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550.転売屋は新しいサングラスを開発する

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シャドウカメレオン。

ダンジョン内だけでなく各所に生息しており、太陽光を浴びると黒く変色する性質を持っているが、夜間は色が抜け透明になるため非常に見つけにくい。

そんな魔物がいるとキキにおしえてもらい、俺はある事を思いつく。

幸いにも素材のストックが倉庫にあったのでメルディに頼んで持ってきてもらった。

『シャドウカメレオンの被膜。日光に当たるとその身を黒く変化させ、影の中に潜み敵を襲うシャドウカメレオンの被膜は日光の無い場所に移動すると透明に変化する性質がある。最近の平均取引価格は銀貨13枚。最安値銀貨9枚最高値銀貨15枚最終取引日は7日前と記録されています。』

「確かに真っ黒だな。」

「とはいえ透けて向こう側が見えますから、完全に遮断しているわけではなさそうです。」

「これが本当に透明になるんですか?」

「物は試しだ、中に入ってみよう。」

中庭で両手いっぱいに広げた被膜は真っ黒になっていた。

それを持ったままぞろぞろと裏口から中に移動してしばらく待つと、さっきまで真っ黒だった被膜がゆっくりと透明になっていくのがわかる。

体感的に5分も経たないうちに完全に透明になってしまった。

「これはすごいな。」

「見た目は風蜥蜴の被膜と変わりませんね。」

「自然光で変色しないってことは別の要因で色が変わるのか。」

「別の要因ですか?」

「恐らくは太陽光に含まれる特定の波長が作用するんだろう。光ってのは透明に見えて色々な光が混ざっているらしいし。」

「シロウ様は物知りですね。」

「物知りっていうかただ覚えていただけだ、詳しく説明しろって言われてもわからん。」

光が七色であることは子供でも知っているが、それ以上の事はテレビか何かで見た程度の知識しかない。

色が変わる素材だって、昔使っていたサングラスにそんな機能があったから覚えていただけだ。

アレは確か紫外線で色が変わるので、運転中は色が変わらなかったんだよな。

「これをどうするおつもりですか?」

「アーロイに頼んで加工して貰うつもりだ。」

「ということはサングラスに?」

「いちいち外したりせずに屋内と屋外を出入りできるのは便利だろう。とはいえ、これをフレームにはめ込んだ所ですぐに破れるのがオチだ。とりあえず話を持ち込んでから考えてみる。」

こんな薄い皮膜を貼り付けただけじゃゴミになるだけだからな。

何かで挟むのかそれとも加工するのか。

この辺はプロに聞くべきだろう。

「皮膜の買取だがとりあえず保留にしてくれ。数がどれぐらい手に入るかおおよそわかればいい。」

「畏まりました。」

「それじゃちょっと行ってくる。」

個人的には使えると思っているが、買い取ったものの使えませんじゃ大損だ。

皮膜自体の金額もそれなりにするので需要も探る必要がある。

職人どおりを抜けマートンさんの工房へ。

ノックしようと手を伸ばすのとほぼ同時に扉が開いた。

「うわっと、シロウさんじゃないっすか。すみません。」

「アーロイかちょうどよかった。」

「偏光レンズだったら順調っすよ、今は国中の商業ギルド内で注文を受け付けてます。それとも、また何か考えたんすか?」

「後者だよ、時間あるか?」

「あります、っていうか別に相談もあったのでナイスタイミングっす。」

相談事?

仕事は順調のようだがその所為でマートンさんに何か言われたんだろうか。

ひとまず場所を変えマスターの店へと移動する。

「おごりだから好きなの食っていいぞ。」

「マジっすか!」

「高い肉でも酒・・・はまだ早いか。かなり稼いでもらってるからな、少しぐらいは還元しないと俺が怒られる。」

「別にもらうもんはしっかりもらってるんで別にいいんですけど。」

「無欲な奴だ。」

「シロウさんに言われたくないっす。」

俺が無欲?

いやいや強欲も強欲、金の事しか考えてない守銭奴だよ。

アーロイは遠慮なく一番高い肉と酒を頼み、俺も同じものを注文した。ただし酒はぬきだ。

ひとまず腹ごなしを済ませ、落ち着いてきたところで話を切り出す。

「実はな、こういうものを見つけたんだ。」

「随分と薄いっすね、蜥蜴の皮膜っすか?」

「その通りシャドウカメレオンっていってな、日光を浴びると真っ黒になって影に隠れる魔物だ。それがない場所に移動すると透明に戻る。コレを使ってサングラスを作れないかと考えてるんだ。」

「おもしろいっすねぇ、外に出ると色が変わるのか。」

皮膜を取り出し窓辺に移動するとすぐに色が変わっていく。

わざと半分は日光を当てなかったので、その場所は透明なままだ。

「問題は強度がかなり弱いこと。このままじゃ枠にはめられないし何か加工を施す必要はあるだろう。それと単価がそれなりに高い。」

「いくらっすか?」

「皮膜一枚で銀貨10枚はする。この大きさだから10組は取れるとしてもはめ込む素材料に加工賃なんかもろもろ入れると通常の倍の値段にはなる。加えてこういった品に需要があるかどうかも問題だ。」

「需要のほうは問題ないっす、実際にそういった要望も上がってきてるんで。いやー、探してたんですよねこういうの。この前の偏光もそうでしたけどシロウさんってほんと物知りっすよねぇ。」

「今回は別口からの情報提供で俺の知識じゃないぞ。」

「でもそれをサングラスに使おうなんて考えるのはシロウさんだけっすよ。」

うーむ、褒められてはいるんだろうが今回に限って言えば他力本願だしなぁ。

まぁ悪い気はしないのでありがたく受け取っておこう。

「どうやって加工する?」

「ようは日光をさえぎらない素材で強化すればいいんっすよね?それならビッグアイの眼球から取れるレンズが透明度も高くて加工しやすいんでそいつで挟めば強度はクリアできます。値段もそれなりに抑えられるんで大丈夫っす。」

「さすがだなぁ。」

「美味い肉食わせて貰ってるんですからコレぐらい朝飯前っすよ。」

「じゃあ毎日肉食えば大儲けだな。」

「あはは、毎日は胸焼けするんで勘弁してくださいっす。」

若いのに何を言うか。

エリザなんて毎日巨大な肉を食べても涼しい顔してるぞ。

まぁ、あいつと一緒にするのも失礼だな。

「で、他の話ってのは何だ?」

「あー、その前にもう一杯いいっすか?」

「酔いつぶれない程度にならいいぞ、話しにくい内容なんだろ?」

「そういうわけじゃないんですけど・・・でも、まぁそうかもしれないっす。」

「じゃあ飲め。マスター、さっきのおかわり!」

「あいよ。」

酒は飲んでも飲まれるな。

つまりつぶれない程度であればプラスになることもある。

特に言い出しにくい本音を吐き出すときはなおさらだ。

「実はですね、親方からいい加減独立しろって言われてるんっすよ。今後を考えたら自分もそうしたほうがいいとは思ってるんですけど・・・。」

「不安が大きいと?」

「今はシロウさんのサングラスで十分食っていけるっす。でもそれが終わったら俺に何が残るんですかね。俺なんて細工仕事しかできない半端もんの職人っす。今の仕事が無くなったら・・・。」

「自信がないのか?」

「あるわけないっすよ。シロウさんに見つけてもらえなかったら今でも親方の下働きっす。もちろんそれが嫌とかじゃないんですけど・・・。」

いきなり出て行けと言われたわけではないが、良い頃合いとマートンさんも思っているんだろう。

元はといえば俺が声をかけたことで始まった事だからなぁ。

「独立って事はのれん分けみたいなもんだろ?なら、何も心配ない。あのマートンさんが実力のない弟子を外に出すはずがないからな。出せば自分の名が汚れる、そうならないからこそいい加減外に出ろって言ってるんだと思うぞ。俺もアーロイの仕事ぶりには感謝している。あれだけの細工仕事ができるのは中々いない、自信を持っていいと思うぞ。」

「本当にそう思ってます?」

「もし心配なら他の細工職人と話をすればいい。職人通りになら何人か知人もいる、彼らも俺関係で仕事をしてもらっているがいい仕事をするやつらだ。素人よりも同業に見てもらう方が何倍も自信になるだろう。それにだ、サングラスが売れなくなっても他の物を作ればいい、本当は何か作りたい物があったからこの世界に入ったんだろ?」

「俺が作りたかったものっすか?」

「それが何かは知らないが、独り立ちすれば自由に使える時間も増えるしそれを使ってこれから頑張ればいい。なに、金については心配するな。一生食うに困らないだけの仕事はこれからもしてもらうつもりだ、簡単に暇になれると思うなよ。独立するって事は今の仕事だけじゃなくて他のも依頼しやすくなるからな。今後も俺の為に頑張ってくれ。」

俯いていたアーロイの肩をポンポンと叩いてやると苦笑いを浮かべてこちらを見てきた。

アネットやハーシェさんの仕事に比べればまだまだ売上は少ないが、それでも他の仕事に比べたら十分に稼いでいるはずだ。

俺から依頼いしている以上食うに困らないだけの金は払うつもりでいる。

いい仕事にはいい報酬を。

その金でさらに上を目指してくれるなら、依頼主として言うことは何もない。

性格的にサボるようなタイプじゃないし大丈夫だろう。

「シロウさんに言われると自信が出てくるっすね。」

「だろ?ちなみに今回のサングラスから王都での販路も手配できる。今後はギルド任せじゃなく自分でガツンと稼いでみてもいいんじゃないか?」

「え、王都っすか?」

「売れる自信は?」

「どこに出したってこのサングラスは売れるっす、間違いないっす。」

「いいねぇその自信。だが独り立ちするとしてどこに工房を作るんだ?空き店舗なんてないだろ?」

「そこでもう一つ相談があるんです。」

「・・・ヤな予感がするんだが。」

任せろと言った手前断ることもできないのだが、まさかそんなお願いをされるとは。

こりゃマートンさんにしてやられたかもしれない。

今度は俺が苦笑いを浮かべつつ、アーロイの熱のこもったプレゼンを聞かされるのだった。
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