転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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547.転売屋は新たな収穫を得る

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「忘れ物はないか?」

「大丈夫、問題ないわ。」

「追加の天幕も用意できています、入れ物も今回はいつもの倍用意しました。」

「なんせ四ヶ月ぶりだからな、結構な数がたまってるはずだ。まだ水温は低いから回数をこなすことになると思うがフォローよろしくな。」

「お任せください。」

「それじゃしゅっぱーつ!」

「お姉ちゃん声大きい。」

運転席には仲良し姉妹が陣取り馬車がゆっくりと動き出す。

今回の目的は冬の間に採取できなかったガーネットの原石を取りに行くこと。

流石に冬は寒すぎるのであの川に入ることは出来ないが、コレだけ気温が上がると何とかなるだろう。

とはいえ水温はかなり低いはずなので火を絶やすことは出来ない。

今回はキキも一緒についてきて貰うことにした。

冬の間誰も足を踏み入れていないので魔物が増えている可能性があるからだ。

「とりあえず到着後はいつものように拠点形成、石とかは崩れてるだろうからまた一から組みなおしだな。」

「先に台所を組んでしまいますね。」

「じゃあ私は天幕を組んじゃいます。」

「私とキキで周囲を調査してくるわ、上流のたまり具合も確認しとくわね。」

「あぁ、かなりの数あるはずだが無理はしないでいいぞ。丸一日あるんだし魚の確保もしたい。」

人が足を踏み入れないことで魚の警戒心も大分薄らいでいるはず。

脂は乗っていなくとも身は引き締まっているだろう。

実はこっちも楽しみだったりする。

生魚は鮮度が命。

その場で捌いて塩焼きにするとしよう。

いかん、早くもよだれが出てきた。

「久々に美味しい魚が食べられるのね、楽しみだわ。」

「え、もっと美味しいのが食べられるの?」

「そうよ、楽しみにしてなさい。」

「そんなに期待させて大丈夫か?」

「大丈夫よ。熱々の塩焼きに醤油をかけてかぶりつく・・・あー食べたい食べたい食べたい!」

「うるせぇ、それ以上いうなっての!」

エリザのせいで全員が魚の塩焼きを想像してしまったじゃないか。

これは早々に確保せねばならない。

原石は逃げないからな、まずは食糧確保からはじめるとしよう。

馬車を走らせること数時間。

途中魔物と盗賊に襲われもしたが、小規模だったので何の苦もなく対処することが出来た。

しかし盗賊か、治安が悪くなっているのかもしれないな。

「うわ、ひどいな。」

「大雨でも降ったのでしょうか、こんな所まで流木がきています。」

「跡形もないとはこのことですね。」

いつもどおりの道を辿り目的地に到着した俺達を待っていたのは、荒れ果てたキャンプ地だった。

いつもなら台所や天幕用の広間なんかは石組みがそのまま残っているのだが、跡形もなく崩れてしまっている。

それどころか巨大な流木が辺り一面に散らばっていた。

マズはコレを片付けるところからか。

「薪集めが楽になったと思えばマシか。」

「そういうことにしておきましょう。」

「それじゃあ予定通り警戒と魔よけの設置してくるわね。」

「あぁ、森の中の様子も教えてくれ。」

「おっけー!」

「では行ってきます。」

幸いにも流木はほとんど乾いており薪として使うには申し分ない。

集めるのも中々大変だし、その手間が省けたということにしておくとしよう。

ミラとアネットと共に広場を作り、それから台所用の石組みを作る。

早くしなければ一気に日が暮れてしまい、大事な魚が取れなくなってしまう。

ある程度出来た所で残りの作業を二人に任せて、釣竿と網を手に川辺まで向かった。

雪解け水だろうか、いつもよりも澄んだ水は中の様子がバッチリとわかる透明度だった。

おー、いるいる。

よく見ると川底に赤い結晶もたくさん見える。

ほんじゃまはじめますか。

餌をつけ、少し上流にキャストして少し待つ。

するとすぐに竿が引かれ、一匹目がひっかかった。

後はもう入れ食い状態。

投げては釣り上げ、投げては釣り上げ。

あっという間に持ってきたかごがいっぱいになってしまった。

大きさも申し分ない。

「あ、いたいた釣れてる?」

「大漁も大漁、こりゃ捌くのも大変だぞ。」

「大きさも上々ね、キキは先にこれを持って行ってくれる?私達もう少し釣っていくから。」

「それはいいけど、なんで釣るの?」

「え?」

いったい何を言うんだろうか。

流石に素手で魚を捕まえるのは難しい。

そりゃ、わなを仕掛ければそれも可能だが現状では釣ってしまうのが一番手っ取り早いとおもうんだが。

「誘導路でもつくるのか?」

「これだけいるなら炸裂魔弾を打ち込んだ方が早いと思います、」

「・・・あー、うん。そういうやり方もあるな。」

まさかの爆弾漁法だったか。

水中で爆弾を爆破させ、その衝撃で一時的に魚をマヒさせる荒業。

確かに漁をしに来たんなら間違いなしだが、今回の目的は魚じゃない。

それに爆破させると水底が荒れてしまう可能性もある。

「捕り過ぎても食べられないし、このやり方でいいのよ。」

「そっか。」

「悪いけど運搬お願いね。」

「わかった。」

どうやら納得してもらえたようだが、中々に過激なことを考える。

いや、合理的に考えれば間違いではないんだよな。

「ちなみにダンジョン内で水中に魔物がいた場合は?」

「もちろんキキの方法を採用するわ、わざわざおびき寄せるなんて時間の無駄よ。」

「だよな。」

「ほら、さくっと釣ってしまいましょ。今日の夜は魚三昧よ!」

メインイベントも待っているわけだし前座はさっさと終わらせてしまおう。

釣りながら状況報告を受けたが、特に森の中に異変はなかったそうだ。

冬ごもりを終えたビックベアの巣はいくつか見つけたが、足跡は別方向に向かっていたらしい。

これだけ魚がいるし来ないとも限らないが、まぁ魔除けもあるし大丈夫だろう。

必要と思われる量を釣り、用意した天幕で着替えを済ませる。

「それじゃサクッと潜ってくる。」

「水着、似合ってるわよ。」

「これはもうウェットスーツだな。」

「アイスシャークの革は冷気を通さず撥水性能も申し分ありません、水中作業にはうってつけでしょう。」

「火は用意しておりますので無理はしないでください。」

「ご飯も作って待ってますね!」

女達に見送られ新しい戦闘服と共に戦場へと向かう。

ブレラお手製の水中装備。

その実力をとくとご覧あれ!

「寒いわ!」

「でしょうね。」

「顔が凍る、マジで凍る。耳取れてないか?大丈夫か?」

「大丈夫よちゃんとくっついてるから。結構大きいのもあるわね、次は奥の岩場に集まってるみたいだから頑張って。」

「ちくしょぉ、覚えてろよ!」

確かに体は寒くない。

手袋も良い感じに水を防いでくれているので、前の様に指先の感覚がなくなることは無くなった。

だが顔がヤバイ。

あまりの冷たさに感覚が無くなってしまった。

とはいえイヤーマフなんてつけられないのでそのままやるしかないわけで。

何とか5往復したところで一時中断。

湯たんぽを両耳に押し当て解凍した後、もうワンセットこなして今日の採集は終了した。

俺が頑張っている間にも上流で潜らずに回収できる分はしっかり回収してきてくれたようで、明日を待たずに予定量をほぼ回収しきってしまった。

「中々の量だな。」

「大きさも申し分ありません、これはルティエ様喜びますよ。」

「ガーネットルージュってこうやって材料を集めてたのね。」

「キキも知ってたんだ。」

「そりゃ知ってるわよ、奴隷になってもおしゃれに気を抜くつもりは無いもの。」

大きめの原石をランプの明かりに透かしながらキキが感想を漏らす。

夕食後は原石の仕分け作業が待っていた。

いつもは俺とミラの二人で頑張るのだが、キキが鑑定スキルを使えるので少しマシ・・・になんてなるわけないよなぁ。

だっていつもの1.5倍は回収したんだから。

最初こそ苦戦していたキキも数をこなすうちに手慣れた感じで大きさと純度を見極めていく。

素晴らしい順応性だ。

「あれ?」

「どうかした?」

「ガーネットじゃないわね、ジェイドが混ざってるわ。」

「ジェイド?」

「ほらこれ、色が濃いけど違うものよ。」

焚火にすかした原石を後ろからのぞき込むと確かに赤ではなく深い緑色が透けて見えた。

ジェイド、つまり翡翠だ。

本来はもう少し鮮やかな緑色をしているはずだが、何か混ざりものがあるんだろうか。

『ジェイドの原石。鮮やかな緑色が特徴的だが、強い魔力を帯びると黒に近い深い緑色に変化する。最近の平均取引価格は銀貨4枚。最安値銀貨1枚と銅貨82枚最高値銀貨7枚最終取引日は58日前と気記録されています。』

ふむ、色が濃いのは魔力を帯びたせいか。

「魔力を帯びたジェイドは黒くなるようだな。」

「という事は順応性がより高くなるのね、確かに通りがいいわ。」

「すごいな、魔術師がいるとこんなこともわかるのか。」

「ふふ、褒めていいのよ。」

「なんでお姉ちゃんを褒めるのよ。」

「キキを褒めろって言ってるの。」

「別に褒めなくてもいいのに。」

はいはい、そこでいちゃつかない。

その後も、よくよく探すと他にもいくつか黒いジェイドを見つけることが出来た。

つまりは他にも探せば見つかる可能性がある。

すごいな、ガーネットだけでなくジェイドまで眠ってるのかこの川は。

他の色と混じるので中々見つけられないが、今後は別の場所も探した方がいいかもしれない。

確か比重の違いで流れ着く場所が違ったはずだ。

それを踏まえて明日は探してみるとしよう。

「この間新しい素材を渡した所なのに、ルティエも大変ね。」

「数が見つかればの話だ、少なかったら諦めるさ。」

でもあった場合は、エリザの言うように大変なことになるだろう。

それでも嫌な顔はしないはずだ。

なんだかんだ言って新しいことにチャレンジするの好きだもんな、あいつら。

焚火がパチンと弾け、火の粉が空に舞い上がる。

今日は夜更かしせずに明日に備えるとしよう。

そして次の日。

帰りの荷馬車には、真っ赤な原石とは別に深緑の原石が同じ数だけ積み込まれていた。
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