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585.転売屋は海藻を買い付ける
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「よし、予定通りについたな。」
「では各自必要素材を探してきてください、昼前にお店の前に集合しましょう。」
「「「は~い。」」」
日の出と共に港町に到着。
タイムリミットは今日の夕方、それまでに全ての用事を済ませなければならない。
一番は資材の買い付け、それと接着剤。
次いで町で売れそうな素材とタコを探し出す。
後は来たついでに日用品やモーリスさんの頼まれごとを片付けるぐらいだ。
接着剤はキキとエリザ、資材と素材の買い付けはミラとアネット、そしてタコと日用品関係をハーシェさんと俺に分かれて各自分担して用事を済ませる。
今回は安定期に入ったハーシェさんも同行している。
「体調は大丈夫か?」
「馬車のように揺れないのはいいですね、とても快適でした。」
「それは何よりだ。」
「では早速港へ向かいましょう、ゾイルさんにもお会いしたいですし。」
「向こうは会いたくないかもな。」
「どうしてです?」
「俺以上のやり手が来たんだから逃げたくもなるだろう。」
妊娠する前までは港町での買いつけは全てハーシェさんの担当だった。
いいものを安く買い付けてくる手腕は俺以上。
後ろに俺がいるとわかっているので、ゾイルも変な物を売りつけられないんだよな。
二人で腕を組みながら港へと向かう。
まだ朝早い時間もあり、取れたての魚で港は大賑わいだった。
「おー結構あるなぁ。」
「見たことの無い魚も揚がっていますね、美味しいんでしょうか。」
「そういうのは本職に聞くべきだろう。わるい、ちょっと聞いていいか?」
目の前には日本刀のような鮮やかな銀色をした魚が何匹も並べられている。
背の部分は非常に細く、本当に刃物のようだ。
「なんだ?」
「これはどんな魚なんだ?」
「ソードフィッシュだ、なんだこいつを知らないのか?」
「魔物なのか?」
「分類上はそうだが食えれば皆同じだろ?」
ま、それもそうだ。
魔物だろうがそうでなかろうが食って美味ければ問題ない。
その考え方には賛同する。
『ソードフィッシュ。剣のような鋭く細い体をしならせて相手を切りつける魔物。海の中で出会った場合は速やかに水面より上に逃げることを推奨される好戦的な魔物でもある。最近の平均取引価格は銅貨60枚、最安値銅貨45枚最高値銅貨88枚。最終取引日は二日前と記録されています。』
「つまり美味いと。食べ方は?」
「刺身でもいいが俺は西方の醤油を使って煮物にする。」
「通だねぇ。」
「知ってるのか?」
「少し甘くしてジンジンジャーと一緒に煮詰めると美味そうだ。だが俺なら竜田揚げにするな。」
「揚げるのか?」
「あぁ、ヒレとエラを取れば無害そうだし内臓を出した後ぶつ切りにしてからっと上げて、最後にレレモンをひとまわし、美味いと思うぞ。」
見た感じ太刀魚みたいだし、同じような感じで食べれるだろう。
でも太刀魚って秋の魚なんだよなぁ。
その辺が違うんだろう。
「魚をよく知ってるようだ、アンタになら安心して売れる。」
「いくらだ?」
「一尾銅貨60枚、いや50枚でもいいぞ。」
「なら60で全部くれ。その代わり他に美味い奴色々と教えてくれないか?一応知っているつもりだが、本職に聞くのが一番だ。」
「いいぜ、あんた名前は?」
「シロウだ。」
「シロウ、そうかアンタがゾイルの言っていた面白い商人か。」
「あいつそんな事言いふらしてるのかよ。」
まったく後で文句を言ってやらないと。
とはいえ、俺の事を触れ回ってくれたおかげでいい感じの魚を大量に仕入れることが出来た。
戻ったら魚祭りだな。
マスターに自慢してやろう。
ひとまず目的のタコも含めて買い付けを終わらせ、約束の店に集合した。
「それじゃあ報告を聞かせてもらおうか。」
「資材の買い付けですが無事に手配致しました。ちょうど新しい資材が入荷したばかりで、急ではありましたが前回と同じ金額で卸していただいております。また、調べておいたキングクラーケンの軟骨ですが、予定よりも高値だったため見合わせています。なんでも亜種が混ざっているらしく、数が手配できないとの事でした。」
「代わりに、パールムッシェルが大量にありましたので仕入れています。軟膏にも使えますし、もしかすると当たりが入っているかもしれません。」
「急ぎなのによく同額で手配できたな。」
「凄かったんですよ!ミラ様の堂々たる交渉、ご主人様に見せたかったぐらいです。」
「同じ業者が来ていましたので丁寧にお話しして譲っていただきました。」
丁寧にっていう部分がポイントだな。
どのぐらい丁寧かは直接見ていたアネットしかわからないが、かなりの交渉だったんだろうという事は想像がつく。
ハーシェさんに次ぐ交渉上手はミラだな。
「私達だって接着剤を無事に確保してきたんだからね。」
「お、あったか。」
「はい。これまでの物と成分を変えることで石材との密着性が増しているそうで、塩害にも強いとの事でしたが我々にはあまり関係ありませんね。必要数に加えて5樽追加で仕入れています、もちろん予算内です。」
「どう?すごいでしょ。」
「あぁ、よく頑張ったなキキ。」
「ありがとうございます。」
「え、なんで?私は!?」
「護衛ご苦労さん。」
「そこぉ!?」
いや、お前が一緒に行く理由なんてそこしかないし。
妹を護衛しつつ交渉時に相手に睨みをきかせる、エリザにできるのはそれぐらいだ。
もちろん冒険者相手なら別だが向こうは本職だからなぁ、言いくるめられるのは仕方がない。
「そっちは?」
「もちろん予定通り買い付けてきたぞ。果樹園用の塩も手配したしモーリスさんに言われた分も買った。それと、新しい魚も。」
「え、新しいのですか?」
「あぁ、どれも美味そうだ。帰ったら魚祭りだぞ。」
「やった!お魚!」
「それとこういうのも仕入れてみた。」
テーブルの中央に掌を広げたぐらいの木箱を置く。
高さは10cmもないだろう。
全員の目線が箱に注がれている中、木箱の中央に入れられた切れ込みを左右に開くようにしてゆっくり開けていく。
「何これ。」
「紙でしょうか。」
「でもどこかしっとりしていますね。」
「しっとりどころか下はかなり濡れてるような。この匂い、海藻?」
「さすがキキ、よくわかったな。」
「え、じゃあ海藻なのコレ。」
「正確には海藻のエキスをしみ込ませたパックだ。」
「「「「パック?」」」」
あー、そうかこの世界にはそういう名前で存在していないのか。
でもなぁ、パック以外になんて言えばいいんだ?
「簡単に言えば張る美容液だ。」
「え、美容液を張るの?」
「あぁ、塗るとどうしても滴り落ちるだろ?でも紙にしみこませて張れば下に落ちずに肌に吸収できる。ほら、ここに穴が開いてるから呼吸は出来るんだ。」
「でも、これを張るのはちょっと勇気が・・・。」
「見た目は諦めてくれ、外で使わずに寝る前に自室でって感じになるだろう。まさかこんなのが売ってるとは思わなくてな、気づいたら買ってた。」
パックを一枚手に取り微妙そうな顔でハーシェさんがそれを見つめる。
俺だって最初は驚いたが、売っていたおばちゃんに話を聞くと漁師の中では結構一般的な美容方法らしい。
肌に良い海藻からエキスを抽出、それを水に溶かして同じく海藻で作った薄い紙のような物にしみ込ませる。
箱に入れているのは乾燥しない為で、タダの木箱に見えるが中は撥水性の高い素材が張り合わせてあった。
各家庭が代々使い続けていくのだとか。
他にもクリームとか色々あったのだが、この辺はまずカーラに見てもらってからにするつもりだ。
もちろん海藻そのものも買い付けてある。
「つまりシロウの所ではありふれた物なのね?」
「あぁ、色々出てたぞ。これは白いが絵が描いてあるのもあった。それでも見た目はあれだけどな。」
「そうね、貼り付けるわけだし好きな人にも見られたくないわ。」
「同感です。」
「効果があるのなら今の化粧品に流用するつもりではいるんだが、ぶっちゃけどう思う?」
「どう思うって何が?」
「これを作れるのか、そして作るのであればそれが我々で可能かという事ですね。」
「さすがミラだな、つまりはそういう事だ。俺の勘では売れる、だがそれを作る場所も人も何もかも不足しているのが現状だ。婦人会は手一杯、冒険者だってダンジョン産の素材で代用できるようになればそっちに手を取られるだろう。今は皆有難がってくれているが、仕事が増えれば増えるほど自由が無くなる。本当にこのままやっていいと思うか?」
最近よく思っていることがこれだ。
新しいことを始めて、それが成功するのはうれしい。
純粋に儲けが増えるわけだし、街のみんなにもそれを還元することが出来る。
だが必要以上の仕事は自由を奪う。
まるで元の世界の様に一定の仕事に縛られる生活をこの世界でやる必要があるのだろうか。
十分儲けているんだから、この辺でもうやめにして悠々自適な余生を過ごすべきなんじゃないだろうか。
俺の金儲けが誰かを不幸にしているんじゃないだろうか。
そんな事を考えてしまう。
今までは買取さえしていればよかった。
それで十分満足だったし、それ以上は望まなかった。
だがあれやこれやと手を広げたせいで、自分だけじゃなく周りの首を絞めているんじゃないか。
そんな不安を感じるようになってしまった。
俺はただ金儲けができればよかったんだが、世の中そんな機械的な生き方は出来ないらしい。
「やれるならやったらしいし、無理ならやめるでいいんじゃないの?」
「そういうわけにはいかないんですよ。途中でやめればそれまでの投資が全て無駄になりますから。それなりの剣や弓を買ったのにすぐ辞めてしまうのは勿体なくありませんか?」
「経験は無駄にならないけど、言いたいことはわかるわ。」
「それに製造方法の流出にもつながるとかな。言わないでくれといっても、人の口に蓋は出来ないから。」
「そっかぁ、秘術を好き勝手に教えられないのと同じね。」
投資を捨てるのは正直どうでもいい。
でも、あれやこれやと手を出して迷惑をかけるのが心配だ。
金で解決できることはたくさんあるが、金で解決できないものも世の中にはたくさんある。
特に精神的な問題は金で解決できないことの方が多いんだよなぁ
「シロウ様はどうされたいんですか?」
「やるからには儲ける、それは変わらない。これは売れる、それこそ化粧品と肩を並べるぐらいに。」
「ならやりましょう。人が足りないのであればあるところから用立てればいいだけの事、要はやり方次第です。」
「あとの事なんて心配しなくていいのよ、何とかなるわ。いいえ、私達が何とかしてあげる。ね?」
「エリザ様の言う通りです。大丈夫ですよみんな一緒に考えますから。」
「帰ったらマリー様が目を丸くされますね。」
俺の不安を吹き飛ばすように女達が笑いあう。
まったく、すごいなぁうちの女たちは。
その笑顔につられるように俺も笑顔になってしまう。
そうかなんとかなるか。
そういわれるとなんだかそんな風に思えてしまうのだから不思議なものだ。
「では各自必要素材を探してきてください、昼前にお店の前に集合しましょう。」
「「「は~い。」」」
日の出と共に港町に到着。
タイムリミットは今日の夕方、それまでに全ての用事を済ませなければならない。
一番は資材の買い付け、それと接着剤。
次いで町で売れそうな素材とタコを探し出す。
後は来たついでに日用品やモーリスさんの頼まれごとを片付けるぐらいだ。
接着剤はキキとエリザ、資材と素材の買い付けはミラとアネット、そしてタコと日用品関係をハーシェさんと俺に分かれて各自分担して用事を済ませる。
今回は安定期に入ったハーシェさんも同行している。
「体調は大丈夫か?」
「馬車のように揺れないのはいいですね、とても快適でした。」
「それは何よりだ。」
「では早速港へ向かいましょう、ゾイルさんにもお会いしたいですし。」
「向こうは会いたくないかもな。」
「どうしてです?」
「俺以上のやり手が来たんだから逃げたくもなるだろう。」
妊娠する前までは港町での買いつけは全てハーシェさんの担当だった。
いいものを安く買い付けてくる手腕は俺以上。
後ろに俺がいるとわかっているので、ゾイルも変な物を売りつけられないんだよな。
二人で腕を組みながら港へと向かう。
まだ朝早い時間もあり、取れたての魚で港は大賑わいだった。
「おー結構あるなぁ。」
「見たことの無い魚も揚がっていますね、美味しいんでしょうか。」
「そういうのは本職に聞くべきだろう。わるい、ちょっと聞いていいか?」
目の前には日本刀のような鮮やかな銀色をした魚が何匹も並べられている。
背の部分は非常に細く、本当に刃物のようだ。
「なんだ?」
「これはどんな魚なんだ?」
「ソードフィッシュだ、なんだこいつを知らないのか?」
「魔物なのか?」
「分類上はそうだが食えれば皆同じだろ?」
ま、それもそうだ。
魔物だろうがそうでなかろうが食って美味ければ問題ない。
その考え方には賛同する。
『ソードフィッシュ。剣のような鋭く細い体をしならせて相手を切りつける魔物。海の中で出会った場合は速やかに水面より上に逃げることを推奨される好戦的な魔物でもある。最近の平均取引価格は銅貨60枚、最安値銅貨45枚最高値銅貨88枚。最終取引日は二日前と記録されています。』
「つまり美味いと。食べ方は?」
「刺身でもいいが俺は西方の醤油を使って煮物にする。」
「通だねぇ。」
「知ってるのか?」
「少し甘くしてジンジンジャーと一緒に煮詰めると美味そうだ。だが俺なら竜田揚げにするな。」
「揚げるのか?」
「あぁ、ヒレとエラを取れば無害そうだし内臓を出した後ぶつ切りにしてからっと上げて、最後にレレモンをひとまわし、美味いと思うぞ。」
見た感じ太刀魚みたいだし、同じような感じで食べれるだろう。
でも太刀魚って秋の魚なんだよなぁ。
その辺が違うんだろう。
「魚をよく知ってるようだ、アンタになら安心して売れる。」
「いくらだ?」
「一尾銅貨60枚、いや50枚でもいいぞ。」
「なら60で全部くれ。その代わり他に美味い奴色々と教えてくれないか?一応知っているつもりだが、本職に聞くのが一番だ。」
「いいぜ、あんた名前は?」
「シロウだ。」
「シロウ、そうかアンタがゾイルの言っていた面白い商人か。」
「あいつそんな事言いふらしてるのかよ。」
まったく後で文句を言ってやらないと。
とはいえ、俺の事を触れ回ってくれたおかげでいい感じの魚を大量に仕入れることが出来た。
戻ったら魚祭りだな。
マスターに自慢してやろう。
ひとまず目的のタコも含めて買い付けを終わらせ、約束の店に集合した。
「それじゃあ報告を聞かせてもらおうか。」
「資材の買い付けですが無事に手配致しました。ちょうど新しい資材が入荷したばかりで、急ではありましたが前回と同じ金額で卸していただいております。また、調べておいたキングクラーケンの軟骨ですが、予定よりも高値だったため見合わせています。なんでも亜種が混ざっているらしく、数が手配できないとの事でした。」
「代わりに、パールムッシェルが大量にありましたので仕入れています。軟膏にも使えますし、もしかすると当たりが入っているかもしれません。」
「急ぎなのによく同額で手配できたな。」
「凄かったんですよ!ミラ様の堂々たる交渉、ご主人様に見せたかったぐらいです。」
「同じ業者が来ていましたので丁寧にお話しして譲っていただきました。」
丁寧にっていう部分がポイントだな。
どのぐらい丁寧かは直接見ていたアネットしかわからないが、かなりの交渉だったんだろうという事は想像がつく。
ハーシェさんに次ぐ交渉上手はミラだな。
「私達だって接着剤を無事に確保してきたんだからね。」
「お、あったか。」
「はい。これまでの物と成分を変えることで石材との密着性が増しているそうで、塩害にも強いとの事でしたが我々にはあまり関係ありませんね。必要数に加えて5樽追加で仕入れています、もちろん予算内です。」
「どう?すごいでしょ。」
「あぁ、よく頑張ったなキキ。」
「ありがとうございます。」
「え、なんで?私は!?」
「護衛ご苦労さん。」
「そこぉ!?」
いや、お前が一緒に行く理由なんてそこしかないし。
妹を護衛しつつ交渉時に相手に睨みをきかせる、エリザにできるのはそれぐらいだ。
もちろん冒険者相手なら別だが向こうは本職だからなぁ、言いくるめられるのは仕方がない。
「そっちは?」
「もちろん予定通り買い付けてきたぞ。果樹園用の塩も手配したしモーリスさんに言われた分も買った。それと、新しい魚も。」
「え、新しいのですか?」
「あぁ、どれも美味そうだ。帰ったら魚祭りだぞ。」
「やった!お魚!」
「それとこういうのも仕入れてみた。」
テーブルの中央に掌を広げたぐらいの木箱を置く。
高さは10cmもないだろう。
全員の目線が箱に注がれている中、木箱の中央に入れられた切れ込みを左右に開くようにしてゆっくり開けていく。
「何これ。」
「紙でしょうか。」
「でもどこかしっとりしていますね。」
「しっとりどころか下はかなり濡れてるような。この匂い、海藻?」
「さすがキキ、よくわかったな。」
「え、じゃあ海藻なのコレ。」
「正確には海藻のエキスをしみ込ませたパックだ。」
「「「「パック?」」」」
あー、そうかこの世界にはそういう名前で存在していないのか。
でもなぁ、パック以外になんて言えばいいんだ?
「簡単に言えば張る美容液だ。」
「え、美容液を張るの?」
「あぁ、塗るとどうしても滴り落ちるだろ?でも紙にしみこませて張れば下に落ちずに肌に吸収できる。ほら、ここに穴が開いてるから呼吸は出来るんだ。」
「でも、これを張るのはちょっと勇気が・・・。」
「見た目は諦めてくれ、外で使わずに寝る前に自室でって感じになるだろう。まさかこんなのが売ってるとは思わなくてな、気づいたら買ってた。」
パックを一枚手に取り微妙そうな顔でハーシェさんがそれを見つめる。
俺だって最初は驚いたが、売っていたおばちゃんに話を聞くと漁師の中では結構一般的な美容方法らしい。
肌に良い海藻からエキスを抽出、それを水に溶かして同じく海藻で作った薄い紙のような物にしみ込ませる。
箱に入れているのは乾燥しない為で、タダの木箱に見えるが中は撥水性の高い素材が張り合わせてあった。
各家庭が代々使い続けていくのだとか。
他にもクリームとか色々あったのだが、この辺はまずカーラに見てもらってからにするつもりだ。
もちろん海藻そのものも買い付けてある。
「つまりシロウの所ではありふれた物なのね?」
「あぁ、色々出てたぞ。これは白いが絵が描いてあるのもあった。それでも見た目はあれだけどな。」
「そうね、貼り付けるわけだし好きな人にも見られたくないわ。」
「同感です。」
「効果があるのなら今の化粧品に流用するつもりではいるんだが、ぶっちゃけどう思う?」
「どう思うって何が?」
「これを作れるのか、そして作るのであればそれが我々で可能かという事ですね。」
「さすがミラだな、つまりはそういう事だ。俺の勘では売れる、だがそれを作る場所も人も何もかも不足しているのが現状だ。婦人会は手一杯、冒険者だってダンジョン産の素材で代用できるようになればそっちに手を取られるだろう。今は皆有難がってくれているが、仕事が増えれば増えるほど自由が無くなる。本当にこのままやっていいと思うか?」
最近よく思っていることがこれだ。
新しいことを始めて、それが成功するのはうれしい。
純粋に儲けが増えるわけだし、街のみんなにもそれを還元することが出来る。
だが必要以上の仕事は自由を奪う。
まるで元の世界の様に一定の仕事に縛られる生活をこの世界でやる必要があるのだろうか。
十分儲けているんだから、この辺でもうやめにして悠々自適な余生を過ごすべきなんじゃないだろうか。
俺の金儲けが誰かを不幸にしているんじゃないだろうか。
そんな事を考えてしまう。
今までは買取さえしていればよかった。
それで十分満足だったし、それ以上は望まなかった。
だがあれやこれやと手を広げたせいで、自分だけじゃなく周りの首を絞めているんじゃないか。
そんな不安を感じるようになってしまった。
俺はただ金儲けができればよかったんだが、世の中そんな機械的な生き方は出来ないらしい。
「やれるならやったらしいし、無理ならやめるでいいんじゃないの?」
「そういうわけにはいかないんですよ。途中でやめればそれまでの投資が全て無駄になりますから。それなりの剣や弓を買ったのにすぐ辞めてしまうのは勿体なくありませんか?」
「経験は無駄にならないけど、言いたいことはわかるわ。」
「それに製造方法の流出にもつながるとかな。言わないでくれといっても、人の口に蓋は出来ないから。」
「そっかぁ、秘術を好き勝手に教えられないのと同じね。」
投資を捨てるのは正直どうでもいい。
でも、あれやこれやと手を出して迷惑をかけるのが心配だ。
金で解決できることはたくさんあるが、金で解決できないものも世の中にはたくさんある。
特に精神的な問題は金で解決できないことの方が多いんだよなぁ
「シロウ様はどうされたいんですか?」
「やるからには儲ける、それは変わらない。これは売れる、それこそ化粧品と肩を並べるぐらいに。」
「ならやりましょう。人が足りないのであればあるところから用立てればいいだけの事、要はやり方次第です。」
「あとの事なんて心配しなくていいのよ、何とかなるわ。いいえ、私達が何とかしてあげる。ね?」
「エリザ様の言う通りです。大丈夫ですよみんな一緒に考えますから。」
「帰ったらマリー様が目を丸くされますね。」
俺の不安を吹き飛ばすように女達が笑いあう。
まったく、すごいなぁうちの女たちは。
その笑顔につられるように俺も笑顔になってしまう。
そうかなんとかなるか。
そういわれるとなんだかそんな風に思えてしまうのだから不思議なものだ。
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