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586.転売屋は待ち伏せされる
しおりを挟む良い物を仕入れホクホク顔で戻ってきた俺達を待ち構えていたのはナミル女史だった。
それはもう威風堂々と両手を腰に当てての仁王立ち。
風で髪の毛がバサバサとなびいているのを気にもせず、まっすぐに船上の俺を見上げてくる。
うーむ、何かしただろうか。
「一介の商人をわざわざ出迎えする必要はないぞ?」
「あら、別にいいじゃない誰がいつ出迎えたって。」
「それを否定する気はないが何か用事が無ければ出迎える必要はないよな。正直俺は疲れてるんだが・・・。」
「それで逃がすと思いかしら?」
「だよな。」
用事が無かったら出迎えるはずがない。
今までだって何度もここを利用してるが、彼女が出てくることはなかった。
疲れているという理由だけで逃がしてくれるような状況ではなさそうだ。
「最高の待遇でお出迎えしてあげるから一日頂戴。貴方だけいてくれるのなら他の方は帰ってもかまわないわよ。」
「お断りします。」
「当然です。」
ミラとアネットがずずいと俺の前に立ちはだかる。
いや、決闘とかそういうのじゃないからな?
いや、ある意味そうなのかもしれない。
それぐらいの顔をしている。
「もちろん何人でも大丈夫、ただし何人いても同じこと。それはご理解していて?」
「用があるのは俺だけで誰が何を言おうが興味はない、やれやれ面倒そうだなぁ。」
「いつもの事じゃない。」
「違いない。とはいえこっちにも準備ってもんがある、勝手に俺の時間を持っていくんだからそれぐらいの融通は利かせるよな?」
「仕方がないわね、二時間だけあげるわ。」
「短いな。」
「こっちも色々と忙しいのよ、時間がないの。」
「随分と切羽詰まってるじゃないか。」
いつも余裕ぶっている女豹だが今日は少し焦っている感じがする。
こういう時は相手のペースに乗せられないように気を付けないと。
まぁちょうどこっちも話したいことがあったし、ちょうどいいかもしれないな。
「貴方には関係ない・・・こともないか。ともかく二時間後にカーラさんと一緒にギルド協会の本部へ来て頂戴。」
「カーラも一緒なのか?」
「そのほうが色々と都合がいいのよ。貴方にとっても私にとってもね。」
「わかった、じゃあ二時間後に。」
返事も聞かずに女豹は踵を返して去って行った。
「いったい何なのよ。」
「わからんが随分と余裕がなさそうだ。」
「カーラ様もという部分に引っかかります、化粧品関係でしょうか。」
「融通を利かすってだけなら本人と話し合えばいい、そうじゃないという事はもっと大きなことなんだろう。」
「気になりますね。」
「まぁ、今話したって答えは出ないさ。ミラ、ガレイに頼んで荷物を保管しておいてもらえるか聞いておいてくれ。出来ればアインさんを通じて街に運んでもらいたいってな。」
「かしこまりました。」
「俺達はカーラの所に行くぞ。昨日話した内容も共有しておきたい。」
「では私も行きます、アインさんとは別に話したいこともあるので。」
「悪いな。」
「それではみなさん二時間後に。」
ミラとハーシェさんに荷物を任せて俺達はカーラの所へと向かう。
大人数でやってきた俺達に一瞬驚いた顔をしていたが、何かを察したのかすぐになかへと入れてくれた。
「悪いなアポなしで。」
「気にしないで、お礼を言うのはこっちの方だから。この前は代わりに交渉してくれてありがとう。それと、贈り物も。」
「贈り物?」
「サプリメントよ、即効性ではなく持続性や遅効性に対するアプローチなんてすっかり忘れていた私には最高の贈り物だったわ。」
「そういってもらえるとありがたい。」
「それで、今日はどんな贈り物を持ってきてくれたのかしら。」
「とりあえず中で話す、ここだとあれ何でな。」
ぞろぞろとカーラの研究所の中へと順番に入る。
ここは決められた人間しか入ることの出来ない非常に機密性の高い場所、本来はこうやって大人数ではいることなんてほとんどない。
とはいえ俺は共同研究者だし出資者でもあることに加え、アネットやキキはカーラの大切な研究仲間だからだ。
応接室へと案内され、少し遅れてカーラが人数分の香茶を持って戻ってきた。
「そういえばミラとハーシェさんがいないね。」
「ちょっと別件で動いて貰っている。先に言っておくが、この後ナミルさんから呼び出されてるから同行してくれ。」
「あら珍しい。」
「ただならぬ雰囲気だったが何か知ってるか?」
「さぁ、町長が久々に戻ってくることぐらいしか知らないわ。」
「それだ。」「それね。」
エリザと俺が同時に声を出す。
ナミル女史がほぼほぼ街のトップみたいな感じでいたが、実際はただのギルド協会職員。
そういえばここの町長にはあったことなかったなぁ。
「それ?」
「落ち着かなかった理由だよ。そういえば町長にはあったことなかった、なるほどそういうことか。」
「何か不味いことでもしてるの?」
「むしろしてるからあせってんだろ?いい事を聞かせてもらった。」
「ふーん、まぁいいけど。で、ここに来た理由は?」
「そうだった、まずはコレを見てくれ。」
考える事とはたくさんあるがマズは本題に入ろう。
俺はかばんから例の木箱と薬草を取り出し机の上に並べた。
「これは?」
「中には美容成分の含まれた水と、それを浸した紙が入っている。で、これを顔に当てることで美容成分を流す事無く肌に浸透させることが出来るそうだ。こっちの海藻がその成分を抽出した奴。一般的な海草らしく、漁師の嫁さんたちが代々使っているんだと。」
『レッドクラウド。近海に生息するありふれた海藻。ただ足などによく絡まるので素人殺しという別名も持つ。食用にはなるがあまり食べられることはない。最近の平均取引価格は銅貨10枚最安値銅貨3枚最高値銅貨15枚。最終取引日は3日前と記録されています。』
『ブラウンスタンプ。海の底に根を張り、まるで切り株のような見た目の海藻。生では食べず主に乾燥させたものを食べる。最近の平均取引価格は銅貨19枚。最安値銅貨14枚最高値銅貨27枚、最終取引日は3日前と記録されています。』
どちらも港で買い付けたどこにでもある海藻。
主に食用で取引されているようだが、数はあまり出ないようで化粧品用に奥様方が買い付ける程度だそうだ。
数は必要であれば簡単に仕入れることが出来るらしい。
効果としては代々言い伝えられてはいるものの、本当に効果があるか調べたものではないらしい。
だから簡単に教えてくれたというわけだ。
「この発想はなかったなぁ。」
「化粧水を飲むのではなく張る、この考え方はうちの化粧品にも使えると思う。加えてこの海藻が使えるなら・・・。」
「ごめん、それはもう調査済みなんだ。残念だけど化粧水には使えそうにない。」
「そうなのか?」
「正確には使えるんだけどかなりの量を必要とするんだ。それはもう船いっぱいに運んで貰って、商用に出来るのはわずか数本。流石に非効率だから扱わないことにしたんだよ。効果も既存品の方が上だしね。」
「そうか、調査済みか。」
「一応研究者だからね、漁師の民間療法についても調べてる。でもこのやり方は知らなかったよ。」
流石カーラ、その辺はもう調べ終わっていたようだ。
それもそうだよな化粧水を作るのに人生をささげているみたいな感じだし、俺みたいな商人にも簡単に教えるような製法なんて調べていないはずがない。
とはいえ知らなかったこともあるわけで、持ってきたのは無駄ではなかったようだ。
「使えるか?」
「試してみないとわからないけどいけると思う。成分を少し変えて紙に定着しやすくしたり滴りにくくしたりと工夫はいるだろうけど。」
「すぐにってわけにはいかないのか。」
「同じ化粧水でも使い方が変わると効き目が違う事もあるから。しかしサプリメントといいよくもまぁコレだけの使い方を考え付くものだね。」
「考えたのは俺じゃないけどな。だが一つ心配がある。」
「なにかな。」
「倍量、作れるのか?」
問題はそこにつきる。
化粧品は門外不出、情報流出には金貨1000枚の罰則が科せられる。
それだけに生産にはかなりの制約がかかっているし、簡単に増産できるようなものではない。
「うーん、材料の手配は何とかなると思うけどやっぱり働き手がね。」
「だよなぁ。今でもかなりいっぱいいっぱいのはずだ、単純に増やすって言うわけにはいかないよな。」
「そこなんだよ。単純に工場を大きくしろっていう話じゃない、口の堅い人を継続して雇うお金と労力、いっそのこと製法を公開してしまうという手もあるけどあと三年は隠し通したい。」
「三年か。」
「その三年で化粧品に変わる次の商品を研究開発してみせる。それ以降は製造方法を販売して儲ければいいよ。」
「そうだよな、次がいるよな。」
「そうそう。そしてその資金を集める為のコレ、ってわけだよ。」
そう言いながらカーラがパックを手に取りおもむろに自分の顔に乗せた。
「うわ、冷たい!」
「そりゃそうだろう。」
「でもコレは気持ちがいいね、夏にはぴったりじゃないかなぁ。」
「冷感パットとあわせるか?」
「うん、それも面白いかもしれないね。」
パック姿はなかなか面白いものがあるが、本人はいたって真剣だ。
付けたり剥がしたり、早速新しい研究材料に夢中になってしまった。
「売れると仮定して、必要数は今の倍量。売り出すのはいつになる?」
「成分研究に六か月は欲しい。だから売り出すのは乾燥がひどくなる次の冬かな。」
「それまでに倍増計画を立てる必要があるわけか。」
「そうだねぇ・・・。」
「問題は場所と人員、材料はどこでも手に入るもんな。」
「いっそのこと全員奴隷で賄うって手もあるけど、お金ある?」
「あるわけないだろ。」
たった五人買うだけでもヒーヒー言ってるのに、それを何十人とか勘弁してもらいたい。
「あはは、だよね。」
「はぁ、そこが一番の問題か。場所はともかく人員がなぁ。」
「場所だって問題だよ、君の街ならともかくここはあの人の街だ。あ、今は代理だね。」
「おっと、向こうに行く用事もあるんだ。あまり悠長にしてられない。」
「それじゃあ詰められるところまで詰めてしまおうか。」
キキやアネットの意見を聞きながら増産計画と、化粧品の改良についての議論が交わされる。
時間はあっという間に過ぎ目的の時間。
ギルド協会についた俺達を待ち構えていたのは予想もしなかった言葉だった。
「化粧品の製造なんだけど、増員が見込めないのであればこの街から出て行ってもらいたいの。それも早急に。」
どうしてこうなった。
有無を言わせない女豹の余裕の無さが、事の重大さを示すのだった。
それはもう威風堂々と両手を腰に当てての仁王立ち。
風で髪の毛がバサバサとなびいているのを気にもせず、まっすぐに船上の俺を見上げてくる。
うーむ、何かしただろうか。
「一介の商人をわざわざ出迎えする必要はないぞ?」
「あら、別にいいじゃない誰がいつ出迎えたって。」
「それを否定する気はないが何か用事が無ければ出迎える必要はないよな。正直俺は疲れてるんだが・・・。」
「それで逃がすと思いかしら?」
「だよな。」
用事が無かったら出迎えるはずがない。
今までだって何度もここを利用してるが、彼女が出てくることはなかった。
疲れているという理由だけで逃がしてくれるような状況ではなさそうだ。
「最高の待遇でお出迎えしてあげるから一日頂戴。貴方だけいてくれるのなら他の方は帰ってもかまわないわよ。」
「お断りします。」
「当然です。」
ミラとアネットがずずいと俺の前に立ちはだかる。
いや、決闘とかそういうのじゃないからな?
いや、ある意味そうなのかもしれない。
それぐらいの顔をしている。
「もちろん何人でも大丈夫、ただし何人いても同じこと。それはご理解していて?」
「用があるのは俺だけで誰が何を言おうが興味はない、やれやれ面倒そうだなぁ。」
「いつもの事じゃない。」
「違いない。とはいえこっちにも準備ってもんがある、勝手に俺の時間を持っていくんだからそれぐらいの融通は利かせるよな?」
「仕方がないわね、二時間だけあげるわ。」
「短いな。」
「こっちも色々と忙しいのよ、時間がないの。」
「随分と切羽詰まってるじゃないか。」
いつも余裕ぶっている女豹だが今日は少し焦っている感じがする。
こういう時は相手のペースに乗せられないように気を付けないと。
まぁちょうどこっちも話したいことがあったし、ちょうどいいかもしれないな。
「貴方には関係ない・・・こともないか。ともかく二時間後にカーラさんと一緒にギルド協会の本部へ来て頂戴。」
「カーラも一緒なのか?」
「そのほうが色々と都合がいいのよ。貴方にとっても私にとってもね。」
「わかった、じゃあ二時間後に。」
返事も聞かずに女豹は踵を返して去って行った。
「いったい何なのよ。」
「わからんが随分と余裕がなさそうだ。」
「カーラ様もという部分に引っかかります、化粧品関係でしょうか。」
「融通を利かすってだけなら本人と話し合えばいい、そうじゃないという事はもっと大きなことなんだろう。」
「気になりますね。」
「まぁ、今話したって答えは出ないさ。ミラ、ガレイに頼んで荷物を保管しておいてもらえるか聞いておいてくれ。出来ればアインさんを通じて街に運んでもらいたいってな。」
「かしこまりました。」
「俺達はカーラの所に行くぞ。昨日話した内容も共有しておきたい。」
「では私も行きます、アインさんとは別に話したいこともあるので。」
「悪いな。」
「それではみなさん二時間後に。」
ミラとハーシェさんに荷物を任せて俺達はカーラの所へと向かう。
大人数でやってきた俺達に一瞬驚いた顔をしていたが、何かを察したのかすぐになかへと入れてくれた。
「悪いなアポなしで。」
「気にしないで、お礼を言うのはこっちの方だから。この前は代わりに交渉してくれてありがとう。それと、贈り物も。」
「贈り物?」
「サプリメントよ、即効性ではなく持続性や遅効性に対するアプローチなんてすっかり忘れていた私には最高の贈り物だったわ。」
「そういってもらえるとありがたい。」
「それで、今日はどんな贈り物を持ってきてくれたのかしら。」
「とりあえず中で話す、ここだとあれ何でな。」
ぞろぞろとカーラの研究所の中へと順番に入る。
ここは決められた人間しか入ることの出来ない非常に機密性の高い場所、本来はこうやって大人数ではいることなんてほとんどない。
とはいえ俺は共同研究者だし出資者でもあることに加え、アネットやキキはカーラの大切な研究仲間だからだ。
応接室へと案内され、少し遅れてカーラが人数分の香茶を持って戻ってきた。
「そういえばミラとハーシェさんがいないね。」
「ちょっと別件で動いて貰っている。先に言っておくが、この後ナミルさんから呼び出されてるから同行してくれ。」
「あら珍しい。」
「ただならぬ雰囲気だったが何か知ってるか?」
「さぁ、町長が久々に戻ってくることぐらいしか知らないわ。」
「それだ。」「それね。」
エリザと俺が同時に声を出す。
ナミル女史がほぼほぼ街のトップみたいな感じでいたが、実際はただのギルド協会職員。
そういえばここの町長にはあったことなかったなぁ。
「それ?」
「落ち着かなかった理由だよ。そういえば町長にはあったことなかった、なるほどそういうことか。」
「何か不味いことでもしてるの?」
「むしろしてるからあせってんだろ?いい事を聞かせてもらった。」
「ふーん、まぁいいけど。で、ここに来た理由は?」
「そうだった、まずはコレを見てくれ。」
考える事とはたくさんあるがマズは本題に入ろう。
俺はかばんから例の木箱と薬草を取り出し机の上に並べた。
「これは?」
「中には美容成分の含まれた水と、それを浸した紙が入っている。で、これを顔に当てることで美容成分を流す事無く肌に浸透させることが出来るそうだ。こっちの海藻がその成分を抽出した奴。一般的な海草らしく、漁師の嫁さんたちが代々使っているんだと。」
『レッドクラウド。近海に生息するありふれた海藻。ただ足などによく絡まるので素人殺しという別名も持つ。食用にはなるがあまり食べられることはない。最近の平均取引価格は銅貨10枚最安値銅貨3枚最高値銅貨15枚。最終取引日は3日前と記録されています。』
『ブラウンスタンプ。海の底に根を張り、まるで切り株のような見た目の海藻。生では食べず主に乾燥させたものを食べる。最近の平均取引価格は銅貨19枚。最安値銅貨14枚最高値銅貨27枚、最終取引日は3日前と記録されています。』
どちらも港で買い付けたどこにでもある海藻。
主に食用で取引されているようだが、数はあまり出ないようで化粧品用に奥様方が買い付ける程度だそうだ。
数は必要であれば簡単に仕入れることが出来るらしい。
効果としては代々言い伝えられてはいるものの、本当に効果があるか調べたものではないらしい。
だから簡単に教えてくれたというわけだ。
「この発想はなかったなぁ。」
「化粧水を飲むのではなく張る、この考え方はうちの化粧品にも使えると思う。加えてこの海藻が使えるなら・・・。」
「ごめん、それはもう調査済みなんだ。残念だけど化粧水には使えそうにない。」
「そうなのか?」
「正確には使えるんだけどかなりの量を必要とするんだ。それはもう船いっぱいに運んで貰って、商用に出来るのはわずか数本。流石に非効率だから扱わないことにしたんだよ。効果も既存品の方が上だしね。」
「そうか、調査済みか。」
「一応研究者だからね、漁師の民間療法についても調べてる。でもこのやり方は知らなかったよ。」
流石カーラ、その辺はもう調べ終わっていたようだ。
それもそうだよな化粧水を作るのに人生をささげているみたいな感じだし、俺みたいな商人にも簡単に教えるような製法なんて調べていないはずがない。
とはいえ知らなかったこともあるわけで、持ってきたのは無駄ではなかったようだ。
「使えるか?」
「試してみないとわからないけどいけると思う。成分を少し変えて紙に定着しやすくしたり滴りにくくしたりと工夫はいるだろうけど。」
「すぐにってわけにはいかないのか。」
「同じ化粧水でも使い方が変わると効き目が違う事もあるから。しかしサプリメントといいよくもまぁコレだけの使い方を考え付くものだね。」
「考えたのは俺じゃないけどな。だが一つ心配がある。」
「なにかな。」
「倍量、作れるのか?」
問題はそこにつきる。
化粧品は門外不出、情報流出には金貨1000枚の罰則が科せられる。
それだけに生産にはかなりの制約がかかっているし、簡単に増産できるようなものではない。
「うーん、材料の手配は何とかなると思うけどやっぱり働き手がね。」
「だよなぁ。今でもかなりいっぱいいっぱいのはずだ、単純に増やすって言うわけにはいかないよな。」
「そこなんだよ。単純に工場を大きくしろっていう話じゃない、口の堅い人を継続して雇うお金と労力、いっそのこと製法を公開してしまうという手もあるけどあと三年は隠し通したい。」
「三年か。」
「その三年で化粧品に変わる次の商品を研究開発してみせる。それ以降は製造方法を販売して儲ければいいよ。」
「そうだよな、次がいるよな。」
「そうそう。そしてその資金を集める為のコレ、ってわけだよ。」
そう言いながらカーラがパックを手に取りおもむろに自分の顔に乗せた。
「うわ、冷たい!」
「そりゃそうだろう。」
「でもコレは気持ちがいいね、夏にはぴったりじゃないかなぁ。」
「冷感パットとあわせるか?」
「うん、それも面白いかもしれないね。」
パック姿はなかなか面白いものがあるが、本人はいたって真剣だ。
付けたり剥がしたり、早速新しい研究材料に夢中になってしまった。
「売れると仮定して、必要数は今の倍量。売り出すのはいつになる?」
「成分研究に六か月は欲しい。だから売り出すのは乾燥がひどくなる次の冬かな。」
「それまでに倍増計画を立てる必要があるわけか。」
「そうだねぇ・・・。」
「問題は場所と人員、材料はどこでも手に入るもんな。」
「いっそのこと全員奴隷で賄うって手もあるけど、お金ある?」
「あるわけないだろ。」
たった五人買うだけでもヒーヒー言ってるのに、それを何十人とか勘弁してもらいたい。
「あはは、だよね。」
「はぁ、そこが一番の問題か。場所はともかく人員がなぁ。」
「場所だって問題だよ、君の街ならともかくここはあの人の街だ。あ、今は代理だね。」
「おっと、向こうに行く用事もあるんだ。あまり悠長にしてられない。」
「それじゃあ詰められるところまで詰めてしまおうか。」
キキやアネットの意見を聞きながら増産計画と、化粧品の改良についての議論が交わされる。
時間はあっという間に過ぎ目的の時間。
ギルド協会についた俺達を待ち構えていたのは予想もしなかった言葉だった。
「化粧品の製造なんだけど、増員が見込めないのであればこの街から出て行ってもらいたいの。それも早急に。」
どうしてこうなった。
有無を言わせない女豹の余裕の無さが、事の重大さを示すのだった。
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