上 下
573 / 1,027

571.転売屋は仕事先を斡旋する

しおりを挟む
「・・・という感じで、近隣の町でも同様の被害が出ていたようです。狙われたのは貴族や商人で、特に現金の出入りが激しい方々が狙われていたのだとか。手口としては、自分と同じ亜人に声をかけて油断させ、言葉巧みに標的の家に忍び込ませて内情を確認。戻ればよし、戻らなくて捕まっても被害は出ませんから難しいと判断した時点で街を出ていたそうです。亜人同士の仲間意識を巧妙に使い、結果無関係の人が被害者になる。最低な手口です。」

「なるほどなぁ。声をかけられ潜入した時点で犯罪者だし、無事に戻ってきたら盗みを手伝わせて他所に逃げられないようにするわけか。賢いやり方だ。」

「今回捕まえなければ第二第三のトトリ様が産まれていた事でしょう。首謀者は王都に連れて行き厳罰に処すこととなりました。」

「他の仲間は?」

「その気がなかったとはいえ、盗みを働いた時点で犯罪です。とはいえ被害者でもあることを考え、犯罪奴隷として複数年の労役となるかと。」

むしろそれで済んでよかったと思うべきか。

最初は無関係でもズルズルと犯行を重ねれば罪はドンドンと重くなる。

重罪になれば一生労役につかされることになるわけで、そうはならずに複数年で労役が終わるのも情状酌量の余地ありと判断されたからだろう。

「屋敷で捕まった奴はともかく、逃げた奴は労役につけるのか?」

「幸い腱は切れておりませんでしたし、ポーションで治りますから。」

「まだ治療していないのか?」

「痛みも必要な刑罰ですので。」

ポーション一つで痛みから解放されるというのに、それすらも与えられないのは人権侵害だ!とか騒がれたりしないのだろうか。

屋敷の中で捕縛された連中はせいぜい笑いすぎによる筋肉痛程度だが、外に逃げた奴はアニエスさんの命令を受けたルフとレイがいい感じに足を噛みまくったらしい。

甘噛みではない本気のやつ。

さぞ痛かったことだろう。

「しかるべき刑は受けるんだ、ほどほどにしておいてやれよ。」

「もちろんです。それでトトリ様はどちらに?」

「あー、彼女なら上で寝てる。」

「そうですか。」

「一応無罪放免なんだろ?」

「はい。犯人に偽情報を流し逮捕に貢献したということで今回は無罪となりました。一昨日の潜入もシロウ様の入れ知恵で刑には問われないそうです。」

大方エリザがゲロったんだろう。

まぁ元々被害届を出すつもりはなかったし、盗む前に捕縛したので体裁上は無罪。

昨日の襲撃についても無罪。

晴れて自由の身となったわけだが・・・。

「なんのことだか。」

「エリザ様が少々ふくれておりましたが、そういう懐の大きさも良いオスには必要です。寛大な措置に感謝いたします。」

「感謝されるようなことはしていない、後は彼女の問題だ。」

「随分と堪えたようですね。」

「あぁ、軽い気持ちだったとはいえ自分以外が犯罪者として扱われるとなったらなぁ。怖くもなるさ。」

「自業自得ではありますが彼女もまた被害者です。早く立ち直っていただけるといいですね。」

二人同時に天井を見る。

自分の思っていた以上の状況に怖くなったのか、あれ以降客間に閉じこもったまま出てこない。

鍵はかかっていないので同じ亜人であるアネットが様子を見てくれているが、随分落ち込んでいるとのことだ。

聞けば身寄りもなく日銭を稼いで、あちらこちらと旅をしていたのだとか。

目的もなくタダ生きていくだけの人生がイヤになったんだろう。

だからあの時、死んでもかまわないみたいな事をいったんだな。

「ま、コレも何かの縁だ。しばらくはうちで預かって様子を見るよ。」

「何かありましたらご相談ください。」

「おぅ、報告は以上か?」

「今回の件については以上です。別件でマリー様より都合の良いタイミングで寄って欲しいと伝言を賜っております。お時間あるときにお店までお願いします。」

「はいよ。」

マリーさんが一体何の用だろうか。

急用ならそう言うだろうし、ひとまず後回しにさせて貰おう。

アニエスさんを玄関先まで見送り、一息つく。

「あ、ご主人様ちょうどいい所に。」

「どうかしたのか?」

「トトリ様がお呼びですのでお部屋までお願いします。私は製薬がありますので・・・。」

「わかった。」

見送りを済ませると今度はアネットに声を掛けられた。

どうやら本人がお呼びのようだ。

俺一人で行くのは少し気が引けるが、別に悪い事をしに行くわけじゃない。

階段を上り客間の前へ。

「シロウだ。」

「ど、どうぞ!」

ノックをするとすぐに返事が返ってくる。

一呼吸おいてから扉を開けると、かしこまった顔をした顔をして俺を出迎えてくれた。

「で、話ってのは?」

「その、ご迷惑をかけたお詫びとお礼を・・・。」

「そういうのは気にするな、おかげでもっと大きな相手を逮捕出来た。それと、監査官から伝言だ、昨日の件も罪に問われないので自由にしていいんだと。」

「私だけ無罪でいいんでしょうか。」

「司法取引だからな、むしろ当然の結果だ。」

「アネットさんもそう言っていました。」

心なしか表情が明るい。

アネットが親身になって話を聞いたおかげだろう。

「今後は同じ亜人だからって気を抜かないことだな、悪い事を考えている奴は多いぞ。」

「はい、気をつけます。」

「いい顔になったじゃないか。」

「落ち込んでいても何も変わらないから。」

「その通りだな。で、この後はどうする。」

「いつまでもお世話になれないので今日のうちに出て行くつもりです。」

「あてはあるのか?」

「今までもありませんでしたから、でもなんとかなります。」

いい顔にはなったものの根本は何も解決できていない。

フールの様に冒険者になるという手もあるが、どう見てもそういうのは苦手な感じだ。

線も細いし荒事には向いていなさそう。

まぁ、今後どうするかまでは俺の知るところじゃない。

好きに生きるのもまた人生だ。

「おせっかいで聞くが、何が出来るんだ?」

「え・・・。」

ふと気になったので聞いてみたのだがまた、前のように暗い顔で俯いてしまった。

地雷を踏んでしまったようだ。

「何もできません。」

「じゃあ得意なことは?」

「えっと、少しだけ足が速くて人にぶつからずに走ることが出来ます。それだけです。」

「器用だな。」

「そうでもないです、逃げるのが得意なだけですから。」

足が速いのはわかるが人にぶつからずに走るってのはなかなか難しい。

逃げ足っていうか身のこなしが軽いんだろうな。

だから忍び込むのも容易だったと。

ふむ、ちょうどいいかもしれない。

「今日のうちに出ていくんだったな、じゃあちょっと付き合え。」

「え?」

「別に取って食いやしないから安心しろ。ほら、行くぞ。」

「え、あ、まってください!」

返事を待たずに立ち上がった俺を慌てて追いかけてくる音がする。

部屋を出るとグレイスがお茶を持って立っていたが、お詫びだけしてそのまま屋敷を出た。

「あの、どこに行くんですか?」

「冒険者ギルド。」

「え?」

「足、早いんだよな?」

「ちょっとだけですよ?」

「今まで魔物と戦った事は?」

「戦ったことはありませんけど、逃げたり隠れたりはしました。」

じゃあぴったりだな。

戸惑う彼女を連れて冒険者ギルドへ向かうと、エリザが暇そうに受付をしていた。

「シロウ?それにトトリちゃんまでどうしたの?」

「エリザか。確か休憩所に荷物を運ぶ依頼があったよな?あれまだやってるか?」

「え、そんなのあったっけ?」

「まだやってますよ。戦闘抜きの輸送のみなので人気がないんですよね。」

「依頼料は?」

「一往復で銅貨30枚、荷物は軽いから彼女でも大丈夫じゃないかしら。」

適当な返事をするエリザを見かねて後ろからニアが顔を出す。

まったく、何のために受付やってるんだよ。

「魔物との戦闘はなし、危ない場合は逃げても問題ない。ただしその場合はその旨をギルドに報告せよ、だったよな?」

「そうそうそんな依頼だった。」

「お仕事希望?」

「え、そうなんですか?」

「せっかく人より足が速いんだ、食い扶持を稼ぐのにはもってこいだろう。どうだ、やるか?」

いきなりやるかときかれて戸惑っているようだ。

「やってもらえると助かるなぁ、運ぶのは書類とかだし道を覚えるまでは護衛もつけるから。」

「足が速いんなら宅配の仕事とかもあったわよね。」

「そういえば、アインさんが探してたな。」

「うちとしては専属で働いてほしいんだけど、毎回仕事があるわけじゃないし兼業でも全然問題ないわ。貴女名前は?」

「トトリャーナ、です。」

「トトリちゃんね。良かったら住むところも案内できるわよ、女の子ばかりだから安心してね。早速見に行きましょうか。」

「え、でも。」

「いいからいいから。」

あっという間にニアに攫われてしまった。

うちの屋敷に荷物とかあるんだけどなぁ。

ま、後で取りに来るか。

「連れていかれたわね。」

「だな。」

「ほんと甘いんだから。」

「アニエスさん曰くそういう懐の大きい所がいいオスなんだと。」

「そこは否定しないわ。それに、誰もしたがらなかった仕事が埋まるのはいい事だしね。」

「違いない。」

さて、これでおせっかいも終わりだ。

あとはニアに丸投げしよう。

「もう帰るの?」

「マリーさんに呼ばれてるみたいだからそっちに行ってからな。」

「ふーん、私も行こっかな。」

「別に来なくていいぞ?」

「なによその言い方、絶対に行くんだから。」

そういうと思った。

カウンターをくぐってくるのかと思ったら、ひょいと上を跳んで来る。

スカートがふわりと翻り、それを見たほかの冒険者が口笛を吹いた。

が、そんな事で動じるエリザではない。

そのまま俺の腕に自分の腕を絡め強めに腕を押し当ててくる。

自分が誰のものかを見せつけるように。

「さ、行きましょ。」

「歩きにくい。それと、さっきみたいなのは止めろ危ないだろ。」

「は~い。」

「全然反省してないな。」

「うん。」

知ってた。

エリザを引きずるようにして冒険者ギルドを後にする。

さて、マリーさんの用事はなんだろうか。

急ぎじゃないんだし面倒ごとではないと思うんだけど・・・。

嫌な予感はするんだよなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...