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555.転売屋は獲物を狩る
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「申し訳ありません、ご主人様にまでご足労頂いて。」
「店にはミラもキキもいるし、俺がいなくても問題ないさ。それに自分の奴隷が手伝いを求めてるんだ行かない理由はないだろう。」
「ビアンカも喜びます。」
「だといいんだがな。」
向こうからしてみれば雇用主の登場だ。
自分から助けを求めているとはいえ喜ぶかどうかは別問題だろう。
アネットの操る馬車が小石に乗り上げドンと跳ねる。
少し体勢を崩したがアネットの左肩に手を当ててバランスをとることができた。
「すみません。」
「いやいい、気持ちがはやるのも無理はない。」
「シープ様から連絡を受けたときどうしたらいいかわからなくなってしまいました。」
「いくら忙しいとはいえ向こうも熟練錬金術師だ、そのビアンカが助けを求めるなんて滅多にないことだろ?」
「そうなんです。薬草が豊作だとは聞いていましたがすぐに腐るわけではありません。乾燥させても成分は変わりませんしその辺は融通が利くはずなんです。」
「加えて探索装備も持って来いと来た。これじゃ追加を取りに行って来いと言ってるのと同じだ。」
そう、気になっているのはこの部分。
ただ助けてくれならば体一つで問題ない。
あえて持っていくのなら食い物ぐらいだろう。
それなのに、わざわざ森を探索する装備を指定してくるなんて状況がおかしすぎる。
それを問いただすこともできたのだが、聞いてもすぐに返事が返ってこなさそうなので直接行って話を聞くことにしたわけだ。
エリザとアニエスさんはどうしても外せ無い用事があった為不参加。
幸い魔物や盗賊が出るような道ではないのでアネットと二人でも問題ない・・・。
「あれは?」
なんだが。
「鹿・・・か?」
「ディヒーアが何でこんなところに。」
「一応魔物なんだよな?」
「魔獣に近いですが野生種ですので魔物の分類ですね。普段は森の奥とかに生息しているのでこんな草原地域に出てくることはないんですけど。」
「襲ってくると思うか?」
「あれだけ離れていたら大丈夫でしょう。でも念の為速度を上げて通過します、捕まっていてください。」
「わかった。」
アネットが手綱を強く握ると同時に馬車の速度がグンと上がり、馬車の音にディヒーアがこちらに気付きじっと見てくるが襲ってくることもなくその横を通り過ぎる。
ただじっとこちらを見てくるだけ。
速度を上げたまま隣町まで走り抜けたので昼過ぎには無事に到着できた
「これはシロウ様お久しぶりです。」
「うちのビアンカが大変だと聞いたんでな。」
「それはもう大騒ぎです、まさかこんなにディヒーアが繁殖しているとは思いませんでした。」
「ん?」
「ビアンカも討伐隊として参加してくれています。わざわざ遠方よりのご助力感謝いたします。」
いつも腰の低いアイルさんがいつも以上に丁寧な挨拶をしてくださる。
加えてよくわからないことを言っているのは何故だろうか。
「薬草が大量に採取されたって話じゃなかったか?」
「もちろんそれもありましたが、今では落ち着いております。それよりも大変なのはディヒーアです。冒険者の力をかりたい所ですが冬を終えたばかりであまり蓄えがなく、恥ずかしい限りです。」
「・・・どこで話がずれたんだ?」
「私にもわかりません。」
『ポーション作りが大変だった。他にもあれこれやらないといけないので力を貸して欲しい』的な内容の連絡が来たはず。
いや待てよ。
「ディヒーアの件はギルド協会に連絡してあるんだよな?」
「えぇシープ様にご連絡しました所、急ぎ人を送るとの返答でした。此方としては増員があるだけ助かるのでありがたくその申し出を受けた次第です。」
「犯人はあいつか。」
「どうやらそのようですね。」
おそらく、というか間違いなく羊男が一枚噛んでいる。
援軍を求めたアイルさんに対して急ぎ送れる人員を手配すると答えた羊男。
その援軍第一号が俺達なんだろう。
今ごろ急ピッチで別の援軍を編成しているはず。
ビアンカの名前を出せば俺達がすっ飛んで来ると考えたに違いない。
戻ったらタダじゃ置かないからな。
「はぁ、ここで帰りますとはいえない雰囲気だよなぁ。」
「ちなみに駆除されたディヒーアはどうされるんですか?」
「肉は備蓄にする予定ですが他は特に。」
「この時期でしたら鹿茸が手に入るはずです、それを譲って貰うことは可能ですか?」
「確か生え変わったばかりの鹿の角でしたな。そのようなお返ししか出来ませんがそちらでよろしければ。」
「ロクジョウ?」
「滋養強壮の薬に使われます、春先にしか手に入らないので希少なものなんですよ。」
「だ、そうだがタダでいいのか?」
アイルさんの方を見ると静かにうなずいた。
よし、交渉成立だ。
「せっかくきたんだし出来る限りの事はやらせてもらおう。アネット、久々に本気出していいぞ。」
「え、いいんですか?」
「毎日毎日製薬ばかりで運動不足って言ってたしな。森の中なら耳を出してもとやかく言う奴はいないし好きにしろ。」
「はい!」
色々と面倒なことになるので普段は銀狐人としての姿を隠して生活しているが、本来は亜人として一般人以上のポテンシャルを有している。
一人で暮らしていた頃なんかは魔物や獣を狩って暮らしていたこともあったとか。
冒険者になりたいわけではないのだが、必要に迫られれば戦うことの出来るうちの隠れたファイターだ。
俺はクロスボウを貸してもらいアネット共に森へと入る。
事前レクチャーによれば突如として現れた大量のディヒーアは、新芽を食べてしまうので放っておくと大変なことになるのだとか。
冬が開けたばかりで空腹のため気性が荒いので注意が必要とも言われている。
誤射を防ぐために極力接近戦が推奨されているが、致し方ない場合は狙撃も許可されている。
とはいえ、俺も後ろから撃たれたくないので細心の注意を払いながら森の奥へと足を進めた。
「ご主人様。」
「いたか?」
「はい、右斜め前方メスです。」
「一頭だけか?」
「そのようです。先に仕留めてきますので少し遅れてからきてください。」
耳がピンと立ちいつもは隠れている尻尾がスカートの後ろを持ち上げていた。
まさに臨戦態勢。
俺の短剣を手に身を低くしてディヒーアへと近づいていく。
そしてすばやく背後から襲い掛かりその首を一太刀で切り裂いた。
鳴き声をあげることも出来ずその場に倒れる音がする。
言われた通り少し遅れてから行くと、早くも解体を始めていた。
「鮮やかな手つきだな。」
「子供の頃は兄と一緒によく森で狩りをしていましたから。ばらし方もそのとき教えて貰いました。」
「内臓と頭は土の中だったか?」
「そうですね、放置するわけにも行きませんので。穴をお願いできますでしょうか。」
「任せとけ、スコップを持ってきていたはずだ。」
探索道具をもってこいといわれていたのでその辺は準備済み。
本来は薬草を取るために持ってきたんだがこんな使い方をすることになるとは。
手早く解体され内臓と首が切られたディヒーアを収納袋に押し込み他を土に埋める。
あまりの手際のよさに俺がすることは何もなかった。
さぁ再出発をと思ったら目の前の藪がガサガサと音を立てる。
ディヒーアかもしくは血のにおいに引き寄せられた魔物か。
アネットが即座に身をかがめ、俺も弓を構える。
「血のにおいがすると思ったら、主様とアネットも来てくれたのね。」
「ビアンカ!」
藪の向こうから出てきたのはまさかのビアンカだった。
よかった、あせって弓撃たないで。
「一人なのか?」
「私は魔術で仕留めるので一人の方が効率がいいんです。」
「なるほど、見つけ次第仕留めて回っているのか。」
「目印を残しているので後は皆が回収してくれます。」
ビアンカ自身は冒険者のため数少ない戦力として借り出されているんだろう。
一撃離脱のやり方で仕留めては移動を繰り返しているのかもしれない。
「どのぐらい狩った?」
「今日はまだ5匹ほどですね。これでも随分と減ったんですよ。」
「連日狩り続けたら向こうも警戒するか。」
「早くいなくなってもらわないと、大事な新芽が食べられてしまいます。」
薬草だけでなく新芽などもまた薬やポーションの材料になる。
それが根こそぎなくなるとなれば商売にも支障がでてくるだろう。
街と、そして自分の為に率先して狩りに出ているんだろうな。
「そうならないためにも微力ながら手伝わせて貰う。もちろんもらうものはもらうけどな。」
「よろしくお願いします。」
「奴隷のサポートをするのもまた主人の仕事、とはいえ頑張るのはアネットとビアンカで俺は雑用係だ。また一人で回るのか?」
「主様を一人には出来ません、一緒に回りましょう。」
「効率が悪くなるぞ?」
「正直飽きてきたんです。」
飽きて・・・ってのは口実なんだろうな。
せっかくアネットが一緒にいるのに別行動をする理由はない。
その後、二人はまるで競争するかのようにディヒーアを狩り続けた。
途中何度か村に戻って補給などを行ったが、夕方までほぼ休む事無く森中を駆け続ける。
ついていくのもなかなかに大変だが、俺もビギナーズラックか一匹だけ仕留めることができた。
一匹だけ。
それでもあの距離で当てることは難しいとアネットが褒めてくれたからよしとしよう。
「お疲れ様でした!」
そしてその日の夜はビアンカのところで一泊することにして、街をあげての大騒ぎに参加した。
大量に手に入った肉を焼き、それをツマミに酒を飲む。
住む場所が違えどやることは皆おんなじだ。
「お二人とも本日は本当にありがとうございました。おかげさまでディヒーアを森の奥深くまで追い込むことが出来ました、これもアネット様とビアンカの頑張りがあってこそ。やはりシロウ様の奴隷は他と違いますな。」
「二人だけじゃなく住民総出でやったことだろ?俺達は手伝いをしただけだ。」
「お約束の通り鹿茸は全てお渡しいたします。それとわずかではありますが肉と皮をお持ち帰りください。」
「いいのか?」
「置いていても腐らせてしまいますので。」
確かにコレだけ大量に肉が集まると、消費する前に傷みが出てしまう。
いただけるというのならありがたくいただくまでだ。
「ちなみに薬草問題は解決したんだよな?」
「おかげさまで、例年以上の豊作で慌ててしまいましたが乾燥や加工を施して処理してあります。」
「ならアネットに言っていくつか買わせてもらおう。他にもお勧めがあれば教えてくれ。」
「助かります。」
「なに、この冬は何度も温泉を堪能させてもらったからな。」
何事も持ちつ持たれつ。
予想外の展開ではあったがそれなりに収穫もあったしこんな日があってもいいだろう。
久々の再会に話に花を咲かせるアネットとビアンカを肴に、ディヒーアの肉を堪能するのだった。
「店にはミラもキキもいるし、俺がいなくても問題ないさ。それに自分の奴隷が手伝いを求めてるんだ行かない理由はないだろう。」
「ビアンカも喜びます。」
「だといいんだがな。」
向こうからしてみれば雇用主の登場だ。
自分から助けを求めているとはいえ喜ぶかどうかは別問題だろう。
アネットの操る馬車が小石に乗り上げドンと跳ねる。
少し体勢を崩したがアネットの左肩に手を当ててバランスをとることができた。
「すみません。」
「いやいい、気持ちがはやるのも無理はない。」
「シープ様から連絡を受けたときどうしたらいいかわからなくなってしまいました。」
「いくら忙しいとはいえ向こうも熟練錬金術師だ、そのビアンカが助けを求めるなんて滅多にないことだろ?」
「そうなんです。薬草が豊作だとは聞いていましたがすぐに腐るわけではありません。乾燥させても成分は変わりませんしその辺は融通が利くはずなんです。」
「加えて探索装備も持って来いと来た。これじゃ追加を取りに行って来いと言ってるのと同じだ。」
そう、気になっているのはこの部分。
ただ助けてくれならば体一つで問題ない。
あえて持っていくのなら食い物ぐらいだろう。
それなのに、わざわざ森を探索する装備を指定してくるなんて状況がおかしすぎる。
それを問いただすこともできたのだが、聞いてもすぐに返事が返ってこなさそうなので直接行って話を聞くことにしたわけだ。
エリザとアニエスさんはどうしても外せ無い用事があった為不参加。
幸い魔物や盗賊が出るような道ではないのでアネットと二人でも問題ない・・・。
「あれは?」
なんだが。
「鹿・・・か?」
「ディヒーアが何でこんなところに。」
「一応魔物なんだよな?」
「魔獣に近いですが野生種ですので魔物の分類ですね。普段は森の奥とかに生息しているのでこんな草原地域に出てくることはないんですけど。」
「襲ってくると思うか?」
「あれだけ離れていたら大丈夫でしょう。でも念の為速度を上げて通過します、捕まっていてください。」
「わかった。」
アネットが手綱を強く握ると同時に馬車の速度がグンと上がり、馬車の音にディヒーアがこちらに気付きじっと見てくるが襲ってくることもなくその横を通り過ぎる。
ただじっとこちらを見てくるだけ。
速度を上げたまま隣町まで走り抜けたので昼過ぎには無事に到着できた
「これはシロウ様お久しぶりです。」
「うちのビアンカが大変だと聞いたんでな。」
「それはもう大騒ぎです、まさかこんなにディヒーアが繁殖しているとは思いませんでした。」
「ん?」
「ビアンカも討伐隊として参加してくれています。わざわざ遠方よりのご助力感謝いたします。」
いつも腰の低いアイルさんがいつも以上に丁寧な挨拶をしてくださる。
加えてよくわからないことを言っているのは何故だろうか。
「薬草が大量に採取されたって話じゃなかったか?」
「もちろんそれもありましたが、今では落ち着いております。それよりも大変なのはディヒーアです。冒険者の力をかりたい所ですが冬を終えたばかりであまり蓄えがなく、恥ずかしい限りです。」
「・・・どこで話がずれたんだ?」
「私にもわかりません。」
『ポーション作りが大変だった。他にもあれこれやらないといけないので力を貸して欲しい』的な内容の連絡が来たはず。
いや待てよ。
「ディヒーアの件はギルド協会に連絡してあるんだよな?」
「えぇシープ様にご連絡しました所、急ぎ人を送るとの返答でした。此方としては増員があるだけ助かるのでありがたくその申し出を受けた次第です。」
「犯人はあいつか。」
「どうやらそのようですね。」
おそらく、というか間違いなく羊男が一枚噛んでいる。
援軍を求めたアイルさんに対して急ぎ送れる人員を手配すると答えた羊男。
その援軍第一号が俺達なんだろう。
今ごろ急ピッチで別の援軍を編成しているはず。
ビアンカの名前を出せば俺達がすっ飛んで来ると考えたに違いない。
戻ったらタダじゃ置かないからな。
「はぁ、ここで帰りますとはいえない雰囲気だよなぁ。」
「ちなみに駆除されたディヒーアはどうされるんですか?」
「肉は備蓄にする予定ですが他は特に。」
「この時期でしたら鹿茸が手に入るはずです、それを譲って貰うことは可能ですか?」
「確か生え変わったばかりの鹿の角でしたな。そのようなお返ししか出来ませんがそちらでよろしければ。」
「ロクジョウ?」
「滋養強壮の薬に使われます、春先にしか手に入らないので希少なものなんですよ。」
「だ、そうだがタダでいいのか?」
アイルさんの方を見ると静かにうなずいた。
よし、交渉成立だ。
「せっかくきたんだし出来る限りの事はやらせてもらおう。アネット、久々に本気出していいぞ。」
「え、いいんですか?」
「毎日毎日製薬ばかりで運動不足って言ってたしな。森の中なら耳を出してもとやかく言う奴はいないし好きにしろ。」
「はい!」
色々と面倒なことになるので普段は銀狐人としての姿を隠して生活しているが、本来は亜人として一般人以上のポテンシャルを有している。
一人で暮らしていた頃なんかは魔物や獣を狩って暮らしていたこともあったとか。
冒険者になりたいわけではないのだが、必要に迫られれば戦うことの出来るうちの隠れたファイターだ。
俺はクロスボウを貸してもらいアネット共に森へと入る。
事前レクチャーによれば突如として現れた大量のディヒーアは、新芽を食べてしまうので放っておくと大変なことになるのだとか。
冬が開けたばかりで空腹のため気性が荒いので注意が必要とも言われている。
誤射を防ぐために極力接近戦が推奨されているが、致し方ない場合は狙撃も許可されている。
とはいえ、俺も後ろから撃たれたくないので細心の注意を払いながら森の奥へと足を進めた。
「ご主人様。」
「いたか?」
「はい、右斜め前方メスです。」
「一頭だけか?」
「そのようです。先に仕留めてきますので少し遅れてからきてください。」
耳がピンと立ちいつもは隠れている尻尾がスカートの後ろを持ち上げていた。
まさに臨戦態勢。
俺の短剣を手に身を低くしてディヒーアへと近づいていく。
そしてすばやく背後から襲い掛かりその首を一太刀で切り裂いた。
鳴き声をあげることも出来ずその場に倒れる音がする。
言われた通り少し遅れてから行くと、早くも解体を始めていた。
「鮮やかな手つきだな。」
「子供の頃は兄と一緒によく森で狩りをしていましたから。ばらし方もそのとき教えて貰いました。」
「内臓と頭は土の中だったか?」
「そうですね、放置するわけにも行きませんので。穴をお願いできますでしょうか。」
「任せとけ、スコップを持ってきていたはずだ。」
探索道具をもってこいといわれていたのでその辺は準備済み。
本来は薬草を取るために持ってきたんだがこんな使い方をすることになるとは。
手早く解体され内臓と首が切られたディヒーアを収納袋に押し込み他を土に埋める。
あまりの手際のよさに俺がすることは何もなかった。
さぁ再出発をと思ったら目の前の藪がガサガサと音を立てる。
ディヒーアかもしくは血のにおいに引き寄せられた魔物か。
アネットが即座に身をかがめ、俺も弓を構える。
「血のにおいがすると思ったら、主様とアネットも来てくれたのね。」
「ビアンカ!」
藪の向こうから出てきたのはまさかのビアンカだった。
よかった、あせって弓撃たないで。
「一人なのか?」
「私は魔術で仕留めるので一人の方が効率がいいんです。」
「なるほど、見つけ次第仕留めて回っているのか。」
「目印を残しているので後は皆が回収してくれます。」
ビアンカ自身は冒険者のため数少ない戦力として借り出されているんだろう。
一撃離脱のやり方で仕留めては移動を繰り返しているのかもしれない。
「どのぐらい狩った?」
「今日はまだ5匹ほどですね。これでも随分と減ったんですよ。」
「連日狩り続けたら向こうも警戒するか。」
「早くいなくなってもらわないと、大事な新芽が食べられてしまいます。」
薬草だけでなく新芽などもまた薬やポーションの材料になる。
それが根こそぎなくなるとなれば商売にも支障がでてくるだろう。
街と、そして自分の為に率先して狩りに出ているんだろうな。
「そうならないためにも微力ながら手伝わせて貰う。もちろんもらうものはもらうけどな。」
「よろしくお願いします。」
「奴隷のサポートをするのもまた主人の仕事、とはいえ頑張るのはアネットとビアンカで俺は雑用係だ。また一人で回るのか?」
「主様を一人には出来ません、一緒に回りましょう。」
「効率が悪くなるぞ?」
「正直飽きてきたんです。」
飽きて・・・ってのは口実なんだろうな。
せっかくアネットが一緒にいるのに別行動をする理由はない。
その後、二人はまるで競争するかのようにディヒーアを狩り続けた。
途中何度か村に戻って補給などを行ったが、夕方までほぼ休む事無く森中を駆け続ける。
ついていくのもなかなかに大変だが、俺もビギナーズラックか一匹だけ仕留めることができた。
一匹だけ。
それでもあの距離で当てることは難しいとアネットが褒めてくれたからよしとしよう。
「お疲れ様でした!」
そしてその日の夜はビアンカのところで一泊することにして、街をあげての大騒ぎに参加した。
大量に手に入った肉を焼き、それをツマミに酒を飲む。
住む場所が違えどやることは皆おんなじだ。
「お二人とも本日は本当にありがとうございました。おかげさまでディヒーアを森の奥深くまで追い込むことが出来ました、これもアネット様とビアンカの頑張りがあってこそ。やはりシロウ様の奴隷は他と違いますな。」
「二人だけじゃなく住民総出でやったことだろ?俺達は手伝いをしただけだ。」
「お約束の通り鹿茸は全てお渡しいたします。それとわずかではありますが肉と皮をお持ち帰りください。」
「いいのか?」
「置いていても腐らせてしまいますので。」
確かにコレだけ大量に肉が集まると、消費する前に傷みが出てしまう。
いただけるというのならありがたくいただくまでだ。
「ちなみに薬草問題は解決したんだよな?」
「おかげさまで、例年以上の豊作で慌ててしまいましたが乾燥や加工を施して処理してあります。」
「ならアネットに言っていくつか買わせてもらおう。他にもお勧めがあれば教えてくれ。」
「助かります。」
「なに、この冬は何度も温泉を堪能させてもらったからな。」
何事も持ちつ持たれつ。
予想外の展開ではあったがそれなりに収穫もあったしこんな日があってもいいだろう。
久々の再会に話に花を咲かせるアネットとビアンカを肴に、ディヒーアの肉を堪能するのだった。
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