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539.転売屋は戦いを挑む

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「まさか呼び出しを受けるとはなぁ。」

「向こうも随分と慌てているような感じを受けました、何かあるのではないでしょうか。」

「そりゃあるだろう。月末まで待つといいながらそれよりも前に向こうからコンタクトをとってくるなんてロクなことじゃない。」

「ともかく行けばわかるわ。」

「随分と冷静だな。」

「何があったかは知らないけど、連絡してくるって事はあの子は無事でしょ?ならさっさと買って帰ればいいだけよ。」

「違いない。」

隣町へと向かう馬車の中、動揺する俺達とは裏腹にエリザは終始冷静だった。

いや、もしかすると無理やり冷静になっているのかもしれない。

冒険者にはそういう能力も求められる。

どんな状況で慌てず冷静に対処しなければ隣には死が待っている仕事だ。

その最前線にい続けていたらイヤでもそういう能力が身につくだろう。

とはいえ、自分の身内が関係しているんだ。

見た目は冷静でも中身はどうかわからないけどな。

「現地についてもすぐには行かないからそのつもりでいろよ。」

「相手の出方を見るんですね。」

「あぁ、別の仕事が先だとか適当に言い訳をして様子を見る。」

もちろんそれようの仕事も選んできた。

マートンさんに買い付けを頼まれているし、春先に向けて色々と買い付けておきたい。

今月の出店もまだだから、店を開いてじらす手もある。

向こうが何故俺達を呼びつけたのか。

相手のペースに飲まれないのが交渉ごとの基本だからな。

「その間、私は宿で待機ね。」

「頼むから勝手なことはするなよ。」

「わかってる、シロウの邪魔はしないわ。」

「本当だな?」

「もし勝手なことをしたらシロウの好きなことしてあげる。」

「ふむ、じゃあ龍の巣に一週間こもって龍玉集めでもしてもらうか。」

「絶対にいや。」

心底いやだという顔をするあたりちゃんということは聞いてくれそうだ。

エリザには申し訳ないがこれも万全な状況で相手とやりあうため。

おとなしく待って貰うしかない。

一応冷静?のようだしその辺は問題ないだろう。

「シロウ様は何が起きたと考えますか?」

「喧嘩に巻き込まれたとか急に金が必要になったとか色々だ。」

「そんなへまするかしら。」

「世の中何が起きるかなんてわからないものだ。特に人の命がかかわっているとよけいにな。俺はそう思っている。」

「喧嘩・・・争いに巻き込まれるってかなりの大事ですよね。」

「生きて戻れるものなんでしょうか。」

「まぁ連絡してくるあたり生きてはいるんだろう、とはいえ無事かどうかはわからん。」

「それも行けばわかることよ。」

ま、そういうこと。

俺達がいくら考えた所で意味はない。

見当違いの事を考えて逆に構えてしまうのももったいないしな。

真剣な面持ちで馬車を操り続けるエリザの横に座り、流れ行く景色を見続ける。

そして夕闇が空を支配してしまう前に何とか隣町へと到着した。

「いやぁ、待っていましたよ。」

「まさか俺達が来るのをずっとここで?」

「君の事だから色々と理由をつけて逃げそうだからね、迎えに来させてもらったんだ。」

街に到着した俺達を待っていたのはまさかの人物だった。

金髪のロン毛をなびかせたイケメン男。

デビットが俺達を待ち構えていた。

とはいえ、どうも様子がおかしい。

前はどこから見ても隙のない見た目、そして雰囲気だったのに今はずいぶんと余裕がなさそうだ。

時々視線を別の場所に動かし、まるでおびえる子犬のよう。

いや、子犬はさすがにあれか。

捕食者に狙われている魔物ぐらいでいいだろう。

「逃げるだなんて人聞きの悪い、ちょいと急ぎの用事があるだけだ。」

「それはこっちも同じさすぐにでも商談を始めたいんだが、かまわないよね?」

「断れば?」

「商品が無事である保証はない。」

「・・・随分と余裕がないようじゃないか。」

「僕も色々と忙しくてね、特に君が嗅ぎまわった事でここに居づらくなってきたんだ。」

「それだけじゃないだろ?」

「その話はあとにしよう、ついてきてくれ。」

返事を待たずにデビットは踵を返し俺達の先を進んだ。

妹の命はないぞ。

そこまで言われては仕方がない、予定外ではあるがついていくしかないだろう。

気を引き締め女達と共にデビットの後を追いかける。

荷物は・・・まぁ、あの女豹が俺達の荷物を触らせることはしないか。

到着したことはすぐにでも伝わってそうだしな。

大通りを避けるようにしてわざわざ薄暗い道を水路に向かって歩く。

エリザがいつも以上にピリピリとしているのが伝わってくるようだ。

アネットも珍しく耳を出して辺りの気配を感じようとしている。

「そんなに緊張しなくても今日は問題ないよ、今日はね。」

「随分と船が少なくないか?」

「色々あったんだよ。」

「そのようだな。」

俺達を港町まで運んだ時は6隻あったはずなのに、今は2隻しか見当たらない。

薄暗くて良く見えないが、心なしか焦げ臭い感じもする。

幸いにもキキの乗った船はそんな感じもなく一番まともだった。

「さぁ、入ってくれ。彼女も首を長くして君たちが来るのを待っているよ。」

「本当に無事なんでしょうね。」

「自分の目で確認して判断してくれ。まぁ、そんなへまをするような僕じゃないけどね。」

「エリザが先頭、アネットは後ろ。」

「ほら案内しなさい。」

「押さなくても大丈夫だって。」

船の外はともかく中は完全に相手のテリトリー内だ。

何が起きるかはわからない。

だが今の所例の鈴がなる感じもないので、嘘をついているわけではなさそうだ。

船底へと降り、薄暗い照明の光る通路をまっすぐに進む。

場所は前と変わりないようだ。

「さぁ、どうぞ。」

扉を開けると薄暗い通路に光があふれる。

前回の教訓を生かして目をやられないようにしていたので特に問題なく中へと入れた。

「待たせたね。」

「別に待っていません。」

「そんな怖い顔をしないでおくれよ。君には不自由な思いをさせてしまったがそれも今日で終わり、君の新しい主人が来てくれたんだから。」

申し訳ないと微塵も思っていない顔でキキの機嫌を取る。

最初に入ってきたエリザを見ても彼女は表情一つ変えることはなかった。

前と同じ部屋。

そのはずなのに、なんとなく雰囲気が違うのはなぜだろうか。

「・・・獣の臭いがします。」

「ん?まだ臭うかな。」

「これは獣じゃないわ、人の臭いよ。それも随分と洗ってないわね。」

「人ねぇ。」

アネットが敏感に反応し、エリザが冷静に答える。

よく見れば床が随分と汚れている。

前は絨毯敷きだったのにそれも剥がされているところから察するに汚れてしまったんだろう。

何で汚れたかまではわからないけどな。

「まぁまぁ良いじゃないか、それじゃあそこに座ってくれるかな。」

あくまでも自分のペースは崩さない。

いや、崩されたくないんだろう。

前に感じた余裕は殆ど感じられなかった。

言われるがまま案内されたソファーまで移動する。

が、そこに座ったのは俺ではなくエリザだ。

その後ろに俺達が控えるようにして立つ。

「おや?」

「気にしないでくれ、商談だろ?」

「あ、あぁ。」

「随分と余裕がないじゃないか。喧嘩を見に行ったはずが喧嘩に巻き込まれ虎の子の船を四隻も失い、加えて戻った国からも追い出されそうって顔してるぞ。」

「後半は君のせいじゃないかな?」

「遅かれ早かれそうなっただろうさ、アンタは手を汚し過ぎた。」

全部わかってるぞ、先手必勝という感じで俺からカードを繰り出す。

さぁどう返してくるのやら。

「別に隠すつもりはないけど、手を汚したってのは心外だな。お金になるものを売り買いしただけ、それは君も同じじゃないか。」

「生憎俺はまっとうな物しか扱わないんでね。」

「彼女が普通じゃないと?」

「死人の名前を与えて犯罪者を別人に仕立て上げるのはどう考えても普通じゃないだろ。」

「それで救われる命もある。彼女のように不当な罪でその身を落とす人は大勢いるんだ、それを救って何が悪いんだい?」

「不当な罪なんだったら真っ当なやり方で声を上げればいい。汚いやり方をするから追い出されるんだろ。」

「ふふ、商談前に随分と好き勝手行ってくれるじゃないか。それで僕が商売を止めたらどうするんだい?」

「自分で呼びつけておいて勝手に打ち切るとか、バカ以外の何物でもないだろ。特に明日までに金を用意してどこぞに逃げようとしている奴がそんな事をするはずがない。」

ホリアさんやナベさんから集めたカードを順番に切っていく。

相手がゲームを下りないとわかっているからこそ出来る荒業だけどな。

「あの、早く話を進めてもらえませんか?」

「そうだね、すまなかった。」

「ちなみに買うのは俺じゃない、こいつだ。」

「え?」

「さっきも言ったように俺は真っ当な商品しか扱わないんでね。悪く思わないでくれ。」

「エリザよ、私が買うのもシロウが買うのも同じことよね?」

「いやそれは・・・。」

「どうして?そっちは商品を売り金を得る、その相手が誰でも問題ないわよね。特に今すぐにお金が必要なら。」

主役交代だ。

俺が買うと思っていた二人は目を丸くし、信じられないという顔をしている。

ディアスもすぐに気持ちを切り替えたような雰囲気は出しているが、動揺しているのが丸わかりだ。

「待って、貴女に買われるのならお断りよ。」

「いや、誰が買っても同じことだ。」

「ちょっと話が違うわ!」

「いいや違わない、君は新しい主人に買われ僕はその金を得る。それが彼か彼女かの違いだけだ、君は奴隷だし本来主人を選べるような立場じゃない。それはわかっているだろう?」

「そうだけど・・・。」

「時間がないんでしょ?それで、この子はいくらなの?」

「金貨150枚。」

「ちょっと、話が違うじゃない!」

「いったい何を勘違いしているのかな。最初の値段は彼との関係を強化するために提示したもので、相手が変われば値段が変わるのは当然の事じゃないか。予定通りに買ってくれるなら金貨50枚のままでいい。何を誤解しているかはわからないけど、お金に困っているわけじゃないんだよ。」

ふむ、当初の三倍の値段を吹っかけてきやがったか。

金貨100枚ぐらいにはなるとは思っていたが、これはちょいと想定外だ。

エリザが用意しているのは金貨80枚ぐらい。

足りなければ俺が出すという予定ではあったが・・・。

チリンという澄んだ音が部屋に響く。

鈴が鳴るという事は今の発言に嘘があるという事だ。

どの部分が嘘なのか、それは考えるまでもないけれどそれをどううまく使ってやろうかと俺は頭をフル回転させ考えるのだった。
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