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591.転売屋はウサギに襲われる
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「シロウ様、この後少しよろしいですか?」
「畏まってどうしたんだ?」
「実は少しお願いがありまして。」
屋敷で雑務をこなしていたときの事だった。
書類を確認しながらミラが申し訳なさそうに話し出す。
普通の指示ならばこんな言い方をしないと思うのだが、どうやら仕事関係ではないようだ。
「この後は予定もないし構わないぞ、言ってくれ。」
「エルロースの店に行きたいのですが同行いただけませんでしょうか。」
「エルロースの?別に構わないが俺も一緒の方がいいのか?」
「はい。」
エルロースは街で魔術道具を作っている職人だ。
店は主にエルロースが運営し、親が加工をしているはず。
ミラの昔からの友人でもある。
そういえば最近顔を見てなかったな。
元気にしているだろうか。
「そうか、ならいくとしよう。」
「申し訳ありませんゆっくりできるのに。」
「ここにいたって特に何かするわけじゃない、市場にも行きたいしついでだ。」
「ありがとうございます、エルロースも喜ぶと思います。」
「何かあったのか?」
「はい、色々と。」
明言しないってことはここでは言いにくい内容なんだろうか。
俺達しかいないし別に隠す必要は無いと思うんだが。
落ち込んでいるのであれば何か土産を持っていくのもいいだろう。
それも市場で探せばいいか。
「書類はコレで全てです、30分ほどしましたらお迎えに上がります。」
「了解。それまで休憩させて貰うな。」
「どうぞごゆっくり。」
書類を抱えてミラが部屋を出て行く。
はぁ、一仕事した後の香茶は美味いなぁ。
椅子から立ち上がり大きく伸びをすると骨がバキバキと鳴る。
うーむ、最近また運動不足になっている気がする。
ジムに行く時間もないし、せいぜい朝の散歩ぐらいだ。
夜の運動はあえてカウントしない。
アレもいい運動だが、それとはまた違うんだよなぁ。
そういえば最近はエルロースにも呼ばれることがなくなった。
彼女の性格から考えると遠慮しているんだろう。
それか、新しく相手でも出来たかな?
俺の女でも無し、その辺は気にしたこともなかった。
軽く体を動かし、着替えを済ませる頃にミラが戻ってきた。
いつもと違い少し余所行きの服に変わっている。
鮮やかな緑色のワンピース、よくに合ってるなぁ。
「それがこの前作って貰った春物か?」
「はい、新緑の季節にと思いまして。どうでしょうか。」
「よく似合ってるぞ。」
「ありがとうございます。」
「挨拶がてら行く途中に土産を買っていこう、何にするは任せる。」
「畏まりました。甘いものが好きなのでドルチェ様のお店によりますね。」
「了解。」
勝手知ったるなんとやらだ。
久方ぶりの二人きり、腕を組み少しデートっぽい雰囲気を出しながら市場を見て回りドルチェの店で新作のケーキを確保した。
なんでも西方のお茶を使ったんだとか。
うん、抹茶だな。
色々と研究しているようで俺みたいな素人の知識なんてあっという間に追い抜かされてしまうんだろう。
人数分のケーキと共に店へと向かう。
だが、到着した店は真っ暗でどうやら留守のようだった。
「いないな。」
「いえ、休みにしているだけです。」
「そうなのか?」
「はい。色々ありまして一週間お休みなんです。」
ふむ、何か事情があるようだ。
気にすることなく扉を開けるミラと共に中へと入る。
いつもなら明るい店内も休みの為か薄暗い。
工房の方も休んでいるようだ。
「エルロース、いるんでしょ。」
「ん?アポなしなのか?」
「はい、年甲斐もなく見合いをしてその相手にこっぴどくフラれて凹んでいるのを慰めに来たんです。」
「流石にその言い方は・・・。」
「そうよ。年甲斐もなく凹んでいる友人に言うセリフがそれ?」
「ほら、やっぱりいた。」
親しき中にも礼儀ありとはよく言ったものだが、いつもは丁寧なミラもエルロースには結構フランクに接するんだよなぁ。
「えぇいましたとも。どうせ家にも居場所がありませんよ。」
「で?今回ダメだった理由は?」
「いつものよ。亜人が嫌なんだって。」
「違うよね、性欲が強すぎたんでしょ。」
「ち、違うわよ!」
「そうなの?てっきりいつもと同じ理由なのかと思ったんだけど。」
「最近は頑張って抑えてるんだから。」
なんていうか、なんで俺はここに呼ばれたんだろうか。
そういう話であれば仲のいい女同士、他を気にせず話せばいいのに。
さすがに肉体関係のあるエルロースでも聞かれたくはないだろう。
「俺、帰ろうか?」
「どうしてですか?」
「いや、そういう込み入った話は聞かれたくないだろう。特に男には。」
「そんなことありません、そうですよねエルロース。」
「そうですよねって・・・。」
「ほら、こういう反応だし。」
「シロウ様にはお役目がありますのでもう少しお待ちください。」
お役目?
何をさせるつもりかはわからないが、いろと言われるのであればいさせてもらおう。
渋々という感じではあるがエルロースが俺達をカウンターに案内してくれた。
ミラは何も言わずにカウンターの向こうへ移動し、お皿やらフォークなんかを用意する。
「それじゃあ、まずは食べましょう。」
「緑色のケーキなんて私初めてよ。」
「抹茶っていう西方のお茶の粉末をかけてるんだ、美味いぞ。」
「へぇ、珍しい物なのね。」
「「「いただきます。」」」
味は予想通り。
エルロースもミラも気に入ったようで、幸せそうな顔で口に運んでいる。
あっという間に食べてしまった。
倍量買っておいてもよかったなぁ。
「美味しかった、ありがとうミラ、シロウさん。」
「どういたしまして。」
「元気がないときは甘いものがいいらしい、これを選んだのもミラだぞ。」
「エルロースは悲しいことがあると甘いものをやけ食いする癖があるんです。」
「やけ食いなんてしないわよ。」
「そんなこと言って、前にホールケーキを二つペロッと食べたのを横で見たんだけど?」
「記憶違いじゃないかしら。」
ホールケーキ二個?
大きさにもよるがそれはなかなかにすごいな。
「で、今後はどうするの?」
「申し訳ないけど当分お見合いはいいかな。仕事も忙しいし、なんなら結婚しなくたって生きていけるもの。」
「確かに生きてはいけるけど、次はどうするの?お店は代々受け継いできたんでしょ?」
「弟子をとるか、それとも私の代で終わりにするか。お父さんもさすがに今回の件で懲りたみたいだしね。亜人の血が濃いとこういうことになるのよ。」
「ほらやっぱり。」
「あっ。」
どうやら自分でボロを出してしまったようだ。
エルロースはウサギの亜人。
それだけならいいのだが、普通よりも血の濃いエルロースには野生のウサギと同じく発情期が存在する。
これまではその流れで何度か相手をしたことがあるのだが、最近はめっきりお誘いがなくなった。
てっきり彼氏か旦那が出来たのかと思ったがどうやらそうではないらしい。
そして、そのせいで旦那候補に逃げられたと。
確かに情熱的ではあるが、逃げるほどじゃないと思うんだがなぁ。
「確かにエルロースのはひとより少し強いけど、それでも断るのは失礼よ。」
「もういいってば。」
「でも、子供は欲しいんでしょ?」
「んー、そうね。本音を言えば欲しいかな。店もあるけど何より私が産みたいの。」
「とてもよくわかる。私も昔はそうでもなかったけど、今はシロウ様の子供が欲しくて仕方がないから。」
「いいなぁミラは、旦那様がいて。」
「旦那様じゃなくて奴隷だけどね。」
「一緒よ。こうやって文句も言わないで話を聞いてくれているだけで十分素敵だわ。」
これは褒められているのだろうか。
個人的にはさっさとおさらばしたいのだが、ミラがそれを許さない雰囲気を出している。
雰囲気どころかカウンターの下で手を握られ物理的に逃げられなくされているのもある。
「そりゃどうも。」
「ねぇ、譲ってって言ったらどうする?」
「いいですよ。」
「え?」「は?」
「エルロースは子供が欲しい、私はエルロースに幸せになって貰いたい、シロウ様は気持ちよくエルロースの手伝いができる。悪い話じゃないよね?」
「ミラ?何を言っているのかわかってるのか?」
「もちろんです。シロウ様に来ていただいたのは他でもありません、エルロースに子供を作ってあげてほしいからです。最近は発情期なのに無理して我慢しているので、それも一緒に満たして貰えれば。」
「ちょ、ちょっと!何を言い出すのよ!そりゃあシロウさんだったら甲斐性もあるし私も嫌いじゃないし、好みではあるけど・・・。」
「なら問題ありませんね。」
いやいや、問題大ありだって。
いきなり連れてこられて子供を作ってくれって、いくら何でも話がおかしすぎる。
そういうものじゃないだろう子作りってのは。
そりゃ俺もエルロースは嫌いじゃないが・・・。
それでもそれとこれとは話が別だ。
「シロウ様、奴隷の身でありながら無茶を言っているのはわかります。でも、私の数少ない友人であるエルロースを助けると思って力を貸してもらえませんでしょうか。もちろん結婚する必要はありません、彼女にもその気はありませんから。ですが、この先店を残すという意味でも彼女には跡取りが必要なんです。好きでもない男と見合いをして子供をもうけるぐらいなら、好意のあるシロウ様の子供のほうが彼女もうれしいはずです。」
「いやまぁ、言いたいことはわかるが・・・。」
「それに、シロウ様なら発情期のエルロースを知っていますから。」
「うぅ、面と向かって言われるのは恥ずかしいんだけど。」
「今更じゃない。」
顔を真っ赤にするエルロースと、真剣な顔で俺を見るミラ。
もう一度言う。
なんで俺はここにいるんだろうか。
奴隷とはいえミラは俺の嫁みたいなものだ。
その嫁に、友人を抱いて子供を作ってくれと言われている。
そんなことあっていいのか?
「でも、そうね。今後を考えたらそれがいいかもしれない。私は子供ができるし、結婚もしなくていい。もちろんシロウさんがそれを許してくれるならだけど。」
「許してくださいます、だってシロウ様ですから。」
「そのだってはなんなんだ?」
「困った人を放っておけないという意味です。それに、お好きですよね?」
セックスが好きかと聞かれて嫌いという男はあまりいないだろう。
好きか嫌いかで言えば大好きだ。
なんせ今の俺は若いからな。
「ちなみに俺が断った場合は?」
「いずれ行きずりの男と子供を作ることになるでしょう。跡取りは必須ですから。」
「まぁねぇ・・・。とはいえ私だって相手は選びたいわ。」
「それがシロウ様です。ちなみに、シロウ様のお茶にはアネット様お手製のアレを入れさせていただきました。そろそろ効いてくるはずです。」
「ミラ!お前!」
心なしか薬っぽい味のする香茶だなとおもったが、まさか薬を盛られるとは。
さっきまで何ともなかったのに意識した瞬間に下半身に火がともる。
ドクドクと脈拍が上がり、どんどんと大きくなっていくのが分かった。
「エルロース、今のシロウ様ならどんなあなたでも受け入れてくれます。遠慮しなくていいんですよ。」
「私が言うのもなんだけど、本当にいいの?」
「良いからここまでしたんです。シロウ様、お叱りは後日たっぷりとして頂いて結構ですので、今はエルロースを、私の友人をどうかお願いします。」
深々と俺に向かって頭を下げるミラ。
そして、さっきとちがい獲物を狙う肉食獣のような眼をしたエルロース。
おかしい、ウサギは草食のはずなのに。
まさかウサギに襲われる日が来るとはおもわなかった。
頭を上げ、そそくさと帰ろうとするミラの手をしっかりとつかむ。
予想もしなかった俺の動きに、ミラが驚いた顔をした。
「逃げられると思うなよ、薬を盛った責任は取ってもらうからな。」
「今日はエルロースだけを・・・。」
「私は二人一緒でも。ううん、二人一緒がいいなぁ。」
「だそうだ。」
毒を食らわば皿まで、じゃなかった死なば諸共か。
前門のエルロースに後門の俺。
さっきまで余裕があったミラの目に初めて焦りの色が見えた。
その日、俺はウサギに襲われた。
そして次の日。
とてもすがすがしい顔をしたエルロースが元気に店番をしていたと、疲労困憊のまま横になったベッドで聞かされるのだった。
いや、本気になったウサギはマジで凄かった。
「畏まってどうしたんだ?」
「実は少しお願いがありまして。」
屋敷で雑務をこなしていたときの事だった。
書類を確認しながらミラが申し訳なさそうに話し出す。
普通の指示ならばこんな言い方をしないと思うのだが、どうやら仕事関係ではないようだ。
「この後は予定もないし構わないぞ、言ってくれ。」
「エルロースの店に行きたいのですが同行いただけませんでしょうか。」
「エルロースの?別に構わないが俺も一緒の方がいいのか?」
「はい。」
エルロースは街で魔術道具を作っている職人だ。
店は主にエルロースが運営し、親が加工をしているはず。
ミラの昔からの友人でもある。
そういえば最近顔を見てなかったな。
元気にしているだろうか。
「そうか、ならいくとしよう。」
「申し訳ありませんゆっくりできるのに。」
「ここにいたって特に何かするわけじゃない、市場にも行きたいしついでだ。」
「ありがとうございます、エルロースも喜ぶと思います。」
「何かあったのか?」
「はい、色々と。」
明言しないってことはここでは言いにくい内容なんだろうか。
俺達しかいないし別に隠す必要は無いと思うんだが。
落ち込んでいるのであれば何か土産を持っていくのもいいだろう。
それも市場で探せばいいか。
「書類はコレで全てです、30分ほどしましたらお迎えに上がります。」
「了解。それまで休憩させて貰うな。」
「どうぞごゆっくり。」
書類を抱えてミラが部屋を出て行く。
はぁ、一仕事した後の香茶は美味いなぁ。
椅子から立ち上がり大きく伸びをすると骨がバキバキと鳴る。
うーむ、最近また運動不足になっている気がする。
ジムに行く時間もないし、せいぜい朝の散歩ぐらいだ。
夜の運動はあえてカウントしない。
アレもいい運動だが、それとはまた違うんだよなぁ。
そういえば最近はエルロースにも呼ばれることがなくなった。
彼女の性格から考えると遠慮しているんだろう。
それか、新しく相手でも出来たかな?
俺の女でも無し、その辺は気にしたこともなかった。
軽く体を動かし、着替えを済ませる頃にミラが戻ってきた。
いつもと違い少し余所行きの服に変わっている。
鮮やかな緑色のワンピース、よくに合ってるなぁ。
「それがこの前作って貰った春物か?」
「はい、新緑の季節にと思いまして。どうでしょうか。」
「よく似合ってるぞ。」
「ありがとうございます。」
「挨拶がてら行く途中に土産を買っていこう、何にするは任せる。」
「畏まりました。甘いものが好きなのでドルチェ様のお店によりますね。」
「了解。」
勝手知ったるなんとやらだ。
久方ぶりの二人きり、腕を組み少しデートっぽい雰囲気を出しながら市場を見て回りドルチェの店で新作のケーキを確保した。
なんでも西方のお茶を使ったんだとか。
うん、抹茶だな。
色々と研究しているようで俺みたいな素人の知識なんてあっという間に追い抜かされてしまうんだろう。
人数分のケーキと共に店へと向かう。
だが、到着した店は真っ暗でどうやら留守のようだった。
「いないな。」
「いえ、休みにしているだけです。」
「そうなのか?」
「はい。色々ありまして一週間お休みなんです。」
ふむ、何か事情があるようだ。
気にすることなく扉を開けるミラと共に中へと入る。
いつもなら明るい店内も休みの為か薄暗い。
工房の方も休んでいるようだ。
「エルロース、いるんでしょ。」
「ん?アポなしなのか?」
「はい、年甲斐もなく見合いをしてその相手にこっぴどくフラれて凹んでいるのを慰めに来たんです。」
「流石にその言い方は・・・。」
「そうよ。年甲斐もなく凹んでいる友人に言うセリフがそれ?」
「ほら、やっぱりいた。」
親しき中にも礼儀ありとはよく言ったものだが、いつもは丁寧なミラもエルロースには結構フランクに接するんだよなぁ。
「えぇいましたとも。どうせ家にも居場所がありませんよ。」
「で?今回ダメだった理由は?」
「いつものよ。亜人が嫌なんだって。」
「違うよね、性欲が強すぎたんでしょ。」
「ち、違うわよ!」
「そうなの?てっきりいつもと同じ理由なのかと思ったんだけど。」
「最近は頑張って抑えてるんだから。」
なんていうか、なんで俺はここに呼ばれたんだろうか。
そういう話であれば仲のいい女同士、他を気にせず話せばいいのに。
さすがに肉体関係のあるエルロースでも聞かれたくはないだろう。
「俺、帰ろうか?」
「どうしてですか?」
「いや、そういう込み入った話は聞かれたくないだろう。特に男には。」
「そんなことありません、そうですよねエルロース。」
「そうですよねって・・・。」
「ほら、こういう反応だし。」
「シロウ様にはお役目がありますのでもう少しお待ちください。」
お役目?
何をさせるつもりかはわからないが、いろと言われるのであればいさせてもらおう。
渋々という感じではあるがエルロースが俺達をカウンターに案内してくれた。
ミラは何も言わずにカウンターの向こうへ移動し、お皿やらフォークなんかを用意する。
「それじゃあ、まずは食べましょう。」
「緑色のケーキなんて私初めてよ。」
「抹茶っていう西方のお茶の粉末をかけてるんだ、美味いぞ。」
「へぇ、珍しい物なのね。」
「「「いただきます。」」」
味は予想通り。
エルロースもミラも気に入ったようで、幸せそうな顔で口に運んでいる。
あっという間に食べてしまった。
倍量買っておいてもよかったなぁ。
「美味しかった、ありがとうミラ、シロウさん。」
「どういたしまして。」
「元気がないときは甘いものがいいらしい、これを選んだのもミラだぞ。」
「エルロースは悲しいことがあると甘いものをやけ食いする癖があるんです。」
「やけ食いなんてしないわよ。」
「そんなこと言って、前にホールケーキを二つペロッと食べたのを横で見たんだけど?」
「記憶違いじゃないかしら。」
ホールケーキ二個?
大きさにもよるがそれはなかなかにすごいな。
「で、今後はどうするの?」
「申し訳ないけど当分お見合いはいいかな。仕事も忙しいし、なんなら結婚しなくたって生きていけるもの。」
「確かに生きてはいけるけど、次はどうするの?お店は代々受け継いできたんでしょ?」
「弟子をとるか、それとも私の代で終わりにするか。お父さんもさすがに今回の件で懲りたみたいだしね。亜人の血が濃いとこういうことになるのよ。」
「ほらやっぱり。」
「あっ。」
どうやら自分でボロを出してしまったようだ。
エルロースはウサギの亜人。
それだけならいいのだが、普通よりも血の濃いエルロースには野生のウサギと同じく発情期が存在する。
これまではその流れで何度か相手をしたことがあるのだが、最近はめっきりお誘いがなくなった。
てっきり彼氏か旦那が出来たのかと思ったがどうやらそうではないらしい。
そして、そのせいで旦那候補に逃げられたと。
確かに情熱的ではあるが、逃げるほどじゃないと思うんだがなぁ。
「確かにエルロースのはひとより少し強いけど、それでも断るのは失礼よ。」
「もういいってば。」
「でも、子供は欲しいんでしょ?」
「んー、そうね。本音を言えば欲しいかな。店もあるけど何より私が産みたいの。」
「とてもよくわかる。私も昔はそうでもなかったけど、今はシロウ様の子供が欲しくて仕方がないから。」
「いいなぁミラは、旦那様がいて。」
「旦那様じゃなくて奴隷だけどね。」
「一緒よ。こうやって文句も言わないで話を聞いてくれているだけで十分素敵だわ。」
これは褒められているのだろうか。
個人的にはさっさとおさらばしたいのだが、ミラがそれを許さない雰囲気を出している。
雰囲気どころかカウンターの下で手を握られ物理的に逃げられなくされているのもある。
「そりゃどうも。」
「ねぇ、譲ってって言ったらどうする?」
「いいですよ。」
「え?」「は?」
「エルロースは子供が欲しい、私はエルロースに幸せになって貰いたい、シロウ様は気持ちよくエルロースの手伝いができる。悪い話じゃないよね?」
「ミラ?何を言っているのかわかってるのか?」
「もちろんです。シロウ様に来ていただいたのは他でもありません、エルロースに子供を作ってあげてほしいからです。最近は発情期なのに無理して我慢しているので、それも一緒に満たして貰えれば。」
「ちょ、ちょっと!何を言い出すのよ!そりゃあシロウさんだったら甲斐性もあるし私も嫌いじゃないし、好みではあるけど・・・。」
「なら問題ありませんね。」
いやいや、問題大ありだって。
いきなり連れてこられて子供を作ってくれって、いくら何でも話がおかしすぎる。
そういうものじゃないだろう子作りってのは。
そりゃ俺もエルロースは嫌いじゃないが・・・。
それでもそれとこれとは話が別だ。
「シロウ様、奴隷の身でありながら無茶を言っているのはわかります。でも、私の数少ない友人であるエルロースを助けると思って力を貸してもらえませんでしょうか。もちろん結婚する必要はありません、彼女にもその気はありませんから。ですが、この先店を残すという意味でも彼女には跡取りが必要なんです。好きでもない男と見合いをして子供をもうけるぐらいなら、好意のあるシロウ様の子供のほうが彼女もうれしいはずです。」
「いやまぁ、言いたいことはわかるが・・・。」
「それに、シロウ様なら発情期のエルロースを知っていますから。」
「うぅ、面と向かって言われるのは恥ずかしいんだけど。」
「今更じゃない。」
顔を真っ赤にするエルロースと、真剣な顔で俺を見るミラ。
もう一度言う。
なんで俺はここにいるんだろうか。
奴隷とはいえミラは俺の嫁みたいなものだ。
その嫁に、友人を抱いて子供を作ってくれと言われている。
そんなことあっていいのか?
「でも、そうね。今後を考えたらそれがいいかもしれない。私は子供ができるし、結婚もしなくていい。もちろんシロウさんがそれを許してくれるならだけど。」
「許してくださいます、だってシロウ様ですから。」
「そのだってはなんなんだ?」
「困った人を放っておけないという意味です。それに、お好きですよね?」
セックスが好きかと聞かれて嫌いという男はあまりいないだろう。
好きか嫌いかで言えば大好きだ。
なんせ今の俺は若いからな。
「ちなみに俺が断った場合は?」
「いずれ行きずりの男と子供を作ることになるでしょう。跡取りは必須ですから。」
「まぁねぇ・・・。とはいえ私だって相手は選びたいわ。」
「それがシロウ様です。ちなみに、シロウ様のお茶にはアネット様お手製のアレを入れさせていただきました。そろそろ効いてくるはずです。」
「ミラ!お前!」
心なしか薬っぽい味のする香茶だなとおもったが、まさか薬を盛られるとは。
さっきまで何ともなかったのに意識した瞬間に下半身に火がともる。
ドクドクと脈拍が上がり、どんどんと大きくなっていくのが分かった。
「エルロース、今のシロウ様ならどんなあなたでも受け入れてくれます。遠慮しなくていいんですよ。」
「私が言うのもなんだけど、本当にいいの?」
「良いからここまでしたんです。シロウ様、お叱りは後日たっぷりとして頂いて結構ですので、今はエルロースを、私の友人をどうかお願いします。」
深々と俺に向かって頭を下げるミラ。
そして、さっきとちがい獲物を狙う肉食獣のような眼をしたエルロース。
おかしい、ウサギは草食のはずなのに。
まさかウサギに襲われる日が来るとはおもわなかった。
頭を上げ、そそくさと帰ろうとするミラの手をしっかりとつかむ。
予想もしなかった俺の動きに、ミラが驚いた顔をした。
「逃げられると思うなよ、薬を盛った責任は取ってもらうからな。」
「今日はエルロースだけを・・・。」
「私は二人一緒でも。ううん、二人一緒がいいなぁ。」
「だそうだ。」
毒を食らわば皿まで、じゃなかった死なば諸共か。
前門のエルロースに後門の俺。
さっきまで余裕があったミラの目に初めて焦りの色が見えた。
その日、俺はウサギに襲われた。
そして次の日。
とてもすがすがしい顔をしたエルロースが元気に店番をしていたと、疲労困憊のまま横になったベッドで聞かされるのだった。
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