれだよ。

外皮をはがしてくるくる丸めると全く同じものが出来る事に気づき即商品化することにした。

グレイスたちに使わせたらかなり高評価だったので間違いはない。

他にもエレキテルウールの毛を使ったハンディーモップとか、スイパーマシンの内容液を利用した油落としなんかも台所周りの汚れを落とすには便利だ。

後は既存のやつで十分だろう。

最近は類似品が出回っているようなので近々庶民にもその有効性は広まるはず。

それまでに何とかして樹皮の加工方法を確立しておきたいところだ。

「引き続き頑張って貰ってくれ。西方のグラスは近々港町に行くからその時に追加を頼もう。何なら全部買い占めてもいい、向こうで売れるのは間違いなさそうだしな。」

「ではその際に別の品も一緒に探します。」

「『どんな』西方の品が人気なのかぐらい書いてくれると有難かったんだが。まぁ良いか。」

「シロウ様的には何がいいと思いますか?」

「貴族相手なら見た目の綺麗な物、庶民相手には一目で西方のものと分かるのがいいだろう。そういや布とかは見かけないな。輸送の手間を考えてももっと入っていてもよさそうだが。」

「布ですか。そういえば見かけませんね。」

「こっちの布の方が見た目に綺麗だからそのせいもあるかもな。とはいえ、ローランド様に納品した絨毯はなかなかに良かったし無いわけじゃないんだろう。」

流行りなら何でも、ってわけにはいかないだろうし輸送の途中で壊れても困る。

その辺を見極めながら品定めした方がよさそうだ。

「後はお土産ですね。」

「そこが問題だ。」

「国王陛下はもちろんの事オリンピア様やご兄弟、それとリング様とご家族様への分は必須でしょう。」

「そもそも国王陛下への土産とかなんで考えないといけないんだよ。向こうの方が金持ちだぞ?凄いものもたくさん持ってるだろう、今更いらないんじゃないか?」

「そういうわけには参りません。先方からの誘いとはいえ、相手が相手ですから。」

「めんどくさすぎる。」

なんで俺がそこまでしなくちゃならないんだと投げ出したい気持ち9割、めんどくさい気持ち五分、そして残り五分が仕方がない。

つまり肯定的な気持ちはどこにもない。

はぁ、王都に行くのはいいがこれが一番の問題だよなぁ。

「ハーシェ様の意見を聞きながらいくつか候補は上げていますが、シロウ様の仰るようにありきたりなものではあります。」

「この街らしさを出す必要はないだろう、なんなら薬草とかでいいんじゃないか?」

「さすがにそれは・・・。」

「じゃあポーション。」

「却下です。」

「うわ、さっきより厳しい。」

「せめてシロウ様らしい品でないと。」

「俺らしい、ねぇ。」

買取屋だけに買取った品?

さすがに中古品はどうかとおもうが、この世界では結構普通にやり取りされてるもんなぁ。

前にオークションで買ってもらったノワールエッグもいわば中古品だ。

あんな感じのやつを人数分?

無理過ぎる。

「お守りでも作るか。」

「それはいいかもしれません、この前のように魔物の骨を加工して贈り物に。良い考えだと思います。」

「なら国王陛下はドラゴンで、王族はそれに近しい物。リングさんの所は別に用意すればいいか。」

「骨にも色々と意味がありますから、少し調べてみます。」

「細工はアーロイに任せて見栄えのいい箱に入れればそれなりの物になる、はずだ。よし、これでいこう。」

「では骨の手配はベッキー様にお願いしますね。」

「そうだな。だがドラゴンは別に用意するつもりだ。」

「というと?」

「ディーネに相談してみるつもりだ。追加の化粧品を持っていくと約束してるからそのついでにな。」

「ディーネ様ですか。確かにあの方でしたら良い物をお持ちでしょう。」

「問題はあいつ用の肉を用意しなきゃならないのと、道中の警護か。まぁ、何とかなるだろう。」

風の噂を聞いたときに一度シミュレーションしてある。

行くのは二度目だし、戦いに行くわけではないから道中さえ気を付ければいいだけだ。

「最高のお肉を用意しないといけませんね。」

「道中で見つかればいいんだがなぁ。」

「それを期待しましょう。」

「とりあえずそんな感じで動くとしよう。他にも何かいい品があれば教えてくれ。」

「わかりました。」

時間は無いのにやることはたくさんある。

はぁ、相変わらず忙しいなぁ。

店はこんなに暇なのに。

とか思っていたら、カランカランとベルが鳴り冒険者がやってきた。

「シロウさん!ダンジョンでスプリングラビットが大量発生したらしいっすよ!」

「げ、またか。」

「もうすぐ仲間が大量に持ち込むんで買取宜しくお願いします!」

「いや、ギルドに行けよ。」

「だってシロウさんの方が高く売れるじゃないですか。」

「そうなのか?」

「そうですね、毛皮は色々と加工できますのでギルドよりも一枚当たり銅貨10枚ほど高くしています。固定買取ではありませんから。」

「せめて下処理は済ませて来いと伝えといてくれ。」

「了解っす!あ、ついでに俺の分もよろしくお願いします。」

毛皮のはずなのに、ドンと鈍い音がする。

これから暑くなる時期だというのに大量の毛皮がカウンターの上にのせられた。

「これが大量に来るのか。」

「メルディ様を呼んでまいります。」

「休憩中に悪いなぁ。」

「状況が状況ですから。」

前言撤回、店は暇じゃなくなりそうだ。

でもまぁそれもいつもの事。

さて、お仕事頑張りますかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...