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567.転売屋は桜餅を作る
しおりを挟む店はメルディがしっかりと管理してくれていたので問題なし。
装備品などの鑑定が必要な品に関しては俺達が戻ってからという流れが出来上がっているので多少混み合ったが、鑑定スキル持ちが三人も居るので早々に対処できている。
ミラとキキが鑑定してくれているので俺は値段をつけるだけで済むし気楽なもんだ。
いつもなら三日は大騒ぎになるのに今回は二日も経たずに全てが元通り、いやー素晴らしいね。
「ただいま。」
「おかえりなさいませエリザ様。」
「疲れた~、ちょっと部屋で横になってくる。」
「おぅ、無理するなよ。」
「アレができたら教えてね。」
たまった事務仕事に飽きて外の空気を吸おうとしていると、エリザがギルドから戻ってきた。
ダンジョンにもぐる事はなくなったがギルドでの講義や指導などの仕事は続けている。
脳筋だけに教えるのが苦手なのかと思ったのだが、案外そうでもないそうだ。
なんだかんだ世話好きだもんなぁ。
いつもよりユックリとした足取りで部屋へと向うエリザ。
それを見送った俺とグレイスは何も言わずに目を合わせ頷きあった。
グレイスは二階へ、俺はそのまま食堂へと足を向ける。
「ハワードどんな感じだ?」
「いい感じに漬かってますよ。」
「もち米はどうだ?」
「そちらも終わってます、元が白いだけに良い色に染まりますね。」
「いい色になったな、後は餡子だけか。」
食堂ではハワードが忙しそうに動き回っていた。
あれこれ頼みすぎてしまったのでジョンがその手伝いをしてくれている。
最初こそ怒鳴られる事も多かったが男同士波長が合う所があるんだろう、師匠と弟子という感じで仲良くやっているようだ。
「ハワードさん、こっちおわりました!」
「おぅ、今のうちに洗い物片付けとけ。」
「はい、がんばります!」
来た当初はまだまだ幼くキルシュの後ろをくっついて回っていたのに、今ではハキハキと話せるようになってきたなぁ。
子供の成長は早いというけれどこれは想像以上だ。
「エリザが戻ってきたら出来たら試作品を回してくれ。」
「試作品で宜しいのですか?」
「食えればいいんだよ、食えれば。」
「葉っぱを塩に漬けると聞いた時は何をするのか分かりませんでしたが、確かにしょっぱいものと甘い物は合いますね。桜餅かぁ、西方にはまだまだ知らない料理があるんですね。」
「もし行く事があったら一緒に行くか?」
「もちろんです!」
良い年した大人が子供の様に目を輝かせている。
相変らず料理のこととなると人が変わるな、ハワードは。
「とりあえず今回はコイツで我慢してくれ。っと、そうだチェリーどうした?」
「言われた通りにしっかり洗ってからシロップに漬けてあります。あれ?さっきミミィの奴が動かしてたんですけど。」
「あの甘いのでしたらミミィ姉ちゃんが婦人会に持っていくって言ってました!」
「あっちも早く食べたい口か。食いしん坊め。」
「フルーツ大福でしたっけ。あっちも美味そうですよね。」
桜餅は俺達用だが、フルーツ大福は住民用に売り出すことにした。
大量に確保したホワイトチェリー。
それを大福風にして売り出すのだが、普通に売るだけじゃ面白くない。
そこで出てくるのがもう一つ見つけたラッキーチェリーだ。
食べれば幸運が訪れるそれを当たりとすることで、普通に売るよりも話題性が上がるだろう。
味も勿論申し分ないはず。
桜餅も大福もどちらも餡子を必要とするので、これは婦人会の皆様に大量生産してもらうことになっている。
大福も量が必要になるので向こうで包んでもらうことになるだろう。
「餡子を持って来るときにいくつか貰ってきてやる、それまで我慢しろ。」
「了解です。ジョン、洗い物が終わったら次は夕食の仕込だ。今日はマリー様とアニエス様も来るからな、いつもより忙しくなるぞ。」
「はい!」
さて、こっちは任せて婦人会の方を見に行くか。
「シロウ様どちらに?」
「婦人会に餡子を取りに行く、一緒に行くか?」
「奥様が執務室でお待ちですのでお早くお戻り下さいね。」
「あー・・・、わかった。」
「今であれば大福で許してもらえるでしょうが、それにも限界がありますよ。」
俺が玄関でエリザを迎えられたのも事務仕事に疲れて抜け出たからだ。
今もハーシェさんは執務室で頑張ってくれているわけで。
早く行って早く戻ってくるとしよう。
俺がすぐフラフラ出て行くのをしっているとはいえ、ほったらかしはよくないよな、うん。
気持ち小走りで婦人会の事務所へ向うと、事務所横の中庭では奥様方が大盛り上がりで仕上げをしていた。
「あ、お館様!」
「わざわざシロップ漬けを持って行ってくれたらしいじゃないか、重たかっただろ。」
「アレぐらいへっちゃらです。」
「で、美味かったか?」
「はい、とっても!」
奥様方に混じってメイド服の少女が元気よく動き回っている。
本来であれば屋敷で仕事をしている時間なので主人としては叱るべきなのかもしれないが、自主的に手伝ってくれているのを怒る理由はない。
お駄賃代わりにちゃっかりシロップ漬けをもらったようだが、味は問題無さそうだ。
「あら、シロウさんが取りに来てくれたのね。」
「今回も急な依頼で悪かったなイレーネさん。」
「いいのよ、面白そうな事は嫌いじゃないわ。それに美味しそうだし。」
「売り出しは明日だからつまみ食いは程ほどで頼む。」
「あら、そんな事しないわよ。」
「のわりには先に食べた奴がいるみたいだが?」
「ミミィちゃんはいいの。」
何がいいのかは分からないが、まぁミミィだし。
うちの身内だから問題ないという考えなんだろう。
「頼んであった餡子は持っていって大丈夫か?」
「あっちで冷ましてある分は大丈夫よ。他にも何か作ってるの?」
「こっちは販売用じゃないが、また持って来る。」
「楽しみにしてるわ。」
「それと、大福の販売も任せて良いんだよな?」
そう、今回は餡子の製造だけでなく販売もお任せする事にした。
本来は俺達がやるべきなんだろうけど、たまりに溜まった書類は待ってくれない。
加えて製造をお任せしているので在庫の管理とかも含めて婦人会の方が把握し易い。
更にいえば弁当販売の実績もあるので今回お任せする運びとなった。
丸投げできるのはこちらとしては非常に助かる。
いやー何もせずに金儲けが出来るっていいなぁ。
「1つ銅貨10枚、5個で銅貨40枚、10個で銅貨80枚。これなら計算も簡単だし大丈夫だと思うわ。」
「全体の製造数だけ把握しておいてくれればそこから逆算もできる、気楽にしてくれ。」
「そこは心配しなくても大丈夫よ、皆貴方に鍛えられてるから。」
「それはいい事なのか?」
「出来ないよりも出来るほうが良いじゃない?」
「ま、それもそうか。」
記入式の伝票にしているので忙しくなっても大丈夫なはずだ。
さて、餡子も貰ったしさっさと帰るとしよう。
あ、お土産も貰っておかないと。
出来上がったばかりの試作品をいくつか貰って屋敷への道を急いだ。
そして迎えた翌日。
「すみませーん三つ下さい!」
「五つで銅貨40枚ですけどどうします?」
「じゃあ五つで。」
「シロウ様在庫がなくなってきました、急ぎ追加を貰ってきてください。」
「ついでに風蜥蜴の皮膜も!」
手伝わないはずだったのに何故か俺達は戦場のど真ん中にいた。
最初は出来上がった桜餅を届けに行っただけなんだ。
お世話になっている面々に出来上がった桜餅を配り、最後に大福の様子を見に行こう。
それだけだったはずなのに・・・。
「ほら、シロウ早く!」
「わかってるって。」
エリザに急かされ裏通りから厨房代わりの広場へと向う。
「やった!ラッキーチェリーだ!」
「マジかよ、俺のほうには入ってなかった。」
「コレで明日は良いものが出るはずだぜ。」
「くそ、もう一個買ってくる!」
横を通り過ぎた冒険者が大福を口に押し込み売り場へと走っていく。
とりあえずは楽しんでもらえているのは間違い無さそうだ。
「在庫、出来てる分全部くれ。」
「あ、シロウさん。ごめんなさいね手伝ってもらって。」
「あぁいうのは慣れた奴がするのが一番だ、女達も楽しんでるし気にしないでくれ。」
「売り場に出ていた人が帰ってきてくれたおかげでこっちも何とか回りそうよ。」
「後どのぐらいある?」
「残り500ぐらいかしら。」
「後二時間持てば良い方だな。」
裏ではイレーネさんを筆頭に大勢の奥様方が大福を丸めていた。
最初はよかったんだ。
住民がこぞってかいにきたぐらいで奥様方でも十分対処できた。
だが、冒険者が当たり目当てに買い始めたぐらいから状況が一変、収拾がつかなくなる少し前ぐらいに俺達が登場したというわけだ。
あいつ等加減ってもんをしらないからなぁ。
ラッキーチェリーがあたりだと知って金に物を言わせて買っていく。
ちゃんと食べているので文句はないが、中身だけ確認して捨てるようなら暴れていた所だ。
幸いここの連中は食い意地が張っているのでそんな勿体無い事はしないようだけど。
「ただいま。」
「よかった、後五つしかなかったの!」
「ギリギリだな。」
「残りはどのぐらいですか?」
「後500って所か。」
「最後のひと踏ん張りですね。いらっしゃいませ、おいくつしますか?」
追加した在庫も飛ぶように売れていく。
幸運を呼ぶ大福と呼ばれたそれは、その後春の風物詩として定着したのだがそれは別の話。
「変なこと言ってないで袋詰め手伝ってよ。」
「はいはい。」
コレだけ売れるんだし、次の春に向けてあの桜もどきが何処にあるのかしっかり把握しておかないとなぁ。
ラッキーチェリー。
幸運が訪れるというそれは間違いなく本物だったと、売りながら思うのだった。
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