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570.転売屋は罠にかける

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「ってなわけでおびき寄せる感じで行こうと思う」

「はぁ、シロウのお人よしもここまで来るとは思わなかったわ。」

「仕方ないだろ、あのまま警備に連れていくわけにもいかなかったんだから。」

「どうして?夜更けに忍び込んできたのよ?」

「忍び込んだとはいえ何も盗んでいない。施錠してなかったのは俺たちだし、酔っぱらって入り込んだという言い訳も成立する。」

「その言い訳を指南したのもシロウでしょ?」

「何のことだか。」

まぁつまりはそういうことだ。

昨夜忍び込んできたトトリャーナだが、情報提供の報酬として無罪放免とすることにした。

一応警備には報告したが、酔っぱらって入り込んでしまっただけで何も盗んでいないのでこちらとしては騒ぎ立てるつもりはないということにしている。

今頃本人は嘘情報を手に依頼主の所に戻っているだろう。

まぁ正確には情報提供っていうか餌だけども。

彼女の行いそのものは許されるものではないが、他人を使い捨てにして屋敷に忍び込もうとする本物の悪人はもっと許せない。

なのでとっ捕まえてやろうという話になった。

俺は別にどっちでもよかったんだが、一緒に話を聞いていたハワードとアネットが乗り気になってしまい、さらには騒ぎを聞きつけてやってきた女たちもそれに賛同したという感じだ。

まぁ、現実を知って震えていた彼女に同情したってのもあるかもしれないが。

「いいじゃありませんか、そこがシロウ様のいいところですから。」

「まぁ私はどっちでもいいんだけど。」

「じゃあいうなよ。」

「そういうわけにはいかないわよ。子供が生まれていたらその子に危害が加えられたかもしれなんだから。盗みが目的ではなく命が目的だったらどうするつもり?」

「そのための罠だろ?」

「そうなんだけど・・・。」

さっきまで知らなかったんだが、屋敷の窓自体にも罠が仕掛けられているらしい。

さすが元貴族の屋敷。

窓一つとっても普通には割れないような防弾ガラスのような仕様になっており衝撃を受けると強力な魔力を外に向けて発射するのだとか。

強い魔力ってのがどのぐらいかは知らないがかなり強力なんだそうだ。

よかったな、窓から無理やり侵入しようとしないで。

「とりあえず餌は撒いた、あとはお迎えしてやるだけだ。」

「食堂のカギを開けておきそこから侵入。廊下に出てきたらわざと目立つ音をさせ奥へ誘導し、倉庫にあるお宝を盗ませる。」

「盗んだのを確認次第外から鍵をかけて逃げられないようにする、でしたね。」

「複数人の場合は無理に捕まえようとせず逃がしてもいいぞ。」

「逃げても私たちが追いかけるしね。冒険者なめるんじゃないわよ。」

「逃げずに捕まる方が幸せかもな。外はエリザとアニエスさんに任せるからいいようにしていいぞ、中はキキとアネットを中心に防衛体制をとる。ハーシェさんは悪いが店に避難してくれ。」

「そうさせていただきます。」

身重のハーシェさんに何かあっては困る。

エリザも本当は心配だが、あの性格から考えてやらない方がストレスになりそうだから仕方なくやらせることにした。

『食堂の向かって左側の鍵が故障していてそこから侵入できる。お宝は一階倉庫にしまってあるそうだ。明日の夜は女主人が不在の為使用人も少ない。』という嘘の情報を流すよう彼女には頼んである。

もちろんそれを鵜呑みにするかどうかはわからないが、彼女が無事に戻ってきたことから油断してくれるかもしれない。

こちらから出来るのはこれぐらいだ。

「それじゃ夜までに気づかれないように準備するとしよう。一応本物のお宝も用意しといてやらないとな。」

「え、本物置くの?」

「呼び出しておいて本物がないんじゃかわいそうだろ。ただし、置いておくのはうちの呪いコレクションだ。身に着けて外れなくなったらお買い上げいただくとしよう。」

「うわ、最低な押し売り。」

「ただで帰れると思ったら大間違いだ。」

というわけで獲物をおびき出すための準備をしようじゃないか

エリザは冒険者ギルドに話をつけに行き、俺達は俺達で倉庫に荷物を搬入する。

地下室で使用した蔓の罠は持ち運びが可能だったので倉庫奥の窓付近に設置しておいた。

もちろん例の粉末も忘れてはいけない。

彼女同様笑いながら気を失う姿がいまにも目に浮かぶようだ。

そして迎えた夕方。

「では私は留守にしますがくれぐれも気は抜かないように。」

「いってらっしゃいませ。」

いつもは外で見送りなんてしないのに、わざと使用人全員で外出するハーシェさんを見送った。

どこでだれが見ているかわからない。

まぁ、見ていなかったとしても問題はないけどしないよりはいいだろう。

ハーシェさんとグレイスが屋敷を離れていく。

「あー、今日はゆっくり羽を伸ばせそうだ。お館様も奥方も今日は二階から降りてこないんだろ?」

「お姉ちゃん今日は早く寝てもいい?」

「大丈夫よ。」

「私も今日はゆっくり寝ます!」

ハワード達がわざと周りに聞こえるぐらいの大声で嘘を言う。

嘘、だよな?

ちなみに俺達はひとまず自室で待機だ。

「来ますかね。」

「ここまでして来なかったらめんどくさい。来てもらわないと困る。」

「明日もまた同じことをやるのは面倒ですからね。」

そうそう、そうなんだよ。

ここまでの茶番を来るまでやり続けるのはちょっとなぁ。

今日だけは自室で食事を済ませ、その時を待つ。

「シロウ様、どうやら来たようです。」

「ん、わかった。」

仮眠をとっているとミラが俺をゆすり起こした。

あぶね、がっつり寝るところだった。

「状況は?」

「キキ様が魔力の変化を感じ取り一足先に倉庫へ移動しております。アネット様も同様に隣の部屋で待機中です。」

「引っかかってくれたか。」

「予想通りまっすぐに食堂へ移動したようです。私たちも移動しましょう。」

「了解」

嘘情報に踊らされて食堂に向かってくれたようなので、手筈通りに行こうじゃないか。

食堂を出て変なところに行かないよう、奥の倉庫へ誘導する役。

それが俺達だ。

明かりを消し足音を立てないように食堂近くの廊下へと移動。

あとは出てくるのを待つだけだ。

中がどうなっているのか正直気にもなるが、下手にのぞき込んでバッティングしてもこまる。

二人で身を寄せ合いながら声を潜めて廊下で待つこと数分。

その時はやってきた。

無人のはずの食堂の扉がゆっくりと開けられる。

足音が聞こえないので何人いるかはわからないが、確かに誰かが出てくる気配を感じた。

よし、作戦開始だ。

「なぁミラ、いいじゃないか。」

「ダメですシロウ様、こんなところで。」

「今日はハーシェが外出しているのをいい事にハワード達も自室から出てこない、今日ぐらいしか出来る日がないんだよ。」

「でも、もし誰か来たら。」

「今日はエリザもいないしアネットも自室で休んでる、誰も来ないさ。」

食堂から出てこようとした気配が止まる。

それもそうだろう、廊下に出たらいきなりいちゃついている奴がいるんだから。

しかもこの屋敷の主人だ。

戸惑うのも無理はない。

とはいえ、出ていてもらわないと困るわけで。

強引にミラの唇をふさぎながら少しだけ距離をとる。

そこにいるのは分かるけれど様子は見えない、ぐらいの感覚で存在をアピールしておけばいいだろうか。

そのままハッスルしていたしてしまいたくなる気持ちを抑え、待つこと数分。

突然奥から男の悲鳴が聞こえてきた。

それと時を同じくして怒号が響く。

どうやらかかったようだ。

「思ったよりも多いな。」

「そうですね。」

「二人ならうまくやると思うけど・・・。」

聞き分けられた声は少なくとも四人、女性の声も混ざっていた。

と、今度は争うような音にがしゃんと何かが割れる音がする。

急いで音のする方へと向かうと、廊下の窓が内側から割られていた。

「大丈夫か!」

「すみません二人逃がしました。」

「アネットは!?」

「こっちも大丈夫です!あと、トトリさんを救出しました!」

「え、来てたの?」

「なんでも無理やり連れてこられたのだとか、けがはありません。」

おそらくは案内しろとか言われたんだろう。

報告だけでハイ終わりって感じにはならないよなぁやっぱり。

実際に案内しろと脅されて参加させられたんだろう。

だがそのおかげで実際にやつらを罠に仕掛けることができた。

それだけでも無罪放免に値する活躍だ。

「キキ、そっちは何人捕まえた?」

「二人です。見ますか?」

「いや、なんとなくわかるからやめとく。とりあえず逃げないように拘束しておいてくれ、外もすぐに片付・・・。」

「シロウ様逃走者を確保いたしました。」

「ほらな?」

涼しい顔でアニエスさんが割れた窓から報告してくれた。

さすが、仕事が早い。

「一応聞くけど生きてるよな?」

「ご安心を、逃げられない程度に噛みつかせましたが口は無事です。」

「あ、そ。」

今の言い方だとルフとレイが頑張ってくれたんだろう。

あとでご褒美を上げないとなぁ。

「とりあえず犯人は確保できた。冒険者には報酬を渡して帰ってもらってくれ。」

「かしこまりました、犯人はどうしますか?」

「今の騒ぎを聞きつけて警備が飛んでくるだろう、引き渡してくれればいい。」

「尋問しないので?」

「それは監査官のお仕事だ。」

「なるほど確かにその通りですね。では失礼します。」

犯人が誰かなんてのはどうでもいい話だ。

俺たちにケンカを売ったらどうなるかを周りに知らしめることができればそれで充分。

これを機に同じようなことを考えるような奴らは少なくなるだろう。

あとは・・・。

すべてが片付いたところで、アネットの手の中で震えているトトリャーナの方を見る。

無罪放免とはいえ何もしないというわけにはいかないよなぁ。

またエリザにお人よしと言われてしまいそうだ。

そんな俺を察してか後ろにいたミラがそっと俺の手を握ってきた。

ま、とりあえずは犯人を捕まえられたので良しとするか。
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